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甲州御庭番劇帖  作者: 蕃石榴
壱ノ巻-第四章『中部藩校合同林間合宿』
68/70

#68 侵淫 破「WAKE UP !!」

時は2031年。

第22代江戸幕府将軍の治める太陽の国、日本。

此処はその天領、甲斐国・甲府藩。


甲府藩を守る「甲府御庭番衆」に入隊し、御家人研修を経て、正式に侍として認められた竜の少年・硯桜華。


悲劇の傷が癒える暇さえ許さぬかの如く、次なる試練が桜華に襲い来る。

中部地方の藩校同士が激突する、全国最大規模の合同強化訓練……「中部藩校合同林間合宿」である。


舞台は信濃。

いざ、混沌極まる激戦の渦中へ!

 ~破「WAKE UP !!」~


 ─2031年4月24日 10:20頃─


 〔上田藩 上田市 菅平高原 菅平湖周辺〕

 〈グロブ・スター VS 前田直靂(なおふる)


「はぁ……はぁ……貴様、その硬さだけは褒めてやる……」

 背中のダクトから湯気をモクモクと立ち上らせながら、ゼーゼーと肩で息をする直靂。

「昔っからそれとお喋りだけが取り柄なんでな……まだまだ受け止めさせてもらうぜ?」

 余裕ぶって腹を叩くグロブだが、グロブもまた全身の各所に深い傷や火傷を負っている。


 実に約20分に亘る、拮抗した持久戦。

 卓越した耐久性を誇る両者にも、激戦故に限界が見え始めていた。


 直靂のボディの左腕と右脇腹には、それぞれ深いヒビと大きな凹みがついている。

「(近接戦でも有利を取れると思ったが、やはり流石に踏み込み過ぎたな……想像以上に硬くて斬れず、チタニウム合金の装甲をパンチ一発で凹ませる程にパワーも強い。)」


 直靂は一呼吸して、グロブを睨み付ける。

「貴様の力を侮っていたことも、併せて詫びておくとしよう……」

「やけに素直だな?俺が予想外に強くてビビったか〜?」

「ああ、ビビったとも……」

 直靂はそう言うと、再び腕からホログラムモニターを出し、瞬時に操作する。


「『機動錬成“金”』」

「おっ、また変形か?」

 直靂の両腕にブレードと砲口、背中にウィング、両脚にブースター……これまでの機動錬成の各形態のパーツが、次々と直靂の全身に装着されていく。


「恐れ入った……だから俺も手を抜かず、貴様に全武力を惜しみなく投じさせてもらう。」

 直靂の宣言に、グロブは軽くあしらうように返す。

「いわゆる戦隊モノの全合体ロボみたいなもんか?でもどの武器も、お前がさっきまでの間に色々機能を見せてくれちゃってたからな〜?できることなんざたかが知れ……」


 ギュイイィィーン!


 グロブが言い終えかけた次の瞬間、直靂は青い衝撃波を打たせながら、超高速でグロブの腹部に突っ込んだ。

「がぁっ……ふっ……!?」

 思わず呻くグロブに、直靂は冷たい声で呟く。

「言ったろう、全武力を投じると。」

 直靂はそのまま木々を次々にへし折りながら、グロブを掴んだまま曲線軌道で飛び回る。


「ぐおおおお〜!マジかマジか!さっきはまだ本気じゃなかったってか!こりゃしんどいぜ!」

「その減らず口もすぐ利けなくしてやる。」

 直靂はそう言うと、低空飛行の状態からグロブを前方の地面へ放り投げ、グロブが地面に衝突するとともに両腕から光線を撃つ。


「どわあっ!あっぶねえぇ!」

 しかしグロブはすぐ受け身を取り、光線の余波で吹っ飛ばされながらも全速力で駆け出す。

「鼠風情がちょこまかと……小賢しい!」

 直靂の背と両肩から機銃が伸び、グロブ目がけて掃射を開始する。

 さらに加えて直靂は、超小型ミサイル・スラグ弾・散弾を立て続けに連射し始める。

 周囲の草木は悉く蜂の巣になり、あちこちから火が立ち上る。

「なんつー弾幕だよ……くそっ!流石に避けきれねぇ!俺たち初めましてだったよなぁ!なんでここまで殺意マシマシなんだよぉ!」

「さっき言った通りだ、俺は初めて会った時からお前が憎いとな!」


 バチッ


 グロブの左太腿に一発、銃弾が命中する。

「ぐわっ!」

 バランスを崩し減速したグロブの体に、さらに2発、3発と銃弾や光線が命中していく。

「う、ぐおおお……!」

 直靂は声を荒らげる。

「終わりだグロブ・スター!人間の俺が、人間のフリをする人外の貴様を倒す!当然の結果だ!物言わぬ土塊に成り果てろ!グロブ・スター!」

 

 ドスウゥッ!


