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11.異世界で、どやべぇ事になりました後編

ルナ帝国 上部街 魔法省


河邉菜穂は物陰から、甘野芣婭とルカリオとの出会った瞬間を目に焼き付けていた。 


自分をエスコートしていた腕を乱暴に離され、ルカリオは一目散に甘野芣婭の元に駆け出してしまう。


「ルカリオさ…」


ルカリオの名前を呼ぼうとした河邉菜穂だったが、2人が顔を合わせている光景を見て、柱に身を隠しながら口を閉じる。


自分に向けない優しく、愛おしそうな視線を、彼女はルカリオに向けられた事はない。


「そのリボン、芣婭のもので…」


「ようやく会えた」


甘野芣婭の舌足らずな話し方、声を聞いてはルカリオは口元を自然と緩ませてしまう。


河邉菜穂は今の光景を見なくても、脳裏に映像が浮かび上がってくる。


彼は今、甘野芣婭と運命的に出会っていて、その姿は童話や映画に出てく来そうなシーンだろう。


彼女の中で黒い感情が蠢き、支配されて行く感覚を味わっていた。


「どうして、いつもいつも…。あの子だけ愛されるの」


唇に血が滲む程に強く噛みながら、河邉菜穂は言葉を吐き捨てた。


***


甘野芣婭  (17歳)


飛ばされたリボンを拾ってくれたのは、謎の金髪王子様だった。


「こ、皇太子殿下!?」


金髪の王子様の事を見ながら、中年おじが叫ぶとパパ達は地面に膝をついて深く頭を下げる。


パパ達だけじゃなくて、打場に居た人達が一斉に深々と頭を下げ、金髪の王子様の反応を伺っていた。


この王子様が現れただけで、空気が一気に変わり、冷たく張り付いている。


なんか…、やだな。


あ、ちょっと待って、みんな頭を下げてるから、芣婭も頭を下げた方が良いのでは?


王子様にずっと手を握られてるのは…、一体?


「あ、あの…、王子様?ずっと、芣婭の手を握ってるのは?」


芣婭は王子様に頭を下げながら、疑問に思っていた事をぶつけた。


「君が頭を下げる必要はないよ、寧ろ下げてほしくないな。そこに居る者達と君は違う。手を握っているのは、そうだな…。僕が繋いでいたいからかな」


「え?は、はぁ…。そこに居る男達とメイドは君の連れかい?」


王子様はそう言って、パパやシーちゃん、ミー君達に冷たい視線を送る。


その視線から興味を持っていない事が分かるし、芣婭の事を見る目が違う。


大事な人を見るような、好意を持った視線だって分かる。


芣婭だって、彼氏がいた事があるし?


この人、芣婭の事が好きなんだなって分かるし?あ、視線でね?


けして、自意識過剰ではないよ!?


「ふ、芣婭様、皇太子殿下とお知り合いなのですか…?」


「こーたいしでんか?いや、知り合いじゃないけど…。あの、王子様?パパ達は、ずっと頭を下げていないとダメなの?」


「芣婭!?」


「芣婭様!?」


芣婭の言葉を聞いたパパと中年おじは、凄く驚きながら声を上げると、周りの人達も騒ぎ出す。


「ククッ、本当に面白いなぁ、芣婭ちゃんは」


「おい、ニック」


「いつ、言葉を発して良いと言った?黒騎士」


王子様がニックとリヴァさんを睨み付けると、2人はすぐに口を閉じる。


漫画とかに出てくる王子様って、こんな感じじゃなかったよなぁ…。


芣婭が読んでいた漫画のジャンルにはいないタイプ…、好きじゃないなぁ。


「好きじゃないなぁ、こーゆー重い空気」


「え、え?好きじゃない?」


「あ、ヤバ、今のナシね!?」


やっばー、心の声が漏れちゃってたよ!


