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野良犬協奏曲  作者: 無銘影虎
第一部
21/35

20 【番外】7月24日 喫茶キャッツアイ

 カフェ&バー〈joker〉

 カランコロンとドア鈴のレトロな音が鳴る。

 入ってきたのはふたりの警察官。交番勤務の巡査だろう。

「いらっしゃいませー」

 親しみやすいが妙に野太い声。

「え?」

 警察官ふたりは驚きのあまり声を挙げた。

「どうかしましたか?」

 店主はたずねる。

「いや、あのー……」

 警察官は二の句がつげない。

 そうであろう。ここの店主でオーナーはやたらとセクシーな中年女性だったはずだ。

 いま目に見えるのはスキンヘッドにサングラスをした巨体の男だった。黒の半袖Tシャツがパッツンパッツンなのがよくわかる筋肉質。

「どうぞ、お好きなお席に」

 処刑台を選べというような威圧感。

「あ、いえ……定期巡回なので」

 警察官ふたりは敷居を跨がずに言う。

「は? 客じゃねぇなら失せろ」

 スキンヘッドは皿を拭く動作を止めて、静かにうなる。

「い、いや、ここ、あの、女性の店主でしたよね」

「オーナーは旅行中だ。おれっちは、この夏だけ任されてる臨時店長だ。なんか文句あんのか!? お前らに関係あんのか!? ああん!!!」

「い、い、いや。そうだったんですね。オーナーさんはど、どちらに?」

「なんだそれ? 旅行先を聞いてどうすんだ!?ああん?!!」

「い、いや……」

「だからよー、客でもねーのに何しにきてんだよ!」

「あ、いえ、すみません。あのー……」

 それを聞いて、スキンヘッドの代理店長は舌打ちをする。

 その時、警官のうしろにひとりの女性が立っていた。

 代理店長はそれに気づくと、急ににこやかな表情になり、

「いらっしゃいませー」

 と大きな声で言った。

 それで警官たちは背後に客がいるのがわかり、かつ代理店長の隠れて見えない眼光に怯え、

「し、失礼しましたー」

 と立ち去る。

「どうぞ。お騒がせしてすみません。お好きな席へどうぞ」

 女性はメガネをかけ、セミロングの髪型、サマーニットを羽織っていた。あまりこの繁華街ではみかけないようなおっとりしとた、上品な感じだった。

「すみません、おじゃまでしたか……」

「そんなわけないですよ。むしろあのポリ公が邪魔だったんで……あ、すみません、口が悪くて」

 スキンヘッドは言いながら、笑い出す。

 女性はテーブル席ではなくカウンターを選んだ。

「この店、よくいらっしゃる? 私、臨時店長でしてね。常連さんわかんないんですよ」

「そうなんですね。私、はじめて来ました。店長さんは女性だと……」

 女性はおっとりとした口調だ。

「そうそう。よくご存知で」

「父の知り合いなんです」

「そうでしたかー」

「じゃあ、店長目的で?」

「ふふ、はい。そうです」

「あーそれは残念。オーナー夏休みなんですよ」

「そうみたいですね。あ、このメロクソというのをください。ネットで評判みたいで」

「よろこんで! メロクソ入りまーす!」

 スキンヘッド代理店長はあたかもバックヤードに声をかけるように言ってから、レシピブックを持ち出して、目を通した。

「ふむふむ、なるほど、そーなのか……」

 とひとり呟く。

「ふふ、はじめてなのですね」

「あ、ばれました? 突然店番頼まれましてね。期間限定で喫茶キャッツアイとして営業しています」

「オーナーさんとは知り合いなんですか?」

「いいえ、まったく。デリヘル……ちょっとした友人に頼まれまして。でもご安心ください。ちゃんと練習してますから。やばかったら無料で結構です」

「そんなことってあるんですね。ふふふ」

 女性は和やかに笑う。

「失礼ですが、お子さんが?」

「すごい、なんでわかるんですか!?」

「いや、先ほどからずっとお腹を触ってらしたので」

「あ、そうですね。そうなんです。いま6ヶ月なんです」

「そうでしたか。いや、おめでたい。楽しみですね」

 代理店長はとんでもなく強面だが、その言葉柔らかく温かい。

「ありがとうございます」

「店長さんにも触って欲しかったんですよ」

「え? わたしが……」

 スキンヘッド店長代理はゆでダコのように赤くなった。

「あ、ごめんなさい。オーナーさん?にです ふふふふふ」

「ですよねー」

「いいお店ですよね。もう、気に入っちゃいました」

「ありがとうございます。オーナーに伝えておきます」

 スキンヘッド店長代理はメロクソを仕上げ、サーブした。

「すごい。かわいい!!」

 女性は撮影の許可を得てからスマホを取り出した。

「私、愛知から来たんですけど、この夏は東京で過ごそうと思ってて。第一の目標が父の知り合いがやってるこのお店だったんです」

「そうなんですね。そっかーオーナーに知らせてあげたいけど、なんかお盆過ぎまで戻らないらしいんですよね」

「いえいえ、大丈夫です。もし会えたらでよかったんです。でも、私、このお店気に入っちゃいました! 東京にいる間は寄らせてください!」

「そりゃ、もちろん、よろこんで!」

「居酒屋なんですかー?」

 ふんわりとした雰囲気の女性はやわらかい笑顔で微笑んだ。


 喫茶キャッツアイ


 ここは夏の間だけ開かれる期間限定の店。

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