12 魔法の特訓、始めました
ミーシャは右手で木刀を持ち、左足を半歩下げた、半身の状態で構えをとっている。対するミーシャの知識、技術を有するゴーレムも同様の構えだ。
お互いに出方を伺っているのか、動きだそうとしないまま時間が過ぎて行く。ミーシャは、自分ならどう動くのか考えた。
しかし、いくら自分のこととはいえ、どのタイミングでどう動きだすのか、初手の攻撃は何か等、考えてもさっぱり答えはでなかった。
このままでは状況は変わらない。ならばと、こちらから攻めることにした。
(行くぞっ!)
地を踏む足を軽く曲げ、大きい一歩を踏み出す。身体強化によって、初めて可能とする動きだ。
対するゴーレムも、ミーシャの知識や技術を持っているためか、同じタイミングで同様に踏み込んできた。
2歩、3歩と、身体強化で得られた推進力で間合いは一瞬で詰められた。
ミーシャは突進力を上乗せするように左薙を見舞うと、ゴーレムはこれを難なく受け、弾く。
剣撃を弾き作り出した隙を、ゴーレムは刺突でもって攻め立てるが、敢え無く避けられる。
そうやって攻撃を弾き、いなし、躱し、時に攻守が入れ替わりながら、ミーシャはゴーレムの隙、自分の弱点を探り続ける。
(私の弱点…! どこが、何が駄目なんだ…!)
剣を交え続けるが、一向に掴めない。実力が伯仲するどころか全く一緒なので、中々に決着は着きにくい。
しかし、ミーシャは人間。疲れ知らずのゴーレムと長時間打ち合っていれば、言わずと疲労は溜まってくる。いくら身体強化できるといっても、疲労だけは緩和してくれない。
徐々に溜まっていく疲労感が、余計に気ばかりを焦らせる。
実直なまでの太刀筋を、次々と捌いていく。実に真っ直ぐでキレのある剣だと、自分ながらについ思ってしまう。
(真っ直ぐで…そうだ!)
相手の右薙を、後ろに下がることで回避する。ミーシャはできた隙を逃さず、攻撃に転じる。相手の右肩に斬りかかる逆袈裟の態勢に入るが、当然、ゴーレムはこれを受けるために剣で防御の構えをとる。
「掛かった!」
まんまと嵌ったこの状況に、つい声を上げてしまう。逆袈裟の態勢から、かなり無理矢理に左薙に剣を振るう。
今日に至るまで、彼女は実に真っ直ぐな剣を打ち込んできていた。そんな剣を誇りにさえ思っていたし、これまではそれで何とかなっていた。
しかし、このゴーレム、自分の鏡とも言える存在を倒すためには、何かで上回る必要がある。実直な攻撃方法と防御、それを崩すためにとった手段がフェイントだった。
逆袈裟を想定して防御の構えをとっていたゴーレムだったが、辛うじて右脇腹を狙う左薙の剣を受けることに成功する。
「チッ」
自分の剣を受け止められたことに舌打ちをするも、確かな手応えを実感し、ミーシャは口に笑みをたたえた。
何かを掴んだらしい彼女の様子を見て、あれなら大丈夫そうだと、隣に佇むエミリアへと勇気は視線を移した。
エミリアの弟子入りを認めはしたものの、先ほどまでのミーシャと同様に、彼女の指導方針も立っていない。ここだけの話、弟子なんぞをとったのは初めてであるため、何をどうすればいいかもよく分からなかった。
とりあえず、何か妙案が浮かぶかもと、エミリアと会話をしてみることにした。
「あー、エミリア?」
「はい、何でしょう?ユーキさん」
因みに、エミリアもミーシャも弟子入りするにあたって、それなりの言葉遣いや態度をとるべきかと伺いを立ててきていた。例えば、勇気のことを師匠と呼ぶべきか、等だ。それに対して、勇気は普段通りでいいと言ったため、現状の通りとなっている。
伺いを念のため立てたのも、短い付き合いながら彼の性格を知って、断られるのが分かっててやった可能性がある。いきなり言葉遣いが変わったりしたら、勇気も胡乱な目を向けていたであろう。ならば、敢えて聞き出そうと、そういう意図だった。
「エミリアは何で俺なんかの弟子になろうとしたんだ?」
「え〜っと、話さないと駄目、ですか?」
「いや、話したくないなら別にいいけどさ」
「……やっぱりお話しします」
たっぷりの間を開けて、意を決したかのように答えた。その表情は何処と無く恥ずかし気である。
「私が魔法学校に通っていることは知っていますよね?」
「うん、街の入り口で言ってたね」
「…実は私、学校で『落ちこぼれ』と呼ばれてまして」
「…あ〜」
いきなりの自分を下げる発言に、咄嗟の事で言葉が出ず、間の抜けた声を出すことしかできなかった。
勇気のそんな反応は気にも止めず、彼女は話を進める。
「人並みとは言わずとも、何とかそれに近づけるようになりたいと思ってまして。そんな所に魔法のすごい使い手のユーキさんが現れたんですよ」
無詠唱で魔法を次々放つ勇気を思い起こす。常人ではあり得ないような技術と魔法を持っている人物。思えば、あの時に既に、この人物に弟子入りすることを決めていたのかもしれない。
