第68話 糸の町で、ほころびを縫う午後
~修復とつながり、そしてちょっとした手仕事~
七海は、糸の町と呼ばれる小さな集落に足を踏み入れた。
家々の軒先には、色とりどりの布が風に揺れ、町全体がまるで織物のよう。
「……なんか、町全体がふわふわしてる……好きかも」
道端では、年配の職人が布を広げてため息をついていた。
「祭りの旗が破れてしまってね。もう年で、針仕事がつらくて……」
七海は、道具箱をポン。
取り出したのは、自動縫い縫いミシン。見た目は小さな鳥の形をしていて、ちょこちょこ動く。
「これ、ちょっとだけ役に立つかも。旗、縫ってみましょうか?」
職人は驚きつつも、七海に旗を託す。
ミシン鳥が、ちゅんちゅんと鳴きながら、器用に糸を走らせる。
「……かわいい。しかも仕事が早い」
作業の合間、七海は職人から話を聞く。
この旗は、町の織り手たちが代々受け継いできたもの。
少しずつ布を継ぎ足しながら、町の歴史を縫い込んできたという。
「……ほころびって、悪いことじゃないんですね。つなげば、もっと強くなる」
「そうさ。人も布も、ほころびを縫って、つながっていくんだよ」
七海は、湯のみを手に、旗の模様を眺める。
そこには、小さな猫耳の刺繍もあって、思わず笑ってしまった。
「……あの町の子たち、元気かな」
夕方。旗は無事に修復され、町の広場に掲げられる。
住民たちが集まり、静かに拍手を送る。
「ありがとう、旅の人。あなたの手仕事が、町をつないでくれたよ」
七海は、少し照れながら手を振る。
「世界は救えないけど、旗くらいなら縫えますから」
風が吹き、旗がふわりと揺れる。
その布の中に、七海の午後がそっと縫い込まれていた。




