第23章:想い出の味
(私立星空高校のリングが、危険なほど虚空に向かって傾いた。プラスチックが白の足元で激しく軋み、一瞬にして均衡が崩れ去る。まるでフェスティバル全体が息を止めたかのように、惨劇の直前で世界が静止した。床が消えていく中、体育館の照明だけがより一層強く輝いているように見えた)
白崎 華: (足場を失い、驚きで目を見開く。スポーツウェアが激しい動きで揺れ、一瞬だけ恐怖がその顔をよぎった) —「白くん……!」
(白は考えなかった。思考よりも先に、自分でも知らなかった本能に突き動かされて体が動く。彼は華の体を両腕で抱き寄せ、彼女を守るためにその肩に顔を埋め、空中で自分の体を回転させてすべての衝撃を自分で受け止めようとした。同時に、リングの反対側では金属と木材が崩れ落ち、支柱が完全に折れ曲がった)
黒瀬 雪菜: —「ああ、もうっ! くそっ!!」(足元のプラットフォームが消え去り、彼女は叫んだ)
清水 海斗: (冷徹な素早さで反応し、わずかに目を見開く。腕を伸ばして雪菜の腰を掴み、正確な動きで両者とも安全地帯の横側に着地した) —「雪菜、危ない!」
(白の衝撃は鈍く重かった。華の重みを乗せたまま、背中からマットに叩きつけられる。何千もの花びらがスローモーションのように宙を舞い、夕暮れの最後の光を浴びてガラスの破片のように輝いていた。永遠のような一瞬、静寂がすべてを支配した。白に聞こえるのは、肋骨を叩く自分の鼓動と、首筋に感じる華の荒い息遣いだけだった)
実況: (スピーカー越しに、緊張で声を震わせながら) —「注目! 支柱に技術的な欠陥が発生しました! セキュリティ担当者は冷静に! この事態を鑑み、委員会はテクニカルドロー(引き分け)を宣言します! 繰り返します、両チームともグランドフィナーレの公式優勝者です!」
(息を呑んでいた観客が、体育館を揺らすほどの安堵と歓喜の咆哮を上げた。だが白にとって、宇宙はマットの上のわずか数センチの空間に凝縮されていた)
粕美 白: —(時が止まった。彼女の体温、香り、そして手の震えを感じる...。あと一ミリでも動けば、このクリスタルのような瞬間が壊れてしまいそうだ。胸が破裂しそうだよ)
観客: —「キスしろー!!」「キス! キス!」「見てよ、抱き合ってるわ!」「結婚しちゃえ!」
高木 蓮: (満面の笑みで叫ぶ) —「白!! 今のは転倒じゃねえ、伝説の着地だぜ、この野郎!」
粕美 あかり: (瞳に安堵の色を浮かべながらも) —「いつまで寝てるのよ、白! 学校中の前でバカな見せ物にするんじゃないわよ!」
(華は熱いものに触れたかのように反応した。飛び起きるように立ち上がり、すぐに背を向ける / 彼女の手は震え続け、誰とも目を合わせないようにスポーツウェアを整えていた)
(三十分後。閉会式の祭りの雰囲気は遠く感じられた。二人はすでに制服に着替えている。庭へと続く側道の廊下を、痛々しいほどの重苦しい沈黙の中で歩いていた。華はたい焼きの袋を強く握りしめている)
粕美 白: —(あの甘い香り……カフェにいたあの日と同じだ。勝利したはずなのに、まるで敗北したかのような気持ちでこうして一緒にいるなんて、誰が想像しただろう)
白崎 華: (彼を見ることなく、小さく震える声で) —「白くん……さっきのこと……リングでのこと……あんまり真に受けないで、いい? あれはただ……その場の勢いというか……全部がめちゃくちゃだったから。みんなが叫んでたことも……気にしないで」
(白は足を止めた。氷の針が心臓を貫いたかのような、冷たい痛みが胸に走る)
粕美 白: —(そうだよな……彼女は2-Aのスターだ。誰もが憧れる存在。そして僕はただの2-Bの粕美。彼女にとって、僕が守ったことは……早く消し去りたい気まずい瞬間でしかないんだ)。「……あ、ああ……そうだね。君の言う通りだよ、白崎さん。ただのアクシデントだ。何か飲み物を買ってくるよ……じゃあ、また後で」
(白は彼女に表情を見られる前に背を向けた。お祭り騒ぎの群衆の中へ足早に消えていきながら、自分の中の何かが壊れたのを感じていた)
(祭りの広場。屋台の明かりが2-Bのグループを照らしているが、空気は重かった。彼を除いて全員が集まっていた)
高木 蓮: (いつもの冗談めかした口調は完全に消えていた。恐ろしいほどの真剣さで広場を見渡す) —「おい……白は? あいつがこんな風に姿を消すなんてありえねえ。体育館も探したがいない。メッセージも電話も反応なしだ」
