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狂神が嗤う  作者: 限破
狂神転生編 第三章 極剣闘争
44/47

044.少女のいる朝

 ちゅん、ちゅん、と鳥の囀りが聞こえた。

 いつものように無意識の中に周囲の気配を探ったところで、自分が安全な屋内で眠っていたことを思い出す。


(あぁ、そういえば……昨日は久々にベッドで眠ることを決めたんだっけ)


 ボーっとする頭で思考していると、だんだんと意識がハッキリしてくる。

 軽い倦怠感に心地良さを覚えながら客室用と思われる寝台からゆっくりと身を起こしたところで、目の前にいたフォースと目が合った。

 あ、おはよう。


 ――ゾワァァン……(オ・ハ・ヨ・ウ(はい、ご機嫌ですね)


 まぁな。

 やはり文明人たるもの、屋内で就寝してこそだろう。

 こうして屋内で朝を迎えると、野宿は程々で良いと改めて実感する。


「くはぁーっ……」


 久々に心地良い朝を迎えられたことに満足しながら、大きく身体を伸ばす。

 全身にじわりと血が巡っていく感覚がたまらない。

 こんな朝は、ちょっとした豪華な料理でも口にしたいものだ。

 都合の良いことに、この家は豊かな村の村長宅で食料も相応に豊富だった。

 長いサバイバル期間を経て味に関してはすっかり拘りもクソもなくなってしまった俺だが、せっかくなので食事を楽しんでいた昔の頃を思い出しながら文明人らしく美味いものでも食べようかと、上機嫌で客室を出てリビングルームへと向かう。



 だが部屋を出て数秒後。

 心地良い朝から一転、俺は自分の正気を疑うことになるのだった。


「ぁ……! ジャックさまっ、おはようございます」

「あぁ、うん……」


 そこにいたのは、何の気まぐれからか昨日、同行することを許可してしまった白髪赤目の幼気な少女――ルーナ。

 けれど問題はルーナという少女が目の前にいたことではない。彼女に関しては、既に同行を許可していた時点で驚く要素ではなくなっている。

 むしろ問題は少女の背後、有機物と無機物の残骸で作られた山という光景にあった。


「……それは?」

「あ、えっとぉ、そのぉ……えへへ?」


 何やら恥じたような照れ笑いを浮かべ、ルーナは答えを濁す。

 彼女は目を右に左にと泳ぎまくっており、自分でも大変なことをしでかしてしまったと理解しているようだ。


「……。まぁ、いい」


 その態度と積まれた有機物の正体から大体察した。

 俺はそれ以上、ルーナに事情を聞くことを止める。

 昨日は「自分の身は自分で守る」と言いきっていたが、その割に普通の生活力はないらしい。

 大方、張り切って何か料理でも作ろうと思った結果、盛大に失敗してしまったのだろう。


「……で、残りの食材は?」

「しょ、しょくざい」


 ……ん?

 何だその反応は。……いや、いい。やっぱり言わなくていい。

 理解した。だからそんな泣きそうな顔をするな。


「はぁー……先が思いやられる」

「ぐすッ、もうしわけごじゃいません……」


 一応、自分でも残りの食材を確認してみるが、本人の申告通り残存食糧はゼロである。

 というか何が彼女の挑戦心を掻き立てたのかは知らんが、一つも残らず食材を消費する前に、どこか途中で止められなかったのだろうか。

 料理できないのは仕方ないにしても、流石に自制ができないようでは手の打ちようもなく困ってしまう。

 本当に昨日の俺はどうして彼女の同行を許可したのか、自分のことながら分からない。……まさか朝から己の正気を疑う羽目になるとは、全く思ってもいなかった。


(今後に期待、か)


