025.真の悪夢は路地裏の悪夢を喰らう
いつもより話が長い上に、もしかしたら読み難いかもしれません。すみません。
前半は唐突な中学時代(ダイジェスト版)ですが、特に意味はないかもしれないです。
言いたいことは全て最初の一行目に書かれているので、中学時代(ダイジェスト版)を読むのが面倒な方は、◆ ◆ ◆ ◆のマークまで飛ばしちゃってください。
なお、後半は三人称となっています。
――“正義”が、俺は何よりも大嫌いだ。
『霧崎邪悪です。少々特徴的な名前ですが、そこにはあまり触れてもらわないでくれると助かります。皆さん、どうぞ寛大な心で受け流してください。よろしくお願いします』
思い出すのは中学生時代。
それは最初の顔合わせ、及び自己紹介の時の事。
『え! 霧崎……ジャック? それって、もしかしてあの連続猟奇殺人鬼の!?』
わざわざ突っ込まないでほしいと明言したにも関わらず、大声で殺人鬼という言葉を口にするクラスメイトの一人。
いるよなぁ~、こんな奴……と、顔を顰めながらも当時の俺は当然のように無視した。
が、その時の俺はまだまだ知らなかったのだ。
まさかこの大声で殺人鬼と口にしていた奴が、正しく今後の中学校及び生徒間におけるスクールカーストのトップに位置するという事を。
即ち、この男が俺を形はどうあれ殺人鬼と断言したところで、俺の中学校生活は剥がすことのできないレッテルと共に最悪のスタートを切ってしまったわけである。
……だが生憎と、最大の問題はそこではない。
というか、ここまでの話こそがちょっとした軽い前置きと言えよう。
つまり本番は、このクソみたいな男によって貼られたレッテルのせいで、翌日以降から指し示すようにして全クラスメイト及び学校中の生徒たちによるイジメが始まってからであった。
『なぁ、霧崎クン。君は只でさえ物騒な名前で目立っているんだから、あんまり自分から疑われるような行動はしない方がいい』
例えばそれは、毎日毎日と絶え間なく続く陰湿な行為に、そろそろイライラしすぎて無視するのも辛くなってきていた頃。
どうしようもないストレスに思わず机に頬杖をついて窓の外を眺めていた俺に、フラッと近づいてきたその男が言い放った言葉。
曰く、俺がイラついている表情を表に出しているせいで、学校全体の雰囲気が悪くなっているのだそうだ。
知るかよ!
元はと言えばお前が初日の自己紹介の時に余計なひと言を言ったことが原因だろうが!
増々溜まっていくストレスに、とうとう貧乏揺すりまで引き起こし始めた苛立ち。
けれど、結局この時の俺は口を開けばあまりの怒りに何を言いだしてしまうか分からない恐れから、その男とは何も話さずに適当に無視することで済ましてしまった。
故に後日、俺はその男にきちんと向き合わなかったことを盛大に悔いることとなる。
『聞いたよ、霧崎クン。何でもまた問題ごとを起こしたそうじゃないか。僕ら学生が学校で学ぶべきことは、決して勉学だけではない。集団で行動することの重要性、つまり社会における協調性の大切さも同時に学んでいるんだよ? 君も是非協力してほしいな』
ある日の事。
もう色々と周囲に気を遣ったりするのも面倒だし(苛立ちが限界を超えてきた)、開き直って廊下のど真ん中を堂々と歩いていた俺の前に、その男は突然そう言って目の前に立ち塞がってきた。
だが当然、俺には奴が何を言っているのか全く分からない。
問題ごと、とは一体何の事だろう……と俺は本気で首を傾げる。
そもそもこれは今更言うまでもない事なのだが、俺の周囲において問題ごとは日常的に起こっているのだ。……それも全て被害者が“俺”という形で。
なので、仮に問題ごとがあったとしても、それを俺に言うのはおかしい。
何より……現在の状況を作り上げた元凶は奴なのだ。
例え傍からは、いつも正義感に駆られて悪逆非道を尽くしている俺(勿論そんなことしてない)へと注意し続ける絶対的な正義の味方……要するに学校内におけるヒーローのような存在に見えようが、真実は決して変わらない。元凶は――間違いなくこの男なのである。
……とまぁこんな感じで内心では不満だらけなのだが、残念ながら今更俺が何を言おうと所詮は多勢に無勢だ。
俺の言葉は、この中学校の中では決して支持されない。
むしろ余計な事を言えば言うほど、意味不明な理由で悪事をでっち上げられて立場が自動的に悪くなっていくだけ。
正直これ以上、どう悪くなっていくのか見当もつかないが……とりあえず俺はストレスが一切存在しない生活を夢見て、この場はまたしても歯軋りをするだけに止めた。
だから、いくら胸糞が煮え繰り返りそうになろうと、ここは全力で無視するに限る。
無視、無視、虫……じゃなくて無視。
でも……
『おいおい、霧崎クン。君は一体どれほど問題ごとを起こせば気が済むんだい。それに……今度はよりによって暴力沙汰か。無抵抗な生徒達を何人も傷つけたと聞いたよ』
その日は、いつもと違って校外のそれなりに人通りが多いところで俺は呼び止められた。
無論、いつも通りそれを無視して立ち去ろうとするも、しかし当然のように奴の取り巻き達が俺の進行方向を潰そうと立ち塞がってきた。
邪魔だなぁと思って周囲を取り囲む我が同校の中学生たちを見渡し……と、そこで何となく面倒くさそうな事実に気づいてしまう。
よく見ると、この日はいつもと違って取り巻きの数がやけに多い。
……もしかして、この男が口にした“暴力沙汰”や“無抵抗な生徒達を何人も傷つけた”とやらが関係しているのだろうか?