丁度この時、ミーシャは辛くもゴーレムに一本を取っていた。疲労回復のために、勇気は彼女に回復魔法をかけてやると、模擬戦の続きを促した。
「そうか…。そういうことなら、俺にできる限りのことはするよ」
「ありがとうございます」
「まあ、この世界の魔法のことは、まだよくわからないから今度教えてくれると助かるんだけど。エミリアはどんな魔法が使えるんだ?」
「召喚魔法と火、水、土、風魔法の初級を…」
「初級か。初級以上中級未満位の魔法は習ってないの?」
「な、習いましたけど」
「けど?」
「…使えませんでした」
この世界での魔法の難易度や習熟に対する知識がないため、エミリアがどの程度の立ち位置にいるかはわからない。だが、学校側で教えたからには、無理のないカリキュラムが組まれた上でのことだろうし、そこにはやはりエミリアの実力不足があるのだろう。
とにかく物は試しで、魔法を使ってみてもらってから判断しよう、と彼は考えた。
「悪いんだけど、その初級以上中級未満の魔法、使ってみてくれない?」
「え、でも…」
「まあ試しに頼むよ」
「…わかりました」
渋々といった感じで、魔法の準備に入る。使えない魔法をどうして、とも考えるが、今度こそ使えるかも、という期待もエミリアは拭えない。
一歩前に出ると、目を閉じ、深呼吸を2度ほど繰り返して集中力を高める。落ち着いた所で目を開き、両の手を前方に翳す。翳した手から魔力が流れ出ると、その魔力は火へと変換され、やがて火球へと形を整えていく。
「ファイアーボール!」
と唱えるも、前方に滞留していた火の塊は、一瞬強くボッと燃えると消え去ってしまった。
「…また駄目でした」
(魔力の魔法への変換、それと魔法を形作る構成は全く問題がなかった。となると…)
エミリアは落胆を隠せず、肩を落とす一方で、勇気は彼女が魔法に失敗した原因の見当をつけていた。
「なあエミリア、もう一度今の魔法できるか?」
「え? …すみません、今の私の魔力ではとても」
やはり、と思う。エミリアが持つ魔力はかなり少なかったのだ。魔法そのものに必要な魔力量が足りないため、魔法が完成されずに霧散してしまう。
(MPが足りない!ってやつだな)
改めてエミリアの魔力を感じ取ってみると、魔法を使えないはずのミーシャよりかなり劣っていることが分かる。これが『落ちこぼれ』たる所以なのだろう。勇気の場合、自身の魔力量が多過ぎるために注意して感知しないと、その辺の人物の魔力の多寡は小さな誤差程度にしかならないため、今まで気が付かなかった。それと、保有する魔力量で魔法使いになれるかなれないかが決まるわけではないらしいことがわかった。
「因みに、魔法学校に入る前と今で、魔法が使える回数は増えた?」
「そうですね、入学当初はファイアアロー2発が1日の限界でしたけど、今では10発は撃てますよ!」
エミリアは胸を張って言う。魔法を使えば使うほど、魔力量は増えるのだろう。魔力量が少ないがために、増やす効率もすこぶる悪かったはずだ。そこには涙ぐましい努力があったのだろう。だがそんな努力も、この後勇気が行う特訓で些細なことに感じられるようになる。増えた魔力量的な意味で。
「魔法が使えない原因は魔力の量が足りないからだな」
「本当ですか!?」
「ああ、多分な。それじゃ、魔力量を増やす特訓をしよう。…ほれ」
「あ、れ? 魔力が回復してる…」
「ああ、どんどん魔法を撃って、どんどん回復していくぞ。魔法を使えば使うほど、魔力は増えるはずだ」
「わ、わかりました! ファイアアロー! ファイアアロー!」
「…何か効率悪いな。そうだ、ちょっといいか?」
そう言ってエミリアの手をとると、10歩位先に金属でできた鎧の的を創りだす。
「俺がエミリアの身体から魔力を使って撃った方が早いな。いくぞー」
「へ? あ、わわわわわわわ!?」
エミリアの手から機関銃の如く、風の初級魔法『ウインドブロウ』を放つ。何故この魔法かというと、1番周囲への影響が少なさそうだからだ。別世界の魔法だが、この世界でも問題なく発動して連射までできている。魔力は消費した分だけ、即座に勇気から補充されるため、物凄い勢いで前方の的をボコボコにしていった。
なお、人様の魔力を使って魔法を放つという芸当は、そんじょそこらの魔法使いにはできないことだ。魔力を分け与えることも同様である。
「ひいいいいあいいあええぇぇえ」
「あはははは」
エミリアは悲鳴をあげ、勇気は笑いながら魔法を放つ。既に的の原型は留まっておらず、魔法の着弾の余波で砂埃が巻き上がっている。
そんな光景に呆気をとられていたミーシャは「余所見ハ、イケマセン」と、木刀でごつんと叩かれてゴーレムに一本をとられていた。
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20141120
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