036.epilogue 「神敵顕在」
長かったので分割しました。
内容自体は分割前と変わりません。
ジャック(狂乱状態)視点と、◆ ◆ ◆ ◆以降は聖王国側の視点でのエピローグとなります。
「――死ィねェェェエエエッッ……!!」
長さ十五メートルを優に超える巨剣を横薙ぎに振るい、半径五十メートル内に存在する生物・無生物の全てを一瞬で消滅させる。
その消滅速度は既に物理法則も超えており、そのあまりの超速は余波までをも生み出すと同時に、これまた僅か一瞬の後に半径数キロメートルにも及ぶ巨大な白光を生み出し、街を包み込んでいった。
……とはいえ、白光自体に『第二兵装:我喰』のようなトンデモ効果はない。
ないが……物理的な爆風や失明レベルの光量は普通にあるし、精神の弱い生物や意識のない人間などは一瞬でその魂を刈り取ってしまう程度の効果はある。
つまり、何が言いたいのかというと――――
「うわっ」「ばっ」「そんっ」「何がっ」「眩しっ」「ぐぁっ」「痛っ」「ひぇっ」
何やらそれなりに離れた場所で、バラバラになって物陰からこちらの様子を覗き見ていた少数の人間がまとめて白光へ呑み込まれ、失明するものや衝撃のあまりに失神してしまう者まで出ていた。
まぁ、その様子を見て俺から言えることは特にない。
けれど、強いて言うなら……そうだなぁ。
――自業自得、かな。
「死ね」
なんせ気配を探ったところ、この街の人々は既にほとんどが街の東側からそのまま東方向へと逃げ出しており、残っている者たちと言えば西側でモンスターらしき集団と戦っている兵士諸君か、この目の前にいる有象無象だけなのだ。
で、この有象無象なんだが、彼らが果たして街に残って何をしているのかと言うと……これがビックリ。
何と――黙れ神敵! その首を叩っ斬ってやる、だってさ!
もうね、何て言うか……本当に驚いたね。
殺さずに拘束した時、五体満足を残して優しく聞いてあげたのに、奴らは俺に向かって唾を吐きかけながらそう答える始末。
いやぁー……流石の優しいジャックさんでも、これはちょっと許せないかな。
「死ね」
人に向かって唾を吐きかけるってのが、そもそも親の教育がなってないって言うか……何ていうの? まぁ、あれだ。
――到底、赦せるものじゃねーよなァ?
だから……仕方ないから、そういう奴らは片っ端から駆除してあげることにした。
ほら、ボランティア精神っていうやつ?
生モノって周りに腐っているのが一つでもあると、連鎖的に腐ってしまうからな。こういうのは消せるときにしっかりと消すに限る。
「死ね」
とりあえず、出会う奴らが一言目に「神敵めぇッ!」とか言うのを優先的に消毒していくとして。
俺は黙々と消毒活動を進めていく。
そうして気が付けば……出会う全ての奴らがそのセリフを吐き、そして俺によって駆除されていき、最終的には人も、街も、全てが真っ新に消えていたのだ。
「……」
キョロキョロと辺りを見渡すと、ふと夜の月明りで有り得ないほど明るくなっていることに気づく。
天を仰げば、十三の月ではなく太陽が、煌々と地上を照らしている。
――あぁ、夜が明けたのかぁ。
汚物を消毒したことで少しだけ気分も良くなり、太陽の眩しさに目を細めながら、暫しの間スッキリとした爽快感を味わう。
……が、そんな爽やかタイムも束の間。
地上を照らす十三の太陽の中にある、紫色に輝く太陽を見つけると、俺の気分は手のひらを返したかのように一気にどんよりとしたものとなる。
――あぁ、相変わらずあのくそ女神はクソだなぁ。
俺の爽やか気分を一瞬で害すとは、流石としか言いようがない。
「……尽く、死に絶えてしまえ」
まぁ、でも仕方ないか。
悪性腫瘍の塊みたいな世界だもの。
期待したら裏切られるだけだしね。
街単位ならこの街みたいに消毒してあげられるけど、流石に世界単位だと大変だなぁ。
とはいえ、方法がないわけでもないし、その方法も分かってはいるけど。
――方法は、単純だ。
ズバリ、この世界の管理者気取りのあのくそ女神を殺せばいいだけ!
ほら……すごく単純だろう?
