007.狂人は再臨する
「――――ちッ…………逃がしたか…………ッ」
上位世界にあるアンリミット超神帝国帝王城からの直接転移と同時に仕掛けた奇襲は成功した。
その後、今の自分の力を計りつつ、順調にくそ女神を消滅の道へと追いやることにも成功した。
だが最後に、くそ女神を完全消滅させるために全力全開で放った俺の攻撃は失敗してしまった。
原因も既に分かっている。
今の俺は天格者となったことで、くそ女神程度ならば力による圧倒はできても瞬殺はできない。
だからこそ一撃で消滅させるため、【狂天】と《十六夜兵装》を併用させることで今の俺に出せる最大攻撃を出すことにしたのだ。
【狂天】という能力の真骨頂は、文字通り対象を狂わせることにある。
ここで重要なのは、天能に限界がほとんどないことだ。
まだ位階が『天師』である俺でも、範囲を限定してしまえば【狂天】を自由に扱える。
それを踏まえて考えれば、今回俺がしたことは簡単だ。
ただでさえ破格な性能を誇る《十六夜兵装》を【狂天】で限定的に狂わせ、更に性能を狂的に上げる。
それによって、それぞれが持っていた固有能力も増えたり強化されたりして、結果的にできることもかなり増やすことに成功する。
そうして可能性が増えたことで、ようやく初めて十六の武器を一つに融合させることができるようになり、くそ女神をも一瞬で消滅させられることのできる兵器が誕生したのだ。
後はそれを用いて己の復讐を果たすのみ。
だが、終幕は訪れない。
限界まで蓄積させた力を解き放つ寸前に、異常事態が起こったせいだ。
その異常事態とは、突然現れた四体の新手のことだ。
何れも感じる力はシェルミール以上であり、【狂天】と〈十六夜兵装〉のドーピングによって反応速度を超光速まで引き上げた俺でさえ、その展開は物凄く速く感じられた。
出現と同時に、三体の乱入者は俺に向かって無視できないレベルの攻撃を放ってきた。
流石の俺もこれには反応せざるを得ず、咄嗟に蓄積させていた力を迎撃のために解き放ってしまう。
間違いなく、俺の必殺のタイミングを完璧にずらされた瞬間であった。
そして、そこからは散々である。
俺たちが力による押し合いを始めた隙に、残った一体がさっさとくそ女神を回収して消えてしまう。
直前になって俺もその動きに気がついたが、目の前の三体が邪魔をすることで俺も自由に動けない。
焦った俺は、果たして無理矢理に放出する力の出力を上げることで押し通ったものの、その時すでに周囲はもぬけの殻。
超光速の世界において、僅かな隙を突かれた一瞬の出来事である。
俺の限界を超えた攻撃によって溢れ出た光も止んだ頃になって、最高潮まで盛り上がっていたはずの復讐劇が最後の最後で躓いてしまったことに理解が追いつき、俺は盛大な苛立ちと悔しさを込めて舌打ちをするのだった。
暫くその場で呆然としてしまっていたが、俺はすぐに状況の確認を急ぐ。
今回の復讐は失敗した。
けれどあのくそ女神が生きている以上、俺にはまだ復讐する機会は残っているのだ。
今この場で先ほどの反省し、次回にその反省を活かすことこそが建設的である。
俺の存在格のほとんどが“復讐”というもので構成されているため、自然とそういった思考が生まれてきたのだった。
思い返せば、ここに転移した直後は過度の興奮状態によって理性を上手く制御できていなかった。
原因は、黒髪黒目の姿にしたままで帝王城を出てしまったことだろう。
あらゆる力が制限されることは知ってはいたが、まさか【狂天】を除いた全て……それこそ自身の理性も含んだ精神的なモノに制限がかかるとは思わなかったのだ。
お陰で弱った理性は狂気に呑まれ、復讐相手であるくそ女神相手に遊んでしまっていた。
もし始めから過去の黒髪だった頃の俺ではなく、今の俺の正常状態である白い姿で戦っていれば、少なくとも早々にくそ女神相手への復讐を遂げられていただろう……。
完全に、俺の失敗による自業自得であった。
次に現在の状況の確認だが、これが今回で一番最悪な結果を残すこととなった。
俺の主武器である《十六夜兵装》の中、十一の武器がどこかへと消えていたのだ。
これはステータスを見た瞬間に判明した事実である。
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名前:霧崎 邪悪 (ジャック=キリサキ)
天能:【狂天】
> 《十六夜兵装》
『第一兵装:バタフライナイフ』
『第二兵装:我喰』
『第三兵装』 Lost
『第四兵装』 Lost
『第五兵装』 Lost
『第六兵装』 Lost
『第七兵装』 Lost
『第八兵装』 Lost
『第九兵装』 Lost
『第十兵装』 Lost
『第十一兵装』 Lost
『第十二兵装』 Lost
『第十三兵装:ネオ=メシア』
『第十四兵装』 Lost
『第十五兵装:最終究極紳士服』
『第十六兵装:???』
位階:狂天師 17(↑6up!)