 直靂はグロブ目がけて低空から高速で突進、両腕のブレードを揃え、グロブの腹のど真ん中を貫いた。

「ぐ……ぅ……」

 そのまま手足の力が抜けていくグロブ。

「ただの傀儡なら体を破壊しただけでは死なんが、貴様は体内器官まで作り込まれている。ここまで破壊すれば動けんだろう……動物ごっこが災いしたな。全く……害獣駆除にこうも時間を使うとは……」

 直靂がため息を吐き、ぐったりしたグロブからブレードを引き抜こうとした、次の瞬間……


 ガシッ


「何!?」

 その直靂の腕を、グロブの両手が強く掴んで抑えた。

「どういうことだ……背骨も完全に砕いた!立つどころか手足もまともに動かせない筈だ!」

 すると、グロブの腹部に空いた穴から、全身の各所についた傷口から、ドロッと墨のような黒い液体が再び溢れ出る。

 今度はバケツをひっくり返したかのような、大量の液体が溢れ出す。


「言ったよな?やっぱりお前、俺のことなーんにもわかってないって……早合点が過ぎんだよ。」

「この液体……その不死性……ただの式神ではない!お前、一体何者だ……!?」

 愕然とする直靂に、グロブは不敵にニヤつきながら応じる。

「お前、何者だ……!?と聞かれたら、答えてやるのが世の情け!ってやつだ……教えてやるよ。」


 グロブ・スターとは何者か?


 〜〜〜〜〜〜


 甲府藩・富士河口湖町にある富士五湖の一つ・精進湖……その南東には、大雨が降り続く時にのみ現れる小さな湖沼があった。

 その名を「赤池(あかいけ)」という。


 限られた条件でしか姿を見せない、富士五湖六つ目の霊湖。

 人々の好奇心や畏怖を集め続けた赤池は、それ故に、いつしか妖魔が多発する魔の湖沼へと変貌していた。


 遡ること8年前。

 その赤池に、通り掛かる妖魔や動物を食い荒らす「怪物」が発生したという、特種案件の報告が上がる。

 乙位未満の御家人ではまともに手がつけられず、現場に出向くこととなった御庭番・新藤後国音が見たものは……


「俄には信じ難いが、これは……神の悪戯なのか……」


 全体あるいは部分的に霊体である妖魔とは全く異なる、実体を持つ黒く巨大なスライムのような肉塊であった。

 肉塊は湿った土の匂いを漂わせ、長く伸びる不定形な無数の触手。


 現場周辺では数日前、解析のため甲府城へ輸送中の術巻が数本、事故により散らばってしまうという事象が発生していた。

 そのほとんどは即座に回収されたが、残る1本だけはどうしても見つからなかった。


 同時期に起きた、術巻輸送事故と赤池での怪物発生。

 国音はすぐに察した。

 通常の生物が何らかの原因で術巻を取り込んでしまい、生物とも妖魔ともつかぬ怪物へ成り果てたのだと。


 宛も無く彷徨う怪物。

 何を思ったのか、国音は怪物を連れ甲府城へ帰参する。


 その後の解析で判明したことは、大方は国音の予想通りであった。

 湿地に生息するアメーバ様の微生物の集合体が、術巻を取り込んだことで強い自我と高い知能を得たとみられるというのである。


 怪物はさらなる研究のため、甲府藩に保護されることとなる。

 魂魄を保護する特殊な魔布でできた、モルモットの着ぐるみを与えられて。


 〜〜〜〜〜〜


 彼の身体を構成するのは、彼自身の細胞群。

 彼の自我を構成するのは、本体たる術巻のソウル能力。

 即ち彼は、自身を本体とする特殊な式神である。


 飯石夕斎らの手引きで、身体を得、言葉を得、人間を知った彼は、自らを名無しの肉塊……「グロブ・スター」と名乗るようになったのである。


「……ってなわけで、泥から生まれたグロブ・スターだ!以後よ〜く覚えといてくれ!」

「あり得ん……“旧式”を除き、式神が本体抜きに完全自立稼働できるなど……!」

 高笑いするグロブに対し、直靂は信じられないという様子でカタカタと小刻みに震える。


「あと体内器官がどーたらと言ってたが、ありゃブラフさ……動物ごっこが好きなのも相俟って、群塊を内臓っぽく固めとくくらいは朝飯前よ!そして魔力操作で群塊操作の精度を高めれば、こんなことだって……」

 そのセリフとともに、グロブの右腕が肥大化し、毛皮の下から険しい山脈のような筋肉が浮き上がる。


 そして左手で直靂の腕をより強く掴むと、そのまま肥大化した右腕を大きくスイングし、直靂の顔面に拳を直撃させた。

「『(ストロング)()(インパクト)』!!」

 拳から黒い水滴が大量に飛び散り、直靂のボディの内部にも染み込み、さらに激しく炸裂していく。


 メギョメギョメギョッ……バキィッ!


