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狂神が嗤う  作者: 限破
狂神転生編 第二章 神敵顕在
18/47

018.デクスオーロの試練迷宮 『千の凶悪』

 ――――カップラーメンが食べたい……。


 三つくらいのガムをまとめて口の中に頬張りながら、特に大した意味や理由もなく唐突に俺はそう思った。

 もしかしたら少し前に餓死の辛さを味わったせいで、食に対する贅沢が目覚めてしまったのかもしれない。

 或いはこれまでの食事の全てが、その場で狩ってきたモンスターを素人知識で捌き、なおかつフォースの力を借りて軽く焼いただけの味付けも何もなかったモノであったため……いい加減、そこに味のこだわりも欲しいと思うようになってしまったから……なのかもしれない。

 何れにせよ、とにかくそんなわけで俺は、今は懐かしき非常食――“カップラーメン”を食べたいと思ったのである!


(できれば中国産の粗悪なやつが、いいな。なんせあれは味が濃くて美味いからなぁ……健康かどうかは別として)


 勿論、俺だけで独占するつもりなんて毛頭ない。

 唯一の仲間であるフォースにもきっちりと分け合い、それによる幸せも共有したいと思っている。

 まぁ……――――


「――所詮は叶う見込みもない夢物語なんだけど」


 フっ……とニヒルに笑い、そこで俺は意識を現実へと戻すために思考を止めた。

 と、その瞬間――――



「グゥォォォオオオオオオンッ……!!」



「――おっと……」


 ブォォォオオオンッ! と盛大に死の音を奏でつつ(ただし当然のごとく俺以外の人間にとっては、だが)文字通り空間ごと(・・・・)引き裂きながら襲い掛かる攻撃を、咄嗟に上体を反らすことでギリギリ躱す。


(ふぅ……いけない、いけない。そういえば今が戦闘中であったことをすっかり忘れていた)


 ちらりと横目に見てみれば、少しだけ遠くの方にいたフォースが『不注意すぎる!』とでも言いたいのか、断続的な揺らぎを繰り返している。……っていうか、本当にモールス信号でも送っているんじゃないか!? 最初の一部分しか読み取れなかったが、確かに『キ・ヲ・ツ・ケ……』と注意している……

 ともあれ、そんな相棒に対して俺は苦笑をしつつも軽く謝り……そうして、ようやく視線を近くにいる敵へと移した。


 ――――竜神。


 一言で言うと、目の前の敵はそのような存在であった。

 優に千メートルを超える全長と爬虫類特有の無機質で温度を感じさせない金色の瞳からは、あまりの威容と謎の重圧に、例えどのような生物であろうと畏怖を抱かずにはいられず、また、その虹色に輝く竜体や明らかに全長よりも大きいと思われる六対十二翼の竜翼からも、思わずひれ伏してしまいたくなるほどの神々しさを感じる。

 だが……何よりも恐ろしいのは、きっとそんなドラゴンから憎悪に燃えた瞳を、ジッ……と無言で見つめられ続けることだろう。……あくまでも、その視線を向けられているのが俺以外の生物(・・・・・・)であれば、の話だが。


 そう――――目の前の竜神とも称すべき虹色のドラゴンは最初から最後まで、その激しく憎悪に燃えた金色の瞳で俺を見つめており……――つまり俺は今、全力で虹色の竜神(ドラゴン)から敵意を向けられているのだ!


 なぜ、敵意を向けられるのか?

 その答えも俺は既に知っていた。

 まず間違いなく、こいつ(虹色の竜神)の仲間である凡そ一億体以上もいた虹色の竜神を残らず屠ったことが原因だろう。

 要するに目の前のドラゴン(虹色の竜神)は、ここ――九九九階層における最後の敵とも言えるのだ。

 当然、自分を除く全ての仲間が殺される光景を間近で目にした分、その怒りと憎しみも到底言葉には言い表せないほどだった。

 まぁ……実際は俺とフォースの二人を合わせてこその実行犯、なのだが……どうやら見た目は空間の歪みでしかないフォースの姿には、これっぽっちも気づかなかったらしい。

 そのため、だからこそ仲間を殺された憎しみの全てを俺へと向けているのだろう……

 ……。……どちらにせよ、俺にとっては至極どうでもいい話である。

 重要なのは、敵意を向けてきてるか否かだけなのだ。

 敵意を向ければ……敵で、向けなければ……普通に興味の対象外となる。

 けれどその点、目の前にいるこいつ(虹色の竜神)は完全にアウトだった。

 仲間共々、本当に愚かな奴である。


(一億体以上もいた虹色の竜神共も、こうして敵意と殺意を向けてきたから殺してやったというのに……その事にも気づかず、性懲りもなく睨んできやがって……)


