046.上下関係は初手が大事
ルーナとの出会いで、俺は暴走状態にあった【狂天】から正気を取り戻した。
だが同時に、短い時間ながら彼女と過ごしたことで己に巣食う狂気も薄れていったのだろう。
狂気は薄まった分だけ正気を強くし、俺の殺意を理性によって抑制する。
抑制された殺意では、芽吹く前に更なる理性で鎮圧されていく。
その証拠に、俺は目の前の敵を殺さなかった。
本来なら有り得ないはずの生存を、許してしまったのだ。
この変化が吉と出るか凶と出るか。
未来は、まだ誰にも分からない――――。
◆ ◆ ◆ ◆
「ルーナちゃんから話を聞いたわ。目的はアドルファーティ商会の魔剣よね? それなら私にも協力できると思うの」
「ほう……そいつは有難いことだな」
余計な真似をしやがってとも思ったが、存外に俺の運は良かったらしい。
――リリィ=アドルファーティ。
ルーナが連れてきたこの女は、俺の目当てであったアレルド=アドルファーティの娘だったのである。
おまけに利害のためなら信者の本能のせいで忌避しているはずの俺の存在も許容できるようで、トントン拍子に話が進んでいく。
「父にはすぐに会わせてあげる。その代わり……貴方には私の後ろ盾を頼めないかしら」
「後ろ盾とは?」
「私、商会長候補なんだけど、女って理由だけで周囲からは軽んじられているの。だから……」
「……ナメられないよう力を見せつける必要がある、と?」
「そう! そのためにも、父と会った後でもいいから貴方には私以外の候補者の排除をお願いしたいわ」
物騒な女だ。
候補者ってのは要するに他の兄弟、自分の血縁者ってことだろ?
それを躊躇なく排除して欲しいと頼むとは……。
「――いいだろう」
ま、別に構わん。
俺は快諾した。
この女がクズなだけで、俺は目的が達成できればそれでいい。
誰が死のうと関係ないし、俺が気にすることでもないのだ。
「ありがとう。感謝するわ。私も、貴方の目的のために尽力することを約束します」
ニッコリと笑い、リリィ=アドルファーティは改めてそう言うと俺に頭を下げた。
いい、いい。そういうのは要らん。
俺はリリィ=アドルファーティから目を逸らし、手首だけ振って頭を上げるよう促す。
傍から見るとスムーズに話が終わり、友好的な関係が築けたかのように見えたのだろう。
「お二人が仲良くなれたようで良かったです!」
それまでは黙っていたルーナが、嬉しそうに両手を合わせてそう言った。
リリィ=アドルファーティは、そんなニコニコとしているルーナを見て「全部ルーナちゃんのお陰よ」と返している。
だが俺は、きゃっきゃと笑い合う彼女らをチラリと見てはすぐに目線を逸らし、内心で溜息を吐く。
(違う。全くの見当違いだ、ルーナ)
友好的だと? 笑わせてくれる。
俺もリリィ=アドルファーティも、お互いに心を許した瞬間など欠片もない。
それでも表面上は友好的に見せかけていたのは、ここまで連れてきたルーナの顔を互いに立てていたからだ。
加えてリリィ=アドルファーティが俺への敵意を抑え、理性的な会話に徹しようとしていたことが大きかった。
(この女は敵意を抑えられるのに、俺が殺意を堪えられないってのも見っともないからな)
結果、互いにそれぞれの敵意と殺意を感知しつつも理性的な会話ができ、各々の目的のためにも建設的な取引ができたわけだ。
とんだ皮肉である。本当に笑わせてくれる。
(だが結果的に、『第十兵装:極剣』に大きく近づいたのは事実だ。そして、これがルーナのお陰であることも……)
認めよう。
これはルーナの功績だ。
殺意を抑えないといけない点は不本意なところだが、彼女は確かに俺の力となれる存在であることが証明された。
少なくとも、ただのお荷物ではない。
だから――、
「――ルーナ、よくやった」
感謝が必要なときは、素直に感謝するべきだろう。
ポツリと小さく呟かれた言葉に、しかしルーナは目を見開いて反応する。
どうやら彼女は投げかけられた言葉の意味をゆっくりと咀嚼しているらしい。
そっぽを向いた俺の横顔を無言で見つめていたルーナだったが、やがて理解できたのかパッと満面の笑みを浮かべた。
「はいっ! 次もお任せください!」
あ、いや……リリィ=アドルファーティ関係以外は、当分はいいかもしれん。
俺はやる気満々のルーナに確約せず、自分で完結させられるなら一人でやろうと改めて決意した。
……。
にしても、恥ずかしくないのだろうか。
幾つになったのかは知らないが、まだ幼いルーナと一緒になってはしゃぐ見た目20代のリリィ=アドルファーティを見て思う。
「! ……それで、これからの段取りを聞いてもいいかしら?」
そうして暫く喜びに舞い上がるルーナたちを観察していたのだが、不意にリリィ=アドルファーティが俺から見られていることに気づく。
見られたことに気づいたことで多少は羞恥心を抱いたのかと思いきや、しかしまさかのルーナとの舞い上がりを続行。
リリィ=アドルファーティは何も取り繕うことなく、ただ口調だけを真面目にして問いかけてきやがった。
「これからか……(このイカレ女、羞恥心がないのか?)」
気持ち悪いから、とりあえずルーナと手を繋いで踊りながら話しかけてくるのは止めろ。
何というか、頭に入ってこない。
リリィ=アドルファーティに対して生返事をしながら、俺は別のことを考えていた。
(いや、本当にいい歳した大人が見っともないからやめて欲しいのだが)
本気で、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
何だか明後日の方向に向かって、この気持ちを溜息として吐き出したくなった。
というか我慢せずに吐き出す。
「……ハァー」
すると、そんな俺の様子にフォローのつもりか、ルーナが笑顔で一つの提案をしてくる。
「それならジャックさまっ、見聞を広めるため町の散策に出ませんか! わたくしが案内いたします!」
「……」
何だこいつ。アホの子か?