 全身から煙を上げ、バイザーとモノアイを大きく陥没させ、後方へと大きく吹っ飛ばされる直靂。

 各所のランプがチカチカと点滅し、ギューン……と駆動音が低く小さくなっていく中、直靂はそのまま力なく仰向けに倒れ込んだ。


「ただのパンチじゃない……拳に込めた魔力のエネルギーを、飛散・浸透させて炸裂させた……」

「その通り!一発撃たれただけでよくわかったな……お前スゴいぜ。」

 直靂の分析に、素直に手を叩き賞賛するグロブ。

「釈然とせんな……何故最初からやらなかった……」

「そりゃなぁ……俺だって最初からやってやりたかったけどよ、足りなかったんだよ……」

 グロブはそう言うと、足元に流れる細い水を指す。

「沢……だと……」

「ザッツライト!水は俺の生命線!お前に切られ焼かれとされてるうちに、群塊はどんどん減ってたからな……回復や大技のためには増やさなきゃいけない、増やすためには水が必要だったってわけだ。」

 直靂は右腕を上げると、またすぐにパタリと下ろした。


 グロブは続ける。

「遠隔攻撃に徹してりゃ勝てたと思うぜ、けどお前にその手段は無かったんだろ?俺を否定するために、自分の手で直接捻り潰したかった……違うか?」

 直靂は無言のまま答えない。

「お前の敗因は拗らせコンプだったってわけだな。」

 グロブはそう言いながらえっちらおっちらと歩き、破損した直靂の傍に座り込む。


「何のつもりだ……冷やかしか?」

 割れたマスクの隙間から怪訝な顔で見つめてくる直靂に、グロブは腰に手を当て首を横に振る。

「俺なんかに話したくねーかもだけどよ、俺は知りたいぜ?何があったよ?何に困ってんのよ?俺に手伝えることがあったら何でも言ってくれよ?お前にとっちゃ俺は憎くて憎くて仕方ねーかもだけど、別に俺はお前の敵じゃねぇ。」


 直靂の目元が少し緩む。

「俺は……ただ……独りが嫌いなだけだ……」

「お、素直に話してくれんじゃ〜ん♫サイボーグなのは生まれつき体に問題があるからなんだろ?」

「その通りだ……家族も誰も居ない部屋の中、ただ独り病臥に伏す……その心細さを永遠に忘れられない。」

「だから仲間が欲しかったのか?」

「そうだ……仲間が、居場所が、欲しかった……だから、死に物狂いで手に入れたんだ……求めている間はそこがゴールだと思ってた。だが、手に入れてみてわかった、そこに居続けることは手に入れるよりも何倍と難しいことを。だから失うのが怖かった……仲間に見向きされなくなるのが怖かった……」

「ホントに素直に話してくれるな……キャラ変わった?」

「バカ言え、敗けて自棄を起こしただけだ。俺はいつ失うかもわからん恐怖に苛まれ続けるのに、貴様はまるで何食わぬ顔で、自然体で仲間の中に溶け込んで……その“差”が気に食わなかった……」

「“差”ねぇ……実際そんなもんあるかねぇ……」

「俺が感じたならそこにあるだろ……だから貴様を否定すれば、少しは自分を肯定できると……そう思ったんだ……少しだけでも……」

「色々心中お察しするが、そりゃ俺をぶちのめしてもなーんにも解決しねぇ問題だな。」

「わかってる……そんなこと最初から……」

 直靂は左腕を目元に置き、深くため息を吐く。


 そんな直靂の肩に、グロブは手を乗せる。

「言ってみりゃいいんだよ、お前らのことが大好きだけど不安です、って。」

「何を言ってる……?そんなの言えるわけ……」

「そこを言うんだよ〜!ったく、人間ってのはすぐあれやこれやと要らねぇ心配をする、面倒くせー生き物だよな。」

「面倒臭くて悪かったな……」

「ビビる必要なんかねーんだよ、好かれるのもそりゃ大変だろうが、嫌われるってのも意外と難しいぜ?それに……」

「それに?」


 グロブは親指を立ててニカッと笑ってみせる。

「人外の俺が人間様にこう言うのもなんだが、人間ってのは思ったより怖くないぜ。」


「……」

 直靂は腕を下ろし、黙って空を仰ぐ。

 その眼にはもはや敵意や憎悪は無く、ただやり場も形も無い感情が空回りするのみであった。


 グロブは続ける。

「もしそれで嫌われるようなことがあったら俺に連絡寄越せ?俺が文句言いに来てやるからよ。」

 直靂は呆れた様子で返す。

「何故だ……お前が俺にそんな義理あったか?」


「あるよ、俺もお前の友達になってやるからだ。」

「……!」


「さーてとっ、そんじゃ急いで!可愛い後輩たちのところへ加勢に向かうとしますかぁ〜!」

 グロブはプイッと鼻を鳴らすと、四足で勢いよくどこかへ駆け出した。


 グロブは森を駆けながら、保護されて少し経った頃に夕斎と交わしたやり取りを思い起こす。


 〜〜〜〜〜〜


「ねぇ殿様……ありがたいことだけどよ、なんであんたはそんな親切なんだ?与えてばっかり、施してばっかり、そういう趣味なのか?」

 食堂で奢られた定食にがっつきながら、グロブは向かいの席の夕斎に尋ねた。

「そうだな……もちろん趣味と言われれば否めぬが、これから人の中で生きていくお前には、“施される喜び”というのを知ってほしいと思ってな。」


「“施される喜び”?」

 グロブが鼻に米粒をつけたまま首を傾げると、夕斎はフッと微笑みグロブの頭を撫でた。

「賢いお前にならすぐわかるであろう……単に腹を満たすに留まらぬ、施されることそのものへの喜びや感謝……綺麗事のようだが、人の心を良い方向へ動かせる最も大きな力は、人の善意だ。お前もいずれ施す側になる時が来る……その時までに覚えておきなさい。」


