14 宿屋再建の試食会
時は日暮れ前。話し合いの後、物は試しと料理を振舞うことになり、勇気は春の草花亭の厨房に立っていた。
(大見得切ったものの、ドヤ顔して作った料理が口に合わなかったら恥ずかしいことこの上ないからな。何品か作ることにしよう)
異世界を渡り歩いて来たとは言うが、多数の異世界で見てきた料理の大概は、地球のどこかの国で見たことがあった料理だったりと、意外と似通っている。
だから、とりあえず地球で作られていた料理でメジャーなものを作成することにした。
ひとまずカセットコンロを創りだした。かまどを使って魔法で火加減を見ることも可能だが、慣れないことをすると失敗しかねない。
こうなると分かってて自費(盗賊の首領から奪った金)で買った食材を調理台にならべ、必要となる調味料も創る。可能な限り、この世界で入手できる物だけで調理するつもりだったが、そこまで逸脱する物ではないだろうと判断した。地球と酷似した材料は多数ある。そのうち作られる調味料はあるだろうと考えて。
とにかく、これで準備は整った。
「さて、始めっか」
口に出すことで気合いを入れ、調理に取り掛かった。定食屋、洋食屋、中華料理店等の調理アルバイトが、まさかこんな所で役立つことになるとはと、思わず考えつつも。
たっぷり一刻、およそ2時間掛けて調理は完了した。足りない調理器具の創造やら何やら、不備はたくさんあった。久し振りのことだったので、手間取っていたのも事実だ。魔法の補助があったればこそ、ここまで素早く仕上がった。
完成品の数々をテーブルへと並べていく。
「本当に初めて見る料理だな」
「美味しそうな匂いですね」
「見た目も悪くないわね」
「なあ、早く食べないか?」
並べられた料理を見て、皆が思い思いの感想を述べていく中、修行を終えて腹ペコのミーシャが待ちきれないと文句言う。因みに、ミーシャには事情を話し、今回の試食会に参加して協力してもらうことにしたのだ。
それを見て苦笑するも、待たせる理由は確かにないため、食前の挨拶を行うことにした。
「そうだな、早速食べよう。と、その前に、いただきます」
両の手の平を合わせ、日本では馴染みとなっている挨拶を行った。
そういった習慣がないのであろう他の4人は、その挨拶を不思議そうに見ている。
「そう言えば、これまでも食前に同じようなことをしてましたね。何かのお祈りですか?」
これまでは「いただきます」とは言葉に出さずにいたため、敢えて聞かれることはなかったが、いい機会だと思ったのか、エミリアは疑問を口にした。しかし、大凡の予想はついているようだ。
「ああ、お祈りのようなものかな。作物を作る農家、それを実らせる自然、動物の命をいただくことや料理を作ってくれた人等に感謝を表す行為だな」
「へえ、いいわねぇ。それ」
「よし、じゃあ私もやってみるかな。いただきます」
「「いただきます」」
自然と皆で唱和する形となったというか、勇気がさせたと言うべきか。勇気も「いただきます」とは言ったが、今日は料理を提供する側で、春の草花亭の今後を左右する料理の説明をしなければならない、重要な役割がある。
早速、1番目の料理の説明を開始する。
「さて、まずはこの料理から食べてもらいたい」
そう言って、人数分の小皿にある料理を取り分ける。そのある物とは。
「これは天ぷらって料理だ。鶏の卵を溶いたものと小麦粉を混ぜた衣を食材につけて油で揚げた。こっちの天つゆと呼ばれるものに浸してから食べてくれ」
勇気が今回タネとして用いた食材は、サツマイモ、玉ねぎ、ナスによく似た食材だ。事前に味は確認し、そちらも似ていることが分かったためタネとして利用した。
オーソドックスな海老も試してみたかったが、内陸であるために保存や運搬の兼ね合いで、魚介類が市場に出ることは殆どない。あったとしても、保存のために塩漬けにされたものである。今回は仕方なく、野菜の三点盛りとした。
料理名と食べ方を聞いた面々は、それぞれ思い思いの野菜へとフォークを伸ばす。サクッと言う小気味良い音を立てながら、食材へとフォークが突き刺さる。
そして天つゆへ具材をつけ、口に運び一口噛む。すると驚くことに、天つゆが染み込んだにも関わらず、先ほどのようなサクッという音を立てたのだ。噛み切って口に運んだ天ぷらを今度は噛み締めると、またしてもサクッとした食感と共に、衣に染みた、甘くしょっぱい天つゆがじわっと滲み出る。それが、サツマイモのほくほくとした柔らかさと甘さ、玉ねぎに熱が通ったことで感じる独特の甘さと、柔らかさと同時に内在するシャキッとした食感、ナスの柔らかさとジューシーさに、それぞれが非常に良くマッチする。