良く聞こえてなかったみたいだし、大丈夫でしょ。


「それは困るよ」


「はいー?(イ〇ラちゃん)」


おっと、国民的アニメに出てくるイ〇ラちゃんの真似をしてしまった。


王子様は芣婭の懇親のイ〇ラちゃんの真似をスルーして、王子様は両手で芣婭の手を包み込む。


「君に嫌われたら、僕は死んでしまうよ。だから。嫌わないでほしい」


「????」


「どうしたら、僕の事を嫌わないでくれるか」


「はいー?(イ〇ラちゃんTake2)」


王子様とは初対面の筈なのに、なんで芣婭に嫌われたくないのだろうか。


よく分かんないなぁ。


「嫌わない話の前に、芣婭はしてほしい事があるの」


「なんだい!?僕に出来る事なら、何でも言っておくれ?君の為なら、何でもするよ」


「芣婭のパパ、シーちゃん達の挨拶?を終わらせてほしいの」


「え?パ…、パパ?」


戸惑う王子様を他所に、芣婭は王子様の手を解いてパパの元に向かう。


芣婭は跪いているパパに抱きつき、隣にいるレヴァさんの手を握る。


「ふ、芣婭様!?」


リヴァさんの顔が真っ赤に染まり、頭から湯気でも出るんじゃないかってくらいに体も熱くなっていた。


「な、何をしているんだ?こ、公爵に抱きついたりしてっ。しかも、き、騎士の手を握って!」


「パパもシーちゃんも、ここに来てから芣婭のお世話をしてくれたの。ニックスもレヴァさんもミー君も、芣婭の為にギルベルト君が連れてきてくれたの。皆、芣婭の大切な人達だから!もー、頭をあげても良いでそ?」


「芣婭…」


「芣婭、本当のパパとママに好かれてなかったのに、今のパパは芣婭の事を可愛がってくれるの。だから…」


芣婭の言葉を聞いたパパは泣きそうな顔をしながら、芣婭の手に触れる。


「公爵、彼女を養子にしたのか」


「発言する事をお許しください、皇太子殿下。はい、彼女は我がロールベルグ家の養女になりました」


「彼女を守る栄誉を得た黒騎士団の騎士達は、大公子が寄越したと?あの冷血ない男が?考えられない。まぁいい、彼女の願いを叶える為にも、表を上げよ」


王子様の言葉を聞いたシーちゃん達を含めた全員が、視線を下にしたたまま顔を上げた。


その光景を見た王子様は、芣婭の方を振り返ってきては、満面の笑みを浮かべてくる。


芣婭に褒めてほしそうな眼差しを向け、芣婭の言葉を求めてきてる。


「皇太子様、誠に申し訳ありませんが…。姫君がお待ちでございます」


突如(とつじょ)現れた執事おじに声をかけられた王子様は、気に入らなさそうに溜息を吐く。


「はぁ、まだ数分しか経っていないだろ。少しは待てないのか」


「申し訳ありません。姫君も男性の目を引きますゆえ、私と2人で待っていても声をかけられてしまいまして」


「…、仕方がないな。今日の所は失礼するよ、今度はゆっくり茶会でもしよう」


執事おじと話を終えた王子様は、芣婭の手を取って甲にキスをする。


「へ」


「では、また」


芣婭の反応を見ないまま、王子様は執事おじと颯爽にいなくなってしまった。


何だったんだ?一体…。


「芣婭、、こんな駄目なパパを許しておくれ」


「え?パパはダメな所なんてないじゃん!許すも何も、王子様の前でさ?芣婭の事を娘だって言ってくれたじゃん。芣婭、本当のパパにも言われた事がなかったから、すっごく嬉しかったの」


「そんな…、当たり前だよ。君はもう、僕達の娘なんだから」


パパはそう言って、芣婭の頭を優しく撫でる。


パパの隣に立っていたシーちゃんも、瞳を潤ませながら芣婭の事を見つめる。


「シーちゃんも、そんな顔しなくて大丈夫!あの王子様も起こってなかったしさ?芣婭なんか、みんなみたいに頭も下げてなかったし」


「ですが…、皇太子殿下が芣婭に剣を抜いていたら…、そう思うだけで」


シーちゃんの不安を和らげる為に、芣婭は思いっきりシーちゃんの腕に抱きつく。


ガバッ!!!


ギュウウウッと力を籠めると、シーちゃんはほっぺを真っ赤にして口を開いた。


「ふ、ふふ芣婭様!?急にど、どうされたんですかっ?」


「シーちゃんの事、不安にさせてごめんね?芣婭、シーちゃん達がね?ずっと、頭を下げてたのが嫌だったの。でも、確かに怒られててもおかしくなかったかも。今度から気を付ける」