 〜〜〜〜〜〜


「へへっ……俺はあいつの心を動かせたかね、夕斎様よ……」

 グロブは駆けながら一人呟くのだった。


 一人残された直靂に、タテハから通信が入る。

「直靂センパ〜イ、お〜い、聴こえます〜?そっちの首尾はどんな感じ……」

 直靂はタテハの言葉を遮り報告する。

「悪いが敗けた……グロブ・スターはそっちへ向かっていったぞ……」

「えあっ!?マジで!?」

「悪い……役に立てなかったな……」

「ん?え、いやいや、そんなこと気にしてないですよ、直靂センパイ程の人が負けるなんてビックリだけど……お疲れ様です、センパイ。後は任せて!」

「……!」

 直靂は少し驚いたような顔をした後、フッと僅かに微笑み息を吐いた。

「頼んだ……」


 【グロブ・スター VS 前田直靂】

 勝者:グロブ・スター

 賞品:小さな友情?


 ──────


 ─2031年4月24日 10:20頃─


 〔上田藩 上田市 菅平高原 菅平湖周辺〕

 〈狗神恋雪 VS 奥村福殷〉

 【夢の世界】


 〜〜〜〜〜〜


 漠然と、でも強く、昔から思っていた。


 居場所が欲しい、誰かの役に立ちたい。


 でも大人たちは、里の外へ出ることを決して許してはくれなかった。


 だから、あの日、ボクはこっそり抜け出した。

 身のこなしにも、隠密行動にも、たっぷり自信があったから。


 ダメと言われてたことを、堂々とやってのける。

 背中に羽が生えたかと思うくらい、清々しく気持ちよかった。

 調子に乗って、目一杯山道を駆って降って、大人たちの居る狩場へ向かうつもりが……ボクは気付かず迷子になっていた。

 絶対に踏み入れてはならないと言いつけられていた、森の境目を越えて……


 森の外れに出てすぐに、人間に声を掛けられた。

 初めて見た、耳も尻尾も生えない人間。

 ボクは怒られると思って急いで茂みに隠れたけど、その人は怒るどころか立つ元気も無いみたいだった。


「道に迷っておるのだ、善ければ人の居る場所へ案内してくれぬか……飲まず食わずで、もう死んでしまいそうだ……」

 通りすがりの人間だけど、困ってる……ボクでも何か役に立てる?

 そう思って里に案内した。

 たまたま大人が居なかったから、その場に居た子供たちだけでもてなした。

 いっぱいお水を飲ませてあげて、たらふくごはんを食べさせてあげて、通りすがりの人間は最後に「ありがとう!今度は仲間も連れて礼に参るよ!」と、すっかり元気になって帰っていった。


 初めて誰かを助けられた!

 初めて誰かの役に立てた!

