17 核心
ジュン、ケンジ、ユウキャン、タイサがjokerに戻り、昨日いたメンバーが全員揃った。
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「すまない。家出息子が当日に帰還してしまって」
私は言う。
「そういうの、いいから」
ユウキャンは笑顔だ。ひとりと自由が好きな男なのに、不思議な光景だ。
「それで、何があったんだ?」
ジュンが尋ねる。
「あのね、そこのね……」
「チアキ、トモに聞いてるんだ」
「そうだな。順番に話そう。私がムラに戻ったところ、サングラスに白いスーツを着たとてもスタイルのいい美人に会ったんだ」
「は?」
全員が突っ込む。はしょりすぎたか。
「名前は仮にそうだな。〈ファンタム・レディ〉としようか」
「パーフェクト・ソルジャーか!」
ありがとう、ユウキャン。
「ファンタム・レディはヒメちゃんの件も、私の過去も知っているようだった」
「それじゃ敵なんじゃない?」
「いや、そうではないと睨んでいる」
私はその後について説明する。私のDSが〈入れ違い通信〉のランプが光り、〈まぼろし〉という友達がやってきたこと、その挨拶文にURLがついていたこと。
「私はネットカフェでそこにアクセスした」
そこに出てきたのはjoker店内のリアル映像だった。そして、カメラの位置を教えるからただちに撤去すること、スマホが返却されるだろうからそれを持って全員、jokerに集まること。
「そして、その時に〈クエストを伝える〉と」
「クエスト?」
「そう。それと本当にあったのカメラ。遠藤ってやつが付けていったみたい」
「じゃあ、昨晩のドンチキ騒ぎも全部見られたってことか」
ケンジが言う。
「いやだ、流失したらお嫁に行けない!」
タイサがユウキャンを見つめる。
「アホか!」
「いやいや、俺たちの顔も素性も見られたってことだろ」
ジュンがまとめる。
「だが、その映像が見られる立場にあるのだとしたら、そのファンタム・レディは御柱の関係者じゃないのか」
「たしかに、そう考えられる。だが、わざわざ今度はなぜ外させた?」
「実はトモもグルで、みんなが集まったところをやっつけようとしてるとか?」
タイサが言う。
「え、私がみんなを? 最弱ですけど?」
「やっぱり姫ちゃんのスマホに何か仕組まれていて、ここで開くと爆発するのかも」
チアキが真相に辿り着いた顔をしている。
「なんで目的が俺たちの殺害に変わってんだよ」
ユウキャンはボケのほうはあまりやらない。
「爆発ではなくてもスパイウエアが仕込まれるとか」
「また盗聴? 位置把握とか? なんのために?」
「ヒメちゃんの身柄でしょ? また出かけたら確実に攫われるのかも」
「いっそのことこの店襲撃して攫ったほうが早くねーか」
ケンジが物騒ことを言う。
「どっち目線なんだ!?」
「それはないと思うよ。警官がうろうろしてるからヤクザは近づけないし、警官はいちおう警官だからいまのところは大丈夫だよ。ただ、でっちあげて踏み込む理由を捜しているのかも。それで観察しているのかも」
タイサが言う。
その時、ジュンがケンジの顔を見た。
「いろいろ考えてもわからんし、いったんファンタム・レディを信じてみてもいいんじゃないか、リーダー?」
「リーダーってオレか?」
ジュンは自分を指差す。
「まあ、最初っからそんな感じやったけどな」
「ああ、僕もジュンに判断は任すよ」
「俺もだ」
ユウキャンが言う。
「え、ウソ気が合うじゃん。どうする結婚する?」
「お前、マジうざい」
「よければ、ファンタム・レディからもうひとつのアドレスをもらっている。これは、特別なファイルを入れないと開かない。いわゆるダーク・ウェブってやつだ」
「なぜ、知っている? ああ、トモくんはITの人だったんだけ」
「ITの人がみんな知ってるわけじゃ……。私もそこまで詳しくないが、彼女は匿名性に慎重になっているようなのは間違いない」
「わかった、やってみてくれ」
私は店のPCを使わせてもらい、ファイルをインストールする。通常のやり方ではできないが、私ならできる。なぜならこれは私が戯れに自作したものだからだ。おそらく彼女はこれをできるから私に目をつけたのだろう。
アドレスを開く。
画面いっぱいに似《 SOUND ONLY 》と出た。
《そろったようね》
合成音で話しかけてくる。
「やあ、〈まぼろし〉」
