17 冒険者ギルドで依頼しよう
更に三日が経ち、冒険者へ料理を振る舞うのを翌日に控えた。
これまでと日常に特に変化はなく、仕事、料理、特訓といった日々を過ごした。
勇気は今日も仕事を終え、クロードに料理を教えて、エミリアとは魔法特訓を、ミーシャとは模擬戦を行った。
先日の特訓以来、勇気はミーシャと模擬戦を行うことになったが、彼女の攻撃は擦ることもない。もちろん、彼女は決して弱くはないのだが、勇気の謎殺法の前では霞んでしまう。
今も、その事について愚痴られていたばかりだ。
「何で腕が八本に増えたりするんだ。おかしいだろ」
「練習の成果かな」
「そんなんで腕が増えてたまるか! しかも明らかに手を抜いてるときたもんだ。自信無くすよ…」
「いやいや、ミーシャは強いから自信持ちなって」
慰めの言葉を掛けるも、半眼になって睨み返されてしまう。
「しかし、ユーキさんほど強い方に勝てる人っているんでしょうか?」
何気無く口からついて出たその疑問に、ミーシャも同じことを考えたらしく頷く。
ミーシャはエミリアからのまた聞きであったが、盗賊団を拘束するまでの話を聞いて、その異常さを理解していた。上空から無数の剣が降り注ぐ魔法なんていうものは、この世界の魔法では聞いたことがなかったのだ。それを自在に操れるのだとしたら、脅威以外の何物でもない。しかも、まだまだ隠している魔法はあり、エミリアの魔法特訓を見てわかる通り魔力量には際限がないときた。加えて、出鱈目な身体能力と謎の剣技である。
この戦力は国の騎士団一個大隊か、それ以上でないときかないのではないのだろうか、ミーシャはそう予想した。少なくとも、個人でどうにかなるような相手ではないとも。
「二度と戦いたくない奴ならいるなぁ」
「え、いるのかい?」
「ああ。そいつ、魔法効かないんだよね」
「…そんなことが有り得るんですか?」
「うん。時間停止の魔法使って動きを止めたと思ったんだけどさ、そしたら相手動いてるんだよ。あの時はすげービックリした」
「…待て待て。私からしたら、その時間を停止する魔法があること自体にビックリなんだが」
「私もです…」
一個大隊以上であることが確定した、そのように彼女は自らの認識を新たにする。
「あー、普通はないか。まあ、それは良いとして」
「全然良くないけどな…。続けてくれ」
「んで、魔法が効かないとなったら接近戦になるわけだけど、そいつの剣技というか武器も超ヤバかった。オリハルコン製の剣が豆腐のようにスパスパ切れるんだ。防御が出来ないから躱すしかない」
ミーシャは改めて自らの腰に提げているサーベルを思い返す。こんな業物をあの食べ物のように斬るなんてと、空恐ろしくなった。因みに、勇気が創りだした豆腐を先日食べたため、その存在は知っている。それ以来、冷奴はミーシャの新たな好物となった。擦りおろした生姜と刻んだネギは欠かせない。
「…何だか頭痛くなってきました」
「私もだ…。一つ聞きたいんだが、そいつは倒したのかい? もう危険はないんだよな?」
「最終的には和解したよ。同郷の人間だったし」
「はぁ、ユーキさんの故郷の人って、みんなそんな感じなんですか?」
「いやいや、おかしいのはそいつだけだよ」
「あんたも十分おかしいよ」
そんなツッコミを受け、それもそうかと素直に頷くと、立ち上がり腕を伸ばして身体をほぐす。
「ギルドに行くんですか?」
「ああ。エミリアも来る?」
「ええ」
何度か買出しに行った際にギルドの位置を確認していたため、勇気1人で行くのは何も問題はない。しかし、この世界のギルドに行くのは初めてなので、エミリアが付いて来てくれるのは助かっていた。
2人は連れだって冒険者ギルドへと向かい、その背を見送ったミーシャは修行を再開した。
ギルドは奇しくも街の中央広場にあり、件のホテルと程近い場所にある。
相変わらずの盛況ぶりを横目に見ながら、剣と槍が交差する絵が彫られた、一目でそれであると分かる看板が掲げられたドアの前で立ち止まる。その建物は、八つの宿泊部屋を有する春の草花亭よりも大きかった。
「さて、入るか」
「はい」
誰に言うでもなく呟いた言葉にエミリアは反応を返す。
勇気はドアの取っ手に手をかけ引くと、その中が明らかになった。
入って右手側は酒場となっており、夕方にもなっていないのに既に客がちらほら見かけられた。
入って正面にはカウンターがあり、依頼の発注、受注、登録はそこで行うのだろう。
左手には紙が大量に貼り出された大きな掲示板があり、冒険者が何人か依頼を物色していた。紙を取り、カウンターに向かう者もいる。
「どこの世界も、この手のギルドはあまり変わらないな」
「そうなんですか?」
「ああ、掲示板から依頼書を取ってカウンターで受注するって流れとか、これまで見て来た世界とまんま同じ。これが合理的なのかもね」
そんなことを話しながら2人はカウンターへと近づくと、何やら作業中だったギルドの受付嬢がそれに気が付き、応対のために2人に向き直る。
「こんにちは、ご用件はなんでしょうか?」
「依頼を出したいんだけど、どのようにすればいいかな?」
「ご依頼ですと、こちらの用紙にご依頼者のお名前や依頼内容等を記入して頂くことになります」
そう言われ、勇気は字を書けないことに今更ながら気付く。召喚魔法の影響なのだろう、話す言葉や字は理解が出来る様にはなっているが、こればかりは知識がないとどうにもならない。真面目に字を覚えたのは、初めて召喚された時だけだ。
そんな勇気の沈黙を見て、受付嬢は助け舟を出す。
「代筆も承っておりますので、お気軽にお申し付け下さい」
「私、字を書けますよ」
「じゃあ頼んだ」
代筆があるあたりからも分かるとおり、この世界での識字率はそう高くない。字は読めても書けない人間も多い。エミリアが字を書けるのは、魔法学校に通うために必要なことだからだ。
羽ペンを手に取り、インク壺のインクに浸して各項目を埋めていく。
「依頼者はマリー、依頼内容は料理の試食、日時は明日の正午、場所は商業区ペンネ通り13番の春の草花亭。…ユーキさん、報酬はどうしますか?」
「そうだなぁ…。すみません、試食に出す料理が報酬ってのはダメですか?」
お金は掛からないに越したことはない。食材に掛かる費用と冒険者に払う費用、両方払うのは流石に痛い。
「その様な前例を私は知りませんので、確認をとって参ります」
そう言って一礼すると、受付嬢はカウンター奥の部屋へと向かって行った。今の内にと、エミリアは書ける項目に記入を続ける。
「経験問わず、募集人数は10名…と」
最後まで書ききったところで、先程の受付嬢が戻って来た。再び一礼する受付嬢。
「お待たせ致しました。前例は無いようですが、今回の依頼内容を鑑みて問題は無いと判断されました」
「おお、よかった」
報酬欄に試食に出す料理と記入し、受付嬢へと依頼書を渡す。受付嬢は記載内容に不備がないかを確認した。
「はい、ではこちらの内容で依頼を受理しました。今回は依頼の特殊性から、ギルドランクを問わないものとします」
「よろしくお願いします」
依頼は無事に受理され、後は当日を待つだけになった。後はクロード次第である。
2人はギルドを後にした。




