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09 チアキ 50歳 ジョーカー店主

 7月21日。

 チアキは8時に起きた。いつもよりずっと早い。


 ===================================================


 ヒメは自分のベッドで寝ているはずだが、いない。

 あわてて部屋のドアを開ける、すると、洗面所にいた。

 ヒメはこちらに気づくと、とてもていねいな会釈をする。

 よかった。

 店は本来、夕方からBARをやっている時間だが、ジュンが閉めておけというので臨時休業にした。

 ヒメは疲れているだろうと、早く寝かせた。

 ときどき様子を見にきたが、24時までは寝れていなかった。

 こんなとき、少し話でもしましようとも言えないし、歌で寝かしつけたり、絵本を読んであげたりも違う。

 何もできないもどかしさがあった。

 ようやく寝たのは25時くらいだろうか。

 寝顔を見ていたら安心した。

 こんな街には似つかわしくない、天使のような寝顔だった。

 思わず髪をなでる。


 昔のことが思い出されてしまう。

 女優をやめるきっかけとなった妊娠。出産。たったの一年も子どもといっしょにいられなかった。

 ひとりで育てるのは大変だったけれど、いま思い返すと幸せ以外のなにものでもなかった。

 授乳、床ずれ直し、汗拭き、寝かしつけ、とにかくあわただしかったが、思い出すのは寝顔ばかり。


 いま、どうしているのだろうか。

 思い出すのがつらい。下に降りて酒をつくる。

 見たくもないテレビを点けたが、すぐに自分の頭に意識が戻ってしまって、涙が出てくる。

 ここ最近では、ほとんどなかった。

 ジュンが連れてきたせいだ。ジュンのせいだ。あいつはいつも心無いことをする。


「あ、おはよう!」

 ヒメに挨拶をする。とびきり明るい感じで。

 ヒメは私のパジャマを着ている。少しダボタボだが問題はない。

 だけど、このあとの着替えどうしよう。うちとはサイズが合わない。

 また制服を着せるわけにはいかない。繁華街で女子高生は悪目立ちする。しかも超お嬢様学校のだ。

 それに誰かに狙われているのだとしたら、そもそも表に出せない。

 とりあえずはこのままでもいいか。

「朝ごはん、つくるから、寝室でもいいし、下に降りてもいいし、ちょ待っててや」

 ヒメはふかぶかとお辞儀をする。

「いや、そんないちいちあれやから、はい、いいえ、うーんそやな」

 〈はい〉は親指を立てる。サムズアップ。

 〈いいえ〉は人差し指でバツ。

 これでいこう。本当はヒメは手話ができるそうだけど、うちがわからへん。

「ええかな?」

 ヒメは親指を立てて微笑んだ。

 かわいっ! ウソやんマジ天使やん。


 朝食はお客にもらった4枚切りの食パン。「生」のえーやつや。

 トーストにしてバター。サニーレタスとミニトマト、それからいぶりがっことゆで卵を刻んで入れたポテトサラダ。あと余ってたソーセージ。豚ひき肉100%。鶏合挽はうちでは使わん。