リリィ=アドルファーティと街を散策したことでそれなりに詳しくなったのか、調子に乗って俺を案内するとまで言いだしたのはいい。
だが、俺の代わりに街へと情報収集をしてきた理由まで忘れているようでは問題だ。
いいのか? 街に繰り出しても。……滅ぶぞ。
「ぁっ……」
まぁ、ただのうっかりだろう。
無言で冷たい眼差しをルーナに送ると、すぐに気づいた彼女はバツの悪そうな顔をする。
まったく、これに懲りたら浮かれすぎないよう気をつけろよ。
シュンとするルーナに、そんな彼女へ対する俺の態度にムッとするリリィ=アドルファーティ。
ともあれ、これで次の行動が決まったな。
「街の外へ出る」
端的に告げ、俺は彼女らに背を向ける。
ルーナの運の良さ、及び行動力と成し遂げる力は分かった。
ならば次は彼女の自衛力、つまり戦闘力を計ろうではないか。
「二十分後に、西で合流だ」
もう一言だけ、どちらかと言えば彼女らにも聞こえるくらいの声でフォースに伝え、俺は歩き出す。
これで少なくとも迷うことはないだろう。
あってもフォースがルーナの身体を強制的に操作して西まで案内してくれる。
「え、あの……一緒には行かないのですか?」
呆気にとられたようにルーナが言うが、行くわけないだろ。
アレルド=アドルファーティの所まで案内してもらう時はともかく、それ以外の時までイカレ女と共に居たくない。
無言の背を見てルーナも何となく察したのか、それ以上の言葉は紡がなかった。が――、
「――な、ならこれ! この剣、もう返したいのですがっ!」
代わりに背負っていた神剣サウザンドを手に持つと、割と必死な感じで俺に訴えてきた。
白銀の輝きを放つ神剣サウザンドは、見た目通りの神聖かつ高貴なる長剣だ。
けれど実際に持っていたルーナからすると、疫病神と言っても言い足りないくらいの疫病剣なのだろう。
事実として彼女は神剣サウザンドのせいで、あれからリリィ=アドルファーティと共に何度も絡まれたらしい。
「……」
無視しても良かったのだが、俺が預けた剣だ。
キチンと足を止めてルーナへと振り向く。
神剣サウザンドか。そうだな……。
「……やる」
「え?」
「その剣は、もうお前の物だ」
「……はい?」
何を言ってるのか分からないという顔をするルーナに、しかし俺は再び背を向け歩き出す。
「え!? あの、ジャックさまっ!? ――ジャックさまーっ!!」
背後から困惑に満ちた声が響き渡るが、もう振り返らない。
正直ベルトに直挿しで邪魔だったんだよなぁ、神剣サウザンド。
今ならリリィ=アドルファーティがいるし、あの女ならルーナのために便宜を図ってくれるだろ。
丁度いい機会だったのでルーナに所有権を明け渡したのだが、我ながら良い判断だったと自画自賛する。
(ルーナの戦闘力……確か魔法が使えるんだったか)
炎とか出すのだろうか。楽しみだ。
ただ問題は、ルーナが本当に戦えるかどうかだな。
魔法が使えることが戦えることに直結するわけではないことを、俺は知っている。
仲間と認める以上その力の確認は必須事項だが……ルーナのことだ、あまり期待しないほうがいいかもしれない。
(確認の後は……そうだな、そのままあの女にアレルド=アドルファーティの所まで案内してもらうとするか)
スラムから出るところで俺は異能を発動し、[虚偽の仮面]による透明化でフッと姿を消す。
面倒事は、避けられるのならば避けて通った方がいい。
透明化は面倒事回避にうってつけの能力で、これに気づかせてくれたルーナには感謝しかなかった。
「痛ッ、誰だ! 俺の足を踏んだ奴は!」
「うおっ!? 急に押すな、って誰もいない……?」
「誰だ俺の服を引っ張ってる、の、は……服の端が浮いてるッ!?」
街を横断し、そのまま西へと向かう。
透明化状態のお陰で変に騒がれることもなく、俺は快適に歩みを進め続けた。
途中で何やら幽霊騒ぎがあったようだが、まったく物騒な騒ぎもあったものだ。
尽くが俺の近くで起こっていた騒ぎだったが、呼び止められたりもしなかったので無関係である。
不思議なことにリリィ=アドルファーティのせいで溜まっていたはずの鬱憤もいつの間にやら解消されていたが、単純にそんな日もあるのだろう。
街を内と外で隔てている西の大門を見上げながら、心なしか軽い気持ちになった俺は小さな笑みを浮かべたのだった。
……
…………
………………
俺が合流予定地に着き、30分が過ぎた頃。
ようやくルーナたちが街の西門より、その姿を現す。
