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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第三章 追憶編:断片

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25/30

第25話 遊園地

 ――

 ワンダーリンク・アミューズメント占有ダンジョン

 6,350 クレジット

 Tier:5

 生還率: 23.2%

 ユーザーのおすすめ:★★★☆☆

 レビュー:

 「童心に帰りたければここ!」

  — forever18 ↑45 ↓12

 「遊園地型。ピエロの顔は見るな」

  — KAGE01 ↑38

 「Tier5初挑戦におすすめ」

  — urbanX ↑55

 ――


「依頼があったのは、ここか」


 端末で裏口を確認する。


「ええ、子供が迷い込んで出てこないそうよ」

「バックアップはそのままだから、まだ中にいるはずだって」


 境界を跨ぐと、空気が一変する。


 軽快で、どこか古びた音楽。

 色とりどりのライトに照らされた観覧車。

 誰も乗っていないジェットコースターが頭上を走り抜け、レールに残った絶叫だけが遅れて響く。


「……人気のない遊園地って、妙に来るな」


 そう言って隣を見る。

 リリィの様子がおかしい。


「……ふふふ」


 うつむいたまま、肩を震わせている。


「おい、どうしたんだよ、リリィ」


「……なんか、楽しくて」


 次の瞬間、堰が切れた。


「……っ、はは……あははっ」


「すっごく楽しい」


 そう言って、リリィは俺の手を取る。


「行こう」


 引きずられるように、走り出した。


 誰もいない遊園地。

 気がつけば、あちこちから楽しげな笑い声が聞こえる。


 思わず周囲を見回す。

 観覧車の影。

 屋台の裏。


 色の剥げた入口ゲートの下。

 その中で、ひとつだけ人影があった。


 派手な色の衣装。

 だぶついた袖。

 白い手袋。


 ——顔には、歪んだ笑顔が張り付いている。


 ぞわり、と背中を何かが這い上がった。


「……っ」


 怖い。


 胸の奥で、恐怖が膨らんでいく。

 いつもなら無視できる程度の不安が、はっきりとした輪郭を持ち始める。


 理由のない、過剰な恐怖。


「感情が増幅されてる?」


 ピエロに手を向ける。

 震える手を無理やり抑え、電撃を放つ。


 ピエロがスッと消える。


「リリィ」


「何?」


 振り返る。

 まだ、笑みが残っている。


「お前、よっぽど楽しみにしてたんだな」


「……っ!」


 リリィの表情が、ぴたりと固まる。


「何言って——」

「違うわよ!」

「これはダンジョンの——」


「分かってる分かってる」


 肩をすくめる。


「それより子供探そうぜ」


「絶対誤解してる!」


「はいはい」


 *


「おい、あれ」


 暗闇の奥で、ぼんやりと明かりが回っている。

 メリーゴーランドだ。


 流れているメロディーは、どこかおかしい。

 音が合っていない。

 まるで逆再生されたみたいな、不協和音。


 木馬が、後ろ向きに進んでいる。

 その背中に、男の子がひとり。


「……クリーチャー、じゃないよな」


「ええ。恐らく、依頼の子供ね」


 俺は近づいて、声をかけた。


「ケニーくんかい?」


 男の子がこちらを見る。


「だれ?友達になりたいの?」


「君のママに言われて、迎えに来たんだ」


「ママ?」


 少し考えるように首を傾げてから、にこっと笑う。


「じゃあ、あと一周したらね」


「……分かった」


 俺を乗せたまま、メリーゴーランドは回り続ける。

 一周。

 音が、少し高くなる。

 木馬が止まり、ケニーが降りてきた。

 地面に足がつく。


 違和感。

 ——目線が、低い。

 ケニーと、同じ高さ。


「……へ?」


 自分の手を見る。

 小さい。やけに。

 そのとき、背後から淡々とした声。


「ケイ」


 振り返る。


「……子供になってるわよ」


 俺は自分の手を見下ろしたまま、固まっていた。


「……なに、これ」


 声も高い。

 リリィが一歩近づいて、屈む。

 俺と、目線を合わせるために。


「ふふ」


「笑うな」


「笑うわよ。だって——」


 リリィはわざとらしく首を傾げる。


「さっきあんなに、からかったくせに」

「自分は身体まで子供に帰ってるんだもの」


「これはダンジョンのせいだろ」


「ええ、もちろん」


 即答。

 それから、少しだけ間を置いて。


「でも安心して」


「何が」


「連れ帰る対象が一人増えただけだから」


「保護対象に入れるな」


 リリィは口元を押さえて、くすくす笑う。


「大丈夫よ。手、離さなければ迷子にはならないでしょ?」


 俺の手を、そっと握る。


「……からかってるだろ」


「少しだけ」


 視線を逸らして、ぼそっと。


「こういうの……嫌いじゃないし」


 聞こえた気がした。


「あれ?ケニーは?」


 さっきまで、隣にいたケニーがいない。

 辺りを見回す。


「あそこ!」


 鏡張りの建物。

 ミラーハウスだ。


「おーい、ケニー!どこ行くんだー!!」


「これ、まだ遊んでないから!」


 そう叫んで、ケニーは駆けていった。


「ったく……」


 慌てて後を追う。

 中に入った瞬間視界が割れる。


「わーすごいよ!僕が一杯!」


 鏡の向こうでケニーがはしゃぐ。


「いいから戻って来い」

「夕飯、きっとハンバーグだぞ」


「ほんと!」


 目を輝かせる。


「じゃあ帰る」


 そう言って、ケニーは素直に帰ってきた。


「よし、じゃあ——」


 言いかけて、固まる。


 ケニーが——5人いる。


「……は?」


 思わず数える。


 1、2、3、4、5。


 どれも、同じ顔。

 同じ服。


「増えてるんだけど……どうする?」


「6人とも連れて帰るしかないわね」


 リリィの冷静な声。


「俺を入れるな」


「はいはい」


 リリィは何事も無かった様に、ケニーを整列させる。


「じゃみんな帰るわよ」


 リリィが先頭に立つ。

 子供たちが素直に一列に並び、俺もその後ろについた。


 観覧車乗り場の向こう。

 暗闇の中に、出口の光が見えてくる。


「さ、行くわよ」


 全員で、境界をくぐった。


「あれ……?」「……消え、る」

「ママに、会えないの?」

「ハンバーグ……食べたかった」

「イヤだ……」


 声が、薄くなる。

 ケニーたちの輪郭が、夜に溶けていく。


「え?」


 思わず、手を伸ばす。


「——落ち着いて」


 リリィの声は、もう普段通りだった。


「認識で改変されるのは、ダンジョンの中だけよ」


 俺を見る。


「ケイも、戻ってるでしょ?」


 言われて、気づく。

 視界の高さ。

 手の大きさ。

 元に戻っていた。


 その場に残ったのは、俺とリリィ。

 それから——中年の男が一人。


「……誰?」


 次の瞬間。


「ケニー!」


 老婆が駆け寄ってくる。


「ママ!」


 男の表情が、崩れた。


「今日はハンバーグ?」


「ええ。ケニーが食べたいなら、そうしましょう」


 二人は、手を繋いで歩き出す。

 ネオンの中へ。

 ごく普通の、夜の街へ。

 やがて、その背中も見えなくなった。


いまさら戻ってこいと言われてももう遅い。

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