「コーヒーは飲めるん?」

 ヒメがバツをして、頭を下げる。

「あやまらんでええよ。そしたら、なににする? 牛乳?」

 〈はい〉

「オッケー。なら牛乳にしよ」

 それから私は自分のぶんのコーヒーを入れて、席につく。

「うち一応カフェもやっとるからな。コーヒー豆だけはいっぱいあんねん。あ、待ってたん? さき食べてたらよかったのに」

 ヒメが手のひらで〈ないない〉をする。

 案外、コミュニケーション取れる。

「そっか。ほな、いただきます」

 ヒメも手を合わせる。


「ジュンから連絡なくてな。チャットもしとるんやけど」

 ヒメはふんふんとうなずく。相槌なんだろうけど、ちょっと強めなのでかわいい。

「今日から夏休みなんだよね?」

 〈はい〉

「学校いかなくて済んだのは良かったけど。夏休みはなんか予定があった?」

 〈いいえ〉

 それからすこし考え込んだ。

「ああ、紙と鉛筆、持ってこよっか?」

 答えを聞かずに立ち上がり、昨日使ってカウンターに置いたままのメモパッドと鉛筆を持ってくる。

 〈夏休みの間は、沖縄に行っている予定でした。お祖父様がチケットを手配してくれて、山科さんとゆっくりと休んでこいと。沖縄にお祖父様の別荘があるんです〉

「そっか。いつから?」

 〈来週からです〉

「まあ、これで結局何もなかったら行けるしね。それまではうちでゆっくりしていくのがいいよ」

 〈ありがとうございます〉

 書いたあとであわててサムズアップした。

「いいの、いいの。じゃあさ、最大で1週間いるとして、服ないと困るよね」

 ヒメは答えない。答えられないような感じだった。

「お家にはまだ近づかない方がいいだろうし、ちょっとさ、買い物に行かない?」

 ヒメは驚いた顔をして固まった。

「いや?」

 〈いいえ、でも、お金がありません〉

「知ってる。うちが出すし、気にせんでええわ」

 〈なぜ、そこまでしていただけるのでしょうか?〉

「うーん。なんでやろ。これもめぐりあわせ? 困っとる人助けるの嫌やないし、いやいや、ちゃうちゃう。うそううそ!」

 腕を組む。聞かれて、自分でもわからんかった。でも、行きたい、出かけてみたい。すごく、ワクワクしてるのは、確実にわかった。

「ウチもな。子どもおってん。昔やけど。いまはもうおらん。そんで、あんまな、ていうかほとんどな、親らしいことしたことないねん。いなくなったの赤ちゃんの頃やったしな。だから、自分の子どもと買い物とかいっしょに行ったら楽しいかなーって、つい思ったんや」

 〈思い出させてしまって申し訳ありません〉

「いやいや、そんなんですぐに人に謝ったらあかんで。……いや、悪い思うなら、付き合ってや、うちに」

 〈わかりました。なんでも言ってください〉

「知らんおばさんの言うてることやで。心配になるわ」

 冗談のつもりで言ったが、ヒメはまた恐縮してしまった。

 そら関西人のノリ、都会のお嬢様には通じんか。いや、ヒメもそもそも関西の子やったな。育ちの違いか。

「よし、ほな行こう。お皿片付けて準備したら出かけるで」

 ヒメが微笑んでうなずく。


 ※  ※  ※


 私はいつもより慎ましい格好をし、ヒメはどっかの客がくれたどっかのミュージシャンのTシャツ(未開封)とパーカー、それにジーンズを着てもらった。パンツは少しだけ裾が長かったので、思い切ってふくらはぎまで捲り上げている。こういう着こなしもあるだろう。しかし、どうしようもないのが靴だ。これは貸し借りができないほど繊細。そして、学校で指定されているローファー? は、どうしようもなく合わない。

「とりあえず、クツ、買いに行こ」

 〈はい〉

 ヒメは力強く親指を立てる。

 出かける前、姫の髪をとかし、シニヨンにした。あまり人にやったことがないので時間がかかった。

 ヒメはヘアアレンジをしたことがないので、喜んでくれた。

 せっかくだけど、外に出る時はキャップとマスクをしてもらった。

 昨日の可憐な女学生のイメージはないだろう。

 あとは、警察がいそうなとこだけ避けてけばいいかな。

 とはいえ、少し緊張する。

 並んで歩くが、心配でいちいちチラチラと横をみてしまう。この子は喋れないし、昨日さんざん怖い目に遭っている。もし自分とはぐれたらと思うと、気が気でもない。

 とはいえ、まわりから見れば不審な感じもあるかもしれない。

「ヒメちゃん、ちょっと手つなごうか?」

 そう言うと、ヒメちゃんは頷いて、すぐに私の手をとった。

 心臓が飛び出るかと思った。


 とりあえず百貨店に入る。

 まずは靴屋。若い子の流行りもわからないし、ヒメちゃんの好みもわからない。

「スニーカー一個買おうか。歩きやすくてかわいいやつ。そんで、もう一個は姫ちゃんが選んで」

 姫ちゃんがまた〈いえいえ〉をやっている。

「も、それなし。うちの言うこと聞きなさい」

 〈はい〉

 親指を立てた。だんだん豪快になっている。意思疎通はできる、しかして、これはちょっと周りからどんな感じやろ?

