表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第二章 回帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/30

第19話 回帰 / Return

 出口をくぐる。


 そこは——

 リリィの家の、裏手だった。


 地面に、ポツポツと残るオイルの染み。

 義体のものだと、一目でわかる。


 金属製の非常階段を、駆け上がる。

 靴底が、乾いた音を立てた。


 ドアは、開け放たれたまま。


 室内に、

 装甲の大破した義体が転がっている。


 胸部装甲は抉れ、

 配線が、無残に垂れ下がっていた。


「リリィ!」


 呼ぶより早く、

 奥から銀髪が覗いた。


 目を見開き——

 次の瞬間、息を呑む。


「ケイ!」


 その声を聞いた途端、

 膝から力が抜けた。


「……無事か、リリィ」


 言葉の途中で、膝をつく。

 ようやく、息が整う。


「良かった……」


「どうして……ここが?」


 リリィは俺を見つめたまま、瞬きを忘れている。

 驚きと、喜びと、信じきれない何かが混ざった顔だった。


「まさか——」


「ああ」


 俺は、頷いた。


「記憶が戻った。全部だ」

「ダンジョンの最深部に、過去の俺がいた」

「無限の可能性の塊になってな」


 リリィは、言葉を挟まない。

 ただ、聞いている。


「そいつと融合した」

「全部、思い出した」


 少しだけ息を整える。


「どんなに世界が揺らいでも、お前の声だけはいつも届いてた」


 リリィの目が、揺れる。


「俺が溶けかけた時」

「お前が手首を掴んだ瞬間、揺らぎが止まった」


 まっすぐに、彼女を見る。


「俺を繋ぎ止められるのは」

「いつだって——お前だけだ」


 一拍。


 リリィは、視線を逸らした。

 言葉を探している――それが分かる。


 昔から、そうだった。


 感情が先に来ると、

 言葉はいつも遅れる。


 次の瞬間——


 体当たりみたいに、抱きついてきた。


「——っ」


 衝撃と一緒に、体温が伝わる。


 生身だ。

 義体じゃない。


 知っていたはずなのに、

 こうして触れると、改めて実感する。


 腕が、俺の背中を掴む。

 逃がさない力。


「……ほんとに」


 声は、いつものリリィだ。

 低くもない。

 冷静さを装った、素の声。


 でも——


 わずかに、震えている。


「……戻ってきたの?」


「ああ」


 即答だった。


 迷う理由がない。


 俺は、そっと腕を回す。

 確かめるみたいに、背中に手を置く。


 細い。

 記憶の中と、同じだ。


 リリィが、額を俺の胸に押し付ける。


「……ばか」


 小さく吐き捨てるみたいに言って、

 でも、力は緩まない。


 ああ、そうだ。


 俺は、ちゃんと戻ってきた。


 世界でも、可能性でもない。

 今はただ——


 リリィの前にいる、ケイだ。


 抱きついたまま、リリィが息を整える。


「……あんたね」


 胸元に顔を押し付けたまま、言う。


「記憶がないままでも」

「ちゃんと笑って」

「ちゃんと喋って」

「ちゃんと……生きてた」


 声が、少しだけ歪む。


「でも」

「私のことは、知らない顔で見てた」


 腕に、力がこもる。


「昨日も」

「その前も」

「ずっと」


 吐き出すように、続ける。


「義体で護衛して」

「隣に立って」

「それでも」

「私は“初対面”だった」


 一拍。


「分かってた」

「バックアップだって」

「責める気なんて、最初からない」


 それでも、と。


「……思い出してほしかった」


 声が、震える。


「私が誰か」

「どうしてここにいるのか」

「なんで、あんたを放っておけないのか」


 ぎゅっと、服を掴む。


「それを」

「私の口から説明するの、嫌だった」


 少し、間を置いて。


「だから……」

「今日も、何も言わなかった」


 胸に額を押し付けたまま、低く。


「思い出したって聞いた時」

「嬉しいのと」

「怖いのと」

「……全部、一緒に来た」


 ようやく、顔を上げる。


「だから今は」

「離さない」


 はっきりと。


「これは、私の権利」


 言い切った直後。

 空気が、変わった。


 地面が唸り、空気が振動する。


「来るな」


 俺が言うより早く、

 リリィは端末を開いていた。


 地図が開く。

 見慣れた街。

 その中に、灯る点。


「最寄り、三十秒」


「上等だ」


 外壁が、静かに光る。

 照準。


 走る。


 階段を飛び降り、

 路地を切り、

 金属製のフェンスを蹴る。


 背後で、砲撃音。


 前方に、口を開く空間の歪み。


「……相変わらず、逃げ方が雑ね」


 リリィの声が、どこか楽しそうだ。


「護衛役だろ?」


「言ったでしょ。今は——」


 視線を合わせる。


「一緒に逃げる側」


 裏口。

 一歩、踏み込む。


 銃声が、途中で途切れた。


 現実が裏返り、

 音が遠ざかり、

 重さが消える。


 ダンジョン。


 俺は息を整えながら、笑った。


「なあ」


「なに?」


「追われるの、久しぶりだ」


「……そう?」


 リリィは肩をすくめる。


「私は、ずっと」


 二人並んで、奥へ進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