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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第三章 追憶編:断片

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第26話 パッチワーク

 軋んだ音を立て、金属のドアが開く。

 油と埃の匂いが、外気に混じった。


 来客を一瞥し、パッチは端末から目を離さないまま言う。


「うちの店はドレスコードがあるんだ。スーツは帰りな」


「……久しぶりだな、才賀」


 オーダーメイドのスーツを着た男——黒瀬が、一歩だけ中へ踏み込む。


 パッチはようやく顔を上げ、黒瀬を見る。


「その名は捨てた。ここでは『パッチ』だ」


「もう一度、戻ってきてくれないか」


 黒瀬は言葉を選ぶように、一拍置いた。


「ダンジョン発生予想システム主席アーキテクトだ。取締役管掌でな」


 パッチの指が、一瞬だけ止まる。


「戻る?」


 椅子に体重を預けたまま、視線を逸らす。


「俺を嵌めて追い出した連中のところにか?」


 黒瀬は答えず、口を引き結んだ。


「――俺が『広く浅く観測データを集めるべきだ』って言った時」


 パッチはモニターを指で叩く。


「お前らはどうした」

「俺の報告書の数字を捻じ曲げたよな」


 振り返らない。


「製造部門の利益を守るために、『高価な観測装置が必要だ』って話にすり替えた」


「……分かっている」


 黒瀬は、肩を落とした。


「だが今は状況が違う。裏口探索者が増えて、イレギュラーが制御できない」

「分散システムのラビット・ホールも、もう止められない」


 パッチは鼻で小さく息を吐いた。


「それで今さら、『才賀』を呼び戻しに来たわけか」

「だが、あの名前はもう俺のものじゃない」


「……なぜ『パッチ』なんだ」


 黒瀬はホログラムに視線を移し、言う。


「穴を開ける人間が()()()とは、随分な皮肉じゃないか」


 パッチは、ほんの少しだけ口角を上げた。


「皮肉? 違うな」


 椅子から立ち、背後のホログラムを指し示す。


「俺が作ったのは『穴』じゃない」

「都市中のセンサーや、カメラの通信のノイズを――

 ()()()()()()()観測システムだ」


()()()ワークだ」

「継ぎ接ぎだらけの都市の情報を縫い合わせ、揺らぎの地図を作った」


 指を下ろし、黒瀬を見る。


「だから俺は『パッチ』だ」


「裏口ができたのは、俺が穴を開けたからじゃない」

「お前らが、揺らぎを理解しようとしなかったからだ」


「ラビット・ホールは、その結果に過ぎない」


 黒瀬は唇を噛み、最後の望みを口にする。


「……それでも、戻ってきてほしい」

「企業は君を必要としている」


 パッチは背を向け、工具を手に取った。


「必要なのは『才賀』だろ」

「だが、そいつはもう死んだ。お前らが殺したんだ」


 黒瀬は何も言えず、踵を返す。

 ドアが閉まる音が、重く響いた。


 パッチは手を止めず、独り言のように呟く。


「パッチで十分だ」

「継ぎ接ぎで壊れた都市をつなぎ直す」


「企業のためじゃない」

「ここで生きる連中のために、な」


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