……。
いやいや。ないから。
どっちかと言うと俺は暴力沙汰に巻き込まれた被害者の方だし、後半の“無抵抗な生徒達を何人も傷つけた”は完全に嘘だ。それも襲い掛かってくる拳やら蹴りやら体当たり、果ては武器を使った攻撃をかわし続けた末に訪れた敵の自滅だし……どこにも俺の加害者要素がない。
というか、むしろ襲い掛かってくる奴らだって元はと言えばこの前、この男が俺に向けて言い放った“集団で行動することの重要性”とか“社会における協調性”発言とかから諸に影響を受けたせいで動き始めたのだ。
本ッ当に、クソ迷惑な話である。
『まったく……君が自分の名前にコンプレックスらしきものを持っているのは分かるけど、だったらせめて自分から悪事を起こすのだけは止めないか? ……ほら、ここに君が傷つけた人たちを呼んでいるから謝っちゃいなよ。君もそろそろ丸くなるべきだと僕は強く思うからさ』
なので、未だに何やら不愉快なことを発言し続けている男のことはいつもの如く華麗に無視することにして、俺は周囲を取り囲む奴らを軽く押し退けることで今度こそ多少強引にでも立ち去ろうとする。
恐らくはこれで次の日からの嫌がらせもエスカレートしていくんだろうなぁ……非常に面倒くさい。反射的に浮かんできた未来にそう思う。
が、しかしこれ以上ここにいてもできることなんて何一つとして存在しないのも事実だし、何より逆に苛立ちが募りすぎてそろそろブチ切れてしまいそうだ。
故にこそ、ここは苛立ちを抑えて潔く立ち去ろうとしたわけなのだが……その時、何とも不思議な出来事が起きた。
周囲の人垣を押し退けようと俺が手を突き出した瞬間、その手の方向にいた人たちが何故か勝手に後退を始め、次いでどういうわけか自分から勢いよく地面を蹴ることで、ズザーッと痛々しくも盛大に大地へと倒れ込んだのである。
突然の展開に、思わず吃驚して固まる俺。
けれどそんな俺とは対照的に、周囲の奴らはまるで始めからその展開が分かっていたかのようにわざとらしい悲鳴を上げ始めた。
何が起きたのかが分からずに数瞬ほど硬直してしまっていた俺だが……流石にその反応ですぐ理解する。自分は嵌められたのだ、と。
じわり、じわりと湧き上がってくる嫌な予感。
これまでに幾度となく不本意にも絡まれてきた経験上、この後に起こるであろう出来事も俺には手に取るように分かってしまう。
何より俺の知る限り、今は背後に回しているあの正義そのもの(ただし酷く独善的で結果的に多くの人を不幸にしてしまうタイプの正義)といった男が黙っているはずもない。
そして案の定――――奴は義憤(勘違い)に駆られて動き出した。
『……霧崎クン。僕は再三に渡って君に素行を正すよう、そして先ほどから今に至るまでずっと暴力を振るうのは止めるよう言ってきたつもりだ。なのに……それなのにまさか堂々と僕の目の前でこんなことをするなんて、ね……――ははッ、全く考えもしなかった結果だよ』
全身を怒りにプルプルと震わせながらもそう口にする奴の姿を見て、俺は思わず舌打ちをする。
ちッ、面倒だ。これでまた暫くの間はこいつらに俺の時間を拘束されることとなってしまった。
けれど、こうなっていまった以上、奴からは逃れる術がないのも事実。
……仕方がない。こうなったらまたいつもの様に面倒事が後から押し寄せない程度で、或いは怒りや苛立ちの限界が訪れないギリギリの範囲で奴の話を聞き流しつつ、そうして奴が満足する瞬間までこの場をやり過ごすしかないか。
ハァ……と既に諦めた感じで半ば慣れきってしまったかのような重い溜息を吐く。
――が、結果的にそれが最大の間違いであった。
後になってからこそ分かることなのだが……俺はこの時、いつもの様に立ち止まるべきではなかったのだ。
なぜなら――――
『――けれど、お陰で僕も今から自分がどう動くべきなのかはよく分かったよ。どうやら君は噂通り“切り裂きジャックの生まれ変わり”みたいだし、だとしたら今まで僕たちがどれだけ口で君を諌めようと改善できなかったのも納得だ。
……だから僕もそろそろ直接的な手段に打って出るとしよう。この平穏な世の中に、かつてイギリスの地で起こった切り裂きジャックによる大量猟奇殺人事件のような悲劇を再び引き起こさないためにも――――僕は正義として君を制裁するッ……!』
――――……。
……あ? 今、何て言った?
