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12.異世界で芣婭、はじめての魔法を解禁しました。その名も愛の力で!前編

甘野芣婭 (17歳)


突然現れた狼を見て、シーちゃんとニック、レヴァさんの3人は驚きもせずに、寧ろ顔見知りな反応をする。 


もしかして、3人の知り合いなのかな。


「エリアじゃねーか。お前、ゴブリン討伐に言いってたんじゃなかったのか?」


ニックが呼んだ名前に、芣婭は聞き覚えがあった。


エリアって、ギルベルト君と初めてデートしていた時に、街の人が言ってたような気がするな。


「もしかして、ギルベルト君とパトロール?してるって言う女の子の事?ニック」


「あー、そうそう!エリアは獣人族でさ。今は狼の姿をしてるけど、芣婭ちゃんと同じ歳ぐらいじゃねーかな?」


「え、そうなんだ!今の姿は仮の姿って事?すっごーい!!!異世界っぽい!!!」


「なんなのよ、この女は…」


エリアことエリっちがそう言うと、ボンッと白い煙が立ち込める。


煙が晴れ、現れたのは黒髪白肌のギャルだった。


セミロングの長さのウルフカットにされた黒髪、色白の肌に大きなピンクアッシュの瞳、長い睫毛にサクランボ色の赤い唇、ふわふわな毛並みの耳と尻尾。


大き目のジャケットを羽織り、中はへそ出しのチューブトップにスリットの黒色のタイトのズボン、身長を盛る厚底のブーツを履いていた。


しかも芣婭と同じく、へそピしてるんですけどおぉぉ。


「はぁぁあ…」


エリっちの姿を見て、顔を抑えながら思わず溜息を吐いてしまう。


「芣婭様!?どうされたんですか?気持ち悪いですか!?体調が悪くなられましたか!?」


「シエサ、いつもの事でしょ?獣人族のあたしの事を見て、気味が悪いんでしょ。いつもの事じゃない、あたし達の扱いは」


「エリア!いくらエリアでも、芣婭様の事を悪く言うのは許さないわよ。芣婭様はそこら辺に居る奴等とは違う」

「は?何、この女に毒されたの?あのシエサが?」


その言葉を聞いたシーちゃんが、険しい表情を浮かべたまま腰に下げていた剣を抜こうとする。


芣婭の反応の所為で、2人が今にも喧嘩を始めそうな雰囲気になっていた。


「おい、2人共やめろって!喧嘩なんかすんなよ」


「「お前は黙ってろ、ニックス!!」」


仲裁に入ったニックだったが、シーちゃんとエリっちの2人に怒られてしまう。


「シーちゃん!芣婭がエリっちに失礼な態度を取ったのが悪いの!」


「しかし、芣婭様」


「エリっちがね、可愛くて芣婭の好み過ぎたの」


「え?」


「は?」


芣婭の言葉を聞いたシーちゃんとエリっちの2人の声が重なる。


驚いてるエリっちに近付き、ソッと優しくエリっちの手を握り、芣婭の気持ちを伝えた。


「ごめんね、エリっち。エリっちが気持ち悪くて、溜息を吐いた訳じゃないの。エリっちがね?芣婭の好み過ぎる白ギャルだから、つい溜息を吐いちゃったの。ごめんね?エリっち」