「……死ね」
だからこそ、俺は実行しなければならない。
手始めに、この汚物だらけだった街からは出よう。
これ以上ここにいても意味なんてないのだから。
何より――――ここは、悲しみが多すぎた。
「……。――リオネリア……」
ある少女の顔が脳裏を過る。
――その元気が眩しかった。
――その笑顔が温かかった。
――その時間が楽しかった。
――その優しさが嬉しかった。
――その希望が心地よかった。
故に――――
「――――“真・護武躙砲”――――」
消滅のエネルギー砲は街を削り、壁を消し飛ばし、その先の遥か東の彼方まで大地を喰らいながら突き抜けていく。
進むべき道は、こうして意図も容易くできあがった。
後はもう、歩き始めるだけだろう。
最後に一度だけ街を振り返り、そっと瞳を閉ざす。
――サヨナラは、言わない。
かくして再び前を向いた俺は、東へと一直線にできあがった道なき道を往き始める。
行き着く先に何があるか、それはまだ誰も知らない。
だが……我が道は、果たしてどこまでも続くであろう。
どこまでも、どこまでも――――……。
◆ ◆ ◆ ◆
………………。
…………。
……。
「…………それに、しても……」
「ん? どうした、ダニエル?」
「……あぁ、いえ……果たしてこれは、どうやったのだろうか、と……」
「あ、あぁ、これか……そうだなぁー……」
直接どうやったのかまでは見ていないが……と前置きをして、ナタリーザは語り出す。
「結論から言うと、まぁ……言うまでもなく分かっていると思うが――“黒の神敵”がやった」
「…………」
「うん、思わず黙りこくってしまう気持ちはよく分かる。……だが、事実なんだッ! 信じてくれッ!」
「……ぃ、いや、その……疑っているわけではなく……」
「そ、そうか……コホン。なら、いい」
そうして、二人の間に静寂が訪れる。
しかしそのお陰で、いい感じに頭が冷えた二人は、再び目の前の光景について考察を始めた。
「……これを……この光景を作り出したやつを、私たちはこれから……相手にしなくては、いけないのですね……」
「……あぁ、そうだな」
「……どれほどの、時間が……かかることやら……」
「――例えどれほどの時間が掛かろうとも、我々は必ず女神様のためにこれを成し遂げねばならない」
強い覚悟と決意を秘め、ナタリーザは唐突にまるで自らを鼓舞するかのように宣言を始める。
「故にこそ――例えどれだけの犠牲を出そうともッ、我らは絶対に神敵を討たねばならないのだッ!
全てはッ、我らが聖王国のためにッ……! 延いてはッ! 我らが絶対なる女神ッ、シェルミール様への信仰心のためにッッ……!!」
ダニエルは、ただただ無言で聞き耽る。
感動したように瞳を閉じ、されど一度だけ肯定するように首肯を返す。
彼ら聖王国民にとって、女神シェルミールとは文字通り“絶対”だ。
故に、ナタリーザの宣言には大きな同意こそすれ、疑う気持ちなど微塵もない。
「……その、とおり……ですね……!」
逆にそれを聞き、ダニエルは心の中を熱く燃え滾らせた。
「……フッ……」
メラメラと背後から感じる熱気に、ナタリーザも心を熱くする。
それでこそダニエルだ、と。
我が副官である、と。
彼女は力強い表情で笑った。
果たして、もはや彼らに不安はない。
神敵など恐れるに足りぬ、とばかりに前を見据え……そして街の中から外へと、どこまでも続く巨大な直線状のクレーターへと彼らは足を踏み出していった。
そう――神敵によって生み出された道なき道。
街の中から地平線の彼方まで続く、超巨大な直線状のクレーターへと。
彼らは未来への希望を胸に、その足を踏み出して行ったのであった。
……。
…………。
………………。
……………………。
二ヶ月後、聖王都より一つの激が聖王国全土へと行き渡る。
内容は――こうだ。
敬虔なる我がヴァリエーレ聖王国の全聖王国民に告ぐ。
我は第32代聖王、ヴァリエーレ32世である。
史上最悪の神敵が現れた。
聖王国民は直ちに総力を持ってこれを討ち、女神シェルミール様への信仰心を示せ。
彼の神敵の名は――――“黒の神敵”。
そう……それは凡そ一年前、我らが一度は捕らえ、神託に従って女神様の御許へと送り出した者。
されど彼の者は、度し難いことに女神様の慈悲を撥ね退き、更には赦し難いことに愚かにも再びこの現世へと戻ってきた――――大罪人である。
狂神転生編 第二章 神敵顕在 終了
次章 狂神転生編 第三章 極剣闘争