耳に飛び込んできた奴の言葉を、しかし俺の脳は理解することを拒否する。
それも衝撃的すぎるせいで意識が完全に硬直してしまい、理性以外の全てが……文字通りの意味で己の魂をも含めた全てが揃って本能的に拒絶反応しか示さなくなったほどだ。
けれど……逆にその反応こそが、俺を強く困惑させる。
――初めての経験だった。
あまりにも強烈すぎる拒絶。
そして……知っているはずなのに、肝心の理性だけが拒絶する理由を理解することができないというジレンマにも似た不思議な感覚。
それはまるで理性だけが置いてけぼりにされたようで、俺自身をどうしようもない違和感の海へと突き落す。
気持ち悪い、気持ち悪い……!
気持ち悪すぎるが故に……我慢しきれなくなった俺はついに、どうして自分が奴を文字通り全身全霊で拒絶しているのか、その原因を考え始める。
すると、まず最初にある一つの考えがパッと浮かび上がった。
――奴が俺に対して“正義として制裁する”という宣言を、つまり今までのような精神的な嫌がらせだけでなく、とうとう直接的な暴力をも振るい始めようとしているから?
……。
――――否。
だが思いついた考えは、すぐさま己自身の理性が否定する。
別に俺は今更その程度の事で……奴らに一方的な悪として断じられ、それがエスカレートして暴力に発展した程度の事で驚きはしない。
むしろ予想通り過ぎて軽くスルーしてしまえるだろう。
同じ理由で、奴が意味不明な正義を理由に俺を更なる悪へと貶めようとも、それ自体すら予想通り過ぎてどうでもよかったくらいだ。
では一体、何が原因なのだろうか。
考えて、考えて、考え続けて……
そうしてその時、ふと天啓のように俺の脳裏をある一つの言葉が過ぎった。
……或いはもしかしたら、ソレは認識するべきではなかったのかもしれない。
しかし何れにしろ、時既に遅し。
過ぎた時間は取り消す事もなかった事にもできないし、何よりその時にはもうすっかり俺の理性は完全にその言葉を認識してしまっており――――
―――“切り裂きジャックの生まれ変わり”―――
――――ドクンッッ……!!
刹那、全身を廻る血液が一気に沸騰し、目の前がカッ……! と真っ赤に染まり出す。
加えて普段でも余程意識していなければ聞き取ることさえできないはずの心臓音がまるで全身が脈動しているかのようにバクバクと動悸を響かせ始め、更には走ってもいないのに息が自然と荒くなっていく。
だが……それら全ての反応により、俺は遅まきながらも(不可抗力)自分の事についてようやく理解した。
どうやら奴が軽々しく口にしたあの言葉は絶対に触れてはならない類の禁句であったらしい……と。
そして、先ほどから今にかけて止まることなく我が身を襲うこの不思議な感覚……――これも、今だからこそ分かる。その正体は、奴が不要にも発した禁句によって俺自身の無意識下で生みだされた怒りや嫌悪などの負の感情、その極致とも言うべき“負の狂気”である……と。
俺はこの時、初めて自分自身に隠されたそんな驚きのヤバすぎる事実について知ってしまったのだった。……本当に、冗談抜きでビックリな話である。
とはいえ、何で本人が今まで知らなかったのか? と疑問を抱く者も中には当然いることだろう。
けれど、そう言われても仕方のない理由が、ここにはしっかりと存在していた。
それというのも……俺としても奴から放たれたような言葉をこれまでにただの一度も言われたことがなかったため、その言葉が無意識レベルで自分にとってのトラウマや逆鱗と化していたとは知る由もなかったのだ。
……まぁ、そもそも普通は人を本気で連続猟奇殺人犯と一緒にする無神経な奴なんていないのが当然であり、これについても知らない方が一般的には普通と言えよう。
ともあれ、内心では比較的こうして冷静に分析していられるんだが……結局のところ奴は俺のトラウマとも言うべき闇に土足でずけずけと踏み込んできやがったことに変わりはないのだ。その罪は断じて赦せるような所業ではないし、こちらとしても到底穏やかではいられない。
むしろ今の俺は正直に言って何を仕出かしてしまうか分からないレベルでブチギレていると言っていいだろう。
……ったく、これで今まで必死に苛立ちを抑えてきた事や、痛みさえ伴い始めてしまうほどの怒りを限界以上まで堪え続けてきたことが全て無駄になってしまったじゃねェか。ハァ、やってらんねー。
てなわけで――――
『――さぁっ! 歯を食い縛れッ! 霧崎ジャック、ぅごぺ――――ッ!?』
――暴・力・解・禁!
