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野良犬協奏曲  作者: 無銘影虎
第一部
11/35

10 集結

 「とりあえず、自己紹介といこう」

 ジュンが言い出す。

「とはいえ、お互い深く知る必要はない。偽名でもなんでも結構。全員がヒメちゃんの件にかかわっている。どういう関わりなのか、そこだけ教えてくれ。まず、オレのことは〈ジュン〉と呼んでくれ。ライターだ。昨日の午前中、ヒメちゃんがアウトローに追われているところを助けて、ここに連れてきた」

 そうして、手を差し伸べて三人組を指す。

「オレは、……〈ケンジ〉だ。日雇いに近いフリーターで……。ヒメちゃん?……は、オジキのオヤジのイモウトのムスメで、昨日、オジキから攫う……保護するように言われていた」

「はい、そちらは?」

 ジュンはトモにふる。

「私は友田和彦……」

「いや、だから本名でなくていいから」

 ジュンが言う。

「そうか。なら、コードネームは〈トモ〉だ」

「もう言っちゃってるし」

 ユウキャンが突っ込む。

「見ての通り、職業(クラス)はホームレスだ。そこのお姫様を攫う手助けの依頼を受けていたが、正義がどこにあるかを考えて、やつらの計画を潰そうとした。無事であってくれて……本当に嬉しい」

 ヒメが頷いた。胸の前で手を組んで、瞳を潤ませている。

「あー、おれか。おれは結城(ゆうき)だ」

「お前も本名じゃねーか。こいつのコードネームは〈ユウキャン〉だ」

 トモが口を挟む。

「あー……、実はこいつは高校の同級生だ。〈ユウキャン〉は友達用の呼び名だから、結城でいい。この件にはまあ、いろいろと巻き込まれた。それでこいつともどういうわけか30年ぶりくらいに再会した。いまもなんでここにいるのかわからない。わりと奇跡だ」

「うん」

 ジュンは頷くと今度はチアキに手を向けて促す。

「え、アタシ? ……チアキ。ここの店主よ。ジュンがヒメちゃんを連れてきて巻き込まれただけ」


「で、あそこのワンピースの可憐な少女がここの全員が捜しているアユカワヒメちゃんだ」

ジュンがアユカワヒメにみんなの視線を誘導する。


「さて、アンタたちがホームレスの溜まり場で出会って、ここを突き止めたのはさっき聞いた。とくに害はなさそうだから、店前でワーワーやられるより、入れてしまおうと思ったわけだ」

 ジュンは主にチアキに言い訳しているようだ。

「で? あんたたちはヒメを見つけてどうするんだっけ?」

「オジキのところに連れて行く、そう言ったろ」

 と、ケンジ。

「私は彼女の無事が確認できればそれでよい。このパフェを食ったら帰る」

 トモはがっついたままだ。

「おれもトモについてきただけだから、飲んだら帰る」

 ユウキャンも答える。だが、気になることがある。

「あんたは? あんたはどうするつもりだったんだ?」

 トモがジュンに問いかける。

「まだわからないことが多い。いまこの娘(こ)を家族以外の誰かに引き渡すのは危険だと思っている」

「オレはその家族の子分の……子分だ」

 ケンジの言葉は歯切れが悪い。

「あいかわらずややこしいな」

 ユウキャンがぼそっと言う。

「そうだ。オジキに見つかったことを連絡しなくちゃいけない。早く安心させたい。電話をしていいか」

「かまわんが公衆電話からにしてくれ。出て右に少し歩いたところにたばこ屋にある。スマホは置いていってくれ」

「……」

 ケンジがジュンを睨みつけている。

「すまないが、そこまで信用できない」

「チッ」

 ケンジは大きく舌打ちする。


 そのとき、店のドアが開き、カランコロンと、ベルの音が響いた。

 カギは閉めていなかった。

 警察官だ。

「お邪魔しますよ」

「なんやねん、今日は貸切や。表のプレート、クローズになってたやろ」

「あ、それは失礼。お客さんがたくさん見えたので、営業中かと思いました」

 警官は微笑んでいる。気色の悪い笑みだ。

「それにしても変わったお客さんたちですね」

「おい、うちの客にケチつけんのか。日本一の繁華街やで、いろんなのがいるわ」

「失礼しました。ただ、ずいぶんとお若いお客さんもいらっしゃるようで」

 奥の階段でヒメはブルブルと震え出している。

「うちは夕方まではカフェや。酒飲ましとるわけちゃう」

「この子は店主の親戚の子でね。それよりあんた。営業外の店舗に入ったら不法侵入だぞ。この娘が怖がっているじゃないか。だいたい、なんの用だ。ひさしぶりの同窓会がしらけちまったぜ」

「同窓会でしたか。こちらは巡回連絡です」

「なら、また今度。営業中にな」

「最近、また家出少女が増えてまして。風俗だけでなく、場末の飲み屋が不法に働かせているケースもあるんですよ」

「おい、親戚の子言うたやろう。失礼やぞ」

「チアキ、〈ユウコちゃん〉が怖がっている。上に連れて行くぞ」

 ジュンが階段にしゃがみ込んでいるヒメをを連れて行く。

「あ、ああ。頼むわ。おまわりさん早よ帰ってくれんか。えらい迷惑や」

「わかりました。しばらく、巡回していますので、なにかありましたら交番のほうにご連絡ください。私は遠藤と申します」

 と言って警察バッジを見せる。

「ああ、わかった」

「では、失礼します。みなさん、お邪魔いたしました」

 遠藤は丁寧に頭を下げて出ていった。


 しばらくしてから、トモが口をひらく。

「なあ、どうした? 警察だぞ。やましいことでもあるのか!」 

「うるさいっ、黙っとれ!」

 緊張から解き離れたチアキは激昂する。

 その時、足音が聞こえてきて、ジュンが降りてきた。

「チアキ、がんばったな。ヒメちゃんのところに行ってくれるか」

「うん……」

 入れ違うようにチアキは階段をあがった。


「なあ、どういうことだ? やばいやつか?」

 ユウキャンが口を開く。

「まず最初に言っておかなきゃいけないことがある。ヒメちゃんは言葉を話すことができない。後天性の失語症か何かのようだ。そして、昨日、彼女を追い回していたのはヤクザだけじゃない。警察官もだ」