「芣婭様のお気持ちは、すごく嬉しいんです。私も、芣婭様の事を守れるようになります。いついかなる時でも、私が盾になります」


そう言って、シーちゃんは芣婭の事を優しく抱き締める。


「芣婭嬢、僕達の事を守ってくれてありがとう。まさか、皇太子殿下に意見するとは思っていなかったけどさ?僕達の事を思っての事だったから、すごく嬉しかったよ」


「芣婭達はチーム友達なんだから!これからもよろしく!」


ミー君との会話を聞いていたニックスが、大笑いしながら口を開く。


「あはははは!!!本当に芣婭ちゃんは面白いなぁ。お前もそう思うだろ?レヴァ」


レヴァさんはニックの問い掛けには答えずに、芣婭の前で膝をつきながら顔を上げる。


「芣婭様、我々騎士はいつ、いかなる時も主人の盾となり剣となるのが役目です。仕えている主人が例え、残虐で傲慢な主人だとしても、それが私達の仕事なのです」


「嫌な奴の事も、しゅじん?になったら守らないといけないなんて…、やだね。あ、もし芣婭の事が嫌だったら、すぐに言って!ニックもね?2人が嫌ない思いしてほしくないし、無理もさせたくないから!」


「私は、恐れながら…。芣婭様からの寵愛を貰うに値する騎士になりたいのです」


「ちょーあい?」


芣婭の右手を両手で包み込み、レヴァさんは顔を真っ赤にしながら言葉を続ける。


「私は見ての通り、堅物で面白みのない男です。ですが芣婭様は、私に笑い掛け、皇太子殿下の前で私達の事を庇って下さいました。それだけではありません、芣婭様は常に私達の事を気にかっけてくれる。貴方のその優しさに、見合う騎士になりたいのです」


「なんだ、俺とおんなじ考えだったじゃねーか」


ニックはそう言って、レヴァさんと同じように芣婭の前で膝をつき、左手を両手で包み込む。


「ちょっと、ニックまでどーしたのさ」


「芣婭ちゃんは俺とレヴァのお姫様だからさ?ちゃんとさ、意志証明しないと思ってさ?芣婭ちゃんは聞いてくれるだけで良いから」


「あ、そうなの?分かった、ちゃんと聞くね」


芣婭の返答を聞いたニックは、短い咳払いをした後、真面目な顔をして言葉を放つ。


「私、ニック・ブラウンは御身の盾となり、剣となり、ありとあらゆる障害から主を守り、今世の忠誠を主に誓う」


「私、レヴァリオ・ヴェスパーは御身の楯となり、剣となり、ありとあらゆる障害から主を守り、今世の忠誠を主に誓う」


ニックとレヴァさんはそう言って、芣婭の手の甲にキスをした。


芣婭達のやりとりを見ていた人達が、一斉に歓声を上げて芣婭達の元に集まり出す。


「まさか、有名な黒騎士団の忠誠の議を見られるとは思ってなかったよ!」


「素敵な物を見させてもらいましたわ、ロールベルグ家の公爵令嬢。皇太子殿下に意見した時の姿、わたくし感動いたしましたわ!今度ぜひ、わたくしの家に来てくださいまし」


「え、えーっと?」


「ちょいちょい、御婦人や男性方。うちのお姫様が驚いてるから、それくらいにしてくださいよー」


囲まれていると、ニックが素早く芣婭の前に来て庇ってくれた時だった。


ドゴォーンッ!!!


ブオオオオオー!!!


空から何か巨大な物が芝生の上に、落下してその衝撃で暴風が吹き荒れる。


「おっと、失礼するよっ、芣婭ちゃん」


「わっ!!」


力強くニックに腕を引かれ、ニックの腕の中に引き寄せられた。


レヴァさんが芣婭達の前に出て、右手を前に上げて詠唱する。


風壁(ウィンド・ウォール)


芣婭達の目の前に緑色の魔法陣が現れ、新緑の葉を纏わせた暴風が壁のような形を形成し、突然の吹き荒れた暴風を防ぐ。


ボンッ!!!