気がつけば、俺は己の中に巣食う激情と狂気に流されるままに……未だ収まる様子がない憤りのままに喚き散らしている男の顔面へと全力で握り締めた拳を叩きつけていた。
既に我慢する必要もないので、これは当然の行動と言えよう。
結果として男は派手に大量の鼻血を噴出しつつ、無様にもその場から吹っ飛んでいく。
それを見て俺も幾らかはスッキリした気分になる――が、まだ足りない。
俺の狂気は、この程度では収まらないのだ!
『なっ、いきなり何を――ガッ……!? や、やめ――――グハァッ……!?』
振り上げた拳を、何度も何度も男の顔面へと繰り返し叩きつける。
――ボコボコだ。
それはもう、一切の慈悲も容赦の欠片もなく、俺は奴を徹底的にボコボコにした。
なお、その途中、奴が何か言いかけたような気もするが……今更、相手が何を言おうが関係ない。
むしろ相手を無視することの方こそが俺の得意分野だとばかりに、俺は俺自身の思うがままに奴をボコボコにし続ける!
……一方で、そんな俺の周囲にいる奴の部下たちは、無表情で何の感情も示さないまま奴を只管ボコり続ける俺の様子に―――今までは例えどんなイジメだろうと反応らしい反応を全くしてこなかったのに、今回に限っていきなり苛烈な反撃に出ている事に―――目を剥いて唖然としている……が、これまた俺にとっては至極どうでもいい事なので、全部まとめて問答無用の無視一択だ。
例外は、奴への私刑を邪魔しようと間に割り込んできた場合のみ。
自分で選んだ結果なんだから、仕方ないよな……と、その時は俺も彼らの意思を尊重して遠慮することなく、全員まとめて完膚なきまでにボコボコにしてやった。
……。
そして、最終的にどうなったのかと言うと――俺はニコニコ(内心)、相手はズタボロ(物理的)。
兎にも角にもこうした圧倒的で容赦の欠片もない暴威を存分に味わわせたお陰で、彼の忌まわしき男を含めて奴らはこの暴力解禁記念日以降、誰も俺に絡んでこなくなったわけである。
つまるところ――――
――これで、俺は自由だァァァアアアッ!
ようやく手にすることができた平穏(?)な日常生活に、もしくはかつての酷すぎる日々からやっと解放された喜びに、俺は素直に拍手喝采の声を上げる。
まったく、暴力様々だ。
あの時……躊躇せず暴力的手段に踏み切って、本当に良かったと思う。
でなければ今の平穏な日々は、恐らく……というかまず間違いなく存在しなかっただろうしな。
故に、俺は何度でも思う。あれは……正しく最高の英断だった、と。
……。
だがその後――俺は数々の出来事から、自分が奴らからの嫌がらせ行為による影響を全く受けていないわけではなかったという事実を知ってしまう。
きっかけは、幼馴染の勧めで彼女と一緒にヒーローもののアニメーションを見ていた時の事。
今までも偶に付き合いで見ていただけに、今回も淡々と“怪人に襲われる一般人”という予想通りの展開が続くんだろうなぁ……と呆けながら見ていたのだが、――しかし終盤で登場したヒーローを目にした途端、俺の心の中で猛烈な憎悪と嫌悪が沸き起こり始めたのだ。
そう……悪役たる怪人ではなく正義の味方たるヒーローへと、俺は憎悪と嫌悪を覚えてしまったのである!
無論、最初は自分の事ながら、以前までの自分がしていたはずの反応とは確実に違うことに驚いた。
けれど実際に、その後も現実で不良に絡まれる一般人を助ける正義感の強い人や、幼馴染が遊んでいたファンタジーゲームに登場する正義の勇者、果ては正義という字を(漢字・平仮名・英語を問わず)見るだけで憎悪や嫌悪といった感情を覚えてしまうことから、流石にこれがどういうことなのかを理解する。
即ち――あの男を筆頭にした奴らの長年に亘る嫌がらせのせいで、俺は既に取り返しがつかないほど“正義”という概念……それ自体が大嫌いになってしまっていたのだ!
