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16 過去

 ジュンとケンジはアユカワ邸の居間で対峙していた。


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 監視カメラはジュンの手で手荒く撤去されていた。

 そのカメラの映像を見ていたやつからさきほど電話がかかってきた。武州組のシバという男だ。

 そいつは、ケンジのことを〈島村組組長〉と呼んでいた。

「向田龍が会長を務めていた二代目慈恩会にだいめじおんかいの若頭、島村組組長、島村慈陽しまむらじょう……」

 オレはケンジの表情を確認しながら話す。

「12年前、滋賀県の山深、違法な産廃場で、ある女性の遺体が発見された。自称ジャーナリストの蒼井翔子あおいしょうこ。現場にいた島村は駆けつけた警察をかいくぐって逃走。その後、琵琶湖で水死体となって発見された」

 俺は澱みなく事件の概要をしゃべる。一生忘れられない記事だ。

「よく知っているな」

 ケンジはぼそりとつぶやいた。

 体中から震えのようなものが襲ってくる。

「生きていた、ということか」

「ああ……」

 オレはすぐさまケンジに体当たりし、拳を叩き込んだ。一発入る。しかしすぐに防蟻の腕が差し込まれる。

 構わず殴り続ける。

「待てっ、どうしたんだっ!? やめろ」

「この人殺しが!」

「くっ、うっ」

 蹴りがオレの腹に飛んできて見事に吹っ飛ばされる。テーブルに背中をうち、椅子が倒れる。

「どうしたって聞いてんだよ!」

 ケンジが向かってくる。

 こいつが強いのはわかっている。オレは椅子の脚を掴んで投げようとした。しかし、簡単に避けられる。

 それから腕を掴まれるとひっくり返されてホールドされる。

「ちくしょう!」

 オレの腕がぎりぎりと締め上げられる。

「はあ、はぁ……」

 お互いの息が荒々しく残る。

 しかし、ケンジはその力をゆっくりと緩めると、拘束を解いて立ち上がった。

「もしかして被害者の関係者か……?」

「ああっそうだっ!」

「そうか。だったら聞いてほしい。殺したのは俺じゃない。俺はハメられたんだ。さっきのシバってやつにな」

「お前たちヤクザのいざこざだろうが!」

「……そうかもしれない」

「それでのうのうとアメリカで暮らしていたのか!」

 自分にしては言葉に強さがない。

 まだ何も整理ができていない。


「はあっはっ……信じてくれ。あの時、彼女の死体の前に携帯が置いてあった。それに出るとシバがだった。あいつはふたつのことを言った。もうすぐ警察が来る。大人しく捕まれ。でないとお前の家族も殺すと」

 シバ、さっきの電話のやつか。

「だが俺は逃げて家族の元へ向かった。……しかし、間に合わなかった」

 ケンジは脱力したかのように壁にもたれた。

「俺は怒りに任せて武州組を襲撃した。だが、事務所にはチンピラ2人しかいなかった。俺はそいつらを半殺しにしたが、同じ時に俺の組事務所が襲われて壊滅させられた。オジキに諭され、しばらく身を隠した。それから、勝手なカチコミをしたことで俺は破門になった。警察からは指名手配がかかった……」

 それで向田が死を偽装していまに至るのか……。


「オレは12年であろうと、敵が目の前にあらわれて復讐を思い付かないなんてない。師匠は俺の大事な人だったんだ」

 涙がこぼれてくる。


「俺も1日も忘れたことはない。アメリカでは軍のアンガーマネジメントを学んだ。怒りに暴力を任せないようマーシャルアーツを学んだ。だが、もう無理のようだ。お前の気持ちと同じだ!」

 ケンジは壁を殴りつけた。


「だが、オジキがかたくなに復讐を禁じる。人生を棒にふるなと。何が人生だ! 死んでるも同然じゃないか! うおおおおおおおぉぉぉぉー!」

 ケンジは咆哮する。


 オレは片膝をついて、口元の血をはらう。

 こんなつくり話をするようなヤツには思えない。だとしたらオレの仇もシバということになる。

「クソッ……。いいだろう、信じられないが、どうやらシバという男はお前の因縁でもあるし、今回の事件にも大きく絡んでいるようだ。しばらく休戦だ……」

 いますぐ仲直りなんて気分じゃない。それにヤクザ同士の抗争に巻き込まれたのなら、やっぱりこいつも仇の一人だ。しょせんヤクザなんて信用ならない。

 ケンジはうなだれている。


 そこへ、インターフォンの音が響く。


 タイサとユウキャンだ。

「やほっ……あれぇ、どしたの! 敵!?」

「いや違う、ちょっとあいつがな、暴れるんで」

 いや、暴れたのはオレのほうか。

「ケンカ? なんでよ」

「まあ、それはあとでいいから、中に入れ」

 ふたりがヒメちゃんのバッグを取り戻せたという連絡があったので、こっちにきてもらった。

「スマホを素直に返したということは……」

「ということは?」

「この中に〈遺産〉の手がかりがなかったということか」

「フツーに顔認証がパスできなくて諦めたんじゃないか?」

「そうか」

 単純だが、そうかもしれない。スマホのセキュリティはかなり厳重だ。

「なら、ヒメちゃんに開けてもらうしかないな。カバンのほうにへんなものは?」

「GPSがつけられているとか、そういうのはなかった」

「GPS捜査は令状が出ないと基本的に違法だよ。まあ、そんなのおかまいなしだろうけど」

「どうするか。何かあるとすればスマホなんだろうけど」

「ヒメちゃんをここまで連れてくるのは避けたいな」

「うーむ。ならジョーカーに持って行くか」

「それって位置情報でバレないかな」

「ヒメちゃんがジョーカーにいるのは御柱のほうにはバレてるでしょ」


 その時、オレのスマホが鳴る。

 チアキからだ。

「ねぇ! トモが帰ってきたよ!」

 チアキはなぜか喜んでいる。

「はーやっ!」

 ユウキャンがのけぞる。

「それで、なんだ?」

「スマホを持って戻ってきてほしいって。それから有力な情報を手に入れたみたい」

「ウソだろ……」

 今朝ホームレスの村に帰っただけなのに?

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