称号:神敵,狂天,アンリミット超神帝国民,復讐者
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恐らく俺が最後に無理矢理限界を超えさせたことで、制御に失敗して俺の手元から離れてしまったのだろう。
幸い、俺の魂と融合させたことで壊れるようなことは絶対にないため、その点に関しては安心できる。
更に詳しくは分からないのだが、世界中のどこかへと散らばってしまっていることも、同時に魂かなんなのか……謎の超感覚のお陰で感し取れた。
……つまり、これによってこれからの方針も大まかにだが、ある程度は決めることができたのだ。
その方針こそが――己の強化と、武器である《十六夜兵装》の回収を急ぐことである。
理由は、俺自身の行動指針である“復讐”のため、もっと効率よく物事を進められるようにしたいからだ。
今回のように、俺自身がこれからの敵に対して手間取るようなことを良しとしていないのも当然ある。
ついでに武器に関しては考えるまでもない。
帝王様直々に融合させてもらった代物を、世界に散らばったままの状態で長い時間放置するわけにもいかないし、あれは俺のためにある武器だからだ。
因みにある程度の距離であれば自動的に俺の魂が反応して武器を回収できるが、流石に世界中となると範囲が広すぎて直接近くまで訪れないといけないため、必然的に俺は世界を回る必要があったのだった。
そして、最終目標及び最大の目的。
くそ女神に再度復讐する。
その際、今回現れた四体の新手の存在にも注意が必要。
共通点が全員同じ力――神力――を保有し、使用していることからその正体はあのくそ女神の同類、十三いる中の四柱の神だと考えられる。
敵かどうかは現時点では不明。
しかし俺の目的の邪魔をしたことから、次からは例え神だろうと殺戮対象として認識することにした。
それに……この頃忘れかけていたが、くそ女神の目的は異世界人の大量召喚と同時に使徒化という名の奴隷化をすることである。
当初は姉や幼馴染などの大切な人たちを守る為だったが、最近はそれが己の復讐のためにと変わってきてしまっている気がする。
それでも決して、完全に忘れたわけではない。
俺と同じような不幸に合わせないためにも、これからも全力で俺の敵となる存在を殺し続けようと思ったのだった。
そうすることで、俺の大切な存在が不幸に襲われないはずだと信じて。
……。
…………。
「さて、もうここに用はないし……次へ行くとするか」
実を言うと、最初にこの神域へと転移してきたのはただ単にくそ女神を殺すためではない。
もちろん殺すことにこそ大きな意味があるのだが、俺にもきちんとした計画があったのだ。
結果的に復讐に失敗してしまったとはいえ、それでもこの後の行動に変化はない。
少し前に、エーデルとプリムラから下位世界の神の特徴を聞いたことがある。
その時に神々の領域とされる神域についても説明された。
この神域というものは一種の独立した世界であり、俺が最初に降り立った人界と呼ばれる異世界よりも上位に位置する世界である。
ここで重要なのが、神々はこの神域内部から人界へ干渉している点についてだ。
本来、別世界に干渉することは神々をもってしても極めて困難なことである。
だからこそ神々は予め人界へ干渉するための力を神域に付与することで、容易に介入や干渉を可能としたのだ。
そして予想はついているかもしれないが、これから俺はその干渉する力を利用して再び人界へと降りるつもりでいる。
理由は、宰相様から聞いたとある話にあった。
そもそも異世界へ降り立った時の俺は、あのくそ女神の支配を【狂天】によって完全に弾いていたのだ。
その後にゴブリンと殺し合ったのも、村娘であるシラと出会ったのもただの偶然である。
この間に起った出来事に神は感知していないし、関係がない。
闇から解き放たれた直後の俺は、完全に自由な身であった。