「こ、好みって何なのよっ?い、意味わかないんだけどっ!」


「好みは好みだよ、エリっち。同じ、ギャルとして仲良くしよ!」


「は、はぁ!?ギャルって何なのよ!?わたしは仲良くするつもりなんてっ」


エリっちはそう言うけど、エリっちの尻尾がすごく勢いよく動いている。


自分自身の尻尾の動きを抑えようと手で掴むが、尻尾が言う事を聞かないようだ。


「お前、芣婭様と仲良くなりたくて来たのか?何か、目的があったんじゃないのか」


「そ、そうよ!アンタに用があってここに来たのよ。アンタの血が必要なの」


エリっちの言葉を聞いたケロちゃんとベロちゃんの2人が、いつの間にか人の姿に戻っていて芣婭の前に立つ。


2人は芣婭の血と言うワードを聞きつけ、ベロちゃんがエリっちの胸ぐらを掴み怒鳴りつける。


「テメェ、何の用で芣婭の血を必要としてんだ?あ?芣婭の体を傷付けてまで、血を欲しいってのか!?」


「ちょっと、ベロちゃん!?エリっちに乱暴するのはやめて?お、女の子なんだから」


「芣婭、お前の言う事なら何でも聞いてやるつもりだ」


「だったら…」


「だが、今回は言う事は聞いてやれねぇ」


いつもは芣婭のお願いや言う事を聞いてくれるベロちゃんが、今日は芣婭の言う事は一切聞く気はないようだ。


芣婭の事を守ろうとしてくれているのが、凄く強く伝わってくる。


「そうよ、ギルベルト様が死んじゃうかもしれないのよ!助けれる方法があるなら、何でもしたいじゃない!!!」


「ギルベルト君に何かあったの…?」


「呪いの進行が早まってるの、それも早く。今まで、呪いはゆっくり進行していたのに、今日は呪いの棘が首筋から心臓に伸びて来てる。心臓にまで行っちゃたら、本当にギルベルト様が死んじゃうかもしれないのっ」


エリっちは瞳を潤ませながら、芣婭達にギルベルト君の状況を説明する。


「ミラの医療魔術でも、進行を止められなさそうなのか」


「どうにか心臓に行かないように、スピードを抑えるのが精一杯なの。昨日の夜から、寝ずにギルベルト様の治療にあたってるの」


「状況は分かった、私達だってギルベルト様の事を助けたい。だが、芣婭様の血が必要な理由は何なんだ?」


レヴァさんとエリっちの会話を聞きながら、魔法省でミー君に言われた事を思い出していた。


『芣婭嬢、誰かの傷を治した事がありますか?』


『貴方の血は特別な力を持っています。今はそれ以上は言えませんが、ギルベルト様が戻られてから、改めて話し合いの場を設けます』


ミー君にケロちゃんとベロちゃんの傷を治した事、ギルベルト君に芣婭の血を使って呪いを治せないか聞いた事をミー君に言ったら、こんな風に返されたんだよね。


やっぱり、芣婭の血には何か特別な力があるのかもしれない。


レヴァさん達に説明しようとした時、ケロちゃんに優しく口元を抑えられる。


「ケロちゃん?どうしたの?」


「芣婭、説明したら駄目ですよ」


「え?」


「絶対に駄目です」


ケロちゃんもベロちゃんと同じように、芣婭の言う事を聞いてくれなさそう。


だけど、言う事を聞いてくれないのは芣婭を守る為なのは分かる。


2人が前に出て怒る時は、必ず芣婭の事を守ろうとしてくれる時だから。


「ミラが、あの子の血ならギルベルト様の呪いを治せるかもしれないって」


「「え?」」


エリっちの言葉を聞いたニックとレヴァさんは、凄く驚いた表情を浮かべると同時に、ケロちゃんの足元から影が伸び、エリっちの首元に影の刃が向けられた。


「おい、獣人。お前、芣婭が優しいからって調子に乗らないでくれます?人前で、べらべらと喋りやがって」


感情を表情に出さないケロちゃんだが、今回は違う。


眉間に皺を寄せて、鋭い牙を剝き出しにさせながら怒りを表現していたからだ。


「ケロちゃん…」


「安心して下さい、芣婭。芣婭の事は俺達が護ります」


ケロちゃんとベロちゃんは、どうしてそこまでして芣婭の事を守りたいんのだろう?


芣婭自身じゃなくて、芣婭の血を守りたいだけじゃないの?


「芣婭の血を守る為?でしょ?」


芣婭の言葉を聞いたケロちゃんとベロちゃんが、顔を真っ青にさせながら芣婭の元に駈け寄り弁解を始める。


「俺達が芣婭の血だけが目当てで、側に居ると思ってるのか?違う、それは違うよ芣婭。俺達は、この女みたいに芣婭の血が目的で近付かれる事が嫌なんだ」


「芣婭の魔法が必要なら、俺達も怒りませんよ。芣婭、俺達がちゃんと説明をするべきでした。俺もアイツも、芣婭の世界にいた時、貴方に助けられ貴方の血を舐めて、本来の姿と魔力量が戻った。その力が芣婭の血にあると知られれば、貴方が危険な目に遭うリスクが高くなる」


「ベロちゃんとケロちゃんは、芣婭が危ないかもしれないから、そう思ってくれてたの?え、マジか!そんな事考えてくれてたのに、不貞腐れた芣婭、ちょー最低じゃん!!!」


2人の気持ちを確かめるような事をまた言って、気持ちが聞けて安心してる。


いつだってそう、芣婭に好意を向けてくれる人の気持ちを疑って、ちゃんと証明してほしくて、面倒な事を聞く。


「芣婭、お前の血は魔性の女(エンチャトレス)と言って、魔族の怪我や魔力を治す事が出来る血液なんだ。普通の人間には効果はないが、呪いや古代呪いが掛けられてる人間も魔性の女(エンチャトレス)の力があれば、治せると聞いた事がある。芣婭の事を診ていた医者の男も、芣婭の血が魔性の女(エンチャトレス)だって勘づき、そこの女を寄越したんだろ」