吹き荒れた暴風が風の壁に衝突し、竜巻上になって空彼方に上がって行く。


風壁(ウィンド・ウォール)とは、防御魔法、風の壁を作り、敵の攻撃を防ぐ*


「姫君、御無事ですか?怪我は」


「ひ、姫君?うん、大丈夫。ニックが引き寄せてくれたから」


「キャアアア!!!ま、魔物だわ!!!」


レヴァさんと話していると女の人の悲鳴が聞こえ、視線を向けていると、白目をむき出しで血だらけの状態の巨大な蛇を、涼しい顔したケロちゃんが踏みつけていた。


そのままの状態で、空中から落下してきたのが見て分かる。


泡を吹きながら長い舌を出し、首の部分に巨大な太い釘が刺さっていている状態。


ケロちゃんのほっぺに、かなりの量の血液が付着し、本人は気にしていない様子だった。


ジーッと見つめていると、芣婭の視線に気が付いたケロちゃんは、微笑みながら近付いてくる。


「芣婭、どうしてこんな所に。あぁ、ここが例の魔法省って所ですか」


「ケロちゃん、なんか物凄い事になってるけど…?大丈夫そ?」


芣婭に笑いかけていたケロちゃんだったけど、ニックの姿を見て顔付きを変えていく。


「あぁ、これですか?もう死んでますから、大丈夫ですよ。それよりも貴方、なに芣婭を抱き締めてるんですか。さっさと離れてくれます?」


「あー、はいはい分かりましたよ」


ケロちゃんに睨まれたニックは、苦笑いしなら芣婭の体から手を放す。


つかさず近付いてきたケロちゃんに、抱きつかれてしまう。


「久しぶりですね、芣婭」


「朝ぶりだねー、ケロちゃんは何してたの?ベロちゃんは一緒じゃなかった?」


「あぁ、アイツなら上に居ますよ


「上?空に居るって事?」


芣婭の言葉を聞いたケロちゃんは頷き、空の方に人差し指を向ける。


ケロちゃんの人差し指の動きに合わせて、芣婭達も視線を上に向けた。


***


数分前、ベロちゃんが呼び出した巨大な骸骨の口が開き、ゆっくりと詠唱する。


闇の釘ネイル・オブ・ダークネス


美少女が呼び出した魔獣の背後に紫色の魔法陣が現れ、魔法陣の中から大きな闇色の釘が勢いよく飛び出し、魔獣達の体に貫く。


グサッ!!!


巨大な骸骨の手にはトンカチが握られていて、そのトンカチを振り下ろされるにつれ、体に刺さった釘が体の奥深くに刺さって行く。


「「グアアアア!!!」」


魔獣達の皮膚が紫色に変色を始め、体中に毒が浸透していっているのが目視で確認できる。


その様子を見ていた美少女の表情が歪み、ベロちゃんの事をキッと睨みつけてきた。


「普段なら滅多に出さないのに、こんな所で本気を出す気?」


「うちの可愛いお姫様を守る為だからな?別に勿体ぶって、隠してきた訳じゃねーし」


ベロちゃんが召喚した巨大な骸骨の正体は、死毒の骸骨デス・ポイズン・スカルは、ベロちゃん自身が従えさせている魔物のうちの1匹である。


魔族が魔族と主従契約を結ぶと、死毒の骸骨デス・ポイズン・スカル自身の闇魔法を、本人の代わりに使用が可能になり、自分自身の魔力消費量が召喚時に、大幅に消費するデメリットが発生してまう。


闇の釘ネイル・オブ・ダークネスとは、体を蝕む毒を闇魔法で釘に形成し、相手の体に打ち込む闇魔法。

ただし、魔族の死毒の骸骨デス・ポイズン・スカルしか使用出来ない闇魔法である為、主従契約を結んでいるベロちゃんは使用可能になっている*


苦し悶えながら、美少女が呼び出した巨大な蛇が、ケロちゃんに向かっていくが、簡単に避けられ、頭上から力強くケロちゃんに(かかと)を落とされる。


ドカッ!!!


「グエエエエッ!!!」


踵を落とした状態のまま、ケロちゃんと巨大な蛇は地上に落下して行ってしまった。


空中に残された2人、空気と共に流れる沈黙を先に破ったのは美少女の方。


「え、もう帰る?足止めはもういいって…、どう言う…。あぁ…、そう言う事。分かった、私も戻るわ」


美少女は右耳を抑えながら、誰かと会話をしているよだ。


「今日はもう帰る」


「お前の御主人様から、お呼びがかかったのか?あ?」


「そんな所、うちのお姫様の相手をしろって。子守りは好きじゃないのに」


面倒臭さそうに言葉を吐き捨てながら、美少女は本を閉じると魔獣達は姿を消した。


「お前等、これからも俺達の姫を狙うのか?」


「私が殺されない限りはそうね、そうなるね。私の御主人様の命令だし」


「それが聞けて良かったわ。俺も遊びじゃなく、本気でお前等を殺しに行くだけだ。擦り傷でもさせたら分かってんだろうな」


「私達が殺し合う日は近そうだね、じゃあね?」


バサッと黒いレースの日傘を広げると、ベロちゃんの目の前から美少女はいなくなっている。


ベロちゃんの視界には、ルナ帝国皇帝の宮殿全体を覆

うバリアが張られているのが見え、牙を見せながら笑う。


「手を出してきてる割りは、用心深いじゃねーか。さてっと、本格的に芣婭を守りますか」


そう言って、ベロちゃんもまた空から姿を消した。


***


甘野芣婭(17歳)