「それがええん? なら試着し。サイズは靴によってちゃうから、いくつか履いたほうがいい」

 そんなこんなで、私が選んだスニーカーと、ヒメちゃんが選んだサンダルを買う。

「お母さんと買い物ですか」

 ヒメちゃんがレジに持って行くとそう言われた。ヒメちゃんがこっちを振り向く。

「そうそう、夏物買いに来たんです」

「いいですねー」


「よっしゃ。じゃあヒメちゃん、この調子で服買いに行くで。あ、下着も買わないかん。あと、あれか化粧品とか、バッグもいるな。目薬とかいる? お菓子とかも買うとくか。あ、スマホも買っとくか」

 〈いやいやいやいやいやいやいややいやいやいやいやいやいやいややい……〉

 4時間くらい使って、かつてない量の買い物をした。

 帰りはタクシーを使った。大通りのいちばん近いところで降りて、店に向かう。

 荷物が重い。だが、ここからは数分だ。

 店の前に警察官がふたりいる。


 しまった。

 ヒメちゃんがあからさまに怯えて、しゃがみ込んでしまう。

 どうしよう。

 一旦荷物を下ろして、ヒメちゃんの肩を支えて具合をうかがう。

 すると、警察官がこちらにやってくる。

「どうされましたか、大丈夫ですかー?」

 そう言いながら近づいてくる。

 どうしよう。どうしよう。

 すると、警察官の背後から声がする。

「おまわりさーん。おまわりさんっ!」

 警官が振り向くと黒いタンクトップを着た若い女性がいた。

「ちょっと助けて欲しいっす。あっちの道の奥で喧嘩してるっす」

「どこですか?」

「こっちっす。着いてきてください! 早く早く!」

「私たちは大丈夫です」

 警官がこちらをふと見たので即座に言った。

 女性が駆け出すと、警官二人は走ってついていった。

 ヒメちゃんの動揺がここまでとは。申し訳ないことをしてしまった。


「なんだ。チアキ。この大荷物は」

 聞き慣れた声がして見ると、ジュンだった。

 ジュンは荷物をすべて手にして持ち上げた。

「早く店に戻ろう」

「うん……」


 店には「CLOSE」のプレートを出してある。なぜうちの前で止まっていたのだろう。

 定期巡回でたまに立ち寄ることはあるものの、あの警察官の顔には見覚えがない。

 ジュンとともに店に入ると、鍵を閉めた。

「いやー、それにしてもずいぶん買ったな」

「ごめん。ごめんなさい。ちょっとうかつだったわ」

 私はひどく反省して、深く頭を下げた。

 ヒメちゃんが前に出てきて、ジュンの前で〈いやいや〉をする。

「なんで、謝んのさ。ヒメちゃん手ぶらだったし、そりゃ入用のものもあったろ」

「うちだけで行けば良かった」

「まあまあ、お前が気にしてどーすんだよ。つーかお菓子多くね?」

 ジュンは荷物を覗き込む。

「昨日の取材を報告しにきたんだ。わかったことと、わかんなかったことがある。片付けたら、お菓子でも食べながら聞いてくれよ」

「わかった。ヒメちゃん。着替えておいでよ。コーヒー……じゃない、レモンティー淹れておくから」

 ヒメちゃんは紙バックを一つ持って上に上がっていった。


「打ち解けるの早いなー」

 ジュンが言う。

「ほんとに、いい子」

「まるで親子だ」

「やめてよ」

「お前にも子どもいたんだよな」

「出た。アンタ本当にデリカシーないよね」

「オカンの胎内に忘れてきたんだ」

「ちっ、いまからでも育てろや」

「はははは。無理かなー」

 しばらくすると、ヒメちゃんが降りてきた。

 水色のワンピースにかかとまであるサンダル。

「いやー、夏らしいねー。似合っているよ。え? これチアキが選んだの?」

 ヒメちゃんは親指をビシっと立てる。

「え?」

「そうだって言ってんのよ」 

「あ、そうなの? そっかそっか」

 飲み物を淹れてから、全員席につく。

「それで、何かわかったの?」