けれど一晩眠って起きた時、俺は既にあのくそ女神に捕まっていたのだ。
如何に神が人界に干渉できるとはいえ、俺という個人を広大な人界からピンポイントで探し出すというのは不可能なはずである。
だが実際に、俺は一晩の間にルッジ村からこの神域まで拉致されていることから、何か問題が起こったとしか考えられなかった。
そして、その答えは宰相様によって簡単に明かされる。
犯人はシラを除くルッジ村の村人全員だった。
更に言うと、あのくそ女神を信仰するヴァリエーレ聖王国の辺境にあるルッジ村で暮らす聖王直属の隠密部隊全員による犯行であった。
直接の実行犯は四名。だがその他の村人もそれを影から協力して、俺を飛竜で聖王城に送り届けたことが分かったのだ。
そうして聖王城に拉致された俺は、大量の睡眠薬を無理矢理接種された影響で起きることもないまま、くそ女神の待つ神域へと転送されるのであった……。
ヴァリエーレ聖王国はくそ女神を唯一絶対の神として信仰する狂信国として有名だ。
実際に国民全てが強力な加護を貰っていることから、周辺国家からも畏怖されるほどの強国と知られている。
そんな狂信者たちにくそ女神は神託を下す。
聖王が直ちに俺を探し出そうと国民全てを用いて、人海戦術を駆使するのもある意味当然のことであった。
運が悪かったどころではない。
俺はその時を以って、知らず知らずの中に世界有数の強国である聖王国全体を敵に回してしまっていたのだ。
腐っても流石は序列三位の女神である。
その影響力は神託一つで俺を終わらせられたほどだ。
そうして一晩の間に、俺に気づかれないまま拉致することに成功し、くそ女神によって地獄を見る羽目になったのだった。
だからこそ、再び人界に戻った俺は一体何をするというのだろうか?
それは――考えるまでもないことであった。
「そういや俺の姿は――まぁ、普通に考えて暫くはこのまま……だな」
ふと自身の姿を思い出し、一瞬だけ強い嫌悪感に襲われる。
けれど、あのくそ女神も圧倒できないような状態では幾ら何でも嫌悪感だけを理由に、わざわざ能力のほとんどを制限してまで黒髪黒目姿へとなるのは危険すぎる。
必然的に、これから暫くはこの気持ち悪い姿で過ごすしかないだろう。
丁度、異世界にはかつての俺を知るものも――まぁ……シラを除けばいないわけだし、あっさり殺される心配が完全になくなるまでは……当たり前だが[虚偽の仮面]による黒髪黒目姿へとなる弱体化は禁止だな。
それに……今の俺は狂気に塗れた復讐の道を歩んでいるわけだし、そう考えると今の気持ち悪い姿もそこまで気にならない。
むしろ一般的な感性の人々ならば忌避感を誘う姿でもあるわけで、結果的に俺の邪魔をする存在が減るかもしれないのだ。
全体で見ればメリットが圧倒的に大きい。
本当に、考えるまでもなかった。
こうして、俺が人界に降り立った時にすべきことは決まった。
くそ女神には逃げられたが、必ず殺す。
その過程で俺自身の強化と《十六夜兵装》を回収する。
そして、間接的に俺をこんな目に遭わせた協力者共も潰す。
まずはその最たる要因である、ルッジ村からだ。
シラを除く村人である隠密部隊員をこの手で殺し尽くす。
宰相様の話を聞いてすぐに思ったことで、今も変更する予定はない。
「待っていろ……俺の敵。この霧崎 邪悪……いや、ジャック=キリサキが殺しに行ってやる……ッ」
最早俺は以前と違う存在なのだ。
慈悲はない。
容赦もしない。
Jack the Ripperという名の通り、全て殺し尽くしてやる。
だから俺を敵に回した存在は絶対に後悔させてやろう。
死を与えてやる。
敵は、殺す。
俺が、殺す。
絶対、殺す。
そこに例外は、ない。
例外は、ないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆
「上手くいきましたね、隊長……いえ、村長」