「随分と遅かったな」
そこから更に遠目から観察すること2分弱、互いの距離が数メートルほどまで近づいてきたところで俺はようやく声をかけた。
実際はそれほど待っていないが、ルーナの隣にリリィ=アドルファーティがいたのだ。
反射的に煮え立つ殺意を抑え、代わりに出たセリフとして考えれば十分優しめだろう。
要は当てつけである。
「も、申し訳ございませんっ」
即座に謝罪の言葉を述べ、ルーナは頭を下げた。
彼女からしたら俺が先に到着していたのは事実であり、それで多少なりとも待たせてしまったことを謝っているのだろう。
素直な少女である。
「――何よ。貴方が先に出たのだから、私たちが遅れて着くのも当然じゃない」
けれど、この場には真っ向から噛みつく奴がいた。
――リリィ=アドルファーティだ。
ピシリと返された言葉に固まる俺を置いて、この女は女性特有のノリでルーナに絡み出す。
「もうっ、ルーナちゃんも別に謝ることないのに〜」
「り、リリィさん、でも……」
頬と頬がくっつくほど密接に抱きつかれ、ルーナは困ったように言い淀む。
彼女はリリィ=アドルファーティの言葉に、俺の態度が露骨に変わったことを気にしていた。
怒りのあまり指の先まで硬直したまま動かなくなった俺に、流石のルーナも何かがおかしいことに気づいたのだろう。
ちらちらと気遣わしげな視線を向けられる。
「は、はは……」
「……ジャックさま?」
気遣われているだと。この俺が?
……笑わせてくれる。
「クハハハハッ」
いや、笑うことで自分自身を誤魔化す。全力で誤魔化すしかない。
乾いた笑いが口から漏れ出る俺に、ルーナだけでなくリリィ=アドルファーティまで視線を向けてきた。
「ちょっと、今度は何なの?」
向けられた視線の奥底には、相変わらず巧妙に隠された敵意がある。
こいつは本気で俺を嫌っているし、こちらも殺したいほど純粋にこの女を嫌っていた。
だが――殺さない。
(正論だ。こいつは……何も間違ったことは言っていない)
そもそもが俺の当てつけから始まったのだ。
今の状況は単に正論を言われ、この女に舌戦で負けたようなものなのである。
故に――俺には殺せなかった。
こんな下らない理由で殺してしまっては、とんだ笑い者となってしまう。
せめて納得できる理由がなければ、殺しても殺しきれん!
だから――、
「――フォース……!」
バッと腕を振るい、その名を吼える。
――ゾワァァン……(エ・モ・ノ)
俺たちに、それ以上の言葉は必要なかった。
ルーナの纏っていた空気が僅かに震え、すぐさま俺の振るった腕の先へと一直線に飛んでいく。
「……」
「え、なに今の」
後に残されたのは無言で驚くルーナと、パチパチと俺の振るった腕の先と少女を交互に見やって呟くリリィ=アドルファーティだけ。
そんな驚く彼女たちに背を向け、俺は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
殺意を鎮めていく。……よし。
「これからやってもらうことは簡単だ」
ルーナとリリィ=アドルファーティの視線が、己の背中に向けられるのが分かった。
どういうことだ、と。
だが両者の反応を無視し、俺は淡々と話を続ける。
「ルーナ、お前の力を見せてみろ」
「……え?」
漠然としすぎて理解できなかったのか、ルーナは「力、ですか?」と首を傾げた。
まぁ、その反応も仕方ない。
何故なら目の前には何もない草原だけが広がり、そこで急に力を見せろと言われても困惑するしかないだろう。俺だって困惑する。
だからこそ、これ以上ないほど分かりやすく教えてやる。
「そうだ――」
ゆっくりと身体ごと振り返り、彼女と向かい合う。
リリィ=アドルファーティはともかく、ルーナが不安げな眼差しで見つめてくる。
安心しろ、不安に思うことはない。
正面からその視線を受け、そうして俺はニヤリと笑いながら背後の虚空を指差し――、
「――そいつらを、倒せ」
ドサドサドサッ、と。
至極簡単に、分かりやすく。
直後に降ってきた数十匹のゴブリン共へ向けて、端的に攻撃を命じたのである。
「……キャっ……!」
「ゴブリンッ! 何で空から!?」
短く悲鳴を上げて縮こまるルーナ。
そんな彼女を庇うように、リリィ=アドルファーティが足を踏み出し無手で構え出した。
何だ、この女。
見た感じでは、かなり戦い慣れているような構えをしている。第一印象では分からなかったが、まさか戦える力でもあったのか?