 ボクは嬉しくて嬉しくて、その日はずーっとニマニマして過ごしてた。


 それからしばらくしてのこと。


 通りすがりの人間は、約束通り、いっぱい仲間を連れてやってきた。


 長い包丁みたいなものや、細長いモリみたいなものや、黒い筒みたいなものを持ってやってきた。


 ボクは子供たちと大喜びしたけど、大人たちの顔は凍り付いていた。


 それから、里はトマトを潰したみたいに真っ赤になった。


 家も、地面も、そして人も。


「逃げろ恋雪!お前まで死んでしまったら、山窩の里の血は絶えてしまう!逃げろおぉ!」


 炎を上げ崩れゆく里を背に、狸はひたすら必死に三日三晩走った。

 走って、走って、知らない街へと駆け込んで、そこで力尽きた。

「この子……獣人よ!とにかく今すぐ保護しないと危ないわ〜ん!」

 大雨の中、泥と葉っぱに塗れてグショグショになって、用水路に引っ掛かっていたんだっけ。

 呆気なく死んでしまうところを、最後の最後でボクはまた生き延びてしまった。


「恋雪よ、其方の縄張りならば此処に在る。」

 そう教えてくれたのは、優しい優しい甲府のお殿様だった。

「そして、此処に居る人間は皆信用して良い、儂が保証する。」

 幼いボクにはそのありがたさがよく理解できなかったけど、今ならよくわかる。


 一度は己の勝手な行動で里を滅ぼしてしまった子供を、罪人どころか仲間として匿う、その懐の広さと深さ。

 だからボクは思ったんだ……何が何でも、この人の役に立ちたいって。


 夕斎様には大切なものがたくさんある。

 桜華先輩もまたその一つだ。

 奪わせたくない……夕斎様の下へ帰したい……


 〜〜〜〜〜〜


 けどボクはまだ何の役にも立ててない。


 大名飛蝗も先輩たちが居なきゃ倒せなかった。

 鬼火の時はただ翻弄されるだけで何もできなかった。


 そして今も……


 ──────


 恋雪はあることに気付くと、根子とともに茂みから顔を出し、周囲を見渡す。

「思い出したッス……これは……この光景は、菅平の森なんかじゃないッス……」

「そう、それなんだよ〜!私も変だと思ってたんだけど……」

「ここは……昔ボクが暮らしてた里の景色……」


 2人が振り返ると、その前には藁葺き屋根の集落が広がり、煤を撒き散らしながら業火に包まれていた。


「ここはただの夢じゃない……ボクの悪夢……!」

 根子は釣られて驚いた顔をした後、うーんと手を口元に当てて考え込む。

「ここは恋雪ちゃんの悪夢の世界、だとすれば眠りに落ちた他の人も巻き込まれているのは何でだろう〜?シンプルに誰の悪夢を発現させるか選べるってだけなのかな〜?」


「それがわかったら何になるんスか?」

 首を傾げる恋雪を、根子はビシッと両手人差し指で指す。

「ズバリ!それが攻略の糸口になるかもしれないんだよ〜?」


 恋雪は両手を振って目を輝かせる。

「本当ッスか!?聞かせてくださいッス!」

「いいよ〜、というのもねぇ〜……恋雪ちゃんは知ってるかどうかわからないけど、あの木偶人形、私にはあんなことを言ってきてさ〜……」

「どんなことッスか?」

「それがね〜……」

 根子は夢の世界に引き摺り込まれた直後、木偶人形から投げ付けられた台詞を反復する。


 〜〜〜〜〜〜


「気を付けなよ、ちょっと変な動きを見せたら……お前らの首なんてチョンパできるんだぞ!ここは夢の中の世界……でも普通の夢とはちょっと違う!ここで起きたことは現実でも起きる!そう、正夢になる!」


 〜〜〜〜〜〜


 恋雪は眉を顰める。

「うーん……でもそれって、ただのハッタリだったりしないッスか?」

「その可能性もあるけど〜、複数人を巻き込んで夢の世界に閉じ込めるって、結構大規模で複雑な呪詛を組んでる気がするんだよね。そういう呪詛をちゃんと安定稼働させるには、相応の制約がいくつか必要なんじゃないかな?っていうのが私の見立てだよ。つまり……」

「現実にダメージが反映されるという発言は、いわゆる能力内容の宣誓ってこと……ッスか?」

「そうかもね〜、そして道中、巻き込まれてる人はいくらか見かけたけど〜……同じ姿をした人を2人立て続けに見かけたこともあるんだ。」

「な、なんスかそれ、分身?」

「ふふっ、そうとも取れるけど〜、今思えばあれってたぶん、“本体”と“霊体”みたいなものだと思うんだ……もしさっきのダメージフィードバックの話が本当だとして、今みたいに恋雪ちゃんの頭が欠けたりしてるのが現実に反映されたら、恋雪ちゃん死んじゃうでしょ?でもこうして夢を見続けてるわけで……」

「あ、頭がこんがらがってきたッス……」

「んと〜、要するにこの夢の世界には、眠っている体(本体)と、夢を見ながら動いてる魂(霊体)がそれぞれある。あの木偶人形の攻撃は、霊体が受けても現実の肉体への影響は無いけど、本体が受けると現実の肉体へもダメージが反映されるってこと。あくまで推測だけどね。」

「じゃあ本体を見つければ何とかなるってことッスか?ボク鼻は利くからすぐ見つけられるッスよ!」

「そうだね〜……仮に見つけることができたとして、夢から覚めることができるかは別問題かも……でも、私に一つ考えがあるよ〜。」

「考え?」

「うん、だからまず恋雪ちゃんには、私の体を探してほしいんだ〜。」


 ──────


 ─2031年4月24日 10:20頃─


 〔上田藩 上田市 菅平高原 菅平湖周辺〕

 〈汀琳寧 VS 奥村栄渼〉

 【現実世界】


 森の開けた草むらの中。

 白髪の小柄な少年……奥村福殷が胡座をかいて眠る、その周囲には、20人以上に及ぼうかという数の藩校生たちが、地面に転がりすやすやと寝息を立てている。


 その少年の隣に、つんと顎を上げ立っているのは、吊り目で姫カットの中背の少女。

 少女は手を広げてネイルを見つめながら、気だるそうに声を発する。

「ふふ〜♫やっぱりネイルが決まると気分がアガるわね♫うちに孝春先輩が居てよかったわ♡」


「で……いい加減に諦めてはいかが〜?もうアナタに逃げ場は無いのよ……この“路地”に近付いた時点でね。」


奥村(おくむら) 栄渼(えいみ)