「あぁ、これでシェルミール様もお喜びになられるだろう」
時刻はまだ深夜のルッジ村、村長宅にて。
唯一この村で共有する秘密を知らない村娘であるシラを除いて、そこには老若男女全てを含む村人が集っていた。
少し前にシラがジャックを村に招き入れた時の暗闇と静けさはどこへ行ったのか、今は村人全員でどんちゃん騒ぎの宴会を行っていた。
それも、全ては自身の信仰する女神シェルミールの神託を完遂することができたためである。
「それにしても…………その神敵って一体何をしたのでしょうか?」
子供たちが庭で遊びまわり、大人と老人たちが酒を酌み交わしていた最中にふと一人の新人である若者から漏れ出た疑問だった。
ほろ酔い気分で陽気な雰囲気だった宴席が、その一言で瞬く間に沈黙する。
老人や大人たちは俯いて沈黙し、女性陣はその若者を鋭い視線で睨み付けた。
自分の何気ない一言で場の雰囲気をぶち壊してしまったことに気づき、若者は大いに慌てる。
「あっ、いえ、そのっ……。今回の神託が少し不思議だったもので……」
その言葉に周囲にいる一部の若い男女もそろって納得の表情を浮かべる。
これまでの神託は全て、非常に曖昧な表現で下されてきた。
ヴァリエーレ聖王国の聖王及び上層部はその曖昧な内容の神託をどうにか解釈した結果、それが女神によって告げられる神敵だと知ると当然のように容赦なく周辺国家を侵略し奪い尽くすようになる。
彼らは女神シェルミールの神託によって神敵を定め続け、そうして大義名分を得ることにより国家単位で盗賊のような所業を犯すのであった。
ヴァリエーレ聖王国が信仰し加護を貰っている女神シェルミールは序列三位に位置する。
元が強大国に加え序列三位の神の加護を受けているのに対し、地力も信仰する神も全てにおいて劣っている周辺国家に勝ち目は全くと言っていいほどになかったのだった。
そうしてある一定以上まで力を有する国家となり、現在では世界に存在する三つの大陸同士で睨み合いが続いている。
世界にはそれぞれ序列二位、三位、四位を信仰する三つの国家が存在し、各大陸を代表する国家として、或いは世界三大国家として知られているのだ。
細かな点は違えど、国力も信仰する神の力も同じレベルであり、結果として三つの大陸による拮抗状態が生みだされたのである。
お陰で他大陸同士の大きな戦いもなく世界から見れば平和であったが、三大国家による睨み合いが生みだす緊張感は決して緩和されることはなかった。
その最たる原因が、西の大陸――ラファリエ大陸を代表する悪名高きヴァリエーレ聖王国だった。
狂信国でもあるその国家の神託は、常に世界中の注目を集めていたのだ。
神が神敵を神託によって告げ、その手足である国家がその国力をもって神敵を討ち滅ぼすことがこのヴァリエーレ聖王国では常識とされ、他国もそう認識していた。
それがどんな非道なことであっても躊躇なく実行する国家なのだ。
神が神ならば、それを信仰する人間も人間である。
しかし、今回の神託ではいつも通り神敵を告げるだけでなく、決して殺すなという内容も含まれていた。
更に容姿などの特徴も神託で告げていき、最後には聖王城と神域を繋げるから転送してこいとも告げられたのである。
悪名高き狂信国の異例の神託であった。
当然、警戒していた周辺国家もその異例の神託に大いに混乱する事態となり、他の三大国家も神託で告げられたという人物――ジャック=キリサキ――の調査に乗り出していたのだが、その話は置いておこう。
とにかくそうした背景もあって、直接ジャックを拉致したヴァリエーレ聖王国の隠密部隊に所属する新人の青年は今回の神託について不思議に思っていたのである。
「確かに不思議だと思ったけど、ディルスよぉ……。俺たちの仕事とは関係ないことだし、どうでもいいことじゃねぇか」
「た、確かにどうでもいいことだけど……」
同じ新人の隊員たちが青年――ディルスの疑問に同調する一方で、しかし先輩隊員たちは即座にそれを切り捨てる。
