第12章:試着室の偶然と鋼の緊張
(金曜日の放課後、東京の街には強い陽光が降り注いでいたが、粕美白の部屋にはパニックの空気が漂っていた。彼の頭の中はある一点に支配されていた。明日、江ノ島へ行くこと。だが、彼を不安にさせているのは海そのものではなく、自分の服だった。白はため息をつきながら、クローゼットの奥からゴミ捨て場から拾ってきたような一着を取り出した)
(彼が見つめていたのは、中学時代の古い水着だった。色はすっかり褪せ、ゴムは伸びきって使い物にならない。これを着てみんなと一緒に砂浜に立っている自分を想像しただけで、血の気が引いた。正直、これでは哀れすぎる。センスが良くて、自分のことを笑わない誰かの助けが至急必要だった……少なくとも、彼はそう願っていた)
粕美白:(スマホを耳に押し当て、狂ったように部屋の中を歩き回る)「蓮に電話したら、『それが女子を惹きつけるコツだ』とか言って、絶対ふざけたものを買わされるし……。大輝に電話したら、服が精神に与える影響について三時間の講義が始まる……。ダメだ、明日恥をかかないための唯一の希望は海斗だけだ。あいつだけが、僕の友達の中で唯一の常識人なんだ」
(しばらくして、新宿のショッピングモール。白は高級スポーツショップの柱に寄りかかっている清水海斗を見つけた。海斗はいつも通り落ち着いていたが、白にとって不運だったのは、「救助隊」は一人ではなかったことだ)
清水海斗:「二分遅刻だぞ、白。明日の緊張で時計が狂い始めたか? たかが海パン一丁のために、こんな人混みまで俺を呼び出すほど切羽詰まってるのか?」
森田大輝:(柱の陰から、すべてを見透かしたような笑みを浮かべて現れる)「切羽詰まってるんじゃないよ、海斗。これは純粋な恐怖だ。白は分かってるんだよ、明日が華ちゃんとの勝負だってことをね。初めての遠足で迷子になった小学生みたいな格好を選ばないように、僕が見届けに来てあげたよ」
粕美白:「大輝!? 来るなんて聞いてないぞ!(……クソッ、密かに済ませようとした計画が秒でぶち壊しだ!)……まあいい、二人がいるなら助けてくれ。頼む。『普通の男』に見えるやつが必要なんだ。水が怖い赤ん坊みたいに見えないやつを」
森田大輝:(足早に店に入り、素早く商品をチェックする)「シンプルに、ダークブルーか黒を探そう。引き算の美学だよ、白。シンプルな服ほど自信があるように見える。今の君は幽霊でも見たみたいに手が震えてるけどね。少しリラックスしなよ、明日は楽しむためのもので、お葬式に行くんじゃないんだから」
(三人がサーフボードや日焼け止め、ビーチボールの間を回っていた時、レディースセクションに続く通路を曲がったところで白は硬直した。心臓が跳ね上がり、眩暈がするほどだった。そこにある大きな鏡の前には、最も予想していなかった二人がいた。黒瀬雪菜と白崎華だ)
黒瀬雪菜:(エレガントなビキニを手に持ち、あの恐ろしくも冷徹な表情でそれを見つめている)「華ちゃん、言ったはずよ。このモデルはあなたにぴったりだし、清楚でありながらとても可愛いわ。恥ずかしがる必要なんてない。友達と出かける時に身だしなみを整えるのは大切なことよ。ほら、よく似合ってる。自分が成長したことを受け入れなさい」
白崎華:(顔をトマトのように真っ赤にし、白いフリルのついた可愛らしい二部式の水着を胸に抱きしめている)「で、でも雪菜さん! これは……刺激が強すぎます! もし、白くんが、私がわざと気を引こうとしてるなんて思ったらどうするんですか!? 雪菜さんなら分かってくれるでしょ! 私がそんな……ああ、恥ずかしい、彼の前でこんなの着る勇気なんてありません!」
清水海斗:(白が逃げ出す前に、真剣な声で一歩踏み出す)「買い物を土壇場まで残していたのは、俺たちだけじゃなかったようだな。こんにちは、黒瀬さん、白崎さん」
(華は服を落としそうになるほど飛び上がり、白は日焼け止めの棚の陰に隠れようとした。その場に流れた沈黙は、この上なく気まずいものだった)
黒瀬雪菜:(至って冷静に振り返り、目を逸らそうとする白に鋭い視線を突き刺す)「あら……粕美くん。レディースセクションにいるなんて思わなかったわ。華ちゃんに服を買う許可をもらいに来たの? それとも、大輝くんから女の子を感心させるコツでも教わっているのかしら?」