……まぁ、あったとしてもこれはルーナの試験なのだ。邪魔だけはしないでもらおう。
「ぇ――あぐぅ……ッ!?」
両目を閉じ、[虚偽の仮面]による眼球の弱体化を解除してリリィ=アドルファーティを見る。
元々この女には冗談抜きで殺意を抱き続けていたのだ。
本来の力を解放すれば、殺意に物理的な圧力を乗せるのも容易なことだった。後は視認するだけでいい。
物理的な圧力を持った殺意が充血した白眼から放たれ、容赦なくリリィ=アドルファーティに叩きつけられる。
結果は、見ての通りのものであった。
「な、なんなの、よ……!」
ベコンッと小規模ながらに地盤が凹み、その中心でリリィ=アドルファーティが這い蹲った状態で呻く。
……まだ元気そうだな。
視線で制圧しているため、普通なら見つめ続けない限りは効果も続かない。
だが幸いにして、俺には【狂天】がある。
――限定的な狂化を使用し、一時的に世界の法則を狂わす。
これで普通という定義は消え、俺が視線を向けずとも暫くの間は圧力を持った殺意が残留し、この女を地面に押し留めてくれるだろう。
(ったく、手間をかけさせやがって)
呻き続ける女から目を逸らし、瞳を閉ざす。
両目に[虚偽の仮面]を集中させ、再封印を施すことで悪魔のような瞳から日本人らしい黒目に戻していく。……完了、と。
程なくして弱体化が済み、ようやく圧力の範囲ギリギリの所で立ち尽くすルーナに目を向ける。
さて、待たせたな。
「――ルーナ」
静かに名前を呼べば、彼女はビクリとその身を震わせた。
大地に圧し潰されているリリィ=アドルファーティから視線を彷徨わせ、やがて上目遣いに俺を見る。
彼女の目には、「何故このようなことを? 」という意思が込められていた。僅かに責めた眼差しをしていることから、ゴブリンを空から降らせたことではなくリリィ=アドルファーティのことを指しているのだろう。
どうやらあの女を強制的に這い蹲らせたのが俺だと理解しているらしい。
だが――、
(――それがどうした)
俺は向けられる眼差しに込められた意思を歯牙にもかけず、無言でルーナに視線を合わせる。
お前が気にするべきは、そこで這い蹲っているリリィ=アドルファーティか?
違うだろ。お前の目の前には今、こちらの存在を認識して敵意を向け始めたゴブリン共がいる。
敵意を向ける奴は殺せ。それがモンスターなら、なおさら戸惑う理由もないはずだ。
だから……つべこべ言ってないで、さっさと倒せ!
俺にお前の力を、魔法を見せてみろッ!