 とりあえず、心の底から湧き上がってくる重い気持ちに蓋を閉め、俺はフォースと両手で涙を拭うルーナを伴って村長宅の外へと出る。

 この家に食糧がないのであれば、他の家から調達すればいいのだ。

 ……まぁ、その他の家は軒並み破壊してしまっているんだけれども。

 ともあれ既に瓦礫しかない村だが、それでも根気強く探さなくては食べるものも食べられない。

 周辺一帯に危険な存在は何もないことが確認されているし、ここは一先ず手分けして食材を集めた方が効率的か。

 そう考え、俺はすぐにルーナへと手分けして作業することを伝える。


「うぅ……はい、本当に申し訳ございませんでした」


 特に反対意見はなく、むしろ謝罪の言葉を再び述べたルーナは、そうして項垂れながらトボトボと食材探しのために離れていった。

 やってしまったことが事だけに、どうやら本気で落ち込んでいるらしい。

 どうせならさっさと立ち直って精神的に急成長でもすることで俺の手を煩わせないようになってほしいものだが、とルーナの哀愁漂う背中を見つめながら思う。

 案の定、項垂れて前方をきちんと確認していなかったせいで、昨日俺たちが散々暴れたことで量産した死体の中の一つに躓いたルーナが「キャーーーッ!」と甲高い声で悲鳴を上げるのだった。


「――仕方ない。俺たちも行くか、フォース」


 何となく笑みを浮かべ、転んだ先で別の死体にも躓いて喚くルーナを後目に、俺もフォースに声をかけて食材探しを始めようとする。

 だがその時、ふとフォースが嬉しそうな雰囲気を漂わせていることに気づく。


「どうした? 何だか随分と機嫌が良さそうだな」


 すると、「それはもう」と前置きしたフォースが小刻みに空間を揺らした。


 ――ゾワァァン……(ア・カ・ル・イ(楽しそうで何よりです)

「楽しそう……俺がか?」


 思いがけないセリフに驚いて問い返す俺に、「はい、久しぶりにそんな我が君を見ることができました」と肯定するフォース。

 そして「その証拠に……」と予想外なことに固まっていた俺に対しフォースは話を続ける。


 ――ゾワァァン……(オ・ハ・ナ・シ(会話の量も増えました)

「……」


 会話、か。

 言われてみれば確かに、少し前に比べて口数は物凄く増えたかもしれない。

 そこで改めてフォースに指摘された点を考えてみると、自分でも昨日と今日はだいぶ喋っているなと自覚した。


「……そうか。そういえば、そうだな」


 横を向けば、フォースがニコニコと微笑んでいるような雰囲気を醸し出している。

 今の俺の状態が相当嬉しいのだろう。

 ……逆に考えると、それだけフォースは昨日までの俺を心配していたということだ。


「悪いな。随分と心配をかけてしまって」

 ――ゾワァンッ……(マ・ス・タ(わ、我が君っ……!)


 自然と口から漏れ出たセリフに、フォースが感動したように震える。

 フッ……相変わらず主人思いな眷属だ。一々可愛い反応をしやがって。

 そんな可愛い眷属に、俺は安心させるように口の端を吊り上げて笑いかけた。


「――だが、もう問題はない」


 昨日までは確かに頭の中まで靄がかかっていたような感じだったが、今では大分スッキリしている。

 原因は分かっている。――【狂天】だ。

 元々【狂天】とは、保持者の狂気と正気の比率が常に完璧な均衡状態でなければ維持できない天能である。

 記録上では多くの【狂天】保持者がその均衡状態を保てず、能力に呑まれて自滅してきた。

 そして今回、俺も己を蝕む孤独に狂気と正気の均衡状態を保つことがてきず、ついには【狂天】によって自滅への道を歩み出しかけてしまっていたのだ。


(認めよう。俺は孤独に耐えられなかった)


 異世界に来てから今に至るまで、思えば俺はずっと孤独だった。

 そして思い出す。

 シラやリオネリアという少女たちがいた。

 彼女たちとの触れ合いは俺に束の間の癒しを与えてくれたが、千年という長い闇に侵された心の前には余りに時間が短すぎて、孤独を癒すには至らない。

 途中からは仲間として、フォースが傍にいてくれた。

 けれど人間は、やはり音を使って会話し物理的に触れ合ってこそ、相手に温もりを与えられるものなのだと知る。

 恥ずかしい話だが、俺は心は孤独に弱い。

 長い孤独は着実に俺の心を蝕み、そうしてヴィーランでの一件で狂気は正気を凌駕してしまったのだろう。

 いつか来る自滅の時まで、もはや俺たちにはどうしようもない――はずだった。


「そういう意味では、あの少女……ルーナの同行を許可した甲斐があったのかもな」

 ――ゾワァァン……(ア・ン・シ・ン(はい、本当に良かった)