森田 大輝: —「おかしいね、白は動くときはいつも連絡をくれるのに。華ちゃん、何かあった? さっきまで一緒に歩いてたよね」
白崎 華: (涙を浮かべ、たい焼きの袋を胸に抱きしめながら) —「さっきの転倒はただのアクシデントだったって言っちゃったの……そう言えば噂の重みがなくなると思ったのに……そう伝えた瞬間、彼の瞳から光が消えちゃって。言い訳をしてどこかに行っちゃった……」
市ヶ谷 直美: (優しく) —「華さん……私が白くんを知っている短い時間でもわかるわ。彼はそういうことをすごく真剣に捉えるタイプよ。もし、あなたにとって何の意味もなかったと思わせてしまったなら……きっと、すごく傷ついたはずよ」
粕美 あかり: (重いため息をつきながら暗くなった空を見上げる) —「うちの兄貴はこういうことに関してはバカだけど、芯から誠実なのよ、華ちゃん。もしあなたが周りの目を気にして嘘をついたなら、彼はあの瞬間の気持ちも全部嘘だったと思って、また殻に閉じこもっちゃうわ」
清水 海斗: (眼鏡を直し、毅然とした口調で) —「考えてみろ……もし白が騒がしい場所から離れたい、でも祭りの最後は見届けたいと思ったら……どこに行く?」
(華は硬直した。これまでの会話の記憶が脳裏をよぎる。グループに別れを告げる間もなく、彼女は勢いよく顔を上げて走り出した。広場を抜け、人々をかき分け、校舎の階段を二段飛ばしで駆け上がる。肺が焼けるようになるまで走り、ついに最上階にたどり着いた)
(屋上。白は金属の柵に身を預け、遠くの明かりを見つめていた。まるで夏が指の間からこぼれ落ちていくかのように、自分がちっぽけに感じられた)
粕美 白: —(期待しすぎていたのかもしれない。彼女はいつだって手の届かない白崎さんで……僕はいつまでもただの粕美だ。この夏は、光の世界にいる彼女と、影の隅にいる僕という関係のまま終わるんだな)
(金属製のドアが勢いよく開き、壁にぶつかって屋上全体に大きな音が響き渡った)
白崎 華: —「は……ハ、白くん!! ずっと探してたんだから……! 二度とこんなことしないで!」
(ドォン! 最初の花火が空で弾け、涙で輝く華の顔を赤く染めた)
白崎 華: —「あんなこと言いたくなかったの! アクシデントだなんて……怖かったから言っちゃっただけ! リングの上で、あなたの上にいたときに感じた気持ちが……怖かったの。でも、私にとってアクシデントなんかじゃなかった……この夏で一番温かい瞬間だったの。あなたと一緒にいられて……すごく幸せなの。他の誰かじゃ嫌なの!」
粕美 白: —(自分を必死に探し回って髪を乱した彼女の姿を見て、胸の重荷が圧倒的な温かさへと変わっていくのを感じる)。「……は、華さん……僕にとってもそうだった……。あの瞬間がずっと終わらなければいいって思ってた。時間が止まればいいのにって願ってたのは、僕だけじゃないって思ってもいいのかな」
(花火の轟音を背景に、コンクリートの縁に二人は並んで座った。沈黙はもう重苦しくなく、心地よかった。白の指がゆっくりと地面を這う。二人の間を隔てるのは、あと一センチだけだった)
粕美 白: —(あと一歩踏み出せば……この夏は、説明できない何かの始まりになる。あと一センチで、世界は変わるんだ)
(打ち上げ花火の最後の火花がゆっくりと消え、夜空に再び静寂が戻った)
粕美 白: —(僕の鼓動が……ようやく動き出した)
(そして、予感がするんだ……)
(今日から……)
(何ひとつ、同じままではいられないということを)
著者ノーツ:
ついに第3アーク「忘れられない夏」が完結しました!
まずは、ここまで白と華の物語を見守ってくださった皆さんに、心から感謝を伝えたいです。このアークを書くのは、学校での緊張感からこのお祭りの結末まで、本当に素晴らしい旅でした。個人的にも、書いている最中は鼓動が止まりませんでした。タイトルの通り、二人にとって「前」と「後」を分かつ大きな分岐点となる夏になったと思います。
白がようやく「動き出し」、華が自分の殻を少しずつ壊していく姿を皆さんに届けたかった。屋上でのあの火花を、皆さんも僕と同じように感じていただけたら嬉しいです!
この物語を友人と一緒におすすめして、より多くの人の心に届くようにしてください。心の底から感謝します
著者:Dei Alvis (ShiraishiGekko)