魔性の女(エンチャトレス)!?芣婭様が?魔性の女(エンチャトレス)は伝説上の作り話じゃなかったのか?」


ベロちゃんの話を聞いていたレヴァさんが、目を丸くさせながら言葉を吐く。


「おいレヴァ、その魔性の女(エンチャトレス)って、そんなにすごいの?」


「その血液を持った女性が現れたのは、今から数百年も前の話ですよ。普通の医療魔法では治せないものを、血液魔法で治す事が出来る。魔性の女(エンチャトレス)を持てるのは女性だけ、その血液の持ち主は絶世の美女と呼ばれ、魔族からも人間からも求められてしまうと言われています」


「「絶世の美女…」」


ニックとシーちゃんがそう言いながら、芣婭の方に視線を向けて「あぁ…、確かに」と呟いた。


いやいや、絶世の美女ってなんですか!?


芣婭はメイクをのおかげで可愛くなってるんだから!


すっぴんなんてひどいものよ!?


美女は置いといて、魔法の血を持ってるってなんかカッコイイな。


中二病心をくすぐると言いますか、そういうのすごく好きです!


なんせ、漫画民ですから!!!


「ギルベルト様、意識が朦朧(もうろう)としてる中で、何度も呼んでた。アンタの名前を、大事そうにアンタの瞳の色の魔石を握ってるの。魔石なんか握っていても、痛みも呪いも止められないのに」


「ギルベルト君が?芣婭の名前を?」


「あたしは獣人で、おまけに元奴隷。そんなあたしの事を助けてくれたのが、ギルベルト様なの。あたしはギルベルト様の為に死ぬ事は出来ても、呪いを解く事も変わってあげる事も出来ない。今のギルベルト様の状態を、黙って見ている事しか出来ない」


「エリっち…」


エリっちは泣きそうな顔をして、芣婭に向かって深く頭を下げる。


「ギルベルト様の事を助けたいの、ミラに言われて来たんじゃないの。あたしの独断でここに来たの」


「分かった!」


「「「え!?」」」


芣婭が一つ返事をすると、ケロちゃんとベロちゃん、エリっちの3人が驚く。


「頼みに来たのはこっちなんだけど、本当に良いわけ?」


「え?芣婭は問題ないよ?」


「で、でも、アンタの付き人の男達が納得してないでしょ?」


エリっちの言ってる事はごもっとも、ケロちゃんとベロちゃんは反対してる今も。


「ケロちゃん、ベロちゃん、今から芣婭はわがままを言うよ?芣婭はギルベルト君の事を助けたい。それでね?芣婭が狙われそうになったら、守ってくれる?」


「おいおい、芣婭。それだけで良いのか?お前の立場なら、自分のやる事に口を出すなって命令出来るんだぜ?それじゃなくて良いのか?」


ベロちゃんは前のめりになりながら、芣婭の顔を笑いながら覗き込む。


「え、だって、心配してくれてるのは嬉しいもん。守ってくれなくなるのも寂しいし」


「そんな心配しなくても、芣婭が本気で拒まない限り。俺達は離れるつもりはないですよ」


そう言って、ケロちゃんは芣婭の旋毛(つむじ)に唇を落とす。


「あ、テメェ!!!俺だって芣婭にキスしてーのに!お前だけずるいぞ!!!」


「はぁ?キスをするなら明日にして下さい。今日はもう駄目です」


ベロちゃんとケロちゃんが言い合いをしていると、シーちゃんが力強く芣婭の手を握った。


「ケルベロスの2人以外にも、私達も全力で芣婭様の事をお守り致します。ですので、私達の事も忘れないで下さいね?」


「シーちゃん達もいてくれるし、すっごく安心してる!エリっち、ちょっと待ってて!!!着替えてくるから!」


「は?着替えって」


「シーちゃん、服脱ぐの手伝って!」


「かしこまりました!」


困惑しているエリっちを庭に置いて、芣婭はシーちゃんを連れて部屋に戻り、急いで制服に着替えた。


今から芣婭にとって大きなイベントが始まる、ギャルの戦闘服と言えば制服っしょ!!!