 しかし、そんな時に現れたのがルーナで、敵意のない少女の存在は暴走しかけていた俺の狂気に歯止めを与えてくれたのだ。

 全ては今思えばこその話だが、だからこそこうしてフォースに気づかせてもらった以上は彼女にも感謝しなければならないだろう。

 何せ彼女がいなければ唯一の願いである復讐を成すこともできず、ただ朽ち果てるように自滅するところだったのである。


(自分では本当に気づけないものだからな。特に【狂天】の暴走なんてものは)


 だから気づかせてくれてありがとう、ルーナ。

 本人不在の中、そうして俺は機嫌の良いフォースと崩壊した家屋から食料を発掘しながら、内心でルーナへの感謝を捧げるのだった。




 ……

 …………

 ………………




「何か、もうちょっと優しくしてもらってもいいような気がします」

「あ? だから飯まで作って食わせてやってるだろうが」


 釈然としない顔のルーナに、何言ってんだこいつと俺は言い放つ。

 そもそも食料回収から合流した時、ルーナは選りに選って腐った物や食べられない物しか持ってこなかったのだ。

 食器なんて元村長宅にもあるし、腐った食べ物はむしろ何で回収してきたのかと問い詰めたい。

 いくら生活力がなさすぎだとしても、流石に限度があるだろう。


「それは……そうですけど……」

「いいから黙って食え。食い終わったらさっさと出るから」


 自分でも役立たずであることを理解しているのか、それ以上は何も言ってこない。

 まったく……図太い女だな。合流した時、僅かにでも感謝の気持ちを態度に出してしまったのが間違いだった。

 数分前までは確かに感謝の気持ちを抱いていたが、廃品だけを抱えてくる姿を見てはその気持ちが相殺されてなくなるのも当然である。

 逆に、それだけのことを仕出かしたルーナを責めず、黙って食べ物を与えることに感謝してほしいものだ。


(はぁ、これじゃあサバイバルと変わらん。とんだ豪華な朝食になったものだな)


 豪華どころか簡易的な有り合わせの朝食を早々に食べ終わり、口直しにガムを召喚して食べる。

 昔は大好きだったガムも、今ではすっかり惰性で口に含むようになってきた。

 感動も何もあったものじゃない。

 時が人を変えるっていうのは本当なのだと、能天気そうにハムハムと小口で朝食を食べ続けるルーナを見ながら黄昏る。

 こいつもいつかは役に立つ時が来ればいいけどなぁ。


「ところでジャックさま。二つほどお聞きしたいことがあるのですが」


 そういえばこいつ、やけに上品な食べ方をしていやがる。

 座り方は勿論、食べ方や時折ハンカチで口や手で拭ってる姿など、どれも一般人にはとても醸し出すことのできない高貴な者特有の雰囲気だ。

 着ている服も簡素ながらしっかりした生地のようだし、もしかしてルーナは……。


「……あの、ジャックさま?」


 下から覗き込むような少女の眼差しに、ハッと我に返る。

 ……まぁ、いい。

 ルーナがどこの誰だろうと、俺に敵意さえ抱かなければ結局はどうでもいいことだ。


「で、何だ? 聞きたいことってのは」

「もうっ、ちゃんと聞いてたなら反応くらいしてくださいよ。一人で話しているみたいで寂しいじゃないですかっ」


 いいから。

 寂しいのは分かったから、さっさと聞きたいことを言えよ。

 無言で肩を竦め、軽く無視されてぷんぷんと怒るルーナに話を続けるよう促す。

 つーか本当に気安いな、こいつ。秒速で打ち解ける天才か? 物凄く一方的にだけど。


「それでですね。昨日、初めて会った時、わたくしにお聞きしたことがあったではありませんか」


 内心で呆れられていることも知らず、マシンガントークのようにルーナは話を続ける。

 気がつけば本題に入っているし、これ注意していないと聞き流してしまうから聞いてる側からすると地味に辛いんだよなぁ。

 で、何だって?


「お聞きしたこと?」


 そんなものあったか?

