第23話 シングルランカー
「換金、頼む」
今日集めた結晶を、カウンターへ放り投げる。
「おう、お前らか」
奥からパッチが顔を出した。
「ちょうどいい。臨時パーティーの依頼があるんだが、受けないか?」
結晶がスキャナーに流し込まれ、ざらざらと乾いた音を立てる。
「依頼?」
「ああ、ランカーからの依頼だ。それも一桁のな」
「一桁!?それって……いわゆるレジェンドだろ?」
思わず身を乗り出す。
「勇者、か……」
リリィが苦虫を噛み潰した様に呟く。
「ああ、ランク8位。braver——」
「断る」
低く、くぐもった声でリリィが即答する。
「まあ、そう言うなよ。電撃と氷を使えるやつを探してる」
「勉強——にはならねぇと思うが、何事も経験だ」
「さすがレジェンド。勉強にならないくらいスゲぇってか」
「なあ、リリィ。受けようぜ」
ばっと相棒を振り返る。
「……どうなっても知らないからな」
リリィが渋々頷く。
「よし、向こうには連絡しておく」
*
翌日。
待ち合わせ場所には、どう見ても不審者がいた。
小太りの中年。
金髪に染めた長髪を一つに縛り、ピカピカに磨いた板金鎧を身に纏っている。
腰には派手な装飾のロングソード。
「おい、リリィ。ヤバい奴がいるぞ」
声を潜め、相棒に耳打ちする。
「あれが勇者」
「マジかよ」
「交通事故の後遺症で異世界転移したと思い込んでる」
「都合の悪い話は聞か流される。だから、向こうの設定に合わせないと話が進まない」
その時、勇者がこっちを向いた。
バッチリと目が合う。
「やあ!君たちがギルドに紹介された魔術師かい」
白い歯をきらりと光らせ、妙に人懐っこい笑みを浮かべる。
「ギルド!?魔術師?」
「ああ、彼は新人なの。腕は確かだけど」
リリィが、露骨に嫌そうな目で言った。
「ギルドの紹介だ。問題ない」
「早速、今日の説明をする。この依頼書を見てくれ」
そう言って、勇者が端末を見せる。
——
アステリオン重工 実験ダンジョン
5,760クレジット
Tier:7
生還率:4.2%
ユーザーの評価:★☆☆☆☆
「廃工場。クリーチャーが倒せるなら美味い」
— Neon_Ω_diver ↑142 ↓36
「↑嘘乙。洞窟だったぞ」
— Yuta ↑12 ↓8
「↑勇者に汚染されたんだろ。しばらくしたら直る」
— v0id ↑72
——
「生還率、4.2%……」
数字を見て、喉の奥がひくりとなった。
「大丈夫。僕が先導する。君たちは後方支援に徹してくれ」
そう言い残すと、勇者は裏口に消えた。
後に続く。
そこは確かに洞窟だった。
「ゴブリンだ!僕に任せろ!」
「スラッシュ!」
洞窟の奥から現れたクリーチャーは、またたく間に勇者に斬り伏せられ、結晶に変わる。
「強いのは確かなのよね」
リリィが、顔をしかめながら呟く。
クリーチャーを蹴散らす勇者の後をついて歩いていると、脇道からゴブリンが姿を現した。
いつものように、俺は意識を集中する。
電子の存在確率が偏っている。
そう決めつける。
「あれ?」
——電撃が出ない。
「ここは、勇者のテリトリーよ。呪文を唱えないと、魔法は使えない」
リリィが吐き捨てるように言う。
「マジか、さ……さんだー?」
何も起こらない。
ゴブリンが、迫る。
——その時
「静寂の氷、永遠に刻まれよ。雪華の舞い、ここに降り注げ。凍てつけアイスコフィン!」
顔を赤らめたリリィが、早口でまくし立てる。
クリーチャーが凍りつき、砕けた。
思わずリリィを見る。
プイと、顔を逸らされた。
「なあ、雷の呪文も教えてくれよ」
ニヤニヤしながら尋ねる。
「……」
返事の代わりに、黙ってスネを蹴られた。
「さすがlilyだな。そっちの彼は大丈夫か?」
勇者が振り返る。
「ええ、こいつは大魔法専門なの」
「次の群れはコイツに任せて」
そう言ってリリィは、ニヤリとしながらこちらを見返す。
前方からゴブリンの群れがやって来る。
勇者が脇に避け、顎をしゃくる。
俺は、群れの前に仁王立ちする。
深く息を吸い込む。
「
天裂け雷鳴、轟き渡る山河
閃光踊りし道、敵の影を割る河
雷神の怒り、我が手に凝りて
稲妻一閃、闇を払い尽くせ
サンダーフューリー
」
いつもとは比にならない雷光が群れを襲う。
視界は白く塗りつぶされ、耳が痺れるほどの轟音が響いた。
視界が戻ると、ゴブリンの群れは跡形もなく消え失せていた。
満面の笑みでリリィを見返してやる。
リリィは一瞬呆けた顔をしていたが、ハッと我に返る。
唇を引き結び、恨みがましい視線を向けてきた。
「Kだったね。君もすごいじゃないか!」
拍手をしながら、ゆっくりと勇者が近づいて来る。
「この先のボス、ヒュージスライムの核が2つあるんだ」
「それぞれ、氷と雷しかダメージが通らなくてね」
「でも、これなら安心だ」
やがて、洞窟が開けた。
中央に巨大なスライムが鎮座している。
「僕が核を露出するから、その隙にやってくれ」
勇者が構えると、剣が眩い光を帯び始めた。
「行くぞ!聖剣解放!!」
勇者の叫びに呼応するように剣の輝きが一層増す。
振り下ろす剣から光の奔流が迸り、スライムの身体がはじけ飛ぶ。
青と黄色の核が露出する。
「今だ!」
リリィの氷と俺の雷が露出した核を蹂躙する。
後には、高純度の結晶と出口が残った。
勇者が結晶を拾うと、俺たちは揃ってダンジョンを出る。
出た先は大通りだった。
「今日は助かった。報酬はギルドで受け取ってくれ」
勇者はそう言うと、颯爽とタクシーに乗り込んだ。
「タクシーとか、使うんだ」
「都合のいい時だけ設定無視するのよ、あいつ」
俺たちは遠ざかるタクシーを見送った。