まったく、これはもう本当にどうしようもない。
故に後日――。
平穏になった学校生活を目一杯堪能しようと、当て所もなく校内をぶらついていた時に何の因果か偶然か、俺は人気のない場所にて誰かが虐められている光景を目撃してしまったのだが……正義そのものを嫌う俺としては、自分自身が正義的な行動をすること自体に強い抵抗があったため、当たり前だが特に助けることもなくその場を軽くスルーした。人助けなんて反吐が出る、と。
とはいえ……想像してみるに多分、あの虐められていた奴は俺が平穏な日々を謳歌する代わりとして犠牲になってしまった奴なのだろう。
そう考えてみると、何だかそこはかとなく身代りにしてしまったことを申し訳なく思ってしまうのだが……まぁでも、結局はそいつもかつて俺に嫌がらせをしてきた奴の一人だったわけだし(一目見て分かった)、正義云々の前にそもそも奴を助ける理由がなかったな、うん。
だから俺が罪悪感を覚える必要もなし。
完全に余計な蛇足でした。
……。
…………。
何はともあれ、かくして俺こと霧崎邪悪は中学という長い年月に亘り、こうして生来の人嫌いに加え新たに正義嫌いという厄介な性質を本人の与り知らないところで植え付けられてしまったのであった。
以上、霧崎邪悪の中学時代(正義という名の巨悪編)……――回想終了。
……。
さて、そんなこんなで意識を現実に戻したところで……現在、悲鳴を聞いて現場へと興味本位で近づいてみた俺の目に、ちょうど一人の少女が豚のような男に襲われている光景が飛び込んできた。
とはいえ、つい先ほどまで長々と続いた回想の内容を知る人には、既に俺がこの状況に対してどう動くかも予想がついている事だろう。
当然、正義らしい行動自体を嫌う俺は大方の予想に違わず、この絶体絶命の少女を決して救わない!
……と、本来ならここまで続いた話の流れをぶった切るような真似はせずに、格好よくそのように言い放ちたいところなのだが――――
(……む。何でだろう? ムカつきが止まらない)
――悪いが、俺という人間はどこまでも自分勝手な人間なのだ。
例え一定のルールを自分に設けようと、一時的にでも感情が上回ってしまえば自分で決めたはずのルールさえ(ただし曲げられない信念や目標は除く)あっさりと反故にしてしまうくらいには、いつだって俺は自分勝手なのである。
故に――今回の話も、また同じ。
最初に豚男へと『偽翼』の銀刃を撃ち込むことで強制的に動きを止めた俺は、そうして自分の思うがままに動き出し……少女たちの下へゆっくりと足を踏み出していく。
――――カツーン、カツーン、カツーン……
……正直、正義は嫌いだ。というか大ッ嫌いだ。
だけど、それ以上に今回は目の前の光景にムカついたというのが、俺の本音だった。
少女に襲い掛かっている豚のような男が、まるで(姿こそ醜悪な人間と爽やか系なイケメンとは違うものの)いつかの自分が絶対に正しいと思い込んでいた正義を騙る男のように見えて仕方がなかったのである。
して……だからこそ、それは――こうして俺が介入するには十分すぎる理由となってしまったのだ!
――――カツーンッ……!
……。
一拍。
その瞬間、辺りに一際強い足音が響き渡って……そして――――!
「――不愉快……そう、とても不愉快な光景だ」
ゴキッ、バキッ、と全身の関節をわざとらしくも盛大に鳴らしつつ、俺は驚愕に満ちた視線を向けてくる彼らの前へ立ち塞がると同時――小さな……けれど確実に反応せざるを得ないほどの鋭さを孕んだ声音で、そう言い放つのであった。
◆ ◆ ◆ ◆
リオネリアは混乱していた。
つい先ほどまで絶体絶命の状況へと陥っていたはずが……気がつけば目の前で自分を襲おうとしていた豚男がその身に銀刃を生やし、更に大量の血を噴き出しては苦悶に満ちた悲鳴を上げていたのだ。
おまけに、自分たち以外は誰もいないと思っていた路地裏に何故か前触れもなく周囲へ手当たり次第に殺気を撒き散らす謎の人物が現れるしで……その急すぎる展開に、最早リオネリア自身も何が何だか分からない。
けど……と、リオネリアはそこで不意に視線を豚男へと転じる。
「……黒髪に黒目、そして特徴的な黒衣を纏った異教徒……でも何故このタイミングで奴が……はっ! ま、まさか……(ブツブツ)」
……どうやら、現在の状況が欠片も理解できない自分とは違って、目の前にいる豚男には少なくとも新たなる闖入者の素性について何かを知っているらしい。
並々ならぬ憎悪全開で謎の男を睨む豚男の姿に、リオネリアは内心で思う。
……。
(……っていうか、さっきまで大怪我していたのを物凄く痛がっていたはずなんだけど……今は気にもしていない様子を見ると、それはもう大丈夫ってことなのかな?)