「どういうことだ、さっぱりわからん!」

 トモが、叫ぶ。

「だまれ、とりあえず話を聞け」

 ケンジがいなす。

「なんで命令すんだ!? 子分扱いか!」

「まあまあ、トモ」

 ジュンは詳細を省いて、彼女が遺産がらみで、ふたつの組織から追われているらしいことを話してから、とりわけヒメの精神状態に配慮するよう申し出た。

「姫がモンスターと騎士団の両方から狙われている感じか」

「うーん。トモ、わかりやすいけど、胸のうちに閉まってくれる?」

 ユウキャンが言う。

「お前らがヒメを脅していないという証拠は? 警察のほうが正しいってこともある。ふつうそうだろう」

 ケンジがジュンにつっかかる。

「そうだな。ヒメに尋ねてもらうしかないかな。筆談ならできる。まあ、ちょっといまは待ってほしいが」

「ああ、待つさ。ただ、オジキには連絡させてくれ。早く安心させたいんだ」

「……わかった。だが通話はスピーカーにしてもらえるか」

「おまえ、……ごちゃごちゃうるせぇな」

「フェアにやりたいんだ。ヒメちゃんを案ずるあんたらも気になるだろ?」

「たしかに。オドロキモモノキとか言ってて、こいつも結局、遺産狙いの悪かもしれない」

「オドロキモモノキってなんだ! ちっ、どいつもこいつも……わかったよ」

「素直で助かる」

 ケンジは言われた通りにスピーカーボタンを押してから、向田の連絡先をタップする。

 しばらくすると、応答がある。

「……」

「すみやせん、オジキ、オレです」

「なんだ、オレオレ詐欺か」

「いや、あのケンジです」

「おう」

「オジキ、オレ、やりましたぜ、女を見つけました!」

「安全なところにいるのか?」

「へ、へぇ……はいっ」

「だったらそのまま身を隠せ。京都には絶対に来るな。お前のアパートも念の為だめだ。渡した金でヒメちゃんに不自由をさせないようにな」

 向田龍は一気に捲し立てる。

「へ、へいっ!」

「バカヤロウ!! ヤクザみたいな口をきくな! 丁寧に接しろ、少しでもヒメちゃんを怖がらせたら、殺す!」

「へっへい!」

「それからしばらく連絡はするな! いいな!」

「えっ?」

「切るぞ!!」

 ブツっと切れた。


「えー……」

 ケンジはうなだれていた。もしかすると褒めてほしかったのかもしれない。ちょっとした絶望感を味わっていた。

「あー、まあ、ドンマイ」

 ユウキャンが言う。

「事態は悪化しているようだな」

 トモが言う。

「ああ、そうだな。なにかあったようだ」

 ジュンは目を瞑って眉間に皺をよせる。

「ああ、あんたたち。というか、ホームレスのおじさん」

 ジュンはトモに呼びかける。

「おじさん、なのか。私はまだ48歳だ。高架下48(こうかしたフォーティーエイト)だ」

 トモは若干不服そうだった。

「そうなのか俺は50だ」

「なんと、パイセン……だと?」

 トモが目を丸くした。

「今日は、泊まっていってくれ。ここに。あんたも」

 ユウキャンのほうを見る。

「は? なんで?」

「まあ、私たちはどっちもホームレスだからな。泊めてくれるのなら、ありがたい」

 驚くユウキャンをよそ目にトモは即答する。

「お前、いい家あるじゃん。ビニールシートの」

「だが、あそこには住所がない。ピザも頼めない」

「帰らなきゃいけないんじゃなければ、泊まってくれ」

 ジュンはふたりのやりとりを見守ってから言葉をつぐ。そしてケンジのほうを見た。

「俺たちを監視していたいんだな……」

 ケンジは目を合わせずつぶやく。

「察しが良くて助かる」

「つまり、まだ疑われているんだな」

「それもあるし、もうこうなったらできるだけの情報が欲しい。結城くん――ユウキャンは、街の情報屋と繋がっているんだよな?」

「いや、ただのデリヘルの客だよ」

「たのむ。ケンジ、あんたも」

「俺は家があるんだよ」

「ヒメのそばを離れちゃいけないんだろ。それにアパートは使うなってさっき言われたろ」

「……そうだった」

「よし、ではそういうことで」

「布団はあるのか」

 トモが言う。

「ない。すまん」

「かまわん。このウルトラライトダウンがあれば問題ない」

「うん。その前に風呂入ってもらっていいか?」

「わかった」

「あー、ここのwifi教えてくんない? 今日のログインボーナスまだ受け取ってないんだ」

 ジュンはユウキャンにパスワードを教える。


 これでなんとかリスクは最小限にできたか、とジュンは考える。


 その時、ドンドンと扉を叩く音がする。


 全員に緊張感が走る。

 同時にジュンのスマホがブルっと震える。

「やほ。僕っす。入れてくんない?」


 〈タイサ〉からだった。

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