「……! かしこ、まりました……」
この時、無意識のうちに俺の目は黒目から充血した白眼へと変化――悪魔化していたらしい。
ただ眼力でコミュニケーションを取ろうとしただけなのだが、俺の意思(強)は[虚偽の仮面]による封印ですら突き破ってしまうのだと、後日ルーナから聞くことで知ることになる。
ともあれ、そんな悪魔化した眼力で無言のまま見つめられては、流石のルーナもそれ以上の自己主張を続けられなかったのだろう。
俺の「さっさと戦え」という意思に屈した彼女は、最後に一度だけリリィ=アドルファーティを申し訳なさそうな目で見ると、今にも襲いかかってきそうなゴブリン共へと向き直った。
「すぅー……はぁー……」
小さな胸に手を当て、ルーナは大きく深呼吸をする。
1秒、2秒……と。
緊迫した空気が彼女とゴブリン共の間に流れ出す。
ゴブリン共もその雰囲気を敏感に感じ取ったのか、バラバラに向けていた敵意を素早く俺たち3人からルーナだけに絞り込んだ。
空気はついに一触即発となり――、
「――行きます」
「「「「グキャキャッ!」」」」
やがて覚悟が定まったのか、ルーナの瞳に鋭い光が差す。
その瞳がゴブリン共に向けられた瞬間、示し合わせていたかのようにゴブリン共も一斉に彼女へと襲い掛かった。
戦闘開始である。
「ダメ、逃げ、て……ルーナ、ちゃん……!」
何やら場の雰囲気を汚す存在が無粋にも喚いているが、もはや覚悟を決めたことで極度の集中状態に入ったルーナ含めて誰も反応しない。
当たり前だ。これは、既に部外者が口を挟める場面ではないのだから。
ゲキャキャッと腕を振り上げながら、バタバタと走り寄るゴブリン共を見る。
(数十体のゴブリンによる一斉攻撃か……)
俺にとっては羽虫が飛んでいる程度の煩わしさしかないものだが、ルーナにとっては違うだろう。
少なくとも、まともに食らえば単なる重傷どころでは済まず、瀕死するほどの重傷を負う可能性が高い。
ある意味でルーナにとっては窮地のはずだ。
どう対処するのか……こいつは見ものだな。
「……(ぶつぶつ)……」
厳しいかもしれないが高みの見物を決める俺の前で、ルーナは襲いくるゴブリン共から目を離さず、冷静に対処を始めた。
具体的には小声かつ早口に、何やらぶつぶつと呟き始める。
(おっ、呪文か? )
謎言語で何を呟いているのかまでは聞き取れないが、呪文らしきものを唱えていることに違いはない。
これは、間違いなく魔法だろう。
どんな魔法を見せてくれるのか楽しみだ。
果たして、ゴブリン共との距離が5メートルを切ったところで、ついにルーナが呪文を唱え終わる。
徐に片手をゴブリン共へと差し向けるルーナ。
視線は変わらずゴブリン共を冷静に見据えたままで、そうして一拍を置き――、
「――“火炎壁”!」
彼女の魔法が、炸裂した。
名前の通り巨大な炎の壁が走るゴブリン共の目の前に現れ、先頭から順に自ら炎の壁へと突っ込んでいく。
急には止まらない悲劇が、ここにあり。
炎の壁から出てきたゴブリン共は、皆一様に悲痛の叫び声を上げていた。
さらに魔法の効果なのか、全身を火達磨にしたゴブリン共が炎を掻き消そうと地面を転げ回るが、不思議と炎が消え去ることはない。
肉を焼き尽くす音と、醜悪な悲鳴だけがその場に延々と響き渡る。
(へぇ~、こいつは凄い!)
威力自体は、俺からしたら大したものではない。
けれど数十匹はいたゴブリン共をまとめて消し炭にすることができているのだ。
これだけでルーナの戦闘力は期待以上と言えるだろう。
問題は、この魔法を連続で何回使えるのかについてだが――、
「ぅくっ、――はぁっ、はぁっ……」
ルーナを見れば、まるで全力疾走をした直後のように荒い息を吐き、地面に膝をついていた。
どうやら今の一撃は余裕で放てたわけでもないらしい。
どう見ても色々と辛そうな状態のルーナを見て、俺は「ふむ」と短く思考し――決断する。
「よし。――では次だ」
「……ぇっ?」「……ッ……!?」
驚愕の眼差しで振り向くルーナと、地を這いながらも『マジかコイツ』という眼差しを向けてくるリリィ=アドルファーティ。
だが俺は容赦しない。
大体、ついてきたいと言ってきたのはルーナの方なのだ。
今後も俺が復讐道に邁進するとするなら、このような連戦くらい軽いと思えるような状況も来るはずだろう。
言ってみれば、今回はルーナにとっても丁度いい予習……俺の旅路に付いてくるための入門編といったところか。
「魔法の力は分かった。次はお前の限界を見せて見ろ」
パチンッと指を鳴らし、それを起点に上空で待機させていた銀刃の塊を弾けさせる。
密かに用意していたフォースへのモンスター追加派遣用の合図。
これにより、一拍遅れて遠方でモンスターを集めていたフォースから追加のモンスター共が送られてくることとなった。
勿論、それも先ほどと同じように――空からだが。
――ギャギャギャギャッ
――ゴガァァァアアアッ
――グルルルルルルルッ
落下時の衝撃で「ぎゃひんッ」と間抜けにも鳴いたのは、本当に最初の一瞬だけだった。