「ああ、やっぱりヒメちゃんのお爺さん、真崎征四郎は亡くなっているとみて間違いないだろう。そして、亡くなる数日前から道源組という八坂組系列のヤクザがお爺さんの屋敷に入り込んでいた。そいつらがお爺さんの死を伏せて何かをしているらしい。ここまでは昨日までにわかっていたことだ。行方不明の弁護士――「宇治」さんも道源組となにかあったかもしれない。それからわかったのは、武州組という八坂系列じゃない組が道源組に手を貸しているようだ。数年前からこの街に出張ってシノギをしている。なんでも元々は関東のヤクザだったらしい。こっちで縁のあった老舗ヤクザのナワバリと構成員を吸収して、事実上継承しているようだ。で、おそらくヒメちゃんを追っかけていたのは、その武州組。道源組からの指示がなけりゃ、あんなに早くは動けない。まあ、急ぎすぎてお粗末だったようだが」

「ヤクザはヒメちゃん捕まえてどないするつもりやったん?」

「まあ、遺産放棄させるために軟禁でもして脅すつもりなんだろうな。普通に考えて。だけど、真崎征四郎の資産は調べたんだが、それほどない。政治資金やら各団体に寄付をしてばかりで、残された資産はほとんどないようなんだ」

「ならなんで?」

「それはまだわかっていない。ただ、こんなことまでして狙う価値はあるんだろう。そしてオレにも突き止められなかったが、もし隠し財産のようなものがあったとして……弁護士も知らないようだと……」

「ヒメちゃんが?」

 〈いやいや!〉

「知らないよな。でも、知らないうちに知らされている、または〈託されている〉という可能性はある」

「なんでそんなことするのよ! 大事な家族でしょ! そんな、危険に晒すようなこと!」

「落ち着け、チアキ。まだ推測の話だ」

「もう、ほんとやめて」

「ふふっ」

「何がおかしいん」

「まあ、それも置いといて。もうひとつ。オレは最近、御柱会を調べていた。有名な宗教団体だ」

「CMでよう見るやつやな」

「そう。政治にも入り込んでいるが、オレが調べてたのは末端のほうでね。とくに警察。相当入り込んでいるらしい。幹部にも、そのへんのおまわりさんにも」

 ヒメちゃんが口をふさぐ。

「いや、まあ別にどんな宗教に入っててもいいんだ。御柱会は別にカルトな集団ではないしね。いいことも言うし、悪い奴もいるし、まあそれなりにフツーさ。ただ、警察にいる連中は、近年どんどん勢力を伸ばしていて、ちょっと一線越えるんじゃないかという危惧がある。権力ってそういうもんだからな」

「それで?」

「どうやらその御柱系の警察ネットワークもヒメちゃんを狙っているということだ。警察の職務を逸脱してね」

「なんでよ」

「まだわからない。ただ、道源組とは同じ目的であり、競合ライバルの関係にあるんじゃないかと思う」

「なら、ヒメちゃんはヤクザと、警察のヤバイやつらと二つの組織に狙われているの?」

「そういうことになりそうなんだ」

「どうすればいいのよ……」

「オレにもうちょっと時間をくれないかな?」

 ジュンはヒメちゃんに語りかける。

 ヒメは明らかにとまどってはいたが、頷いた。

「よしっ、じゃあ、しばらくここに住んで。あーあと買い物はしばらく控えたほうがいいかな」

「うるさいわね。わかったわよ」

「要るものあったら言ってくれ。オレが買ってくるよ」

「ていうか、店どうすりゃいいの?」

「夏休みってことで」

「ジュンが売り上げ補填してくれんなのなら」

「わかった。オレもここで飲み食いするから」

「あんたひとりじゃ足らないよ」


 その時、ドアを叩く音がする。

「すもませーん」

 声がする。ガラス越しに見える人影はひとりじゃない。 

「なんで、クローズにしてあるのに!」 

 小声で言う。

「ヒメちゃんは上に上がって。チアキ、とりあえず出ろ。一か月くらい夏休みにするって言え。オレはトイレに隠れている」

「ちょっ!……」

 仕方ない。カウンターを離れて、エントランスに向かう。

 扉を開ける。いちおうドアチェーンがある。ふつう、店にはないものだが、念のためにつけてあった。

「ちょと、営業中じゃないのよ。わかんないの!?」

 苛立ちをそのままぶつける。 

 見えたのは三人。黒いスーツの男が前面にいる。いかにもヤクザだ。その背後に二人いる。ひとりは……ホームレス? いかにもホームレスだ。もうひとりは……いかにもそのへんにいるニーチャンだ。こーわっ!なにこの組み合わせ。おかしくない? もっとわかりやすくあってくれよ!

