第2話 エルフの王女様に過保護に溺愛される朝。冒険者ギルドで『最弱魔法』のテストを受けたら、なぜか測定水晶が爆散して伝説の冒険者扱いされた件
「んん……朝、か……」
ふかふかの最高級羽毛布団の中で、俺はゆっくりと目を開けた。
小鳥のさえずりが聞こえ、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。ここは森の中……俺が昨日、覚醒したばかりの神スキル【万物創造】で適当に創り出した『結界付きの豪華なログハウス』の一室だ。
「おはようございます、アレン様! 本日の目覚めはいかがでしょうか!」
ベッドのすぐ傍で、透き通るような銀髪を揺らした絶世の美少女――エルフの王女であるシルフィアが、満面の笑みで俺を覗き込んでいた。
なぜか彼女は、昨日着ていた豪華なドレスではなく、フリルがふんだんにあしらわれた可愛らしいメイド服を着ている。
「お、おはようシルフィア。その服、どうしたんだ?」
「はい! アレン様の専属従者としてお仕えするためには、相応しい正装が必要かと思いまして! アレン様が寝ておられる間に、森の魔物の絹糸を編んで自作いたしました。似合っておりますでしょうか……?」
頬を赤らめ、モジモジとスカートの裾をつまむシルフィア。その破壊力は凄まじい。というか、一晩でこれを作れるエルフの器用さも大概だが。
「ああ、すごく似合ってるよ。可愛い」
「っ〜〜〜〜!! あ、ありがとうございます! 神の使いであらせられるアレン様にそのように褒めていただけるなんて、私、エルフに生まれてこれほど幸せな朝はありません! さぁアレン様、顔をお洗いください! 私が全身全霊を込めて拭かせていただきます!」
「いや、顔くらい自分で拭けるって」
「なりません! アレン様のような尊き御方の御手を煩わせるわけにはいかないのです! さぁ、朝食もご用意しております。本日は特製スープです。私がフーフーして、口までお運びいたしますね! はい、あーん……」
有無を言わさぬ勢いと、キラキラした尊敬の眼差しに押し切られ、俺はベッドの上で王女様に「あーん」でスープを飲ませてもらうことになった。
……美味い。ザックたち勇者パーティーにいた頃は、あいつらが残した冷たい硬パンと泥水みたいなスープしか飲ませてもらえなかったのに。
まさかエルフの王女様に至れり尽くせりの世話を焼かれる日が来るなんて、人生何が起こるか分からないものだ。
◇◆◇
朝食後、俺たちはログハウスを収納空間(これも【万物創造】で創った)にしまい、最寄りの街である『辺境都市ファルマス』へとやってきた。
目的は、冒険者ギルドへの再登録だ。
以前のパーティーでは「ただの荷物持ちだから」という理由で、ザックの従魔枠として登録されていたため、俺自身の正規の冒険者ライセンスを持っていなかったのである。
「ギルドに行くなら、少し離れて歩かないか? シルフィアは目立つし……」
「とんでもない! 私はアレン様の護衛兼メイドです! 片時もお側を離れるわけにはまいりません!」
そう言って、シルフィアは俺の右腕にギュッと自分の腕を絡ませてきた。
豊満な柔らかい感触が腕に伝わってくるが、彼女は全く気にする様子もなく、むしろ「アレン様の腕の温もり……尊いです」とウットリしている。
街を歩くすれ違いざまの男たちが、血の涙を流しながら俺を睨みつけてくるのが痛いほどわかった。
そして、冒険者ギルドの重厚な扉を開け、中へと足を踏み入れた。
むせ返るような酒と汗の匂い。荒くれ者たちが集う、ギルド特有の空気だ。
「おお? なんだなんだ、見ねぇ顔だな」
「しかも、とんでもない上玉のエルフを連れてやがる。おい兄ちゃん、そんな細腕じゃあその嬢ちゃんを守れねぇぞ? 俺様が代わりに――」
テンプレ通りというか何というか、筋骨隆々のBランク冒険者らしき男が、下品な笑みを浮かべて絡んできた。
俺が適当にあしらおうとした、その瞬間だった。
「……気安くアレン様に話しかけるな、下等生物」
――ゾクッ。
ギルド内の空気が一瞬にして凍りついた。
シルフィアから放たれた、目に見えるほどの圧倒的な『殺気』と『魔力圧』。Sランクの魔物すら一睨みでひれ伏すエルフの王族の威圧に、絡んできた男は白目を剥き、口から泡を吹いてその場にバタッと倒れ伏してしまった。