《私を信じてくれて嬉しいわ》
「ああ。それで、君は一体何者なんだ」
《まぼろしよ。ファンタム・レディでもなんでもいいわ。詮索しないで》
「そうか、では早速だがクエストとやらを教えてほしい」
《まず、ヒメのスマホをこの端末と繋いで》
私はヒメちゃんのほうを振り返る。
ヒメちゃんがこくりと頷く。
「つないだぞ」
《では、生体認証を。できたらなんでもいいからアプリを立ち上げて》
「何も起きないぞ」
《GPSの全機能を落としたわ。これであいつらは位置情報を取得できない》
「やっぱり、なにか仕込まれていたか。ということは、セキュリティも突破されたということか」
《そうよ。ちなみに全データは複製が取られている。だから用無しだけど、GPSで見張れるということね》
「警察がやったのか」
《いいえ、私よ》
「なんだと!? やはりヒメちゃんを狙う勢力なのか」
《まあ、そういうことにはなるけど》
「敵なのか!?」
《いまはあなたたちをサポートしているわ》
「味方なのか!?」
《詮索しないでと言ったわ》
「どっちなんだっ、くっ!」
「トモ、とりあえず白黒はいいから話聞いたら?」
チアキが言う。
「あんたの目的はなんだ?」
今度はジュン。
《私に協力してほしいの。それであなたたちの目的も果たせるわ》
「いろいろと知っていそうだな。教えてくれないか」
《もちろん。そのために集まってもらったんだから》
一同が固唾を呑んだ。
《関西の指定暴力団、道源組と武州組がヒメを狙っているのは知っているわよね。それから警察のなかでも一部の御柱会信者が少し前から組織的に行動している。どちらも狙いは真崎征四郎の遺産よ。弁護士の宇治という男はおそらく殺されたわ。道源は手荒な男で、待つと言うことを知らないのよ。遺産整理はもう終わっていて、ヒメにはほぼ何も相続されない。だけど〈遺品〉は受け渡されるわ》
「遺品?」
《内容までは言えないけど、莫大な暗号資産ではないかと宇治は考えて、道源と結託しようとした。それで、真崎が亡くなる直前に殺され、屋敷を制圧された。問題はそのデジタルデータにアクセスする方法がわからないということよ》
「それで受取人であるヒメの身柄さえ押さえればいいと考えたのか」
「はいっ、質問!」
タイサが手をあげた。
「ヤクザのほうはなんとなくわかるんだけど、御柱はなんでなの?」
《そう、今回いちばん重要なのはそこ。御柱はある政治家と強く結びついている。その男のために急遽グループで動き出したのよ。一月前ほどかしら》
「政治家? 誰だ?」
《浦田善幸》
「なんだと! 経産大臣か!」
私は思わず叫んだ。
「いや、環境大臣だろ。クソが」
ユウキャンが苦々しく言った。
《いまは防衛大臣ね。浦田は若い頃、真崎の愛弟子だったわ。真崎は資金援助だけでなく、よごれ仕事でも面倒をみていたようよ》
「よごれ仕事とは?」
《さあ? そういうのを追いかけていたジャーナリストがいたっていうけど》
「そのスキャンダルが出たら困るということか? その〈遺品〉にその証拠があるのか!?」
《いいえ、ヒメへの贈り物なのよ。おそらく違うわ。ただ、腹の黒いやつらは自分の都合で解釈する。金に見えたり、自分の破滅に見えたり》
「くそっ! そんなことでヒメちゃんが巻き込まれているのか!」
「ヒメちゃんっ……」
チアキがヒメをそっとだき寄せる。
「〈遺品〉はどこにある? あんたなら知っているんだろう?」
《それは言えないわ。ただ、ヒメを守る方法は知っている。〈遺品〉は真崎の死去の時期とは関係なく8月15日に受け継がれることになっている。それを真崎本人がうかつにも宇治にしゃべってしまったわ。そのことは御柱もつかんでいる。逆にそれまでにアクセスする方法を見つければ、〈遺品〉を奪うことができる。そしてそのキーはヒメが持っている、と考えられている。だから8月15日までにヒメが捕まればゲームオーバーといったところね》
「逆にそれまで守り切れば」
「よっしゃ、この店、8月15日まで貸切や!」
「いや、タイサの言う通り、御柱のほうはでっちあげで強行突破してくるかもしれない」
《賢明ね。まず東京を出たほうがいいわ。どっちの勢力の影響も強すぎるわ。そのためにヒメのGPSを消去したのよ。絶えず移動していれば、数週間身を隠すのは可能なはずよ》
その時、ヒメが筆談をはじめた。
〈山科さんがどうなったかご存知ですか?〉
チアキが読み上げる。