 思い当たることがなく聞き返すと、「はい」とルーナは頷く。


「あの時はわたくしも混乱していたので、てっきりジャックさまから自己紹介をしていただけたのだとばかり思っていたのですが……」

「自己紹介だと?」

「はい。ですが思い返すとジャックさまは凄く真剣な顔をしていましたし、もしかしたらわたくしに聞きたいことがあったのではないかと思いまして」

「……」


 ……まさか。

 思い当たるものが、一つだけあった。

 そして思い至ると同時に、抑えきれない動揺がこの身を駆け抜ける。

 あぁ、やはり……自分自身の心は、どうあっても誤魔化せないらしい。

 ピクリと動きそうになる瞼を俺は気合いで固める。

 けれど、次の瞬間――、


「――クロの何とか、というものについて、わたくしにお聞きしたかったのではないでしょうか」


 ルーナの手前、僅かにでも動揺したことを悟られないよう堪えていたが……それを聞き、スッと己の顔から表情が抜け落ちたことを自覚した。

 ――黒の神敵。この世界における俺の蔑称。

 確かに、聞いたことに間違いはない。


「なのであの時、きちんとジャックさまに答えられなかったことが今も気になっていて……」


 だが、できれば今は聞きたくなかった話だ。

 人の動揺も知らずにルーナが話を続けていたが、それこそ既に俺の耳には欠片も入ってこなかった。

 何故ならそれは、その言葉はあまりにも――俺の復讐心を掻き立てる。

 千の罵倒、万の侮蔑よりも許せぬモノ。

 シェルミールの声と並ぶ最強のキラーワード、それこそが“黒の神敵”という蔑称の正体だった。


(落ち着け、目の前に敵はいない。衝動的に暴れても意味はない。また後悔するつもりか)


 憎悪が煮え繰り返る。

 衝動的に視界に映る何もかもを引き裂きたくなるが、目の前にいるのは邪気のないルーナだけ。

 この世界に来て、俺に敵意を抱かなかった貴重な人材。たった3人しかいない中での一人である彼女をこのようなことで殺してしまうのは、愚かしいにもほどがある。


 ――ゾワァァン……(ダ・イ・ジョ・ブ(如何なされました!?)


(問題……ない。心配するな。【狂天】は既に――正常だ)


 心配して問いかけるフォースに、ひらひらと手を振って問題ないことを知らせる。

 事実として【狂天】に問題はなく、過剰に憎悪を燃え上がらせることに既にリスクはない。

 掻き立てられた復讐心も、今では意思の力で抑え込めるのだ。


「……スゥー……、……ハァー……」

「えっと……あ、あの。大丈夫でしょうか?」


 身を焦がすほどの憎悪を鎮めるため、露骨に深呼吸をしていては、流石にルーナにも心配された。


「……スゥー……、……あぁ、問題ない。少し……そう、目眩がしただけだ」

「そう、ですか? 無理ならわたくしのことは気にせず、休んでいていいですよ?」

「いや――気にするな。それより黒の神敵についてだったな? それも気にすることはない。機会があればそのうち話す」

「は、はぁ」


 呆気にとられた様子のルーナを見て、俺は胸を撫で下ろす。

 まったく……とんだ試練である。

 憎悪は何とか治まったが、唐突に己の理性を試されるのは勘弁してほしいものだ。

 昔、日本にいたときに幼馴染の水萌(みなも)から何かの話で「青年が理性を試されるのは、実は幸せで充実した日々を過ごせている証なんだよ」と聞かされたが、これっぽっちも理解できない。

 今の状況に幸せの“し”の字もねェんだが? 我が幼馴染様よぉ!