未だ患部から大量の血液をドクドクと垂れ流しているのに平然としている豚男が不思議で仕方ない。
と……まぁ、このようにリオネリアがそうこう色々と考えている間にも、事態はどんどん次の展開へと進んでいき――――
「――キサマか……キサマが、このボクちんの右手とお腹をこんな風にした張本人だな?」
ゴフッと少なくない量の血を吐きつつ、憎悪の目を隠しもしない様子で謎の男へと静かに語りかける豚男。
特徴的な語尾も完全に消えており、その事から豚男がどれだけ本気で怒っているのかも簡単に窺え知れるというもの。
実際に、路地裏の主役の一人からいつの間にか傍観者へと成り果てていたリオネリアは即座に豚男の怒りの度合いを察し、その身を恐怖に震わせていたほどだ。
しかし……
「…………」
残念ながら豚男が最も恐怖させたかった対象であろう謎の男には、その程度の怒りと威圧は全くと言っていいほど通用しない。
それ故に、結果として謎の男は至極当然のように無言と無表情を貫いていたのだが……どうやら、その如何にも“お前なんか眼中にありません”といった態度が豚男の癪に障ったらしい。醜く弛んだ頬と顳顬が面白いほどにピクってやがる。
何というか……とても器が小さい男だ。
「きッ―― キ サ マ ァァァッ!!
ヒトを嘗めるのも大概にしろ……! 異教徒の分際で、このブッターオ様に手を出してタダで済むと思うなよォッ……!!」
激昂するブッターオ様こと豚男。
その怒気に当てられ、ますます全身を恐怖に震わせるリオネリアだったが――しかしその時、彼女は見た。
今までは何をしようとピクリとも反応しなかった謎の男の表情筋が、その瞬間、まるで嘲笑するかのようにニヤッと吊り上ったのを……。
「(ブタオって……そのまんまじゃん)……フっ」
……幸いにして、その嘲笑で歪んだ表情はすぐに元の無表情へと戻ったため、豚男には気づかれていない。
が、結局そんなことはあってもなくても関係ないとばかりに、豚男は顔を真っ赤にしてキャンキャンと吠え出す!
「いいか! ボクちんの一族は何を隠そう、彼の聖騎士グレゴリオ様のバルツロケッタ家を本家とした分家筋の家系で――――」
ペラペラペラペラ……。
右手と腹部には未だに幾つもの銀刃がブッ刺さっており、そのせいで開かれた傷口からも大量の血がプシャーッと垂れ流し状態だと言うのに……まったく、よくもまぁここまでペラペラと喋り続けられるものである。
物凄い根性(?)だ。リオネリアは感心した。
だが……そんな状況に流されやすい少女とは反対に、謎の男ことジャック=キリサキは延々と続いている豚男のお家自慢にウンザリした気持ちを隠せない。
あまりにジャックが無表情すぎるせいで分かり難いものの、その額には確かに青筋が浮かび始めていたのだ!
故に……
(……。消すか)
その結論はジャックの中であっさりと導き出された。
当然ながら、そこに慈悲はない。
消すったら消す。つまり豚男は必ず殺す。
決意を固めたジャックに、躊躇する心なんて代物は欠片も残されていないのだ。
むしろ即断即決即実行こそが信念だとばかりに、ジャックの無機質な瞳はそのまま現在のマズイ状況を理解することすらできず無意味に喚き散らし続けている豚男へと向けられ――――
「――言いたいことは、それだけか」
「だからボクちんは偉大な存在で――って、え?」
わざわざ聞いておいて何だが、驚きの反応も真面な応えも既にどうでもいい。
冷徹なる殺意と狂気を宿した視線が、容赦なく豚男の胸元を……その心臓のど真ん中を穿つ。
そして――――
(……お前は、ただ黙って死に逝けばいいだけだ)
――――ブ……シュゥゥゥウウウッ!
ソレは、音もなく豚男の心臓から生えてきた。
「――っぐ……カッハ、ぁ……?」
紅の鮮血を滴らせ、美しく咲き誇る銀刃の華。
いっそ幻想的で、一目見てしまえば魅了されずにいられないその光景は……間違いない。
ソレは紛れもなくジャックの持つ《十六夜兵装》が一つ、『第三兵装:偽翼』による銀刃の無限生成と固有能力の【引天】を併用したオリジナル暗殺術――要するに文字通りの意味で、必殺技であった。
故に……だからこそ、ソレによる効果も疑いようがない。結果は勿論――即死だ。
「――――」
ズシン……と力なく全身から崩れ落ち、そうして地に倒れ伏したままピクリとも動かない豚男。
路地裏の新たなる闖入者たるジャックは、終始その死に様を冷めた目つきで見ていたのだが……やがて銀刃の華で彩られた見事な芸術作品を眺めるのにも飽きたのか、不意に視線を何もないはずの斜め上へ逸らし、何事かをブツブツと小声で呟き始める。
「……ん、じゃあ細かい処理は任せた。あとはお前の好きなように喰い散らせ、フォース……」
一方、偶然その声が聞こえたリオネリアも、「フォース……って、誰だろう?」と先ほどのジャックみたく、まだ誰かが辺りに隠れ潜んでいるのだろうかと周囲を見回していた。
だけど当然の事ながら、無色透明で自分から存在を主張しない限りは目にも映らない超エネルギー体……即ちフォースの姿など、所詮はただの一般人でしかない彼女には見つけられない。
――そう、フォースの方から積極的に存在を主張しない限りは、だ。
故にこの場合、彼女は運が良かったと言えよう。
なぜなら、次の瞬間……
――――ゾワァァァアン……(ショ・ウ・チ)
どことなく歓喜の気を盛大に上げつつ、空間を思いっきり歪めて派手にその場へと現出する超エネルギー体――フォースの姿を、リオネリアは偶然にも目にすることができたのだから……!