《ごめんなさい。わからないわ。ただ無事であればいつかあなたに連絡をとるはず。だからスマホは持ち歩いていて》
ヒメは力弱くうなずいた。
《もうこれで失礼するわ。また連絡するかもしれないけど、あなたたちのほうからの接触は無理よ。お気をつけて……》
通信が途絶えた。
「しばらく東京を離れるのか。警官なんてどれが御柱だかわからないし、びくびくしながらの電車乗り換えだな」
トモが眉間に皺を寄せている。
「いや、車でいけば?」
ユウキャンが答える。
「ドライブに誘われた!」
タイサが言う。
「それが賢明だな」
ジュンが頷く。
「俺もちょうど旅に出ようと準備してたんだ」
ユウキャンは遠い目をしている。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
ケンジが口を挟んだ。
「日にちを稼げば〈遺品〉は守られる。あいつらに奪われることはない」
「そうだ、理解できたか」
ジュンがまた嫌味のようにいう。
「だから、ヒメちゃんを連れて東京を離れる」
「そうだ」
「それは、ここにいる全員でやることなのか? 昨日今日知り合った俺たちが!?」
「うちは店閉めてでも一緒に行くで」
チアキが即座に反論する。そうだろう、いまではもっともヒメになつかれている。
「あんたはそう言うと思った……」
「俺は浦田のスキャンダルをとる。もしかしたら師匠が12年前に追いかけていた案件の可能性がある。悪いがこの件を利用させてもらう」
ジュンがキメ顔で言った。
「いやースカしてるわ。照れ屋やわ。こっちが恥ずいわ」
チアキに突っ込まれると、ジュンは笑った。
しばらくしてから、トモが口をひらく。
「たしかに私が同行する必要はないな。だが、数秒前まで完全に行くのが当たり前だと思っていた」
首を捻っている。
「いや、いてもらわな。ファンタム・レディと繋がれないと困るやろ」
「それにお前もどうやら浦田に恨みがあるようじゃないか?」
「そういうユウキャンもか?」
「まあな。あいつが失脚する鍵をもし握っているなら、これほど愉快なことはねーし」
「僕はユウキャンとならどこまでも行くっす」
「新婚旅行か!」
珍しくトモが突っ込んだ。
「みんな、待ってくれ。相手は警察だぞ。ヤクザだぞ。留置所にぶち込まれるかもしれない、大怪我をするかもしれない、下手したら命を奪われるかもしれない!」
ケンジは一言発するたびに語気を荒げる。
「宗教の頭のイかれたやつらだぞ! 半グレやらトクリュウやらを使って何をしてくるかわからないんだぞ!」
腕を大きく広げ、全員にうったえかける。
「まだ、たいしたことになっていないから、軽く考えすぎなんだ……」
少し弱々しい口調になる。
「で、お前はどうしたいんだ?」
ジュンが言う。
「この娘は、俺が最後まで面倒をみる。そして無事、オジキのところに送り届ける」
「無理だな」
「なぜだ?」
「ヒメは言葉が話せない。それだけでも連れていくのハンデがある。だいたいお前は女子高生の世話ができるのか? さっきもあったがファンタム・レディという新しい情報源はいまのところ有用だしキープしておくべきだろう。そういうことを冷静に考えることがお前にはできない。オレにはある」
ジュンは自分のこめかみを人差し指でつついた。
「それにさ、オレたちそろいもそろっていい歳すぎて独身だし、失うものもいまさらだし、自己責任でいいだろ。だからオレは全員でいくべきだと思う。このゲームに勝ちたいならな」
「……」
ケンジは黙ってしまった。
「そうか。私はいま、リアルでヒメを救うクエストに!」
トモが言っている脇をヒメがすりぬけて、ケンジの前に立つ。
そして深々と頭を下げた。
「……わかった」
ケンジはあきらめて椅子に腰掛けた。
「よし、じゃあ車でいくとして、2、3台くらい? みんな車運転できるん?」
チアキが聞く。
「私はスーパーペーパードライバーだ」
トモがインチキネイティブ発音で答える。
「僕、免停したまま。もう乗ってない」
と、タイサ。
「俺はもともと免許とっていない」
と、ジュン。
「俺は……免許はないが運転はできる」
ケンジ。
「ひとりしかおらんやん!」
「まあ、運転できるのかどうかでいったら3人じゃん?」
「あかんやろ」
「まあ、とりあえず俺が運転するよ。俺の車だし」
「え、みんな乗れるの?」
「ああ、キャンピングカーだ」
「マジか」




