表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/92

第68話 糸の町で、ほころびを縫う午後

~修復とつながり、そしてちょっとした手仕事~

七海は、糸の町と呼ばれる小さな集落に足を踏み入れた。


家々の軒先には、色とりどりの布が風に揺れ、町全体がまるで織物のよう。


「……なんか、町全体がふわふわしてる……好きかも」


道端では、年配の職人が布を広げてため息をついていた。

「祭りの旗が破れてしまってね。もう年で、針仕事がつらくて……」


七海は、道具箱をポン。

取り出したのは、自動縫い縫いミシン。見た目は小さな鳥の形をしていて、ちょこちょこ動く。


「これ、ちょっとだけ役に立つかも。旗、縫ってみましょうか?」

職人は驚きつつも、七海に旗を託す。


ミシン鳥が、ちゅんちゅんと鳴きながら、器用に糸を走らせる。

「……かわいい。しかも仕事が早い」


作業の合間、七海は職人から話を聞く。


この旗は、町の織り手たちが代々受け継いできたもの。

少しずつ布を継ぎ足しながら、町の歴史を縫い込んできたという。


「……ほころびって、悪いことじゃないんですね。つなげば、もっと強くなる」

「そうさ。人も布も、ほころびを縫って、つながっていくんだよ」


七海は、湯のみを手に、旗の模様を眺める。

そこには、小さな猫耳の刺繍もあって、思わず笑ってしまった。


「……あの町の子たち、元気かな」


夕方。旗は無事に修復され、町の広場に掲げられる。

住民たちが集まり、静かに拍手を送る。


「ありがとう、旅の人。あなたの手仕事が、町をつないでくれたよ」


七海は、少し照れながら手を振る。

「世界は救えないけど、旗くらいなら縫えますから」


風が吹き、旗がふわりと揺れる。

その布の中に、七海の午後がそっと縫い込まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