「ふぅ、まぁいい。それで? ――話はもう一つあるんだろ?」

「え? はい、そうですけど……」


 本当に大丈夫かと心配そうな目線で見つめてくるルーナ。

 ……確かに、実は先程までは額に汗まで滲ませていたのだ。

 そんな人間に気にするなと言われても、一般的な感性を持ってる者は気にしないわけにはいかないだろう。


「とりあえず、お茶でも飲みませんか?」

「……そうしよう」


 ルーナの気遣いに従い、俺は素直に休息を取ることにするのだった。

 幸いにして茶葉は元村長宅に残されていたので、茶は煎れればすぐに飲める状態だ。

 続きの話は茶の後にでもしよう。

 そういえば朝食の後はスープもなく、ガムを噛んでいただけだったしな。

 パタパタと茶葉を取りに走り去っていくルーナを見ながら、俺は手元の鍋で湯を沸かす。

 勿論、その後の茶もルーナではなく俺が煎れることになったが。

 ともあれ、この一服はルーナの話が再開するまで続くのであった。




「どちらかと言うと、こちらの話の方が本題になるのですが……」


 ティーカップらしきものを手元の小皿の上に置き、形だけでも上品さを保ったままルーナが静かに口を開く。

 お、おう。

 というか俺まだ飲んでるんだけど。

 これまた唐突に話が再開したなぁ、と内心で呆れる。

 先程の話の時とほば同じ展開を辿っていることに俺が若干の不安を覚えていると、ふとルーナが虚空のあらぬ方向にチラリと視線を向けた。

 何だ? 何があるんだ。

 釣られて見るが、その少し横にふよふよと漂うフォースがいるくらいで、俺とフォースはルーナが何を見たのか分からずに首を傾げ合う。


「あっ、ほら! 今! 今のです!」

「今、って何がだ?」


 思いっきり俺と視線を向けてた何もない虚空へと交互に指を差しながら、ルーナは興奮して言い募る。

 しかし本気で何を言っているのかが分からずにいる俺に、じれったそうにしていたルーナがついに吠えた。


「だからっ、そこ! ジャックさま、時々そこにいる誰かと話しているではありませんかっ」


 ビシィッと指し示された方向を振り向けば、目があったのは虚空……の隣でキョトンとしたフォース。

 あ、もしかしてルーナの聞きたいことって。


「よく見ると今も透明な何かが揺らめいていらっしゃいますしっ、もし本当に誰かがいるのなら是非紹介していただきたいのですが!」


 やっぱり、フォースのことだったか。

 そりゃあ目の前であれだけ話してればバレないわけないよな。

 パッと見た感じだと俺が独り言をしているようにしか見えないが、フォースの姿だって空間の揺らぎとして完全に見えないわけじゃない。

 むしろ初めて俺たちと会ってから1日だけで看破したルーナが凄いと言える。


「あーっと……言ってなかったか?」

「聞いてませんっ!」


 そりゃそうだ。

 旅の同行者として迎え入れたのであれば、他にも仲間がいる場合はその場で紹介するのが筋だろう。

 ルーナがカンカンに怒るのも無理はない。

 これは全面的に俺が悪いと反省する。


「――フォースだ。俺の唯一の仲間にして、たった一人の相棒だ」


 片手をフォースに差し向け、その腕にフォースを纏わせながらルーナに紹介する。

 いることは分かっていたが、実際に紹介されると驚気だったのか、目を丸くして俺の腕の周りで揺らぐ空間を見るルーナに、フォースが震えて応えた。


 ――ゾワァァン……(シ・ン・イ・リ(我が君を前に生意気だ)


「え、えぇ!?」


 ――ゾワァァン……(ヒ・カ・エ・ロ(“さん”付けでと呼べ)


 いつになく後輩に厳しいフォース先輩である。

 震えるフォースに驚くルーナだったが、もちろん言葉が通じているわけではない。

 単に未知の存在を見て驚いていただけだった彼女に、しっかりと俺からフォースの言葉を伝えてやれば、面白いくらいにルーナの顔が引き攣った。


「わ、分かりましたわ。フォース……“さん”」


 まぁ、知らない人から急に嫌われていたと聞かされればショックを受けるのも仕方ないだろう。

 分かりやすいほど衝撃を受けたせいか、ルーナの言葉遣いまで面白いことになっているが本人は気づいていない。

 或いは、あまりに自然と漏れ出たそのセリフこそが本来の彼女の口調なのか……それも追い追い分かるはずだ。

 今はともかく、この面白い二人組の会話というものを聞いていたかった。


「ちなみにフォースは俺たちの会話を聞くことはできるが、話すことはできない。ま、会話する手段がないわけではないが……知りたければ教えてやろう。どうする?」

「そ、そうですわね……」


 何となく面白そうだったので、そう聞いてみる。

 すると、分かりやすいくらいに躊躇した様子を見せるルーナ。

 未だお嬢様言葉が抜けきっていない点が、彼女が動揺から立ち直れていないことを示していた。


 ――ゾワァァン……(ショ・ウ・ジ・ン(文句を言うな努力しろ)