~壮猶館(加賀藩校)10年生 / 加賀藩筆頭家老家「加賀八家」・奥村家(宗家)の次女~


「(考えるのよ汀琳寧……根子はダウン、仙太の奴はどっかで逸れた、頼りになるのは自分だけ……)」

 琳寧は木陰で蹲り、一切顔を上げようとしない。

「(とりあえずわかってるのは、あの女に近付くと眠ってしまうということ……能力のトリガーが何かは察した……目!)」

 栄渼の瞳には、瞳孔から三角形の輪が広がるような線が描かれている。

 そして周囲の木々には、びっしりと人の目の模様が刻まれている。

「(あの女と一定時間以上目を合わせることが発動のトリガー!しかも展開術式で、トリガーの条件を“自分の手で描いた目”にまで拡大してる!)」

 能力を察しようにも、解法が無く身動きも取れない。

 琳寧はまさに詰みの状況に置かれている。


「(どうしろっていうのよ〜……!)」

 一人静かに絶叫する琳寧の元に、突然スマホの通知音が鳴り出す。

「はぁ?DM?何よこんな時に……って、根子……!?」

 スマホを胸の中に取り込み、急いで通知欄を開くと……そこには根子からの非常用メッセージがあった。


「根子:よんで りょうかい こわせる ひと」


「りょ、りょうかい……まさか、領界のこと?それを壊す……壊せる人って何よ……っていうかどうやって寝ながらメール送って……」


 ──────


 【夢の世界】


 場面は再び夢の中。

 眠る根子の“本体”の前に、恋雪と根子の“霊体”が立っていた。


 根子の“霊体”の右手は、表面が外れて黒い下地が剥き出しになり、一回り小さくなっている。

「情報収集からこんな作戦まで思い付くなんて、根子先輩すごいッス……!」

「新聞部の記者だからね〜、取材も編集も自分でやってるし〜。」


 根子の“作戦”。

 それは、自身の“本体”に「フェイス・オフ」で“霊体”の右手を貼り付け、“本体”が右手に持ったままのスマートホンを操作するというもの。

 自身の身体の一部を貼り付けたものを、ある程度自分の意思で操作できるのは、「フェイス・オフ」の展開術式である。

 夢を見ている“本体”に比べ、夢を見ていない“本体”の方がより覚醒に近い状態──つまり手足を辛うじて動かせる、金縛りに近く身体を動かしやすい状態である筈と見ての作戦。

 こじ付けと憶測に塗れた理屈、そもそも理屈の通じない夢の中の世界における、賭けに等しい作戦。


「こういうことされるのを向こうが想定してるかはわかんないけど、もしそうだったとしたら良くないから〜……警戒と応戦は恋雪ちゃんに任せたよ〜?」

「任せてくださいッス!対抗戦、ボクは今のとこ良いとこ無し続きなので……ここでくらい役に立つッス!」

 恋雪が大手を挙げて宣言した矢先、木偶人形の式神が木々の向こうから接近してきているのが見える。


「ヒーホー!お前らぁ〜っ!やっと見つけたぞ!わざわざ自分たちの身体を探しに来て、いったい何を企んでるのかな〜!?」

 式神は急速に距離を詰めてくると、恋雪と根子目がけて鋭い爪を振り下ろす。


 ガキンッ!ギギギギ……


 間髪入れずに神威で爪を受け止める恋雪。

「だからお前さぁ〜、やっぱバカでしょ……さっきので学ばなかったわけ?僕の支配する夢の世界じゃ、僕を倒すことはままならないって……」

「バカでも無理でも、できるベストを尽くすのが御庭番ッス!ボクはまだまだひよっ子だけど、悪あがきくらいならいくらでも……!」

「それをバカだし無駄だって言ってんだよ!どれだけスゴんでも、結局はただ目を背けているだけ!人間の心の本質はいつだって後悔や罪悪感にある……最早変えることのできなくなった過去を、ああすればよかったこうすればよかったと、心の奥底ではそれを永遠に引き摺り続ける……悪夢とは謂わば心の虚なわけだ!それを形にするのがこの能力『千里夢中(インセプション)』!」

 恋雪は唇を噛み、神威を互い違いに交差させ、斜めに身体を曲げて構える。

「だったら何スか!いくら悩んでも頑張っても、昔の過ちが無かったことになんてならないのは百も承知!あんたが見せてくれなくたって、ちょっと寝れば里のことなんていっぱい夢に出てくるッスよ……でもボクには今がある。主君が居て、仲間が居て、今のボクがある!過去は背負っても立ち止まらない!ボクは今とこれから先を見て生きるッス!」

 恋雪はそう啖呵を切ると、錐揉み回転しながら式神の胸目がけて鉄砲のように飛び出す。

「『烈風剣舞・錐噸(すいとん)』!」


 ドヒュンッ!


 式神は両手を交差させ、伸びた鉤爪で恋雪の突進を受け止める。

「だから無駄無駄、無駄だって!いくら叩いたとこで……」

「無駄じゃないッスよ……ほら!」

 嘲笑う福殷の声をものともせず、恋雪は回転を速めていく。


 ギャリリリリリィッ……ガキンッ!ドスッ!