「ごめんっ、お待たせ!」


「ふ、芣婭様!?あ、足が!!!足がすごく出てますよ!?スカートの丈が短か過ぎませんか!?」


「レヴァさん、足が出てるだけだから大丈夫!行こうか、戦場(いくさば)へ!!!」


顔を真っ赤にしてるレヴァさんを置いて、芣婭はエリっちの手を引いて門まで走った。


***


同時刻 中部街 カーディアック家屋敷


カーディアック家のギルベルトの寝室では、魔法医師メディサンドゥーマージミラ・グレイバーツが2日間寝ずに治癒魔法をかけ続けていた。


体の右半分に伸びていた黒い棘だが、右頬と心臓部分まで伸び始め、ミラは心臓付近を抑えたままの状態が続く。


魔石洞窟内で気を失ったギルベルトの意識は、未だに戻っていない。


呪いを取り除く(リムーブ・ア・カース)!」


ミラがそう言うと、ギルベルトの心臓部分に黄色の魔法陣が浮かび上がり、黒い棘の進行速度を一時的に止める効果があるが、すぐに弾き返されてしまう。


呪いを取り除く(リムーブ・ア・カース)とは、かけられた呪いを体内から取り除く事が出来る上位治癒魔法。

魔物にかけられた呪いや、大体の呪いはこの呪いを取り除く(リムーブ・ア・カース)で解く事が出来る*


だが、ギルベルトの場合は古代呪術である為、ミラが使える治癒魔法では進行を遅める事しか出来ない。


「いっつ!?クッソ、この魔法でもダメかっ!」


魔法が弾かれたミラも指に静電気のようなものが走り、眉間に皺を寄せながら言葉を吐く。


「ミラ、俺の魔力も使え」


「ローレンツ、お前からは昨日も貰ったよ。まだ、魔力が残ってるから大丈夫」


「実際の所、どうなんだ」


ローレンツ・ガルバルトは疲弊しているミラに尋ねる。


「正直、僕の魔法では進行を止めれそうにない。今までは呪いを取り除く(リムーブ・ア・カース)が効いてくれてたんだけど、今回は魔法が弾かれるんだ。こんな事なかったのに」