先ほどと同じく無数のゴブリン共を始め、二メートル台の屈強な鬼や豚人間、果ては巨体で禍々しい狼や熊など凶悪なモンスターの群れが、衝撃で舞っていた砂塵の中より姿を現す。
彼らはすぐにこちらの存在を認めると、その悍ましい殺意を全開にしてぶつけてきたのである。
「ぁ、ああぁ……む、無理です……」
「……ッ……! ……ッ……!? ……ッ……!!」
「じ、じゃっくさま……助けてくだ――」
容赦なく叩きつけられる殺意にルーナは恐怖し、絶望の込められた声を漏らす。
可哀そうに全身をガクガクと震わせ、ペタンと腰まで抜かしたのか地面にへたり込む。
リリィ=アドルファーティはそんなルーナに血走った目を大きく見開かせながらも、何かを訴えかけるように動かない身体と出ない声を懸命に振り絞っていた。
……ま、そんなことはどうでもいい。
「――ダメだ」
救いを求めるルーナに、俺は端的に追い詰める一言でその手を振り払った。
彼女はその一言に俺の本気の色を見たのだろう。
これは避けては通れない試練である、と。
付いていくか、否か。この瞬間、正しくルーナにとっての分水嶺となった。
「――――」
凶悪な各種モンスターの大群と、無言で見つめる俺の目を交互に見るルーナ。
先ほどのゴブリン戦以上のプレッシャーが、彼女の身に圧し掛かる。
俺は何も語らない。
モンスター共も空気を読まずに近づいてくる。
全ては……彼女の覚悟に委ねられたのだ。
果たして、ルーナの選択は――。
……
…………
「――はぁッ、はぁッ、はぁッ……!」
屍の山の中、荒い息を吐きながらルーナは再び地面にへたり込む。が、今度は恐怖で腰を抜かしたのではなく、単純に立ち続けられないほど疲れたからという理由だった。
時間にして数十分。
休む暇もなくモンスター共と戦い続けたルーナは、疲労困憊な様子で天を仰ぐ。
無数の凶悪なモンスターの群れを相手に、ついに彼女は敵の全滅を成し遂げたのである。
「……。ふむ」
ルーナから視線を外し、彼女の倒したモンスター共で出来た死体の山を見る。
途中、結構な頻度で彼女に届く攻撃を銀刃の生成でフォローしたものの、概ねルーナの限界も見極めることができた。
……悪くはないだろう。
限界まで魔法を放ち、時にはモンスターの死骸から鋭利な牙や角などを切り取ることで武器とし、それを片手に戦ってすらいたルーナを俺は内心でそう評価する。
(初めての戦闘にしては、中々やる)
恐らく彼女には元から戦闘の才能があったのだろう。
これまでは箱入りだったせいで開花できず、埋もれていただけで日の目を見ることはなかった。
しかし今回の件をキッカケに、世界は彼女の才能に刮目することとなる。
そう考えると……なるほど、これは少し面白くなってきたじゃないか。
「はぁ、はぁ、はぁ――、…………ふぅ」
視線を戻せば、ルーナは荒い息をゆっくりと整え、流した汗も綺麗に拭い取っているところだった。
回復早いな。これも才能か?
いつもの隠し切れない上品さを醸し出している余裕こそないが、それでも驚愕に値する復帰速度である。
「……ぁ、ジャックさま」
ふと俺から見られていることに気づき、ルーナはハッとして立ち上がる。
汗を拭い取っているところを見られたのが恥ずかしかったのか、頬を少し赤らめながら歩み寄ってくるルーナ。
褒めて欲しそうに目の前でニッコリと微笑む少女を見て、不意に俺は「どうせならこのまま更なる連戦を強いてみるのも有りかもしれない」と思う。
こうなったら、とことんまでルーナの力を見てみたい。
追加でフォースにモンスターを送ってもらうか?
けれど――、
「……く、ぅう ――ルーナちゃんっ!」
残念ながら、今回はもう時間切れのようだ。
リリィ=アドルファーティに掛けていた殺意の圧力が解けたことで、無粋な存在が俺とルーナの間に割って入る。
「大丈夫っ!? ルーナちゃん、どこも怪我してないっ? 」
ペタペタとルーナの全身を触診し、心配そうに声をかけるリリィ=アドルファーティ。
自分を地に這わせていた恨み節よりも、先ずはルーナの心配をするあたり奴の素が見えてくる。
なので、この世界の人間にしてはそう悪い奴じゃないのだろう。きっと。
(……ん?)
だがその時、俺の目はしっかりと捉えていた。
奴がルーナの素肌に触れた瞬間、僅かに口元がニヤついたのを!
「…………」
もしかしてだが……この女。
無言で、ルーナに抱きつくリリィ=アドルファーティを観察する。
「ハァッ、ハァッ、ルーナちゃんっ。平気っ?」
「は、はい、リリィさん。ご心配をおかけしました。リリィさんこそ大丈夫でしたか?」
「うぇへへ……ぁっ、な、何も問題ないわっ! それよりルーナちゃんこそ――……」
間違いない……この女、もしかしなくてもロリコンだ!
それも完全にルーナを狙っているヤバい奴である。
人は窮地に追い込まれたときほど本性を晒しやすくなると言うが、リリィ=アドルファーティはまさかのロリコンだった。
(こんなの、俺にどうしろと?)
単なる敵ならまだしも表立って俺に敵意を向けず、更にはとんでもない変態ときた。なに、殺せばいいの?
