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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第二章 回帰編

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第18話 邂逅 / Encounter

 地下に降り切った瞬間、重力が一拍遅れて追いついてきた。


 ズン、と内臓が落ち着く。

 今度はちゃんと「下」だ。

 少なくとも、この層では。


 天井は低い。

 だが距離感が狂っている。

 十メートル先のはずの壁が、視線を動かすたびに近づいたり遠ざかったりする。


 通路の左右に、店の残骸が並んでいる。

 シャッターは半分閉まり、内側が覗けない。

 だが——覗こうとした瞬間だけ、中が見える。


 ベッドがある部屋。

 血痕のない手術台。

 視線を逸らすと、店内はただの空きテナントに戻る。


「……まだだ」


 呟いて、歩く。

 ザラザラは、さらに奥だ。


 シャッターの奥。

 長い廊下の、さらに向こう。


 何かが、いる。


 音はない。

 だが、空間の密度が違う。

 空気が重く、意味だけが先に押し寄せてくる。


 ——来る。


 廊下の向こうから、

 それが現れた。


 人の形をしている。

 ……ように見える。


 次の瞬間、壁の一部になり、

 床の模様になり、

 天井の支柱として、()()()()()()()()になっている。


 形状が、観測のたびに変わる。

 いや、違う。


 全部が同時に存在している。

 無限の可能性の塊。


 それが、一歩近づいた。


 ——瞬間。


 視界が、揺れた。


 揺れというより、

 分岐だ。


 俺が、ここに立っている世界。

 俺が、ここにいない世界。

 俺が、壁として存在している世界。

 俺が、床として踏み固められている世界。


 全部が、同時に重なり合い、

 どれもが「今」になろうとしている。


 「……っ」


 喉が、音を出すのを忘れる。

 観ようとしていないのに、あらゆる可能性が押し寄せる。


 「くそ……」


 体の表面を意識でなぞる。

 自我を輪郭を固める。

 

 ——ダメだ


 自我が、薄くなる。

 輪郭が、ほどける。


 雨上がりの匂い。

 むせ返るようなアスファルトの匂い。


 無限の可能性を叩きつけられる。


 俺がダンジョンで、

 俺が宇宙で、

 俺が未来で、

 俺が過去で——


 指を数える。


 1、2、3、5、8、13、21。

 

 増えている。

 止まらない。


 「くそっ……俺は……俺は……」


 出てこない。

 名前が。


 可能性の濁流に翻弄される。

 一つだけ、引っかかる可能性を見つけた。


 ——こいつが、過去の俺の可能性。


「俺を、取り込もうとしてる?」


 このまま近づけば——

 完全に、溶ける。


 でも——


 口の中に、腐ったレモンの味。

 『選んではいけない可能性』


 マニュアルにあった。

 存在の矛盾を孕んだ可能性。


 今の俺と、過去の俺。

 同時に存在することは——矛盾。


 つまり——

 

 「……こいつは俺だ」

 

 ()()に——

 手を伸ばす。


「来いよ」


 レモンの味が広がる。

 身体が一拍をくれて拒絶を思い出す。

 喉がきゅっと縮み、唾液だけが無駄に湧いてくる。


「お前も、俺だ」


 触れた瞬間——

 世界が、弾けた。


 自我が、混ざる。


 今の俺と、

 世界になった俺が——


 一つになる。


 記憶が、雪崩れ込む。


 概念を喰う化け物。


 銀色の髪。

 小さな手。

 必死の叫び声。


 そして——


 世界と一体になった、至福。

 全てが満ち足りた感覚。


 記憶の中から、声が聞こえる。


『ケイ!』


 リリィの声。


『戻ってきて!』


 必死の叫び。


『お願い!』


 その声を辿る。


「俺は……ケイだ」


 名前を取り戻す。

 

 だが、

 拡散は——止まらない。

 世界と俺が混じる。


 それでも、確信できる。

 俺は確かに俺だ。

 ——リリィの相棒のケイだ。


 それで良い。

 俺は世界で、それでもケイだ。

 過去の俺であり、そして、これが今の俺。


「これで—」

 

 力が戻った。

 いや、以前の比じゃない。


 俺は、出口がある可能性を選び取る。

 ——リリィの元に続く出口の可能性を。


 空間にぽっかり穴が開く。


 「待ってろ、リリィ」 


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