彼らは女神シェルミールの信者であると同時に、ヴァリエーレ聖王国、延いては聖王の直属隠密部隊でもあるのだ。
新人のディルスたちとは違って任期が長い隊員ほどそのことをよく理解し、故にそのような私情も即座に捨てることができたのである。
そんな先輩たちの態度を見て、新人たちもすぐさま反省するように俯く。
影である自分たちにとって、詳しい内情は知るだけ毒になるということを思い出したのだ。
そんな同期たちが反省する中で、しかしディルスだけは未練がましくぶつぶつと呟き続けていた。
「うーん……でもやっぱり気になるなぁ……、ヤーグ隊長もそう思いませんか?」
そしてついにディルスは、奥の席に座っていた歴戦の勇士な雰囲気を醸し出す壮年の男、ルッジ村の村長であり隠密部隊の隊長でもあるヤーグという名の男に話しかけてしまった。
「はぁ……ディルス、口を慎め。我々は女神シェルミール様の敬虔なる僕であると同時に、聖王陛下の影でもあるのだ。お前もこの隊の中では新人だが、それぐらいは入隊前から知っているはずだろう? であるならば理解しているはずだ。女神シェルミール様の神託と聖王陛下の勅命を同時に遂行し、成功させたことは我々の生涯における最高の誇りだということを。そしてそれを祝う席において、それ以上余計なことを考え続ける行為は非常に無粋なものだ。だから、お前も今は純粋にこの時間を楽しんでおけばいい」
「……そう、ですね。軽率でした、すみません」
案の定、呆れた溜息とともにヤーグはディルスに説教を始める。
その内容は、簡単にこの国の常識を語っただけであり、この狂信者集団の中では特におかしな話をしている感覚はなかった。
そうして最期にはディルスも納得の表情と見せ、反省する様子で謝るのだった。
宴は再び盛り上がりを見せ始める。
子供たちは変わらず走り回り、静かだった大人たちも大声で楽しみ始めたからだ。
影に生きる彼らだが、それでもこの村にいる間はただの村人として楽しみ続けるのであった。
……
…………
………………
がさりと草木を掻き分ける音を立てて、俺はそこで回想を止めた。
今の話は全て、宰相様が話の途中で教えてくれたものである。
正確にはアンリミット超神帝国お馴染みのトンデモ技術によって、ルッジ村の過去か未来を映像として映し出してくれたお陰で知ったのだった。
これにより俺は異世界での敵は既にくそ女神だけでなく、その影響下にある世界三大国家の中の一つも含まれていると理解する。
そう、この先に俺の平穏はないのだ。
だからこそ俺は開き直ってヴァリエーレ聖王国は敵と認め、更に秘密裏にくそ女神へ売った行為により間接的に俺を殺してきたため、逆に潰すことにした。
手始めにもっとも記憶に新しく、そして俺を直接拉致したこのルッジ村の村人たちから潰そうと考え、神域から真っ先にここへとやってきたのだ。
最初は少しだけ懸念事項があった。
ここが俺の唯一の知人が暮らしている村であることだ。
これから行うことは彼女の居場所を奪うことになるだろう。
だが先ほどの回想でも気づいているものはいると思うが、なぜかあの宴席に彼女、シラの姿はどこにもなかった。
そのことについて以前宰相様に調べてもらった結果、シラはあの隠密部隊である集団とは全くの無関係だということが分かった。
それを更に掘り進めていくと、だんだんとヤバイ過去も浮き出てくる。
ルッジ村。現在こそ隠密部隊による偽装の村として存在しているが、実はかつて、本当に普通の村であった時期があったのだ。
それはまさに、地球でいう中世ヨーロッパ時代以前の農村レベルの平凡さであった。
平凡すぎて誰も寄り付かない、そこだけで全てが完結した小さな世界のような村だった。
そうなると当然、村人たちは外の世界について無知になり、自分たちの国が信仰する女神さえも知ることができなかった。
だからだろうか?