人類初! 超エネルギー体、目撃の瞬間である!
「? ……ッ、え……何、あれ……?」
しかし当の本人たるリオネリアは、そんな未知との遭遇を純粋に喜んではいられなかった。
なんせ今の状況は、これまでの急展開に嵩む急展開に、そこへ更に超展開が繰り広げられたようなものなのだ。
呑気に喜んでいられるほど日和ってもいないし、余裕があるわけでもない。
彼女にできるのはただ呆然として、動揺も露わに口をパクパクと開閉することだけ。
実に間抜けな姿だが、余裕がない彼女としては仕方のない事だろう。
とはいえ、仕方がないのは余裕のないリオネリアの都合であって、ジャックやフォースたちにとっては全くの無関係である。
特に超エネルギー体で眷属な存在のフォースなんかは、既にジャックからの命令に従って豚男の亡骸を喰い尽そうとしている最中であり――――
「――――ッ!」
だからリオネリアが我に返った時にはもう、豚男の存在なんてものはすっかり、その亡骸も含めて奴が存在していたという痕跡は欠片もこの世に残されていない状態だった。
……恐るべきは、対象の存在を文字通り魂含めて丸ごと喰らい尽してしまう、『第二兵装:我喰』の固有能力を継しフォースの存在! その所業!
彼の存在が為した所業は、正しく全生命体から無条件で恐れられるべきもので、彼の存在は正しくこの世に顕現した“真の災厄”と言えよう……!
「……」
ただ、まぁ……幸か不幸か、肝心のリオネリアは事態そのものに着いて行けなかったがために、結果として彼女はフォースの為した“全生命体から無条件で恐れられる所業”を認識することができなかったようだ。
その証拠に、他の人間ならば恐怖で目を向けることすらできないところを彼女だけはきょとん、とした顔で豚男を喰らい尽した直後であるフォースと、自らの眷属が為したことに満足気な様子のジャックを見比べている。
――だがしかし、そんな彼女だからこそ、逸早くそれに気づけたのだろう。
「……あ! ま、待ってくださいっ!」
用は済んだ、だからもうこれ以上ここにいる理由もない……と、そうしてくるりと華麗に背を向けて颯爽と立ち去ろうとするジャックを、リオネリアは慌てて大きな声を上げて引き留めに掛かる。
絶体絶命の所を救ってくれたのだ。せめてお礼だけでも言わせて(ついでにさせて)ほしい、と思っていたのだが……――悪いが、ジャックは待てと言われて素直に待つような男ではない。
むしろお前なんか知らぬ存ぜぬとばかりに、路地裏へ入って来た時とは違って足音も立てずにさっさとリオネリアから距離を離していく。
「……っ、う~!」
リオネリアは思わず駆け出した。
「だからっ、――待ってくださいってばぁーっ!」
そしてジャックの進行方向を遮るように身体ごと滑り込み、その歩みを強制的に止めさせる。
つい先ほど豚男をあっさりと殺した男に対して、この強引すぎる対応……詳細な殺害方法までは全く理解できなかったとはいえ、リオネリアは実に怖いもの知らずである。
ともあれ、ここまでして彼女はようやくジャックを引き留めることに成功した。
……というより、流石のジャックもここまでされては止まらざるを得なかったのだろう。
その証拠に、彼は明らかに面倒くさそうな顔をして立ち止まっている。
「……何だ? まだ俺に何か用でもあるのか?」
言外に用はないから話しかけるなと言っている。
が、それは残念ながらリオネリアには通じない。
むしろ今の今まで絶望のあまり人生を諦めていたんじゃなかったか!? と言いたくなるほどのアグレッシブさで、彼女はぐいぐいと自らから距離を取っていたジャックに詰め寄っていく。
「あ、あのっ! さっきは助けていただき、その、本当に――――」
――ありがとうございましたっ!
……と、そう続けようとして、少女が口を開いた時の事だった。
「――俺は――――!」
唐突に、ジャックが被せ気味に力の込もった言葉を吐き出してきたのだ!
