16 いつの間にか弟子3人
クロードの料理の特訓が始まってから早三日。流石、長年料理をしているだけあって、飲み込みが早かった。とは言っても余裕のない宿屋であるから、特訓とはいえ、毎食分の調理で必要な分だけ作ることしかできない。一回一回を本気で取り組んでいる。
勇気は和食から教えていった。
まずは出汁とは何ぞやから始まったが、彼の理解は早かった。素材から出る旨味のことだと伝えると、心当たりがあるらしく、納得したようだった。
出汁を教えた後は味噌汁から始まり、おひたしや卵焼き、煮物、米を炊くといった具合に、一つずつ丁寧に教え、出来ることを増やしていく。
始めのうち、見たこともない調味料に興味津々だったようで、どのようにして作られた調味料なのかと聞かれたりもしたが、特に詳しいわけでもない勇気には答えられなかった。何となく、で作れてしまう創造の魔法の利便性は計り知れない。
この世界に居ることさえできれば、食べるに困らないどころか何だってできてしまうが、勇気にあまり目立つつもりはない。目立ってしまえば権力者からの干渉は避けられないからだ。その辺りは、やはり過去何度もあった異世界での様々な経験から来るものである。
ある異世界に召喚された際のこと、用済みになったからと暗殺者を差し向けられ、彼の寝首を掻こうとした王や貴族がいた。当然、利用するだけ利用して、邪魔になったからと殺されそうになった勇気は激怒した。そこいらの暗殺者では擦り傷一つ付けられもしないのだが。
彼は城に住まう全員を城外に転移させると、城を叩き潰して瓦礫の山へと変えた。また、関連すると思われる貴族の館も潰して回り、再利用できなくなる位深いクレーターを作り出した。家財も、金貨や銀貨の類も残らないように消滅させた。
そんな瓦礫の山へと姿を変えた城を見て茫然自失となった王族や、他の貴族の館を潰される光景を見た貴族達は戦々恐々とし、館を潰されそうになるややめてくれと泣き喚く貴族達がとても印象的だった。
折角、召喚に応じて助けに来てくれた、恩人である勇気の不興を買ったと見た庶民は、そんな王族達を見限ったのだが、そんなことお構いないとばかりに、勇気はさっさと用事を済ませて地球に戻ったのである。
そんなこんなで、権力者にはあまり良い印象を持っていないこともあり、過度に目立つことを避けている。が、これから珍しい料理で宿屋を再興させようとするのだ。目立つことは間違いないが、それについては考えが及んでいない。詰めが甘いと言われても仕方が無いだろうが、短期間とはいえ世話になった人達への恩返しでもあるから、そこは勇気の人柄だと言うべきか。
そんな宿屋への恩返しを行うべく、今はクロードの料理の特訓中。従業員の昼食の準備の真っ最中で天ぷらを揚げようとしていた。
タネのサツマイモ、玉ねぎ、紫蘇の葉、シイタケ等、材料は必要分切り終わったところだ。衣をつけて、いざ揚げるかとなった時、マリーが厨房の様子を見にきたのだった。
「2人とも、調子はどうかしら?」
「クロードはやっぱり筋がいいよ。教えたこと、どんどん自分のものにしていってる」
「宿屋の運命が掛かってるからな、必死にもなるさ。…もう少しで出来上がりますので、女将さんは食堂で待っててください」
「わかったわ」
その時であった。神の加護やら何やらで、異常に鋭くなった勇気の第六感が唸りを上げたのは。マリーが厨房を出て行き、十分距離が離れたところを見計らって、クロードに質問を投げ掛けた。
「クロード、お前ってマリーさんのこと好きだろ?」
その言葉に返事はすることはなかったが、代わりに物凄い勢いで勇気に振り向くクロードだった。
冷静な対応をとっていれば、あるいは誤魔化せたかもしれないが、それはあからさま過ぎて図星であることを如実に表していた。
「ほほう、そうかそうか」
勇気の茶化す様ないやらしい微笑みに対し、バツが悪そうに正面へと顔を向き直すが、居直ることはなく素直に、そして真剣さを持って答えた。
「…ああ、僕は女将さんが好きだ。だから、何としてでも、この宿屋を立て直したい。女将さんの役に立ちたいんだ」
「うん」
「…だけど、僕の料理の腕ではどうにもできなかった。そんな所に、異世界の料理が作れる君が現れた。これで宿屋は立て直せるとは思ったけど、自分の手で何とかできなかったのは、ちょっと、いや、かなり悔しかった」
「うん」
勇気はもう茶化す様な事はせず、相槌は短いがしっかりと話を聞く。
「でも、そんな僕に、君はチャンスをくれた。料理まで教えてくれて、君には感謝してる」
素直なこの青年には、相変わらず好感しか持てないと勇気は改めて思う。
「だから、申し訳ないけど、もう少しの間だけ、協力をお願いしたいんだ」