あのくそ女神は自身の手足であるヴァリエーレ聖王国に、自分を信仰しない異物が混じることを許さなかった。
この段階で既に察したものもいるだろう。
ルッジ村は“神敵”として神託を下されたのである。
聖王国は直ちに、孤立しているため現在位置が掴めないルッジ村を調査すると同時に殲滅するという作戦を展開した。
それが、今より十五年前の出来事である。
結末は聞くまでもない。
現在の隠密部隊、当時は外国からの流れの傭兵集団が真っ先に村を見つけ出し、雇われ主である国の命令通り即座に殲滅したのだ。
その当時、迅速な情報収集能力と最後まで全ての村人に気づかれずに屠って見せた腕前から、瞬く間に現、聖王であるヴァリエーレ32世に隠密部隊として召し抱えられ、女神シェルミールを信仰していたこともあったお陰でルッジ村を隠し拠点として与えられたのであった。
つまり現在このルッジ村に居座り、更に俺を地獄への片道切符を強制的にもたらしたというこのくそ隠密部隊どもは、このルッジ村にとっては歴とした侵略者なのである。
幾人かの新人はこの村の悲惨な歴史には関係ないものの、俺を間接的に害した時点で同罪である。
ギルティ。全員仲良くブッコロシてやる。
……話を戻そう。
その侵略者の中でも新人を除き、例外がたった一人だけ存在する。
それが、シラなのだ。
彼女はたった一人生き残った旧ルッジ村の村人である。
当時のシラは丁度生まれて数ヶ月の赤ん坊であった。
村の殲滅完了の合図によって、現隠密部隊で元傭兵集団たちが歓声を上げたと同時に発見されたのだ。
命令の内容は村人の殲滅。
当然、まだ生まれて数ヶ月の赤ん坊であるシラも殺そうと数人が動き出す。
けれどもその時、とある奇跡によりシラは助かることとなる。
まず少し前まで、傭兵たちは村人の殲滅完了による喜びを示すために、彼らが信仰する女神シェルミールに向けて万歳を送っていた。
その後に唯一の村人の生き残りであるシラを発見。
すぐに殺そうとするのだが、妙な動きを見せる。
先ほどまでの傭兵たちの、真似なのだろうか?
赤ん坊であるはずのシラが拙い言葉で万歳をしながら言ったのだ。
『ひぇううぃゆひゃわ(シェルミール様)?』
傭兵集団の監視役として、聖王国からは数人の騎士が派遣されている。
それなり以上の権限をもつ彼らは、この奇跡を目の当たりにし瞬時に女神の慈悲によって生かされたのだと思った。
騎士たちはすぐに、それでも問答無用と殺そうとする傭兵たちを止めて説得しだす。
しかしこれは、個人の判断で決定するには問題が大きすぎた。
傭兵集団は雇い主である聖王にこの奇跡に対して判断を仰ぎ、国の上層部も女神の真意を探ろうと神託を待つ。
しかしこの時、神域にて惰眠を貪っていたくそ女神は当然のように人界に干渉しておらず、従って神託も下されることがないまま、流石の狂信者たちも再び女神からの神託によって神敵と断ぜられるまではこの奇跡を起こした赤子を殺さずにいようと判断した。
そうしてシラは隠密部隊であるルッジ村で秘密裏に育てられていくことになるが、周囲にとってシラは大変邪魔な存在であった。
なぜなら当時のシラを救おうと主張した騎士たちは信者の中でも異質と言っていいほどの正義感の持ち主であり、正論こそ口にするがその内容については騎士本人の勘違いによるゴリ押しもあって周囲の共感を得ることはこれまで決してなかったのだ。
けれどその騎士たちの強引な説得も通じてしまい、国も一度下した判断を女神の神託なしでは覆すこともできずにいたのだ。
彼女本人としては立派な村人の一員なのだろうが、それ以外は全ていつか彼女を害そうと内心では考えていたのである。
だからこそ、そういった細かい都合は今回の俺にとって大変有利なものとなる。
これでも村人を皆殺しにすることについてシラには申し訳ないと思っていたのだが、事情を知った今となってはむしろ積極的にシラのためにも殺していくべきだと思った。
ついでに情報によると、今頃シラは家の中で熟睡しており、その状態になると朝になるまで絶対に起きないという。
これも大変俺に有利な情報だった。
まさかシラも寝ている間に客である俺が誘拐されたり、時空を超えて変わり果てた姿で復讐しに来たりするとは思わないだろう。
……。
…………。
これは俺の復讐だ。
でもそんな俺の復讐に、数少ない知人への想いも含んではいけないという決まりはない。
シラは真性のアホであったが、同時に闇から抜けて初めて遭遇した人間である。
特に気に入ったとかそういうわけでもないが、何となく助けようと思った。
完全に俺の勝手なのだが、シラの知らない現実への決着のためにも俺は全力で殺すことにした。
例え本人が最後まで全ての真実について知らされず、また気づかされずにいても今以上に自由になれることを祈る。
それでは始めよう。
最初から最後まで、全力を尽くし、殺すのだ。
「――ステータス」
--------------------------------------------
⋮
天能:【狂天】
> 《十六夜兵装》
『第一兵装:バタフライナイフ』
――【異天】
[虚偽の仮面][鬼神の力]…
⋮
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《十六夜兵装》はアンリミット超神帝国の絶対者である帝王様の弟妹たちが戯れに創りだした玩具(兵器)である。
ほとんど悪戯によって生み出されているも同然であり、使う方からしたら大変痛々しい。
けれども俺はある日、ちょっとした疑問を抱いた。
果たして、この十六種の兵器なのだが……本当に帝王様の弟妹たちだけで創ったモノなのだろうか?