森田大輝:(友人が恥ずかしさで死にかけているのを無視して、何食わぬ顔で近づく)「実はね、雪菜さん。白が魚を驚かせるような格好を選ばないように阻止しているところなんだ。でも、君たちの方が大きな問題を抱えているみたいだね。(華が隠そうとしているビキニに目をやる)いい選択だね、白崎さん。フリルがとても効果的だ。もっとも、色のせいで君が茹で上がったロブスターみたいに赤いのが目立っちゃってるけど」
白崎華:(水着で顔を隠す)「だ、大輝くん! 女の子の服をそんな風に見るのはマナー違反だよ! 白くん、お願いだから友達に何か言ってよ!」
粕美白:(石像のように固まったまま)「僕は……何も見てない! 勉強のしすぎで視界がボヤけてるんだ、誓ってもいい! 自分がどこにいるかも分からないんだ!」
黒瀬雪菜:(一歩前に出ると、容赦なく華の水着を白の目の前に掲げる)「嘘をつかないで、粕美くん。たまには役に立ちなさい。華ちゃんは、あなたがどう思うかを……まさに『あなた』がどう思うかを、とても気にしているのよ。彼女に似合うと思う? それとも、喋ることもできない街灯のふりをし続けるつもり?」
粕美白:(指の間から不安げに、瞳を揺らしながら自分を見つめる華を横目で見る。その瞬間、周囲の雑音も人混みも消え去った)「……すごく、似合うと思うよ、白崎さん。本当に。君にぴったりだ。とても可愛いし……その、正直に言うと、綺麗だと思う。(再び沈黙が訪れたが、今度は心地よいものだった)」
白崎華:(ゆっくりと水着を下ろし、愛らしく赤らんだ顔を見せる。二人の視線が重なり、一瞬だけ世界が二人を祝福するために止まったかのように感じられた)「……本当にそう思う、白くん? 私みたいな人には……派手すぎないかな?」
粕美白:(一歩前へ出て、優しい声で)「そんなことないよ。君に完璧だ。僕は……明日、それを着て笑っている君を見られたら嬉しい。周りの目なんて気にしなくていいよ、君が幸せだと感じることが一番大切なんだから。(……僕は一体、何を言ってるんだ!?)」
白崎華:(胃のあたりに不思議な感覚を覚え、布を胸に強く押し当てて、笑顔を見られないよう素早く視線を逸らす)「そ、そんな真面目な顔で急にそんなこと言わないでよ! 心臓が口から飛び出すかと思ったじゃない!(最後の言葉は、自分だけに聞こえるような甘い声で囁いた)……でも、分かった。あなたが似合うって言うなら、信じることにするわ……バカ」
森田大輝:(冷やかすような笑いでその瞬間をぶち壊す)「おいおい白、ヨダレが出てるぞ。このままだと海に行く前に店が水浸しになっちゃう。海パンと一緒にハンカチも買った方がいいよ」
白崎華:(恥ずかしさのあまり悲鳴を上げる)「大輝くん、せっかくの雰囲気を台無しにしないでよ! 行きましょう、雪菜さん。恥ずかしくて消えてしまいそう! これ以上ここにいたら爆発しちゃう! 明日、駅でね、白くん! 遅刻しちゃダメだよ!」
黒瀬雪菜:(勝利の微笑みを浮かべて水着を片付ける)「任務完了ね。では明日、紳士諸君。見ていて恥ずかしくない格好を選びなさいね、粕美くん」
(女子たちが去った後、白は膝の力が抜けたように壁に寄りかかった)
森田大輝「いい見ものだったよ、ロミオ。『綺麗だと思う』なんて、よく言ったね。心の底からの言葉だったじゃない。顔がトマトより赤いよ、白。あれは会心の一撃だった」
清水海斗「見てるこっちが気まずかったが……まあ、あっちも買ったことだし。お前のをさっさと買おう。腹が減った、ここで夕食にするのは勘弁だ」
粕美白:(両手で顔を覆い、まだ華の笑顔のぬくもりを感じながら)「あ、ああ……大輝が言ってたダークブルーにするよ。これにする。(……クソッ、白崎さんのあの笑顔は反則だ。明日、あんな顔でまた見つめられたら、最初の波が来る前に僕は死んでしまう……)」
森田大輝「元気出しなよ。明日の砂浜で、君を熱くさせるのは太陽だけじゃないんだから。冷たい水をたくさん持っていきな。更衣室から出てきて砂浜を歩く彼女を見た時、気絶しないためにね。明日の気候は、君にとって相当『熱く』なりそうだからさ」
第12章 終了
あとがき
読者の皆さん、第十二章を読んでくださりありがとうございます!
明日、江ノ島の海岸ですべてが決まる!?
白はプレッシャーに耐えられるのか、それとも砂浜で華の姿を見た瞬間に気絶してしまうのか。
次回、第十三章「江ノ島のカオス」をお見逃しなく!




