鼓動3:座席の隙間
(カーブの多い山道をバスが下っていく。キャンプ場……そして、昨夜すべてが変わったあの場所が遠ざかっていく。エンジンの一定の響き、運転手の車内放送、そして生徒たちのざわめき。それらすべてが、今の白には遠くの出来事のように感じられた。窓から差し込む柔らかな朝の光が、宙に舞う埃を照らす中、彼は自分の新しい現実を必死に飲み込もうとしていた)
粕美 白の心の声:(窓の外を見るふりをしているが、視線はどこにも定まっていない。……昨日、自分の気持ちを伝えた。でも、これからどう話しかければいいのか全く分からない。口を開いた瞬間に、心臓が口から飛び出しそうだ)
(その時、白崎 華が座席に深く座り直した。背もたれと窓のわずかな隙間から、白の瞳と彼女の瞳が重なった。一秒、二秒。時間が止まったかのような沈黙の後、二人は瞬時に真っ赤になり、慌てて視線を逸らした。まるで自分の手や窓の外の景色が、世界で一番重要なものであるかのように)
(白の隣に座っていた清水 海斗は、溜息をついて本を閉じた。この20分間、二人の「神経質な視線のピンポン」を横で見せられ続け、もう限界だった)
清水 海斗の心の声:(このまま放っておいたら、普通に喋れるようになるまで1ヶ月はかかるな……。バスの旅はあと2時間。こいつらは本当に手がかかるし、結局いつも俺たちが板挟みになるんだ)
(海斗は冷静にスマホを取り出し、素早くメッセージを打った)
宛先:黒瀬 雪菜
『この二人に一押しが必要だ。バス全体の空気がこいつらのせいでピリついてる』
(数列前でメッセージを読んだ黒瀬 雪菜は、バックミラー越しに海斗へ小さく頷いた)
黒瀬 雪菜の心の声:(……本当に、放っておけないわね)
「華ちゃん、ちょっと席を替わってもいいかしら? 海斗くんに課題のことで聞きたいことがあるの」
白崎 華:(驚いて) —「えっ? あ……うん、いいよ、雪菜さん。大丈夫」
(華が立ち上がり、通路を歩いてくる。白は彼女が近づいてくるのを見て、胃が締め付けられるようなパニックに陥った)
粕美 白の心の声:(え、なんでこっちに来るんだ!? 海斗、僕を一人にする気か!? 待て、行くな海斗!)
(海斗は絶望する白の肩をポンと叩き、呆れるほど冷静な動作で席を立ち、華に場所を譲った。華はゆっくりと白の隣に座り、マフラーで顔の半分を隠すように整えた。二人の間に流れる沈黙は、空気が凍りついたのではないかと思うほど濃厚だった)
粕美 白:(震える声で) —「……やあ」
白崎 華:(視線を落とし、カバンのストラップをいじりながら) —「……おはよう、白くん」
(二人は同時に横目で相手を見合い、お互いの緊張ぶりに気づいて、ふっと小さな笑い声を漏らした。それが氷を溶かすきっかけとなった)
白崎 華: —「白くん……やっぱり、眠れなかったんですか?」
粕美 白: —「全然。ずっと考えてたんだ……その、森でのこと。起きたこととか」
白崎 華:(マフラーに顔を埋め、瞳を輝かせる) —「私も……。寝ちゃったら、全部夢になっちゃうんじゃないかって。でも……(照れながら白の手に触れる) ……昨日の、白くんの手の温もりは、すごく本物でした」
粕美 白:(彼女の手を握り返し、上着の下で指を絡める) —「不思議だよね。昨日までは普通だったのに……今は全部が変わったみたいだ。顔を赤くせずに何を言えばいいのか、自分でも分からないよ」
(数秒間、二人は何も言わなかった。バスの隅っこで、エンジンの音だけが聞こえる。それは二人だけを包み込む暖かい平穏だった。……あの「カオス」が顔を出すまでは)
高木 蓮:(座席の上に立ち上がり、満面の笑みで二人を指差す) —「おーい! なんだよ、このロマンチックな席替えは! 全員見ろよ、『もやしっ子』がついに勝負に出たぞ!」
粕美 白:(全員が驚くほどの自信に満ちた声で言い返す) —「蓮、黙れ! お前と直美さんだって何かあるだろ、分かってんだぞ。いい子ぶるなよ!」
(バスの中が一瞬静まり返り……直後、制御不能な爆発が起きた。海斗は疲れきった笑みを浮かべて額に手を当てた。白の叫びは、通路全体の騒ぎに火をつける着火剤となったのだ)
市ヶ谷 直美:(華と同じくらい真っ赤になって) —「なっ!? 白くん、それは関係ないでしょ! 変なこと言わないで!」
藤本 そうた:(後ろから叫び、爆笑を誘う) —「うおおお! バスの中でダブル告白かよ! テレビよりおもしれー!」
神崎 ゆうた:(蓮を小突いて) —「やられたな、蓮! 藪蛇だぞ、兄弟!」
岡本 駿:(隣からからかう) —「さっさと座れよ、蓮! 白にお見舞いされたな、KO負けだぞ!」
西村 あいり: —「華ちゃん、羨ましい! すっごくお似合いのカップルだよ!」
藤井 さくら: —「運命だわ! キャンプがこう終わるって信じてた!」
(騒ぎは止まらない。中村はるきは「このネタじゃ眠れねーよ」と笑いながら文句を言い、高橋めいはグループをなだめようとする)
高橋 めい: —「もう、二人をいじめるのはやめてあげて! ほら、白崎さんなんて煙が出そうよ!」
石川 斗真: —「おい粕美、彼女を泣かせたら俺たちが黙ってないからな!」
松本 りな: —「見て見て! 上着の下で手を繋いでるわよ!」
工藤 七海: —「本当だ! ロマンチックすぎ! 私の人生もこうだったらいいのに!」
(白は恥ずかしさで手を離そうとしたが……華は彼の指をより強く握りしめ、離すことを拒んだ)
粕美 あかり:(騒ぎの中で爆笑しながら) —「いいぞ、お兄ちゃん! 全員に言い返してやれ!」
(バスは街へと進み続け、山々は後ろへと消えていった。仲間の騒がしい声が背景に流れる中、白にとってはすべてがかつてないほど穏やかに感じられた)
白崎 華:(マフラー越しに輝くような笑顔を向けて) —「白くん……隣に座れて、よかったです」
粕美 白: —「……僕もだよ、白崎さん」
(これからは、一年中みんなに冷やかされるだろう。すごく変な感じだけど……でも、最高の気分だ。この瞬間は何物にも代えがたい。……たとえ、バスの中がうるさいバカ共の叫び声でいっぱいだとしても)
完
著者ノーツ:
皆様、こんにちは!
今回は、新米カップルの甘酸っぱい空気と、それを逃さない親友たちの容赦ない(?)祝福のカオスを描きました。
白が蓮に言い返したシーンは、彼の中の小さな成長を感じていただければ嬉しいです。海斗と雪菜の阿吽の呼吸によるアシストも、このグループならではの良さですね。
キャンプという特別な時間が終わり、いよいよ物語は学校での「日常」へと戻ります。恋人となった二人がどう過ごしていくのか、引き続き応援よろしくお願いします! ✍️