それは、暗にその兄である帝王様も実は何か手伝ったりしていないのだろうか……という意図を含んだものだったのだが……。
その予想は見事に当たる。
帝王城では割と帝王様の兄妹愛が有名だったこともあり《十六夜兵装》の内情も比較的広く知られていたため、エーデルとプリムラがこっそりと俺にその疑問について教えてくれたのだ。
実は一つだけ帝王様も悪ノリして創りだした兵器がある、と。
それが『第一兵装:バタフライナイフ』という、名前も何の捻りもなくそのままで見た目も本当に普通の黒塗りされたバタフライナイフであった。
その固有能力は、【異天】という天能が一つだけ。
それは一定期間に一度だけ、ランダムで異能を一つだけ際限なく獲得する……という代物だった。
つまり、時間をかければ無限の異能が手に入るという、これ以上にないほど素晴らしい代物であったのだ!
だが、そんな一見して素晴らしそうに見えるところこそが、帝王様の罠であると周囲はすぐに気がつくこととなる。
獲得する異能が総じて微妙すぎたのだ。
俺が実際に使ったところ、これまで[赤子レベルの詐欺師]と[紙以下の身体能力]を手に入れた。
名前から分かる通り、ネタにもならないクズスキルである。
他のトンデモ兵装と比べて、特に悪い意味での酷すぎる代物である。
偶に所有者の足を引っ張るスキルも出ることがあり、本当に敬遠されてきたのだ。
だが、それも全ては俺以外の話であった。
帝王様は例え封印指定でも偶然近くに置いていたため仕方なく俺の魂と融合させたというが、それは正しくないのではないかと思う。
いや、実は確信していた。
俺の天能は【狂天】である。
その本質は対象を狂わせることにある。
まだ『天師』レベルの俺では狂わせられる数に限りがあるが、三、四つくらいは余裕で狂わせられるのだ。
故に、俺は【狂天】を使用した。
その対象も獲得したばかりの二つのクズスキルに、である。
結果、真のトンデモ異能が誕生した。
ステータスにもあった[虚偽の仮面]と[鬼神の力]である。
それぞれが存在そのものを偽装することを可能とするものと、素の身体能力を常時数千倍にまで引き上げるというものだった。
因みに俺があらゆる力を制限することで、完璧に過去の姿に戻ることができる異能こそが[虚偽の仮面]である。
まさにトンデモ異能と言っても過言ではなかった。
これで分かるように、俺の【狂天】は『第一兵装:バタフライナイフ』と実は最高に相性が良い。
俺はこれからも際限なく異能を手に入れられることを、心の底から帝王様へ大いに感謝するのであった。
……もちろん他の兵装も俺にとって最高の武器である。
決して『第一兵装:バタフライナイフ』だけが素晴らしいわけではない。
ただそれらの紹介はまた、いつかの機会にしようと思う。
さて、長々と説明してしまったが……俺は早速全力を尽くすために『第一兵装:バタフライナイフ』の異能、[鬼神の力]を発動する。
この異能は既に神域において、八体の天使を瞬殺することでその有用性が証明されている。
これならば一人も取り零さずに殺し尽くすことができる。
あと、ついでだ。
ここで俺の力量についても理解を深めようと思う。
あのくそ女神や謎の助っ人レベルの強さをもつ存在は早々現れないと思うし、それならばこれからどの程度の力で戦っていけばいいのか分からなかったのだ。
あまり強すぎると、世界中の注目が集まって復讐も遂げ難くなるかもしれない。
