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狂神が嗤う  作者: 限破
狂神転生編 第二章 神敵顕在
34/47

034.Another episode ダニエル 「破滅の夜〈前編〉」

時系列的には、リオネリアの宿屋で組合vs.ジャックの戦いが起きる少し前の話。


サブタイトル変更しました。

034.Another episode ダニエル 「終焉の大災害」

   ↓

034.Another episode ダニエル 「破滅の夜〈前編〉」


内容自体は変わりません。

 ――神敵討伐作戦。

 必要最低限の防衛戦力を除き、辺境都市ヴィーランが保有する全ての軍隊を投入して“黒の神敵”に挑んだこの戦いは、しかし聖騎士グレゴリオを筆頭に、ほぼ全滅に近い形で呆気なく敗北して終わった。

 これによって、ヴィーランが劇的に弱体化したのは勿論、軍隊だけでなくそれらを統括する指揮系統も軒並み全滅。

 無論、その戦いから再びヴィーランの下へと帰還することができた者たちもいたにはいたのだが……その数は僅か数十人程度で、更にはほとんどが重傷者という状態だったのだ。

 ……過去に類を見ないほど甚大な被害であるのは、もはや言うまでもなかった。


 とはいえ、このように単純な人的被害だけであれば、いずれ時間が経過することによって解決されるだろうから問題はない。

 確かに聖騎士グレゴリオを失ったのは相当な痛手ではあるが、それでも高度な政治的観点からするとヴィーランには新たな聖騎士を西の守護者として派遣すればいいだけの話なのだ。

 消耗された騎士や兵士の補充も然り。

 結局のところ、全ては時間が解決してくれる問題なのである。

 ……。

 ただし――あくまで問題が“神敵討伐作戦による人的被害”だけに限れば、の話だが。


 そう……問題は、ヴィーランにとっての不幸がまだまだ終わってすらいなかったことにあった。

 ――モンスター災害。

 隣接する終焉の森特有の、モンスターの大量発生による災害現象……それが突如として発生し、ヴィーランに押し寄せてきたのである!

 おまけに街の内部にはあの(・・)“黒の神敵”が侵入しているという報告まであるし、何より事実としてヴィーランでも最大の武闘派組織として知られている組合が、そこのトップである組合会長も含めて尽く惨殺されているのだ。

 そのため、ハッキリ言って――――


 ・肝心の聖騎士がいない。

 ・有事の際に軍を指揮できる者たちもほとんどいない。

 ・戦力不足を解消しようにも協力要請できそうな対象が既に消されていて存在していない。

 ・残されたのは、本当に最低限としか言えない防衛戦力のみ。


 ――と、これから街の存亡を掛ける戦いへと挑むに当たって、現在のこの状況は普通に考えて絶望以外の何ものでもなかった。

 けれど……或いはだからこそ、神敵討伐作戦から帰還した重傷者以外の者たちも否応なく戦場へと再び駆り出されることとなったのだろう。

 何故ならこの街にはもう余裕なんてものは欠片もないのだ。

 使えるものは何でも使うしかない、そんな状況まで追い詰められているのである。


 故に、果たしてそうした状況であるからこそ……彼――聖騎士グレゴリオ直属の騎士、第二騎士団騎士団長ナタリーザ=カランキルタの副官であるダニエルもまた、残された数少ない指揮官として休む暇もなく再び戦場へと駆り出されたのであった。




      ◆    ◆    ◆    ◆




「――やれやれ」


 カチンっと火打石を鳴らし、一発で火をつけることができた葉巻をそっと咥えると同時に、まるで深呼吸でもするかのように大きく煙を吸い込む。

 喉の奥へと染み渡っていく煙に、じんわりと脳を癒していく感覚。

 焦燥する心を落ち着かせ、思考もクリアになっていく。


「……フゥゥゥー…………」


 そうして一秒、二秒……と閉目の後。

 ゆっくりと目を開いた彼は、止めていた息と肺の中に溜まっていた空気を吐き出すと、静かに呟いた。


「……。悪いことってのは……どうしてこう、連続で起きてしまうのか」


 見つめる先は、誰もが異常だと認めるほどにザワザワと揺れている大森林――通称、“終焉の森”。

 風が不穏な空気を街へと運び込み、大地が断続的に振動を伝えてくる。

 時折、肌を通して空気がビリビリと振動しているようにも感じられるのは、もしかしなくても大型のモンスターが咆哮をしているためなのであろう。

 ……そう、原因は始めから分かっていた。


(――モンスター災害……)