お陰で他の信者たちのようにルーナを毛嫌いしない理由も分かったし、俺がルーナの保護者だったから敵意を抑えられたのだと理解することができた。
ある意味で、リリィ=アドルファーティの潔白が証明されたのだ。
多少は信じてもいいのだろう。
予定では俺に対する敵意を暴いて処刑でもしようと思っていたのだが、暴いたのはまさかの変態性である。
……うーん。実に何とも言い難い。
(ちッ………………仕方ねぇな)
長い葛藤の末、俺は変態から目を逸らすことにする。
正直、リリィ=アドルファーティには戦闘試験の邪魔をしやがってという気持ちが強い。
けれど実際にゴブリン共を消し炭にしたところでルーナは精神的な限界を迎えていたようだし、そこから更に凶悪なモンスター共の群れまで相手にしたのだ。
どの道これ以上の戦闘は続けられなかっただろう。
だから――今回は、ここまでにするか。
「――戻ってこい、フォース」
少なくともルーナに自衛できるだけの力があることは今回の件で十分に示せた。
これなら俺の旅に同行する分には何の支障もないだろう。
つまり、合格だ。
そう判断して、俺は超範囲にわたって獲物を探し続けていたフォースを呼び戻す。
もう探さなくていいぞ。
「? あの、ジャックさま……?」
「あぁ、ルーナも今日はもういい。……よくやったな」
フッと笑みを浮かべながら、彼女にも誉め言葉を送った。
改めて思うと、今回の戦闘は箱入り娘らしきルーナからしたら初めての殺傷だったのだろう。
しかし初めてだったにも関わらず、押し寄せる複数の敵を前に一切取り乱すことなく冷静に、そして容赦なく戦えていたのだ。
文句などあろうはずがなかった。
長い戦闘の果てにようやく誉め言葉を送ってもらえたルーナは、そうして送ってもらった言葉を疑うことなく心の底から嬉しそうに微笑む。
うむ。本当によく頑張ったな。
(だがリリィ=アドルファーティ。お前は許さん)
菩薩の心は、万人に向けられるものではない。
ルーナに送っていた優し気な視線から一転、俺は彼女に抱き着いて盛っている変態を強く睨みつける。
ここに至って、この女が付いてくるのは仕方ない。どこまでかは知らんが、多分ルーナがいる限りはずっと付いてくるはずだ。
その点は俺も諦める。が、最低限の上下関係を叩き込む必要はあるだろう。
他の信者たちと同じように敵意を向けてくることは言語道断として、今回のようにルーナ関係で一々突っかかれるのも鬱陶しい。
故に――リリィ=アドルファーティには一度、見せつけてやる必要があった。
――ゾワァァン……(モ・ド・ッ・タ)
おっと。丁度いいところに戻ってきたな、フォース。
ちょいちょいっと指先を動かし、戻ってきたばかりの眷属を近くに招き寄せる。
――ゾワァン……(ド・ウ・シ・タ)
いや、な。
「その……戻ってきたばかりで悪いが、ちょっとした野暮用を頼まれてくれないか?」
僅かに声を潜め、そっと隠すようにしながら左手でとある方向を指し示す。
そこには純粋に無事を喜ぶルーナの姿と、彼女とは逆に欲望一直線で盛るリリィ=アドルファーティがいた。
――ゾワァァン……(リ・カ・イ)
冷静に頷きを返すフォース。
分かってくれるか。流石だな。
なら――、
「――早速やってくれ」
これにフォースは、再び西の果てへと即座に飛び去っていくことで応えた。
今度は迫力のある奴で頼むぞ。
大人気ないかもしれんが、それでも今後のことを考えれば絶対に必要な示威行為なのだ。
……。
果たして、その数十秒後。
フォースが飛び去った方向から、「グォォォオオオンッッ……!!」と空気をビリビリ揺るがすほどの咆哮が響き渡る。
聞き覚えのある声質に、俺はすぐに敵の正体を予測。
こいつは――竜、か。声の大きさから推測するに、敵は相当デカい。
ちらりとルーナたちを見やれば、ルーナは顔色を真っ青にして震えていた。
リリィ=アドルファーティも流石に空気を読んだのか、険しい表情で音の聞こえてきた方向を睨んでいる。
……反応は上々、と。
――ゾワァァン……(ツ・レ・テ・キ・タ)
フォースが戻ってきた。
竜を連れてくるとは大したものだ。
あぁ、それと追加は必要ない。相変わらず仕事が早くて助かる。
後は元通りルーナの護衛をしていてくれ。
「逃げましょう! ジャックさま!」
ふとルーナが、怯えるあまり泣きそうになった涙声で話しかけてきた。
隣ではリリィ=アドルファーティが同意するように、緊迫しすぎてすっかり強張った顔で俺に頷きかけてくる。
ふむ……どうやら、この世界の人間にとって竜は余程ヤバい存在らしい。
ルーナなんて再び纏わりついたフォースの存在に気づけないほどの怯えっぷりである。
(そうでなくては、な……)
彼女らは逃げることを提案しているようだが、俺には都合の良い展開だ。当然、その提案は無視するに決まっている。
そうして俺は僅かな笑みを顔に浮かべ、ルーナに問う。
「もう俺はいつでも旅立つことができるが……ルーナはどうだ?」
何か、この何の特徴もない街で準備していくことはあるか?