謎の金髪の王子様事件から2日が経ち、芣婭はママとパパ抜きでお茶会を開催していた。


ママいわく、パパが芣婭の事を独り占めしたから呼ばなかったらしい。


芣婭がママのブランドのワンピースを着ている姿を見て、ママは何度もニヤニヤし、何回も褒めてくれる。


淡いグリーンのフリルとリボンがふんだんにあしらわれたオフショルワンピ、髪型は緩く編まれた三つ編み。


「ふふふ♡私の娘は、本当にお人形さんみたい。私が作った服を娘に着てもらうのが夢だったの。すごく、嬉しいわ」


「そんなに?ママの作った服、似合ってる?」


「勿論よ!!!貴方達もそう思うでしょ?」


ママは同意見を貰う為に、芣婭の後ろで立っているレヴァさんとニックに声をかける。


「ロザリア様の言う通り、芣婭ちゃんは何着ても似合いますよー。それが、マダムロザリアの物なら尚更。ロザリア様、見てくださいよ。レヴァリオなんて、顔を真っ赤にさせてるんですから」


ニックの言葉を聞いたママは、レヴァさんに視線を向けた。


芣婭もつられてレヴァさんに視線を向けると、頬を桃色に染めているレヴァさんと目が合い、照れくさそうに微笑む。


「本物のお姫様そのものです、芣婭様は。この世で、唯一無二の姫君です」


「ゆーいつむに?」


「お前、むっつりスケベか?」


芣婭の膝の上で寝ていた今日は子猫の姿になっているベロちゃんが、レヴァさんに冷ややかな視線を送っている。


ちなみにケロちゃんは、黒兎の姿。


「ス、スケベ!?そんな訳ないでしょう!?何を言ってるんですか!」


「お前、口には出さないで心の中で思ってるタイプだろ」


「ゔっ」


「ほら見ろ、むっつりスケベじゃねーか」


「だから違いますって!」


ケロちゃんとレヴァさんが言い合いしてる間、芣婭はシーちゃんの姿を探していた。


今日の朝からシーちゃんの姿を見てないんだよね、他のメイドさんが起こしてくれたんだよね。


ママの空になったティーカップに紅茶を注いでいるグロおじに、芣婭は声をかける。


「ねぇ、グロおじ。シーちゃんどこにいるの?あ、もしかして今日はお休み?」


「いえ、シエサは休みではありませんよ?私も朝から姿を見ていませんね。探してまいりましょうか」


「その必要はありません、執事長」


「シ、シエサ!?お、お前、その恰好はっ?」


背後からシーちゃんの声が聞こえ、振り返って見ると、グロおじが驚いている理由がすぐに分かる。


肩まで伸びていた髪は短く切られ、長めの前髪はふわっと右側に流し、ショートウルフスタイルに髪型は変わっていて。


メイド服か脱ぎ捨てて、スーツ姿でネクタイまで締め、腰からは剣が下げられていた。


奇麗な顔立ちのシーちゃんが男の人がするような恰好が、とてもよく似合ってる。


「芣婭様、御挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。今日も可愛いです」


「ありがとー、シーちゃん!シーちゃんもすっごく似合ってる!イメチェンしたの?」


「私も芣婭様の事をお守りしたいので、昔のしていた服装に変えたのです。芣婭様に気に入ってもらえて良かった」


そう言いながら、シーちゃんが芣婭の顔を覗き込む。


些細な仕草さえもかっこよく見えるのは、シーちゃん自身から漂う魅力なのだろう。


黒騎士団(ブラックナイト)に居た時に戻ったな、シエサ」


「お前はいつも変わらずふざけた格好をしているな」


「ふ、ふざけた格好?!ちょ、芣婭ちゃんの前で変な事言うな!」


「本当の事だろ」


「あははは!」


シーちゃんとニックの会話を聞きながら笑っていると、門の方から騒がしい声が聞こえる。


「あ、待てっ!!!」


「お、狼が庭の方に行ったぞ!!!」


門番の人達が狼らしき獣の後を追いかけているのが見えたが、狼が向かう先は芣婭達の元らしい。


艶やかな黒い毛を纏った狼が芣婭の前で足を止め、ゆっくりと口を開く。


「アンタが、芣婭?」


想像していた100倍、狼の声は女の子の可愛い声だった。


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