「当たり前だろ。よっしゃ、絶対に良い結果を残そうぜ!」
クロードは顔に照れを浮かべるが、すぐに頷くと、
「ああ!」
と返事をし、料理を再開したのだった。
因みに、クロードが作った天ぷらの出来は、勇気が作った時と同様に好評を得ることができた。美味しいと言って笑うマリーを見て、クロードは嬉しそうに、優しい笑みを浮かべた。
昼食後、買出しを済ませると今度はエミリアとミーシャとの修行だ。
街中で大きな魔法を放つわけにいかず、初級魔法を使って魔力量を増やす修行に徹底している。初級魔法の連射も大概ではあるのだが、もうこの3人の中に細かい事を気にする者はいなかった。
「おらおらおらおら!」
「ひいいいい!」
しかし連射には慣れないようで、相変わらず宿屋の裏手で奇妙な悲鳴を上げることにはなっていた。
初級魔法を使い終わると、エーテルを体内に取り込み魔力への変換する練習に移った。
どうやら、魔力への変換が下手で、魔法の使用回数が他者と比べて著しく少ないことがわかった。使用回数が減ることは即ち、魔力量が増加する機会が減るということだ。
落ちこぼれと呼ばれる理由の一つはここにあったらしい。それが判ってからは、特訓の一つに組み込んでいる。魔力の回復速度が上がれば、魔力切れを起こすことも少なくもなるのに繋がる。
その間、ミーシャとの模擬戦を行う。その間というよりか、彼女は朝からゴーレム相手に模擬戦を行っている。模擬戦で軽い怪我を負ったり疲労が出てきても、何処からともなく回復の魔法が飛んで来る為に、ひたすら模擬戦を行うことができる。
それに耐える精神力もさることながら、その集中力も賞賛に値する。相も変わらず、それに気がつく者はここにはいないのだが。
そして、午後はゴーレムの能力の更新を行う。昨日より強くなったミーシャの技術を複写するのだ。それが、ここ数日の流れであった。
「なあ、ユーキ。自分自身と戦うってのも悪くはないんだが、たまには他の奴とも戦いたいんだ」
「あー、同じ相手ってのも、まあ飽きるよなぁ」
実力が伯仲している相手というのは、練習相手には持ってこいだが、新鮮さがないのだろう。ミーシャの気持ちも分からないではないので、
彼女たってのお願いということで、一度、手合わせを行うことにした。勇気としても、全てをゴーレム任せにするのも良くないと思い模擬戦に臨むこととなった。
「よし、じゃあやるか」
「やったね!」
喜びに、つい声を上げてしまう。ミーシャとしても、勇気はまだ得体の知れない存在ではあるので、これを機に剣を通して見定めようともしていた。決して悪い人物ではないことは、とうに分かってはいたみたいだし、純粋に、勇気の剣の腕前を知りたい部分が1番大きいようではある。
瞬時に自分の木刀を創り、ミーシャと互いに距離をとる。
「じゃあ全力で行くよ?」
「もちろんだ。遠慮せずに来てくれ」
「わかった。…行くよ!」
ミーシャは発声と同時に駆け出した。対する勇気は、木刀を両手で構える、正眼の構えをとる。
見たことのない構えにミーシャは一瞬警戒をするも、構わず斬り込むことにした。
「やあぁっ!」
袈裟懸けにするも、勇気はギリギリまで動作しようとしなかった。木刀が触れようかといった瞬間、手応えなく空を斬ることになった。
「なっ!? …!」
嫌な気配を背後から感じ取り、即座に身を投げて地を転がる。先程までいた位置に目をやると、そこには木刀を振り切った体勢の勇気がいた。突っ立っていたままでは、見事に一本取られていた。
「お、これを避けたか」
「何が一体どうなってるんだ…」
「呆けてる時間はないぞ」
「くっ」
単純に超高速で動いただけだが、それを知る由もない。因みに構えについては何となくでとっただけで、意味はなしていない。全ては超人的な身体能力に物を言わせての行動だ。
襲いかかる勇気に対処するために、すぐに起き上がる。勇気の剣戟は鋭く、重い。ミーシャの身体強化を持ってして、受けるのに苦労がいった。完全に防戦となってしまっている。
そんな彼女にトドメとなる一撃を見舞うべく、防御を大きく弾くことで相手の体勢を崩し、その上で右薙を打つ。
(くっ…間に合え!)
体勢を僅かな時間で持ち直し、何とか右胴へと木刀を起こす。が、ここで有り得ない事が起こった。
(馬鹿なっ!?)
つい先程まで、自分の右側に迫っていた木刀が、いつの間にか左側から迫って来ていた。勇気の方は、先程とは鏡合わせのような、真反対の体勢となっている。
ガラ空きだった左胴に木刀が迫り、触れる直前でピタリと止まる。
「俺の勝ち」
そう宣うが、どうにも納得がいかないミーシャなのであった。
閲覧、ブックマーク登録ありがとうございます。
嬉しい限りです。