 内心で呟き、ダニエルは思わず体をぶるりと震わせる。

 それは、“終焉の森”特有の大災害。

 辺境都市ヴィーランがヴァリエーレ聖王国の西部の中でも、最も重要な都市と呼ばれる所以。

 何よりたった三人しかいない聖騎士の中の一人を、国が守護者として置き続けるほどの危険度。

 どれほどの脅威かについては、もはや想像するに難くないだろう。


「はぁ……やってられませんよ、まったく」


 手にした葉巻をポイッ……と放り捨て、たった一度しか吸っていないにもかかわらず地面に落としたそれを靴底でぐりぐりと踏みつける。

 無残に踏み潰された葉巻は、その燃えカスである黒い炭と大地の土の間で乱雑に混ざり合い……やがて足を退けてみた頃には、すっかり元の面影なんてものが分からないほどズタボロでゴミ同然の代物と化していた。

 ……普通なら足を退けた次の瞬間か、将又そうでなくとも数分も経たない内には忘れてしまうであろう、その葉巻。

 しかし、それを見てダニエルは思うのだ。


(これが……この葉巻の姿こそが、きっと我々が辿って行き着く先にある未来の光景なんでしょうね……)


 原型がほとんど留められていないくらいに踏み尽くされた葉巻。

 ダニエルには、これがモンスターの大群に立ち向かった後の自分たちに見えて仕方ない。

 それというのも、そもそも今回のモンスター災害がこれまでのものとは全く違うという点にあった。

 聖騎士グレゴリオの欠如、全体戦力の不足、これまでとは比べ物にならないほど大規模(予測)なモンスター災害、そして何より――“黒の神敵”の所在について。


「――……ッ……」


 ギリィッ……と、ダニエルは無意識的に拳を強く握りしめる。

 問題が――多すぎる。それも自分たちの力ではどうしようもなく、改善しようにも行き着く先が滅びであると既に確定してしまっているような問題が。

 最大戦力であると同時に不動の切り札でもあった聖騎士グレゴリオは死んでいるために存在しておらず、最低限の防衛戦力しか残されていない状態で史上最大規模と予測される今回のモンスター災害に当たらなくてはいけない現実。

 だが何より、その最低限の戦力を指揮する者たちが現存していないことこそ――致命的としか言えないだろう。

 おまけに自分たちが守らなくてはならない街の中には、ハッキリとその所在までは割れていないものの、最優先討伐対象である神敵が確実に紛れ込んでいるという始末。

 ……これでは戦うために必要な士気を上げるどころか、兵士たちからしたら常に後方を脅かされているようなものでもあり、勝てる戦いも勝てるはずがない。

 控えめに言って、この戦いにおいて勝利の希望なんてものは最初からどこにもなかったのである。


(くッ……敗北の決まりきった戦いが、まさかこれほどまでに苦しいものだとは思いませんでした。

 せめて閣下だけでもいてくだされば……いえ、それよりも後方のどこかに潜んでいる神敵という最大の脅威さえなければ……或いはこの状況も、今とは大きく違っていたのかもしれませんね)


 とはいえ今さら悲観していてもどうにかなるわけでもないし、何よりそれは無駄なことでしかない。

 ダニエルの視界には既に、終焉の森の木々を邪魔だとばかりに薙ぎ倒し、大きく土煙を上げながら徐々に接近してきているモンスター共の姿が映り込んでいる。

 まだ先頭を走るモンスターが何であるかは分からないものの、それでも接敵の時がもう間もなくであることは、もはや誰の目にも明らかだった。


「――ッ、ダニエル様ッ!」

「えぇ、大丈夫。――分かっています」


 果たして、同じ光景を目にしたのであろうダニエルの傍らに立っていた男も、何やら思わずといった感じで声をかけてきた。

 チラリと目線だけ動かして見やれば、男の額には大量の冷や汗が浮かび上がっており、またその雰囲気もちょっと尋常じゃないほどの緊張感に包まれているのが分かる。

 ……まぁ、けれどそれも仕方がないことだろう。

 何せダニエルがいなかったら、この男こそがヴィーランに残された全防衛戦力を率い、襲い来るモンスターの大群へと立ち向かうことになっていたのだから。

 今でこそ軍の指揮系統の関係上、ダニエルの下につくことができているが、もしもダニエルがいなかったらと考えるとゾッとしない。

 なので、男は思う。ヴィーラン防衛軍の最高指揮官の座をダニエルに渡すことができて、本当に良かった――と。


「…………」


 そして――ダニエルはそれを、男の内心を敏感に察する。

 でき得ることなら、彼も今なお重傷で寝込んでいるナタリーザを連れてさっさとヴィーランから聖王都へと向かいたかった。

 けれども、彼ら第二騎士団以外の戦力が全滅した今、モンスター災害よりヴィーランを守れるのは最低限しか残されていなかった防衛戦力を除き、街に帰還することができた第二騎士団の中でも比較的軽傷だったダニエルたち数人しかおらず……そこから更に対モンスター災害の指揮官を務められる者となると、最早ダニエル以外にはいなかったのである。