周囲の冒険者たちも、ガタガタと震えながら一斉に道を開ける。
「あれ? 急に倒れたぞ。どうしたんだ彼、貧血かな?」
「ふふっ、きっと最近の寝不足がたたったのでしょうね。さぁアレン様、受付が空いたようですわ!」
「そ、そうか。冒険者は体が資本なのに大変だな」
俺は倒れた男を跨ぎ、受付カウンターへと向かった。
受付嬢は顔を真っ青にしながらも、プロ根性で作り笑いを浮かべている。
「い、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をしたいんだ。これが身分証代わりの手紙なんだけど」
俺は村長からもらっていた紹介状を渡した。
受付嬢はそれを確認すると、少しホッとしたような表情になった。
「なるほど、新規登録ですね。それでは、アレン様の実力を測るため、こちらの『魔力測定水晶』に魔力を流し込んでいただけますか? これで適正ランクを判断いたします」
受付嬢がカウンターの上に置いたのは、大人の頭ほどある透明な水晶玉だった。
「この水晶は、国宝級の特殊な鉱石で作られており、なんとAランク冒険者の全力の魔力まで正確に測定できる優れものなんですよ! 初心者の方は光らないことも多いですが、リラックスして触れてみてくださいね」
「へえ、Aランクまで。すごいな」
俺は水晶に手を伸ばした。
とはいえ、昨日覚醒したばかりの俺の魔力量は、自分でも底が知れない。全力なんて出したら水晶が壊れてしまうかもしれないし、ここは一番弱い、生活魔法レベルの魔力をほんの「一滴」だけ流し込むことにしよう。
イメージするのは、ロウソクに火を灯す程度の、ちっぽけな魔力。
「じゃあ、いくよ。……えいっ」
俺は指先で水晶に触れ、ほんの微小な魔力を流し込んだ。
――ピキッ。
小さな亀裂音が鳴った。
次の瞬間。
「え?」
――カッ!!!!!!
水晶玉が、まるで太陽そのものが顕現したかのような、直視できないほどの超閃光を放った。
ギルド内が純白の光に包まれたかと思うと、
パァァァァァァァァンッ!!!!!!
という鼓膜を破るような爆音と共に、Aランクの魔力まで耐えられるはずの国宝級の測定水晶が、粉微塵に爆散した。
それだけではない。水晶から溢れ出した余剰魔力が衝撃波となってギルド内に吹き荒れ、頑丈な石造りの壁に亀裂を走らせ、窓ガラスという窓ガラスを全て吹き飛ばしてしまったのだ。
「きゃあああああっ!?」
「な、なんだあああっ!?」
爆風が収まった後、ギルド内は静まり返っていた。
腰を抜かしてへたり込む受付嬢。壁際に吹き飛ばされ、白目を剥いている屈強な冒険者たち。
ギルドの奥からは、慌てた様子のギルドマスターが血相を変えて飛び出してきた。
「な、何事だ!? 敵襲か!? ……ヒッ!? こ、国宝の測定水晶が、跡形もなく消え去っている……!?」
ギルドマスターが絶望したような声を上げる。
俺は思わず冷や汗を流した。
「あー……ごめん。これ、俺がやっちゃったみたい」
「あ、あなたが!? 一体どれほどの魔力を……いや、あの水晶を破壊するなど、伝説の勇者様でも不可能だぞ!?」
驚愕で目を見開くギルドマスターに対し、シルフィアがふんぞり返って得意げに胸を張った。
「当然です。アレン様の深淵なる御力を、人間が作った安物のガラス玉などで測ろうとした無礼を恥じなさい! アレン様が本気を出せば、この大陸ごと消し飛んでいたのですよ!」
「た、大陸が消し飛ぶぅ!?」
「いやいやシルフィア、言い過ぎだって! ちょっと力加減を間違えただけで……」
俺は慌てて否定しようとしたが、ギルドマスターも受付嬢も、そして周囲の冒険者たちも、もはや俺を「人智を超えた化け物(あるいは神)」を見るような目で平伏していた。
「あ、アレン様……! どうか、どうか我が辺境ギルドのSランクとして、いや、名誉ギルドマスターとしてお迎えさせてくだせえ!」
「え? いや、俺はただのFランクからでいいんだけど……」
「え、俺また何かやっちゃいました?」
俺が首を傾げる横で、シルフィアだけが「さすが私のアレン様です!」と瞳を輝かせ、さらに腕に胸を押し付けてくるのだった。
こうして、俺の無自覚な規格外っぷりは、ギルドの伝説として即座に街中に広まることになってしまったのである。