 螺旋が鉤爪を破り、式神の胸を貫く。

「うぐっ……痛い……だと……!?」

「やっぱり!効果は薄くても少しはダメージが通るッス!」

「何しやがった……この狸娘ぇ!」

 怒りに任せて式神が右腕を振り抜くと、恋雪は右腕の上に乗って駆け上がり、回転しながら式神の顔を2枚の剣で次々に叩く。

「うわぶっ!くうぅっ!」

 式神は体を揺さぶって恋雪を振り落とそうとするものの、恋雪はピョンと宙を舞い、今度は縦に回転しながら左腕の上を転がり上がり、さらに頭を掴んでグルグルと回転する。

「おいっ!やめっ!離れ、ろっ!」

「ひゃっほー!」

 慌てふためく式神を他所に、恋雪は満面の笑顔で飛び回る。


「(さっきまでの悪夢に翻弄されてた狸娘はどこ行った!?こいつまるで……自分の悪夢の中で、楽しんでるみたいに……!)」

 夢の世界は深層意識の世界であり、グラマー界に近い場所にあるため、その世界の“主導権”は睡眠者にある。

 福殷のソウル能力「千里夢中」は、対象の深層意識に侵入して悪夢を見せることで精神を抑え付け、夢の世界内における“主導権”を奪う。

 この能力の呪詛は極めて複雑であり、魔術の練度の低い福殷は複数の制約を設定することにより、より安定的な術式運用を実現している。

 しかし、本能力の肝心要である、「対象の精神の抑制」という条件が何らかの要因で十分に満たされない場合、当然ながら制約の有無など関係無く術式は破綻していく。


「(わかったぞ……こいつ、単純に超ポジティブなんだ!頭の出来方が幸せな奴なんだ!マズい……これ以上夢の世界の中心をこいつにし続けるべきじゃない!今すぐにでも対象を切り替えなきゃ……)」

 複数人を対象に能力を発動させ、そのうちいずれか一人を対象として夢の世界を展開し、万が一精神の抑え込みに失敗しても対象を切り替えることで、術式の破綻を回避する。

 これは福殷の展開術式であり、福殷が予め設けた“保険”である。


「見飽きた悪夢にはバイバイッス!目指すは夜明け!」


「たぶん送信完了っと……流石は恋雪ちゃん、メンタルつよつよで助かる〜。」

 そんな中、根子は“本体”でのスマホ操作で、何かを送信する。

 その先は、現実世界──


 ──────


 【現実世界】


 ピロン♫


 スマホの通知音に気付いた琳寧は、慌てて画面を開く。

「はぁ?DM?何よこんな時に……って、根子……!?」

 琳寧は驚いた様子でDMを読むと、フッと口角を少し上げた。

「なるほどね……わかったわよ、やってやろうじゃないの!」


「何かしら?木陰でコソコソブツブツと……」

 栄渼は木陰に隠れ何かを小声で呟く琳寧の様子を、訝しげに見つめていた。


 ──────


 【夢の世界】


「よく聞くッスよ、奥村福殷!ボクは決して1人じゃない!1人じゃ勝てないなら2人で、2人でも勝てないなら3人で、チームで戦うのもまた侍ッス!」

「どういう意味だよ……!」

「今回は他力本願作戦ってことッス!ボクにも根子先輩にもここから脱出する術が無いなら、誰かに叩き起こして連れ出してもらう!」

「だからどういう意味……!」

 捲し立てる恋雪に、式神が言い返しかけた次の瞬間……


 バリイィッ!


 突然空に大きなヒビが入り、地面が大きく揺れ出した。

「ヒーホー!?な、なんだこれ!?夢の世界が……壊れ……!?」

「成功ッス!これでみんな出れる!悪夢から現実へ──」

 

 ──────


 【現実世界】


「ど……どうして……」

 数秒経って現実世界。

 そこには青く光る縄で縛られた、起きた状態の福殷と、栄渼の姿があった。


「どうして……成瀬狛虎がここにいるのよ……」

 震える声で問う栄渼の前に立っていたのは、明倫堂の成瀬狛虎であった。

「そりゃあ、呼ばれたから来たとしか答えらんねーよなぁ……まさかライバルから救援を求められるとは思ってもみなかったが、緊急事態っつーことでチャラよ。」

 腕を組み得意げに話す狛虎。


「こればっかりは根子の機転の利きっぷりのおかげね。」

 腕を組みため息を吐く琳寧に、根子は首を横に振る。

「最初に気付いてくれたのは恋雪ちゃんだよ〜?福殷君の作る夢の世界は、対象の人間の無意識を統合して構築した領界の一種……領界を破るには領界をぶつければ良いってことで、領界を破るのが得意な成瀬先輩に来てもらいました〜。」

 根子が夢の世界から琳寧へ送ったDMの内容は、狛虎に事情を説明して応援を寄越してほしいというものであった。


「成瀬先輩は昨日のレクリエーションの時に、桜華先輩繋がりで連絡先交換してたんスよね。陽キャのコミュ力に助けられたッス!ボクは暴れるくらいしか役に立てなかったけど……」

