18 再興の兆し
翌日。とうとう運命の日がやってきた。
クロードは緊張を顕にし、朝から落ち着かない。
一方で、女将であり宿屋のオーナーであるマリーは落ち着き払っている。
「女将さん、あまり緊張していない様ですね」
「ええ、クロードとユーキが一生懸命にやってきてくれていたのは知っているから。だからこそ、失敗しないとも確信しているわ。それに…」
「それに?」
「あんなに美味しい料理が受け入れられないはずがないじゃない」
マリーは初めから成功すると信じて疑わなかったようである。クロードも料理の味については彼女と同意見で、料理にさえ失敗しなければ何も問題は無いのだと気が付く。
これまで作ってきた料理に大きな失敗はなかった。気負わず、自然体で調理に臨めば然るべき結果が付いてくる。
それからは、堅かったクロードの表情がいくらか和らいだ。
昼が近くなり、冒険者達がやって来た。その数10名。どうにか募集人数の全員が集まった。
冒険者達は比較的に若い者が多く、依頼による実入りが少ないであろうことから、食費を浮かせる目的がありありと分かってしまう。そんな者達の中に、一人見知った顔がいるのは予想外ではあった。
「ミーシャさんも受けたんですか?」
「いや、ほら…。だって、ここの料理が美味いから…」
「…まあ、ここの料理の味を広めてくれるんだったら何も問題はないから良いよ」
何とも罰の悪そうな顔をしていたが、勇気の言葉を受けて「もちろん!」と嬉しそうな顔をしたのには苦笑を隠せなかった。
昨日は修行もそこそこに、ギルドに仕事の受注をしに行ったらしい。
無名の宿屋の料理には期待していなかったらしい若手冒険者達は、そのやりとりを聞き、色めき立つ。食費が浮けばそれで良いと考えていたが、美味ければそれにこしたことはないのだ。
(しかし、若手か…。料理の評判を口コミで広げてもらえれば御の字、リピーターになってくれれば尚良しって感じだなぁ)
現状、金を節約する為にここに来ている冒険者達に、頻繁に通ってもらえるかは非常に怪しい。ならば口コミをと考えるが、そればかりは直ぐに結果が出るわけではない。いずれにしろ、長い目で見ていくほかない。
そこまで思案したところで、正午を告げる鐘の音が鳴った。全ての鐘の音が鳴り終わるのを待ち、マリーが冒険者達の前へと一歩踏み出る。
「本日は当宿の依頼をお引き受け頂き、ありがとうございます。皆さんには当宿の料理を試食して頂き、その感想を教えてもらうことになります。よろしいですね?」
冒険者達からは、問題ないと声が上がる。それを確認すると、マリーはユーキとエミリアに目配せをする。2人は配膳を行うため、一度厨房 へと引っ込んだ。
その後、クロード共々、各々の手に完成した料理を持って現れた。一度で全ての配膳は終わらず、何度か厨房へと戻って行くことになるが、それも直に終わった。
冒険者達の目の前には、小皿に取り分けられた料理の数々と、平皿に盛られたご飯が並べられていた。
「並べられた料理のうち、指定した料理を順番に食べて行き、その料理の感想を述べて下さい。それでは試食を開始します」
こうして、冒険者対象の試食会が始まった。
夜の遅い時間帯、春の草花亭では、ささやかな慰労会が開かれていた。それというのも、試食会は大成功に終わったからだ。
試食会では、鶏の唐揚げ、豚の生姜焼き、煮物、ハンバーグ、八宝菜と、実に様々な料理を振る舞った。足りない調味料はもちろん創造した。
食べ合わせは考慮されていないため、とんでもないメニューとなっているが、冒険者達には関係がなかったらしい。仕事柄、肉類を好むのではと考えて肉の比重を多めにしたのだが、それも功を奏する結果となったようだ。
煮物、八宝菜をメニューに組み込んだのも、野菜が多く入った料理は冒険者達に受け入れられるのか、その調査が目的であった。
それも杞憂に終わった結果となったのは言うまでもない。
とりあえず、美味ければ問題がないことが判明した。
「お疲れ様、クロード」
「お疲れ様でした、クロードさん」
「お疲れ、クロード」
クロードに労いの言葉をそれぞれかけていく。
試食会の後、春の草花亭に泊まれば、晩ご飯にまた美味い料理が食べられることを勇気が告げた途端、冒険者達は全員が宿の予約をとり、依頼完了の報告をギルドにするのもそこそこに今まで使っていた宿屋を引き払って来たのだった。
ミーシャを除いて9名もの客が一度に来たものだから、足りない材料の買出しに調理にと、クロードは大わらわだったのだ。もちろん、勇気も手伝ってはいるが、これもクロードの料理の特訓の一環である。
そのため、慰労会での料理は勇気が作成したハンバーグが並んでいる。因みにミーシャも宿泊客であり、その他の冒険者と同じメニューの晩ご飯を既に食べ終えているので、ここにはいない。
「ありがとう、みんな」
普段は開けないワインなんかも、今日は開けて飲んでいる。
「しかし、『美味い!』しか感想を言わないのには困ったな」
「まあ、素直な感想だとしたら、これほど信頼に足るものはないと思うけどね」
冒険者達は食べる料理全て「美味い!」としか言わなかったのだ。味に関する細かい意見も聞きたかったクロードは残念そうだが、本業とはおよそ関わりのない食レポなどを冒険者達に期待するのは、酷というものだろう。
「そうですよ。その証拠にみんなウチに泊まってくれたんですから」
「そうね。まさか晩ご飯食べたさに、わざわざ宿を変えるとは思わなかったもの。クロードのお陰よ」
「いえ、僕なんかはまだまだです」
マリーに感謝の意を示され嬉しそうにするも、謙虚にそう答える。
「それに、今回の成功はユーキのレシピがなければ成り立たないものでした」
「そうね…。むしろ今回の一番の功労者はユーキさんだったわね。ごめんなさい、お礼が遅くなってしまって。どうもありがとう」
そうお礼を告げ、マリーは深く頭を下げる。
「どういたしまして。少しでも役に立てたのなら良かったよ」
「少しだなんて、そんなことはないですよ」
「かな?まあ、まだ完全に宿が落ち着いたわけじゃないから、そんなに感謝することでもないよ」
「確かに、まだ安心するには早いか。いつも部屋が埋まるとは考えられないし…」
「先の心配をしても仕方がないわ。ひとまず、今日の成功を祝って食事を頂きましょう。冷めないうちにね」
まだまだ心配の種は尽きそうにないが、空腹だったこともあり、みんなマリーの勧めに従って食事を再開したのだった。
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20141201誤記修正
正:今日の成功を祝って
誤:今日の成功を祈って