「呪いを掛けた張本人が、ミラの魔法に干渉してる可能性が高いな」


「はぁっ、はぁっ」


「「ギルベルト様!!!目覚められましたか!?」」


荒い息を吐きながらギルベルトは目をゆっくり開けると、ミラとローレンツの2人が慌てて駈け寄った。


部屋の外に待機していたコンラットとヒューズの2人も、ノックをせずにギルベルトの寝室に入る。


「ギルベルト様!!!良かった、目が覚めたんですね!!!ミラ、魔法が成功したのか!?」


「成功してたら、もっと大騒ぎしてるっての。ヒューズ、声のボリューム落としてくれない?」


「俺の声はそこまで大きくないだろ!」


「ギルベルト様、水分を摂った方が良いです。水は飲めそうですか?」


ヒューズとミラが言い合いをしてる中、水の入ったコップを持って、コンラットがギルベルトに声をかけた。


ギルベルトは水に入ったコップではなく、レットピンク色の魔石に手を伸ばし、大事そうに握る。


その光景を見ていたローレンツとコンラットは顔を見合わせると、ギルベルトが口を開く。


「進行が早まったな、ミラ」


「絶対に貴方の事は死なせません」


「ふ、お前の魔法が勝つか、呪いが勝つか見ものだな」


ミラの言葉を聞いたギルベルトは余裕そうな笑みを見せるが、冷汗が多く顔色がかなり悪い。


誰が見ても衰弱しきっているのが分かるのだが、こんな状況でもギルベルトは表情には出さないのだ。


「ギルベルト!」


髪と服を乱しながら、勢いよく部屋に入って来たには、オルタニア・カーディアックだった。


「父上…、何故ここに。中部街の外壁の強化会議に出ていた筈では」


「今はそんな事はどうでも良いだろう!?お前の体の方が心配に決まっておる」


「…、6年前に亡くなった母上に対しての罪滅ぼしのつもりですか」


ギルベルトの言葉を聞いたオルタニアは、眉間に皺を寄せながら口を閉じる。


コンラット達は1人も、オルタニアとギルベルトの2人の会話に入ろうとしない。


いや、入れなかった。


「ギルベルト、そうじゃない。今、アイツの事は関係はないよ」


「俺の事を構いだしたのも、弟を別邸に追いやったのも、母上が弟を産んで死んでからだ。俺よりも、弟の方を気に掛けるべきではありませんか?」


「サーシャの事は関係ないと言っているだろ!!!」


オルタニアは大声をあげて、ギルベルトの事を怒鳴りつける。


ギルベルトには6歳の弟がおり、ギルベルトの産みの親であるサーシャ・カーディアックを産んだ際に、出血量が多く亡くなってしまっていた。


それ以来、弟のジオン・カーディアックは本邸の近くに建てられた別邸に追いやられ、兄であるギルベルトと顔を合わせる事はなかった。


「オルタニア様っ、落ち着いて下さいっ!」


ギルベルトとオルタニアが言い合いになりそうな所に、コンラットが慌てて間に入る。


「俺はもう、成人は過ぎています。貴方に大声をあげられて怯える子供じゃないんですよっ」


「ギルベルト様、体を起こさない方が良いです。僕が支えていますから」


ミラはギルベルトの体を支え、ベットに静かに寝かせ、オルタニアに視線を向けた。


「オルタニア様、申し訳ないのですが…」


「あぁ、分かってる。俺がここに居たらギルベルトの怒りを逆なでしてしまうからな」


「あちゃー、その言い方はギルベルト様の怒りを逆なでしちゃうよぉ…」


ミラとオルタニアの会話を聞いていたヒューズは、口元を抑えながら顔色を青くさせた。


「旦那様!!!客人が参られました!!!」


「こんな時に客だと?追い返せ」


「で、ですが、ロールベルグ家の馬車でして…」


「ギルベルトと見合いをさせた子は乗っていたか」


「はい、ニックスとレヴァリオも一緒でございました」


執事長のマーヴィンから報告を受けたオルタニアは、玄関に向かうと背を向けるが、ギルベルトがオルタニアの腕を強く掴んで足を止めさせる。


「まさか、芣婭を利用する気じゃないだろうな父上」


「あの子はお前の運命の女(ファムファタール)だ。お前の体を蝕む呪いが解けるかもしれないんだぞ?何故、あの子の事になると感情を出すんだ。今までのお前なら、使えるものは使ってきたじゃないか。そうしてきたら、今の立場まで上り詰めただろ」


「芣婭の事を傷付けてまで、呪いを解きたいと思ってないだけだ」


「ギルベルト、あの子に惚れたのか」


オルタニアに核心を突かれたギルベルトは、唇を強く噛みながら視線を下に向けた。


ギルベルトの反応を見たオルタニアは、髪を乱暴に搔きながら言葉を吐く。


「ミラから報告は受けている、あの子の血が魔性の女(エンチャトレス)だと聞いた。数百年に現れたきり、今まで現れてこなかった魔性の女(エンチャトレス)を持つ女性が、あの日の夜に、この世界にやってきた。これは運命としか言いようがないだろ」


黒騎士団(ブラックナイト)達もミラも、父上が集めた人材だ。俺は大公子だから逆らおうと思えば逆らえて、大公の父上には逆らう事は出来ない。芣婭も血の事は父上には、言わないでほしかったよミラ」


「ギルベルト様…」


「ミラを責めるな、ギルベルト。ミラに口を割らせたのは俺だ。ミラは最後まで話そうとしなかった、それはお前の信頼を裏切らない為だろ」


ミラを庇うように前に立つ、オルタニアをギルベルトが睨み付ける。


だが、オルタニアのその行為が、ギルベルトの怒りを更に沸かせる好意になっている事はオルタニア本人は知らない。


「マーヴィン、あの子をここに連れて来い」


「旦那様…、かしこまりました」


「急げ」


「は、はい!」


「コンラット!」


オルタニアに急かされたマーヴィンは、ギルベルトの寝室を飛び出し、その後をギルベルトに名前を呼ばれたコンラットが追う。


「ゴホッ!!!」


大声を出したギルベルトは咳きこみ、口元を手で押せ呈茶が手のひらには血が付着していた。


「ギルベルト様!?」


ミラは血相を変えてギルベルトの顔を覗き込み、血で汚れた口元を拭う。


「ははっ、俺の体にもガタが来たって所か。父上、俺は芣婭の体を傷付けてまで生きたくない。そうするぐらいなら…」


「それはダメだよ、ギルベルト君!!!」


「は?ふ、芣婭!?」


ギルベルトの言葉を遮るように、甘野芣婭がケルベロスの2匹を連れて現れた。


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