10 剣と指輪と
オリハルコン製のサーベルを前にしばし呆けていたミーシャだったが、何とか気を取り直し、勇気へと向き直る。
「私には過ぎた逸品だと思うんだが、本当に受け取ってしまっていいのかい?」
「もちろんだ。そのつもりで創ったんだから。それに、剣に対して実力が伴っていないというなら、いずれ追いつけばいいだけの話さ」
「…ああ、確かにその通りだ。では、有難く頂くとするよ」
「大事にしてくれよ」
「当然そのつもりさ」
剣を受け取ってくれたのを見て、勇気は内心で少し嬉しく思った。サービスとばかりに鞘も創り出してプレゼントする。こちらはオリハルコンではない為軽くはないが、希少な金属を使用しているのでかなり丈夫だ。鞘まで軽いと腰に剣を提げている感覚がないから落ち着かないとミーシャに言われ、わざわざ創り直したのだった。
どうせ創り直すならと鞘に櫛状の凹凸や釵等を取り付け、相手の武器を破壊したり絡め取れるようにしてしまった。
勇気に鞘に付いた櫛状の突起物や釵の役割を聞くと、
「なるほど、戦いの幅が広がるな」
と、妙に感心していたのだった。
そんな2人のやり取りを、エミリアは1人詰まらなさそうに眺めていたものの、やがてはポツリと呟き拗ねた。
「むぅ…。ミーシャさんばかりプレゼントをもらっていてズルいです」
「い、いや、プレゼントって…これはただの詫びの品だろう?」
「ああ、そうだけど」
「……(少しくらい戸惑ってくれたって良いじゃないか)」
自分で言ったはずの言葉だったが、即答でストレートに返されてしまいちょっと落ち込んだミーシャであった。別に勇気に対して特別な想いがあるわけではない。むしろ今日会ったばかりの勇気に何ごとかを想うことはできなかった。しかも、いくら盗賊から助けられたとはいえ、その時は気絶中だったのだ。無理からぬ話である。
「エミリアには仕事を紹介してもらった恩があるから、何かしら渡すつもりではいたんだけどね」
「え、そうなんですか?…すみません」
顎に手を当て、少しの間逡巡する。女性2人も思う所はあったが、勇気が次に何を創り出すのか単純な好奇心から、特に口に出さずにいた。
「よし、決めた。ちょっと手貸して」
「あ、はい」
言われるがままに右手を差し出すと、勇気は手を取り何事かを確認する。そして中指の付け根を人差し指と親指で摘み、くるりと回転させると銀色の指輪が現れた。
「わっ? …指輪、ですね」
エミリアは突如中指に装着された指輪をまじまじと見やる。指輪には何かの模様がぐるりと一周刻み込まれ、模様の始点と終点に挟まれるように小さな宝石が埋め込まれていた。
「ああ、御守り代わりだ。大事に身につけていてくれ」
「ええ、ありがとうございます! 絶対に大切にしますね」
エミリアはその指輪を、もう片方の手で包み込むように胸に抱き、勇気にそう伝えた。
近くにいたミーシャはというと、剣と指輪、この扱いの差は何だと殊更に落ち込んでいた。
「方や指輪で方や剣だと色気も何もない女は剣で充分ということかそうなのか」
「? ミーシャさん、どうかしましたか?」
「いいや! 何でもないよ!」
ブツブツと恨みの言葉を呟いていたが、エミリアは聞き取ることができなかったらしい。勇気はしっかりと聞いていたが、聞こえなかったことにした。
ミーシャはこれまでの自分を省みて、今後はもう少し女らしく振舞おうと、そう決心する。
「これで用事は終わりか?」
「あ、いや、実は別件がメインのつもりだったんだが」
念のため、剣の在り処とはまた別に用件がないかを聞いてみたが正解のようであった。因みにミーシャは、剣が見つからなかった場合は新たに買いなおすつもりでいた。高い買い物になるなと思いつつも。そこでまさか剣を貰えるとは思っていなかったために慌て、まるで剣の在り処がメインであるかのようになってしまっていた。
ミーシャは慌てたように姿勢を正すと、本来の用件を口にした。
「私を弟子にしてもらえないかい?」
「別に良いけど、剣の方でいいんだよな?。仕事の時間以外でなら多少は」
勇気は特に考えるでもなく承諾してしまう。もちろん、剣の方の弟子だろうなと見当はつけていた。それを聞いたミーシャはまたしてもイスを蹴って立ち上がり、テーブルに手をついて勇気へと顔を近づけた。
「本当か!? ありがとう!」
「あれ、でもユーキさんって魔法使いではないんですか?」
「え、それは本当か?」
「ええ、盗賊をやっつけた時は魔法しか使っていなかったので、てっきりそうではないかと思っていたのですが」
2人の視線が勇気へと注がれる。その真偽について話すようにと。
「剣も使えるよ、一応」
そして、そう答えるに留めた。
幾度目かの召喚に応じたまだ魔法に熟達していない時期、剣を片手に魔物の軍勢を相手に無双したことが思い出された。
「やはり! 少しばかり仕事をしている姿を見させてもらったけど、身のこなしが普通ではないと思ったからね」
その発言に勇気は思わず苦笑する。
「はは。まあ、今後ともよろしくな」
「こちらこそ」
改めて2人は握手を交わしたところで、エミリアがおずおずと右手を挙げた。
「あのー」
「どうしたんだい、エミリア?」
「私も弟子してもらえないかなー、なんて」
もちろん、考えるまでもなく勇気はこう答えるのだった。
「ああ、いいよ」
20141219
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