第52話 海辺の扉とおじいちゃん
~潮風と謎解きのスローライフ~
七海は久しぶりに海辺を散歩していた。
潮の香り、カモメの声、ゆるやかな波――「ああ、平和……」と思ったのも束の間。
砂浜の端に、場違いな“ドア”が立っていた。
「……なんで海の真ん中に扉?」
取っ手もついているし、ちゃんと蝶番まである。
でも、壁も家も何もなく、ポツンと立っているだけ。
「おやおや、嬢ちゃん。そいつは“海辺の扉”じゃよ」
声をかけてきたのは、麦わら帽子をかぶった漁師風のおじいちゃんだった。
シワの奥に笑みを浮かべ、杖をつきながら近づいてくる。
「この扉、昔からここにあるんじゃがな……開けると毎回、中身が違うんじゃ」
七海「えっ、ガチャ扉!?」
おじいちゃん「なんか知らんが、今日は魚屋。昨日はパン屋。先週は……床屋じゃった」
「海辺のドアが床屋!?」と七海は思わずツッコミ。
試しに七海がノブを回すと、キイ……と開いた。
中からふわりと潮風が吹き、そこに広がっていたのは――
「……温泉!?」
青空の下、広大な露天風呂が扉の奥に広がっていた。
湯気まで立ち上っていて、完全にくつろぎ空間。
おじいちゃん「ほれ見い、今日は当たりじゃ」
七海「いや、これ、私の宿と用途かぶってません!?」
“宿は自分専用”と心に決めていた七海だが、目の前の海辺温泉はあまりにも魅力的。
結局その日、村人たちはおじいちゃんに案内されて次々と扉温泉へ。
七海はタオルを抱えて空を仰ぎ、ぼそっと呟いた。
「……世界を救うより、扉の管理人になるほうが大変そう」
おじいちゃんは隣でにっこり笑いながら、静かに相槌を打った。
「そうじゃのう。だが、誰かが見てくれんと、この扉は暴れだすからな」
七海「……え、暴れる!?」
おじいちゃん「ワシ、そろそろ腰がな……あとは任せたぞ、嬢ちゃん」
七海「絶対に嫌ですからね!!!」