「すまない。どうしてもここに来たくて」

「は!?」

「なんつーかさ。いろいろ捜し物があって、それがここにあるっていうか……」

「は!?何言ってんの?」

「おい、ヤクザ風! そんな聞き方をしたら怪しすぎるぞ!」

 いかにもホームレス が、いかにもヤクザに言う。

「う、うるせーよ。あ、ごめん。あのさ、俺たちが捜している人がここにいるって、こいつの友達が……」

 そう言って、いかにもそのへんにいるニーチャンを指差す。

「おーいっ、なんかおれにフルのやめてくんない!?」

「だってなんて言えばいいんだよっ!」

 なんの。こいつら、バカなの?

「間に合ってます」

 ドアを閉めようとしたら、いかにもヤクザが手を入れてきた。勢いよく挟んでしまう。

「なあぁぁぁぁ!!」

「あ、ごめん。いや、ごめんちゃうわ。手ェどけろや」

「待って待って話聞いて!!」

「いらんゆうてるやろ!」

 すると、いかにもホームレスが前に出た。

「店主よ。私たちは怪しい」

「あ゛ぁ゛ん?」

「だが、やっていることは真っ当なのだ。人助けだと思っている」

「何言うてんねんゴルア!」

「まあ、そんなゴリラみたいな声出さないで」

「なんじゃとボケェ!!」

「おいおい、あんまりやってると人があつまってくるぞ。すみません、おねぇさん。おれたち、アユカワヒメってい女の子を捜しています。こちらに立ち寄ったって聞いてて、もしかしたらとうかがったんですが」

 ニーチャンが言う。

「知らんわ、帰れ、ヤクザ!」

「俺はカタギだ! だがオジキの元にヒメちゃんを送り届けないと、大変なことになるんだ」

「おい、もうアンタ口出すな!」

「ヒメちゃんを向田のオジキの元に届けなきゃならないんだ!」

「うっさい!」

 そのとき、後ろの階段から、ドタドタと足音が聞こえた。

「ヒメちゃん、なんでっ!?」

「き、君が?」

 ヤクザが茫としている。

 その瞬間、玄関ドアを開いて、また勢いよく閉める。

「ぐうわっ!!」

 ヤクザは手をひっこめてうずくまる。

 それでドアは閉まった。

 トイレからジュンが出てくる。

「どういうことだ?」

 ヒメがメモ帳にすばやく文字を書いた。


 〈向田のおじさんはよく知っています。お祖父様のお友達です。東京でも何度か会っています。困ったら助けてくれます〉


「うーん。そうか。なら、ちょっとオレが話してくる」

 ジュンが言って、ドアチェーンを外して表に出た。

「ちょっと」

 私は言ったが、とりあえず鍵をかけ直して、ヒメちゃんのところに向かう。

「信用していいの?」

 〈わからないです。向田のおじさんはヤクザじゃないと思います〉

「じゃあ、本当に迎えにきた人? そのわりに胡散臭さがひどいんだけど」

 ヒメちゃんは親指を立てる。

 場面によっては違うのにしたほうがいいかな。うん。


 30分ほど経って、ジュンが戻ってきた。なぜか、いかにもヤクザといかにもホームレスといかにもニーチャンと。

「うそでしょ」

「とりあえず、どっちでもないのは確認できた。少し落ち着いて話をしたい」

 三バカトリオが店に入ってくる。

「ここは店だから、とりあえず何か注文してくれ」

 ジュンが言う。

「わかった。このメロクソってなんだ?」

 いかにもホームレスが言う。

「写真があるし、メロンクリームソーダだろ。おれはコーヒー、ブレンド、ブラックで」

 いかにもニーチャンが言う。 

「俺は、烏龍茶だ……」

 いかにもヤクザは言いながらずっとヒメを見ている。

 そのヒメはカウンターに入ってきて、全員の様子をうかがっていた。

「やっぱり私は糖分、パフェをいただこう」

「いいよ、好きにしな。どうせおれが払うんだろう」 


 おい、これ、どないすんねん。


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