 故に、ダニエルにはこの辺境都市を守るために戦うこと以外の選択肢は存在しない。

 或いはそうでなくとも、彼は元々正義感や責任感といった気持ちの強い男であり、この街にもかなりの愛着があったため最初からヴィーランを見捨てるという選択肢はなかった。

 そのため、だからこそ――――



「――総員、傾聴せよ」



 ダニエルは敗北必至のこの戦いを、あくまでも()()()()()()()ことを決意する。

 悠然と馬上へと戻った彼は、傍らに立つ元・指揮官の男と同様、迫り来るモンスターの大群を見て怯えまくっている兵士たちを見回すと、徐に口を開き始めた。


「ヴァリエーレ聖王国が最西部、西の辺境都市ヴィーランを守護する誇り高き諸君ら兵士に告ぐ」


 勝つためには、まず何よりも戦うための気力を持つところから始めなければならない。

 戦うためには、まず何よりも戦うための意志を持たねばならない。

 では、その意思を持たせるためにダニエルがすべきこととは何だろうか。


「諸君らも知っての通り、今、ヴィーランにはかつてないほどの危機が訪れている」


 答えは簡単だ。

 要するに――その(戦う)気にさせればいいだけである。

 逆に言えば、それこそが指揮官たるダニエルのすべき唯一の仕事と言っていい。

 だから――――


「不安であろう。恐ろしいであろう。諸君らの中には、もしかしたら目の前の光景に絶望までしてしまっている者もいるのかもしれない。――だがッッ……!!」


 ――彼、ダニエルは吼える!


「忘れるなッ! 諸君らは何だッ!? 兵士だろうッ!? 兵士とは何だッ!? それは勿論、守る者だッ! 親、子供、兄弟、恋人、何だっていいッ! 諸君らの背後には、その幾千の守るべき命があるのだッ! その守るべき命を、大切な守護すべき存在をたかがモンスターごときに蹂躙されてもいいのかッ!?」


 いいわけがない――と、その時、誰もが思う。

 ダニエルの言葉は戦場に響き渡り、結果、彼の思惑通りに一人、また一人と顔を上げていく。

 それにより、当初は沈みに沈み切っていた兵士たちの表情も、今や憤怒もかくやといったものと化しているのが目に入る。

 単純だが効果的。

 自らの発破をそう思いながらも、けれどだからこそダニエルは口を閉ざさずに吠え続ける。

 負の感情だろうと何だろうと、今はとにかく全員の心を一つにしなくてはならない。

 そうでなくては、街の住民が避難するための時間稼ぎにすらならないかもしれないからだ。

 この戦いで無意味に散ってしまわないためにも、一分でも一秒でもモンスター災害をここで長く食い止めるためにも、ダニエルは今できることを……兵士全員の心が一つになるまで発破をかけ続けた。

 果たして――――



「――モンスター共を殺せェーッ……!!」


「「「「「応ッッ……!!」」」」」

「「「「「殺せッ、殺せッ、殺せッ!」」」」」



 ダニエルの目論見だった憤怒の集団は、終焉の森から続々と溢れ出るモンスター共との接敵まで残り数十分のところで完成した。

 割とギリギリのタイミングであると思うが……まぁ、終わり良ければ総て良し。

 そうして自分たちの守るべき背後の街の中にはあの“黒の神敵”も潜んでいるということは終ぞ語らず、猛る兵士たちを見て一つ頷いたダニエルは、大声でその号令(突撃命令)を発する。


「では――――突撃ィーッッ……!!」

「「「「「――ゥオオオオォォォォオオオォォォッッ……!!」」」」」


 かくして、敗北必至のモンスター大災害は起こった。

 兵士たちは街にいる愛する者たちを守るために、指揮官(ダニエル)は街の人々が避難し終わるまでの時間稼ぎと知り、その命を燃やす。




 だが――士気を下げたくなかったがために、“黒の神敵”について最後まで触れなかったことが後々仇となることを、この時のダニエルはまだ知らない。

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