そういった懸念を払拭するためにも、聖王直属の隠密部隊は丁度いい存在だった。
……。
…………。
「……そろそろ、だな」
宰相様から見せられた映像による、先ほどまでの回想には続きがある。
盛り上がる村長宅での大人たちの宴席。
何も知らずに家でいびきを掻いて寝ているシラ。
はしゃぎすぎてだんだん森へと近づいてくる子供たち。
この中、前者二つは特に関係はない。
だが、最後の一つが俺にとって非常に重要である。
そう、はしゃぎすぎた子供たちが少しずつ俺のいる森へと近づいてきているのだ。
子供たちからしたら、村の近くもあって慣れているのだろう。例え夜の森でも怖がることなく駆け回っている。
けれど考えてみてほしい。
それらを狩る側の存在からしたら、その状況を見てどう思うか。
「クハハッ……自分たちから狩られに来てくれているんじゃないか。しかも暗殺し放題の夜の森という、絶好の狩場まで」
木の上で気配を殺しながら、ついにかくれんぼまで始めた目の前にいる五人の子供たちをじっと観察する。
次に散会したところで、瞬時にその首を刈り取ってやろう。
そう思いながら、俺はひたすら待つ。
「かくれんぼしよー」
「えー? でも夜の森は怖いよ?」
「大丈夫だって! 何かあったらすぐに村の中に逃げ込めばいいじゃねーか!」
「うーん、そうだね。じゃあ鬼は誰がやるー?」
「じゃんけんで負けたやつが鬼なー!」
「よし、それじゃーじゃんけんするよ!」
「「「「「じゃんけん、ぽんッ」」」」」
……それにしても、やけに地球との共通点が多い異世界だな。
こういうのを確か、ご都合主義とか言うんだっけ?
現実で見ると、どこか不気味だよなぁ。
「あーぁ、負けちゃったー」
「二十秒後に探せよー! その間に隠れてるからー!」
「行くぞー隠れるぞー」
「「「「わーッ! きゃーッ!」」」」
「はぁーいくよー? いぃーち、にーぃ、さぁーん…」
チャンス、到来。
他の四人の気配は、既に俺を中心とした百メートルの範囲から出ている。
「“顕現せよ、『第十三兵装:ネオ=メシア』”」
黒と白の光と靄に包まれた槍を顕現する。
続いてその固有能力を解放することで、槍はその形を死神の大鎌を連想するものへと変形させた。
【暴装】。あらゆる武器や防具へと成れる万能の槍、それが『ネオ=メシア』の固有能力である。
因みに大鎌にした理由は、特にない。
強いて言うならば、一撃で命を刈り取るといえば死神だなぁ、と思ったからである。
俺は大鎌を両手で振り上げた体勢のまま勢いよく足元の木を蹴った。
そうして、たった一人だけ残った少女めがけて木の上から強襲する。
「……じゅーいーち、じゅーにぃ、じゅーさーん――」
「十三は不吉な数字だよなぁ……」
「――じゅーよ……ぇ……?」
飛んでいる少女の首と目が合う。
にっこりと微笑んでやるが、すぐに地面に落ちて死んだ。
十三を数えたタイミングで大鎌を首目がけて振り切ったのだ。
かつてくそ女神が俺の首を刎ねた時もこんな感じだったのだろうか。
……少しだけ楽しく感じてしまった俺は恐らく、狂気に溢れた黒い姿でなくとも十分狂っているということなのだろう。
まぁ、そうでなければわざわざ【狂天】なんていう厄介な天能に目覚めたりしないだろうし、と納得する。
それはさておき、次だ。
まだ四人残っている。
さぁ、今宵の狂宴に必要な前菜を狩りに行こうじゃないか。