「こ、これは…!」
「甘くて美味しいですぅ」
「まあ!すごいジューシーね」
「美味い、美味いぞ!」
それぞれがそれぞれの驚きを顔にしつつ、感想を述べる。悪くない反応に、どうやら味については問題はなさそうで、勇気は内心ホッとした。生まれ故郷の料理が認められた気がして、嬉しくもある。
次々と、残る野菜に手をつけていき、あっという間に天ぷらはなくなった。みんな名残惜しく皿を見つめている。それでも可能性にはすがらずにいられないと、ミーシャは尋ねてきた。
「なあ、もうテンプラ、とやらはないのか?」
「ああ、申し訳ないけど今出てたので全部だよ。また今度作るから、次の料理を食べてくれ」
渋々頷くが、一品目が美味しかったことから、その顔には次の料理への期待が表れている。待たせないよう、次の料理の紹介に移ることにする。
「次の料理は餃子だ。これは、好みの野菜等をみじん切りにして挽肉と混ぜた後、小麦粉と塩とお湯で作った皮で包み込んで焼いたものでね。他にも蒸したり、茹でたりといった調理法がある。この調味液を軽くつけて食べてくれ」
正直、食べ合わせとしては天ぷらと餃子は微妙だと思われるが、これらの料理のこと全く知らない4人には関係ない。
醤油を少量垂らした皿を各自に渡す。好みで酢、ラー油を足したり、またはそれぞれ単体で食する方法があることも教える。とりあえずは、シンプルに醤油のみで食べることを勧めた。
「どれどれ、あー…ん。…ん!?」
クロードは驚愕した。噛みちぎることなく餃子を口にしたが、それは正解だったと悟る。口に入れて噛んだところで、皮のなかから肉汁がジュワッと溢れてきたのだ。野菜の旨味が肉汁に溶け出し、その味は正に絶品。さらに噛むと、野菜の食感も口を楽しませてくれる。
「何と言う…何と言う…」
驚きとその味の感動により、只々打ちひしがれていた。そんな状態でも他の3人に、まずは出来れば噛みちぎらない様に食べて見てくれと勧めていたのは流石だった。
予め、勇気は女性陣にも一口で食べやすい大きさで餃子を作っていたため、問題はなさそうだ。
その他の者にも餃子はかなり好評だったようで、皆満足そうな顔をしている。
そして引き続いて、今度は米だ。少しだけ深い皿に盛られており、具が散りばめられている。因みに、この国でも米は作られているようだが勇気の好みには合わなかった。そのため、ジャポニカ米は勇気が魔法で創った。但し、今回の料理に合わせて多少の調整はしている。
その料理とは。
「これはピラフという米料理だ。作り方は、キノコや野菜、魚介類や鶏肉を食べやすい大きさに切った後、軽く炒める。研いだ米をバターと共に炒めて、出汁で炊いた物がこれだ」
これは食べ方の説明をせずとも皆分かる。スプーンを手にすると米と具を掬い、口へと運んだ。
瞬間、口の中にバターの濃厚な風味と魚介がもたらす潮のような香りが鼻を突き抜けた。魚介出汁で炊かれた米はパラッとしており、スプーンで運ばれた米の山は崩れて口の中に散らばる。表面積が増えたことで、より風味が増すことになった。
「これは魚貝の風味!? なぜここのブルーノの街で魚が手に入る!?」
言わずもがな、勇気の魔法であった。米を創った時点で分かることだが、勇気の魔法は食材をも創りだす。正味な話、異世界定住が決まった時点で、魔法があれば衣食住を簡単に整えられるので、就職をしなくても済んでいた。そこは単純に勇気の性格と、安定した職への憧れでスルーされた。
「魔法で創ったんだ。どうせなら、より美味しいものを食べてもらいたいと思ってのことだから、今回は特別だけどね」
そう、今回は勇気が宿屋を救えるほどの、そこそこ美味しくて珍しい料理を知っており、さらにはそれを本当に作れるか、その点が焦点だった。
必要な材料のみで作れる料理を宿屋で提供すればいいのだから、今回は問題はない。前の二品で、勇気の実力を存分に知れたはずだ。
「どうかな? これなら、この宿屋を救える気がしない?」
当初、考えていた味覚の差は思っていたほどなく、すんなりと地球の味は受け入れられた。それに手応えを感じた勇気は、皆に問いかける。
その問いかけに、一同は黙って首を縦に振った。これならいける、そう確信を持った顔で。
お腹空いた?
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