唐突な話題に焦っていたせいで精神的な余裕がなくなっていったルーナは、「この状況で何を言ってるんですか!」と反射的に返す。
けれど俺が無言で問いかけに対しての答えを待っていると、やがて冷静さを取り戻したのかルーナは一度深呼吸を挟んでから答える。
「申し訳ございません……わたくしも問題ありません」
「そうか。……なら――」
リリィ=アドルファーティに目を向ける。
すると奴は眦を吊り上げ、すごい勢いで怒鳴り出した。
「ちょっと! 何を呑気に話しているのっ? 早くルーナちゃんを連れて逃げ――」
どうやらロリコンはルーナを逃がさず、むしろこの場に引き留めていることを怒っているようだ。
異教徒に向ける敵意……それとは別種の敵意が俺に向けられる。
だが、残念ながらお前の話を最後まで聞く気はない。
俺はリリィ=アドルファーティの主張を途中で、容赦なくぶった切って言った。
「――俺たちはすぐに出発できる。後はお前次第だが、……いつ行ける?」
「……っっ……!」
言葉に詰まるリリィ=アドルファーティ。
未だに危機感を持たない俺に苛立っているのもあるだろうが、それ以上に竜の姿が目視できる距離に現れたのだ。
焦りが限界まで達した女は怒鳴ることも質問に答えることもできず、ついには表情から手足の先まで固まってしまう。
こいつが存分に恐怖するのは歓迎だが、せっかくのストレスを呆けることで回避されてしまうのはいただけない。
(ハァ……仕方ねぇな)
俺は純粋に抱いていた殺気の一部を解放し、リリィ=アドルファーティに向ける。早く起きろ。
「――ッ、は! ……え、ぁ……?」
間抜けそうな顔で俺を見返してくるが、そんな奴にもう一度だけ問いかけた。
こっちは準備万端で、後はお前次第だ。
いつになったら、お前の父親の所まで案内できる?
「そ、それは……一度、街まで行商用の荷物を取りに行ってからじゃないと」
行商用の荷物?
……。
……あぁ、そういえば商人でもあったな。
ロリコンの変態というイメージが強すぎて、リリィ=アドルファーティの立場というものをすっかり忘れてた。
ともあれ、それならそれで構わん。
俺たちはここで待っているから、さっさと荷物を取りに行くといい。
「でも、その前にドラゴンが……!」
「竜? それがどうした」
「どうした……って、ドラゴンよ!?」
「そんな雑魚、邪魔なら始末すればいいだけじゃないか。こんな風に――」
そう言って、俺は徐にすぐ近くまで迫りつつあった竜に手のひらを向ける。
……完全に自作自演のヤラセだが、気分は最高だ。
リリィ=アドルファーティはすっかり怯え、精神的に折れかけていた。
後は優位な立場から、圧倒的な力の差というものを見せつけてやるだけでいい。
だから――、
「――“弾けろ”」
ぐっと突き出した手のひらを握りしめ、竜の死を宣言する。
次の瞬間、ドスドスと大地を駆けて迫り来ていた竜の頭部が急に醜く膨れ上がり――パァンッと音を立てて破裂した。
ボタボタと竜の飛び散った肉片が落ちる中、俺はゆっくりとリリィ=アドルファーティに振り返って言う。
「ほら。……簡単だろ?」
竜の頭の中に直接『第三兵装:偽翼』の銀刃を生み出し、それを巨大化させるだけの作業だ。
有機物だろうが無機物だろうが、これ一発で弾けさせることができる。
雑魚の掃討にはこれ以上ないほどの攻撃手段だろう。
……勿論、ここまで全て挑発である。
我ながら心が狭いと思うが、何しろ抑えきれなかったのだから仕方ない。
「そんな、ドラゴンが雑魚扱い……」
とにかく――やりたいことはこれでやれた。
予想通りの反応が見られ、それだけで俺はもう満足だ。
呆けるリリィ=アドルファーティからルーナに視線を移す。
そこには竜に怯えていた少女はなく、まるでヒーローでも見るかのように頬を紅く紅潮させ、キラキラと輝く瞳を向ける少女がいる。
これは流石に意図してしなかった結果だが……まぁ、いいか。
「さて……では行商用の荷物が回収されてくるまで、俺たちはここで待機していようか」
僅かに口元を歪めて苦笑し、俺は彼女に暫く休憩することを告げるのだった。
……。
……とりあえずリリィ=アドルファーティは呆けてないでさっさと動けよ。