 少し苦笑いする恋雪の頭に、根子がポンと手を置く。

「ありがとう恋雪ちゃん……恋雪ちゃんがあそこで式神の気を引いてくれたおかげで、成瀬先輩を呼ぶまでの連携が成立した。君が居なかったらできなかったことなんだから、いっぱい誇っていいんだよ〜。」

 根子の言葉に恋雪はパッと顔を輝かせ、ひょこひょこと上下する。

「ほ、ほんとッスか!?やった!やった!」


 狛虎は一息吐くと、恋雪たちの方へ向き直る。

「しかし恋雪ちゃん……壮猶館の動向が怪しいってのはマジな話か?確かに今の時点なら既に大暴れしてそうな前田利雅が、イヤに静かだなとは思ったが……」

「本当ッス!加賀八家の世嗣さんたちが、みんなして桜華先輩を拐おうとしたんス!」

「はあ?桜華君を拐おうとしてるだと?加賀八家の世嗣ならこの2人もそうだが……その話を信じるなら、コイツらは何してたんだ?寄ってくる他藩校生の露払いか?」

 狛虎が首を傾げると、チャリンとアクセサリーが音を立てる。


「それは……そこら辺どうなんスか?」

 恋雪は振り返り、不貞腐れた顔の福殷と栄渼に問い掛ける。

「どうなんスか?じゃないわよ、答えてやるわけないでしょ。」

 栄渼は目を閉じ、そっぽを向いて口を噤んでしまう。


「釈然としねぇな……桜華君を拐おうとしてるんなら、その理由は何なんだ?話せない程ヤバい事情でもあんのか?」

 福殷も栄渼も答えようとしない。


「とりあえず、ゲームから外れて他校生への攻撃に目的化した行為を取られちゃ、こっちも運営に通報せざるを得ねーな……仕方ねーけど、ゲームは一旦止めて桜華君たちの方へ加勢に……」

 狛虎がそう言いかけた、次の瞬間……


 ズドンッ


「こ、今度は何スかあぁ!?」

 凄まじい地鳴りに、再び慌てふためき出す恋雪。

 周囲一帯の地平線から土煙が上がり、ガラスのような透明な壁が昇ってくる。


「結界の張り替え……?会場の結界が破損したのか?それにしちゃ随分乱暴な張り替え方だが……」

 狛虎が恋雪たちを掴んで支えながら首を傾げていると、恋雪が慌てて手を振りながら答える。

「ち、違うッス!成瀬先輩!この結界は……」


 【狗神恋雪&本宮根子 VS 奥村福殷&奥村栄渼】

 勝者:狗神恋雪&本宮根子


 ──────

 

 ─2031年4月24日 10:30頃─


 〔上田藩 上田市 菅平高原 菅平湖周辺〕


 会場を囲む結界、その外側の縁。


 知恵の輪のように歪められた地面や木々に、結界の縁を警戒していたであろう御家人たちが連なり絡まっている。


 異様な光景の中、結界の内側へ向かい佇む者が一人。


「蛙の子らは、鍋へ入れられたことにすら気付かず、ただ跳ね回るのみ……」


 氿㞑である。


「さて、そろそろを火を入れることとしましょう。」


 氿㞑が結界に背を向けると、結界内の上空から空を破るような音が立つ。


 一つの火球が、会場に向け一直線に、墜ちていく。


 〔つづく〕


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

〈tips:人物〉

前田(まえだ) 直靂(なおふる)

 加賀藩筆頭家老家「加賀八家」・本多家(加賀本多家)の三男で、壮猶館の高等部11年生。

17歳で、段位は乙位。

 壮猶館の主力である加賀八家の次期当主の一人であり、武力の塊のような兵装の数々と荒々しい性格から「荒事鬼(あらごとき)」の異名を持つ。

 先天奇形により生まれつき両腕両脚が無く、臓器機能も全体的に弱いため、全身各所に機械を組み込んで身体能力を増強したサイボーグとなっている。

 これは「身体が不自由になることを代償とし、莫大な魔力および高度な魔力操作能力を得る」という天賦禁制の一種であるが、直靂自身はこの体質を「前田土佐守家の凶兆」として忌み嫌っている。

 理知的で頭の回転が速いが、突慳貪(つっけんどん)かつ短気で喧嘩っ早いきらいがあり、威圧感のある態度もあって後輩たちからはやや怖がられがち。

 加賀八家や梅花隊を心の拠り所としている面もあるが、自身の体質から仲間たちに対し強い引け目を感じており、人外にもかかわらず仲間と自然に打ち解けるグロブに対してはそのコンプレックスを爆発させた。

 戦闘では自身のサイボーグの身体に様々な魔導具を組み込んだ装置を仕込み、液相と固相を自在に行き来する特殊非鉄合金による変幻自在な兵装の数々を駆使して、陸海空問わず自由自在に柔軟に立ち回る。

 メカは男のロマンと言うが、直靂自身はそんなにメカ好きではなく、この路線の戦闘スタイルを最初に提案したのはロボ好きの長連翹だったそう。

 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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今後ともよろしくお願いいたします(o_ _)o))

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