その今まで見たこともないような態度とあまりの勢いに、謎のアグレッシブモードに突入していたリオネリアも流石に口を噤む。
そうしてようやく静かになったところで……再びジャックの言葉は続かれた。
「俺は……別に、ただ見ていて気分が悪かったから自分の好きなように殺ってみただけだ。そこにお前を助けようという意図はなかったし、そんなつもりも一切なかった。
だから、――お前も別に、わざわざ俺に感謝する必要なんてものはない。
なんせあれは決して正義でも偽善でもない、ただの俺の八つ当たりだからな……」
最後らへん、若干早口になりつつもそう言い切るジャック。
……ツンデレかっ!
ともかく、ジャックとしてはこれで話は終わったつもりらしい。
目線をリオネリアから微妙に逸らし、そうしてまた彼女を片手で軽く押し退けて立ち去ろうとしだしたのだ!
……そんなところが増々ツンデレっぽく見えてしまうわけなのだが、言いたいことを言い切ったことで内心で密かに満足感に浸りだしてしまっていた彼にはそれが理解できずにいる。
おまけにリオネリアも言葉の端々からジャックのツンデレ(仮)を感じ取ったのか、彼の言動に怯むことなく、逆に感謝の気持ちが軽くメーターを振り切ってしまう始末。
つまり端的に言うと、リオネリアは大興奮した。
「いえっ! そんなご謙遜をっ! 例えあなたにとっては些細で取るに足らない事柄であっても、わたしにとっては命の恩人と称しても過言ではない行為だったのですっ!!
だから是非っ! 是非っ、わたしからあなたに何かお礼をさせてくださいっ! わたしの心から溢れ出るこの思いを是非っ、受け取ってくださいっ!!」
お礼をする側なのに、なんて押しつけがましい。
だけど今のジャックの相手をする場合に限って言えば、この強引な態度こそが正解だったようだ。
予想外の反応を得てしまったと驚きの表情をするジャックは、数瞬だけどうすべきか迷いを見せる。
けれど結局は諦めたかのように、或いは仕方ないとでも言いたげな溜息を吐き、リオネリアの要求を受け入れることにした。
――ただし、お礼を受け取るからには自分の要望もちゃんと織り交ぜさせて、だが。
「……分かった。なら礼には、そうだな……どこか休息できる場所の紹介を要求させてもらおう。なぜか俺はこの街では誰からも相手にされないし……まぁでも、だからこそ俺が今もっとも必要としているのは精々それくらいなんだがな。
――で、どうだ。できるか? できるんなら、それで全部チャラだ」
その言葉を受けて、リオネリアは途端に喜色満面となった。
勿論、後半の全部チャラの部分にではなく、前半の要求部分を聞いてだ。
――それほど嬉しいのか、お礼ができるのは。
「休息できる場所……宿ですねっ! 分かりましたっ、それなら丁度いいところを紹介できますっ! と言ってもわたしってば実は宿屋の経営をしているんですよっ! なので休憩するなら遠慮なくそこを使ってくださいっ! 大歓迎ですっ!」
加えてこれは、何というご都合主義!
少なくとも少女の知り合いか、どこか心優しい宿屋にでも紹介されるのかと思いきや、まさかの少女こそが宿屋を経営している張本人だったとは……ジャックは己の幸運に驚きを隠せない。
もしやこれまでの人生における不運は、全て今のご都合主義に至るための布石だったのだろうかと心配になったほどだ。
「あ、あぁ、じゃあ早速その宿屋に案内してもらおうか。俺も何か色々な意味で疲れてきたしな……」
「ふふっ。はいっ、分かりましたっ! では今から案内しますので、ついてきてくださいねっ」
いささか気疲れをして言語に覇気が見られなくなったジャックと、ニコニコ顔の少女リオネリア。
もしくは神からも人からも黒の神敵と呼ばれて敵視される男と、普通の(ただし一般からは逸脱するレベルで不幸な)街娘。
本来なら出会うはずもない二人だが、何の因果か偶然か(百%偶然だが)今では同じ場所を目指す仲だ。
……世の中は何が偶然で、どんなことが起きるか分からない。しかしだからこそ世界は面白い。
かくて両者は少女を先頭にゆっくりと歩き出す。
まだ見ぬお礼を目指し、お互いに止まっていた時間―――片や見知らぬ街で立ち往生、片や路地裏で悪夢を見る―――は、こうして再び動き出したのであった。
……。
「――あ、そうだ。念のために言っておくが、俺は本当に正義とか偽善とかで介入したわけではないからな? そこだけは絶対に勘違いするなよ?」
――――ゾワァァン……(モ・ウ・ヤ・メ・テ)
そしてジャックの正義嫌いは、最早ツンデレとしか思えない仕様。
これもどうしてこうなったのかは、誰にも分からない。
恐らく本人としては心の底から正義が嫌いだからこそ、そこだけは本当に勘違いしてほしくなくて言っているのであろうが……相手をしているリオネリアが先ほどからずっと変わらずニコニコしたままクスクスと笑い続けているところを見ると、どうやら彼の気持ちは永遠に伝わりそうもなかった。