 だがそこへ挟まれたフォースの一言に、俺はつい吹いてしまう。

 く、くくくッ。まさかフォースとルーナの相性がここまで面白いことになるとは。

 これだけでも俺のことは別として、ルーナの同行を許可して良かったと考える。


「ふぉ、フォース()()は何て仰っていますの?」

「あ? あぁ、“つべこべ言わずに努力しろ”ってさ」

「……っ、な……くぅっ……!」


 道理である。確かに、今ルーナにとって最も必要なのは努力だ。

 それも、取捨選択せずに凡ゆる努力をしていかなくてはならない。

 ルーナ本人もそのことを理解しているからこそ、何も言えず代わりに顔を真っ赤にして黙っていた。

 ……まぁ顔を真っ赤にしている主な理由は、そのことを言ったのがフォースだからだろうけど。

 いつの間にやらルーナがフォースをライバル視している辺り、この二人の関係は見ていて面白い。


「わ、分かりました。ジャックさま、是非わたくしにご教授くださいまし!」


 ――ゾワァァン……(コ・ロ・ス・ゾ(小娘、キサマ何様だ?)


 ください“まし”って、地かな? そこから推測するに、前は偉い立場だったのだろうか。

 けれど今の立場でそれをうっかりだとしても使ってしまうのは良くない。

 特に、この俺に対して命令形を用いるなんてフォースがキレても仕方ないレベルでの失態だ。


「ぁ……申し訳ございませんっ、ジャックさま!」


 刹那のうちに冗談抜きの殺気をフォースから叩きつけられ、一瞬で事態の悪さを悟ったルーナが顔色を青くしながら謝罪する。

 何だかルーナからは今朝から同じセリフばかり聞かされている気がするが、ともあれ今後は気をつけるように俺からも言い含めておく。

 今は機嫌が良いので何ともないが、本来の俺が相手だと同行者の身分でもどうなるかは分からないから、な。


「どうやら学ぶことは多くなりそうだな。これからは注意していけよ?」

「はい……」


 さっきみたいな俺の復讐心が暴走してしまう例もあるし、今後のことを長く考えたいのであれば本当に気をつけてくれよ?

 完全にしょぼくれてしまったルーナを、ふっと瞳の奥に冷たい光を宿しながら見つめる。

 願わくば、この関係は長く続けてほしいものだが、残念ながらこのことに関して俺からできることは何もない。

 全ては彼女の、ルーナ次第なのだ。


「じゃあ、そろそろ行くか。――フォース、ルーナの防護を頼む」


 己を見つめる機械的で冷徹な目に気づかず、項垂れたままの彼女からフォースに視線を移す。

 手短に伝えられた内容は、しかしフォースにはしっかりと伝わり、直後にはルーナの全身を覆うように纏わりついた。


「……ぇ、えっ!? 何ですか、これっ? まさかフォースさん!?」


 初めてフォースに触れたルーナは、その空気を物理的に掴んだような独特の感触に当然のように戸惑いの声を上げる。

 そんな彼女の腕を掴むと、反射的に縋るような目を向けられた。


「そんな気にするものでもないだろ、むしろ無敵の防具を纏ったと考えておけ。それに……これはお前のためでもあるからな」

「それは、どういうぅぅぅーっ!!?」


 最後まで聞かず背に『偽翼』を展開すると、俺はルーナの腕を掴んだまま空中に浮遊し始める。

 音もなく、ふわりと浮かび上がる感覚に彼女は驚き喚く。


「クハハッ。楽しそうにしているのは構わないが、舌は噛むなよ?」

「た、楽しむって……これ、空を飛んで!?」

「じゃ、行くぞー」

「ぁ……キャアァァァーーっ!!」


 ゼロから100へ。

 得意の急加速で一気にトップスピードに乗った俺は、ルーナの悲鳴のみをその場に残して上空へと躍り出た。

 目指すは北の街。アレルド=アドルファーティなる者が存在する場所だ。

 新たな同行者を引っ掴み、かくして俺は『第十兵装:極剣(アルティメットソード)』を求めて飛ぶのだった。

備考:篠原しのはら 水萌みなも

・霧崎 邪悪(主人公)の同年代の幼馴染

・サブカルチャーに関しては多分オタク

・今が物語の冒頭だとすると物語中盤から後半辺りまでは出てこないキャラその1

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