09 お詫びにどうぞ
午前中の仕事がひと段落し昼食を食べた後、そこで初めて勇気とミーシャはお互いに自己紹介をするのであった。
「ミーシャと言う。マリーさんから話は訊かせてもらったよ。盗賊達から助けてくれたそうで、感謝している」
「勇気灰村だ。特技は世界を救うこと。よろしく」
そんな冗談としかとれない発言をミーシャは受け流し、勇気と握手を交わす。
「ミーシャさん、身体の調子はどうですか?」
「いや、特に問題はなさそうだ。強いて言うなら、鎧を着ながら寝たせいか身体が少し強張ってるくらいかな」
「それ位なら治せるぞ」
ミーシャの反応は待たず、勇気は手の平を向ける。手から光が発せられ、彼女な全身を薄っすらとした光が包み込んだ。
「わっ! 何だ!?」
全身を包む光は柔らかく、仄かに温かい。驚きはあったものの、結局は害はないと思わせるそれに身を任せることにした。
「回復魔法なんだけど。具合はどうだ?」
朝、寝起きで痛かった部分を恐る恐る動かしてみるが、痛みは感じられなかった。ついでと肩を回して見たり、腰を捻ってみたりとしてみたが、特に不調は見当たらず、かなり調子が良かった。
「すごいな、痛みがとれたよ。今まで何度も治癒師の治療を受けてきたが、こんなに調子が良いのは初めてだ」
「喜んでもらえて何よりだよ」
「…いいな」
ついさっきまであった身体の強張りと痛みが、光が収まると同時に消え去ったことに素直に感心した。
エミリアは回復魔法を1度体験して心地よさを既に知っているせいか、ミーシャを相当羨んでいた。
「しかしあの盗賊団を倒すとは、あんた、かなりの手練れだね」
「修羅場は数え切れないほど経験したからね」
とは言うものの、修羅場となったのは召喚され始めの数回までで、与えられた能力が多くなるにつれて余裕しか感じられなくなっていた。一般人で言う所の修羅場なら、数え切れないほどの体験はしているが。
「それで、用事はただのお礼だけじゃないんだろう?」
そう、現在のこの状況は、ミーシャがセッティングしたものだった。勇気とエミリアの仕事を中断するのも悪いということで、昼食後のちょっとした休憩時間に会えるよう念のためにマリーに許可をとってのことだ。
それを察した勇気は、ミーシャへと本題を話すように促した。
「ああ、そのことなんだが…。私の剣はどこにあるんだい?」
「ん?」
「いや、鞄は部屋に置いてあったからいいんだが、剣だけ何処にもなくて困ってるんだ」
つい勇気はエミリアへと視線を向けてしまった。
冒険者にとって武器とは商売道具だ。魔物を倒すにしろ、野盗から商人を守るにしろなければならない必要なもので、武器がないと金は稼げない。ある意味では、命の次に大事なものである。
勇気はまさか武器を置いてきたとは知らされずにいたため、特に何も考えずにブルーノまで転移してきてしまっていた。ミーシャの腰に提げてある鞘を見れば分かったことなのだが、就職のことやら何やらで、そこまで気が回っていなかったこともある。全て勇気の責任とは言えないが、全くなかったとも言い切れない。
エミリアについても同様で、当時は勇気への配慮ばかりを優先してしまい、そこまで気を回すことができなかったのだ。そして今の今まで気付かずにおり、気付いた後は申し訳なさそうに顔を俯かせてしまった。
ミーシャは2人の反応を見て、諦めと言うべきか、踏ん切りをつけてしまった。命が助かったのだから、それで良し、と。そもそも、盗賊に襲われた時点で全てを失っていた可能性もあるのだ。
2人の申し訳なさそうな様子を見て苦笑を浮かべた彼女に対して、やはり何となく申し訳なさを勇気は感じてしまっていた。
そしてやるべきことはやらなければ、と思い至る。
「…ちょっと見てくる」
「見てくるって、別に…。えっ?」
突然の勇気の発言にミーシャは戸惑った。歩いて1日かかる様な場所に、仕事がある中を見てくるといったからだ。わざわざそこまでしなくともと思い、引き止めようとした次の瞬間には勇気の姿は消えてしまっていた。
更に驚き戸惑い、テーブルに手をつき立った勢いでイスを倒してしまう。辺りを見回してみても、どこにもその姿は見当たらなかった。
エミリアも急に消えたことには驚いたものの、勇気が空間魔法を扱えるということと直前の発言から、言葉そのもののとおり、盗賊団に襲われた現場に剣を探しに向かったのだと理解した。そして、ミーシャはマリーから全てを聞けたわけではなかったのだと知ることになる。
「ミーシャさん。ユーキさんは空間魔法が扱えるんですよ。恐らく、転移の魔法でミーシャさんの剣を探しに行ったのだと思います」
「そ、そうか」
少々取り乱してしまったことに気恥ずかしい思いをし、イスに腰掛けようとした。が、先ほど立ち上がりかけた際にイスが倒れてしまっていたために尻もちをつきそうになってしまい、更に恥ずかしい思いをした。
この恥ずかしい現場を勇気に見られなくてよかったと安堵したが、勇気の突然の行動の結果でそうなってしまったことには気がつけなかった。
少しして、宿屋の入り口から勇気は戻ってきた。
「ごめん、見つけられなかった。盗賊もみんないなかったし、もしかしたら既に他の人に回収されたのかも」
「そう、か」
エミリアから聞けば、盗賊に襲撃されてから1日しか経っていないということで、もしかしたら見つかるんじゃないかと楽観視していたが、その希望は脆くも崩れ去った。だが。
「それでお詫びってわけじゃないんだけど…」
そう言いながら一振りの剣を創り出し、テーブルの上へと乗せた。
「こ、これは!?」
ミーシャは再び驚き、目を丸くする。抜き身の剣が突然出てきたことに対してもだが、何よりその剣に目を奪われてのことだ。
剣は片刃で少し反った形状をしており、いわゆるサーベルと言われる剣だった。刃を通る不思議な模様の刃紋は、一眼見ただけで業物と判る。鍔は手を守るガードと一体化しており、複雑な模様が細工してある。控え目な装飾ではあるが、剣その物から圧倒的な存在感を感じられる。どころか、微かな光さえ発しており、自らの存在を主張しているようだった。
「こんなものを一体何処で手に入れたんだ!?」
思わず手にとってしまい、その剣のあまりの軽さに絶句する。重さでもって叩き斬る剣にとっては、重さは剣を構成する要素として重要な部分だ。これはもちろん、鎧の上からでもダメージを与えられることが考慮されている。しかしこの剣は、鎧でさえも容易く斬り裂いてしまえそうで、重さというのはただの枷にしかならないと、直感がそう告げてくる。
「…どんな素材で作ればこんな軽さになるんだ」
「オリハルコンで創ったんだけど」
「オリハルコン、だと…!? と言うか待て、今作ったと、そう言ったか?」
この世界において、伝説ともなっている金属、オリハルコン。国が管理している宝剣や聖剣等に使用されている素材で、その製法、加工法などは失伝されていると言われていた。
それをあろうことか、勇気が作ったと言ったのだ。
「ああ、創ったよ。それでさ、前の剣に愛着とかあったのかも知れないけどさ、これで何とか勘弁してくれない?」
「……」
とんでもない奴と知り合いになって、とんでもない物を押し付けられてしまったと、ミーシャはただ呆然とするしかないのだった。
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