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野良犬協奏曲  作者: 無銘影虎
第二部
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25 7月26日 ヒメ

 朝、目が覚めるとチアキさんがいつものように抱きついていた。

 いつも赤ちゃんのように私を抱いてくる。

 どちらかというとペットみたいで恥ずかしかった。

 まだ知り合って数日しか経っていない。

 チアキさんだけじゃない、このキャンピングカーで旅に出ることになった、大人の人たち。

 旅といっても目的地もない。

 私を祖父の遺言が実行される8月15日まで一緒にいる、というものだ。

 私は祖父・真崎征四郎の遺産を相続するが、それがなんなのかはわからない。

 祖父が亡くなったのは悲しい。山科さんや宇治さんとも連絡がとれなくなって、私はいきなり天涯孤独になった。……はず、だったのに、いまはたくさんの大人の人たちに守られている。


 状況的には飲み込めないことばかり。


 だけど、居心地がいい。


 チアキさんはいつもずっといっしょにいる。買い物やお洗濯、お料理も教えてくれる。家政婦の山科さんもいろいろと面倒をみていてくれたが、何か手伝おうとすると「大丈夫ですから」と言われて私にはとくにやることがなかった。チアキさんは逆に私になんでもやらせようとする。

「ヒメちゃん、これやったことある? そっか、ほなやってみよか?」

 私も京都で育ったが、チアキさんは大阪。でも関西弁はやっぱりここちよい。高校の友達はみんな標準語だった。そんな感じで、いろいろなことをやらせてもらえた。

 私にはお母さんがいない。ずっと昔に亡くなっていた。真崎の家で「お母様」と呼んでいた人は、ずっと病弱で、可愛がってもらえていたが、少し遠い関係だったし、血が繋がらない養母であるのはほどなく伝えられ、ほどなく亡くなってしまった。


 だから、お母さんがどういうものかはわからない。

 一般的なお母さんなんてたぶんないだろうと思う。人、それぞれ。

 だけど、チアキさんにはお母さんを感じてしまう。

 チアキさんにも子どもがいて、離れ離れになってしまったのは聞いている。


 トモさんとユウキャンさんは夕方にマリオカートをしてくれる。ユウキャンさんの愛車、この動くホテルみたいなスーパーソニックにはゲーム機が古いのから新しいのまである。はじめはおふたりが遊んでいたのを見ていたが、誘われて参加するようになった。私はテレビゲームというのをやったことがなかったので、ヘタだったけれど、1時間くらいでコツがつかめた。おふたりに褒められて有頂天になるくらい嬉しかった。


 おふたりは高校時代の親友なのださそうだ。


 それが私が誘拐されそうになった件で、十数年ぶりに再会できたという。


 トモさんは私を攫う手伝いをしていたけれど、最初から本気で手伝うつもりはなくて、〈悪〉をこらしめようとしていたらしい。トモさんは正義感がとても強い人みたいだった。とってもかっこよくて、面白い人なのに、なにかの事情があってホームレスになっていたみたい。

 ユウキャンさんも私を攫(さら)うメンバーのひとりだった。だけど、それは悪い人から強制されていただけだった。そうして偶然トモさんと再会して、いまは私たちと旅をして、ずっと車の運転をしている。


 本当に車が好きなようで、何しろ、運転で疲れているのにマリオカートをやっている。


 《なんでそんなに車が好きなんですか?》


 この旅がはじまってから、グループチャットを設定して私はみなさんと話ができるようになっていた。ただし、ケンジさん、トモさんはスマホを持っていないので、参加できていないのだけれど。


 《自由、自由なんだよ》


 ことあるごとに自由かどうかが判断基準のようだった。


 だけど、タイサさんの拘束はものすごい。

 タイサさんは、ユウキャンさんに一目惚れをしたらしく、ずっとそばを離れない。

 ほんとうは男性で、元自衛官……なのだけれど、とてもそんなふうに見えない。若くてセクシー?な女性。ショートの髪もおしゃれで、タンクトップにホットパンツというのがスポーティだけど、むしろ女性的な体をあらわにしているようだった。

 縛られるのが嫌いというユウキャンさんがどんなに嫌がろうともまるで気にしないで「ダーリン」と呼んで離れない。ユウキャンさんも抵抗が無意味とわかったのか、「はいはい」と返事するようになった。


 ジュンさんはいつもパソコンとにらめっこしている。

 今回の事件――私にはまだなんなのかわかっていないが――の情報を集め続けている。夜は誰よりも遅く寝て、朝も早い。みんなでお酒を飲む時はしっかり飲んでいるようだけれど、愉快にはなりつつ、崩れているようには見えない。どんな表情も見せるが、どれも計算されているようにも見える。

 そもそもジュンさんが私を助けてくれたから、いまがある。

 自称ジャーナリストとして興味があるので、途中では降りられない、むしろ逃したくないネタだと私に言った。でもいろいろと気遣ってくれるのはよくわかる。

 ジュンさんはこの不思議な関係で集まった人たちのリーダーだ。

 いろんな意見を聞いて、まとめてくれるとても頼もしい人。


 そして、ケンジさん。

 元ヤクザの人。私が東京でお世話になっていた向田(むこうだ)のおじさまも元ヤクザの人だということが今回わかった。ケンジさんは向田のおじさんを〈オジキ〉と呼んでいる。そしてその命令で私を誘拐しようとしていたが、道に迷って、ほかの悪い人たちに先を越された。「ヤクザ」と聞いて世間的なイメージで怖くはなったが、向田のおじさまもケンジさんもまるで怖くない。それが「元」だからなのかなのかもわからない。

 ケンジさんは無口な人で、ほとんど会話もしないし、スマホを持っていないのでチャットもしたことがない。

 だから、あまりよくは知らないけれど、ケンジさんのつくってくれたお好み焼きはとても好き。それから、ケンジさんに近づくと、なにかいい匂いがする。いいというか、安心する匂いだった。


 私たちはゆっくりと新潟に向かっていた。

 今日も大きめのキャンプ場を予約していて、また温泉にも入れるらしい。

 みんなでバーベキューをして、温泉に入る。

 そして、また別の県に行く。


 とんでもなく怖い思いをしたのにも関わらず、私はこの旅が大好きだった。

 

いままでの人生でも味わったことのない充実した日々になりそうだった。


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