 ともあれ、目の前にいるドラゴン(虹色の竜神)が俺に対して敵意を隠さずに向けてきたことは、最早言い逃れのしようもないほどまでに確定した。

 だから――――死刑。

 どれだけ憎しみを抱かれようと、もう関係ない。

 憎みたければ、好きなだけ憎めばいい。

 どうせ、俺のやることは変わらない――――



 ――――殺すだけだ。



「…………」


「――! グ、ォォォ……」


 俺の纏う雰囲気が先ほどとは完全に変化したことを、敏感にも察したのだろう……

 今まで威圧してきていた虹色の竜神が今度は逆に気圧されたかのように、全身からある種の緊張感と僅かな怯えを漂わせながら、俺から少しずつ距離を取り始めた。

 だが――――


(――その判断は、もう……遅い)


 敵である虹色の竜神がその目を閉じる瞬間を狙って……と言ってもこれまでの観察上、一度も目を閉じた様子はなかったため、とりあえず俺は相手の視界が自然と閉ざされた瞬間を狙う不意打ち(瞬殺)は諦めて普通に『第二兵装:我喰』を片手に虹色の竜神へと接近する。

 ただし、その接近は音速よりも……そして超音速よりもなお速い――亜光速移動によって、だ。

 いつの間にか……位階レベルを上げまくった俺はついに[鬼神の力]を使わなくとも、かつて、くそ女神であるシェルミールを一方的にブッ倒したという、正しく化け物としか言いようがないほどの身体能力を素の状態のまま――それも対シェルミール戦の時のような速度だけに限らず、その他の全ての力まで等しく行使できるようになったのである。

 故に――――


「――――ッ!? グォッ!?」


 注視していたはずの存在が突然、パッと消えたように見えたのだろう……虹色の竜神が動揺のあまりに、思わずといった感じで短い悲鳴を上げた。

 慌てて周囲をキョロキョロと見回し……そうして何かに気がついたのか、自身の背後をバッと振り向く。

 果たして、そこには――――


 ――亜光速移動で本当に音も気配もなくスッ……と敵の背後へと回り込み、四メートル長の巨剣『我喰』を大きく振りかぶる俺の姿が……あった。


 刹那――――両者の視線が、交差する。

 瞬間、見開かされるは二対の金眼。

 (虹色の竜神)の瞳に驚愕がありありと映っているのを、僅か一瞬にも満たない内に確認した俺は……しかし、そのまま――――


「――……ふっ……(ニヤリ)」


 ――――嘲笑……と同時に、亜光速化した速力と同様に超強化された(素の)身体能力の全てを文字通り、余すところなく全力で『我喰』を振り下ろすことだけに使用し――そうしてソレ(必殺技)を解き放つ!

 そう……ソレこそが、我が『必殺技』――――


 ――『世界をも置き去りにする無数の斬撃』


 一閃、二閃、三閃四閃五閃六閃七閃八閃……と続き、最終的に計二十閃の斬撃となって放たれたそれは、俺の狙い通りに……その尽くを敵の全身の各部分へと的確に――炸裂させた!

 一つ一つが、既に化け物レベルとなった威力を誇る必殺の一撃である。

 付け加えて言うと、亜光速化に伴い思考速度も超加速された俺だ。

 正直、今の目に見えている世界は、その全てが――目の前にいる(虹色の竜神)も含めて――止まって見えている……

 なので当然、この必殺技(・・・)を目の前で呆けている虹色の竜神如きが避けられるはずもなく――――


 ――――斬ッ……!


 静かな……されど力強い斬撃音が、響き渡った。

 ……。


 すたッ……と軽やかに地面へと降り立ち、ふと未だ空中で飛び続けている敵を見てみると、情けないことに依然として驚愕を顕わにしたまま変化なし。

 それは、亜光速化による思考加速を解くことで、世界に流れる時間の速さを正常なモノへと戻したはずの今でも変わらない。

 しかし、まぁ……少し考えてみれば、それも無理はないし、仕方がない事であろう。

 なんせ結局のところ、この一連の瞬殺劇は――コンマ五秒も掛かっていないのだから……!

 ……。

 ともあれ……それ故に敵は、たったの数瞬前に響き渡った斬撃音が意味する事にも理解を示せず、更には突如として己の全身に浮かび上がってきた計二十もの斬撃痕にも気づけず――――


「――――ッ……!?!?!?」


 やがて、自分が既に斬られていた事に気が付く頃にはもう……虹色の竜鱗で覆われていたはずの全身が――十二の竜翼と凶暴そうな四肢、長い尻尾やどっしりした胴体の下半身部分と上半身部分、そして同じく長い首にこれまた変わらず驚愕のあまり見開いたままの金眼を持つドラゴンヘッド……といった具合に、その巨体が文字通りバラバラに分解されてしまった後で……


 ……結局、声を上げることも抵抗して見せることもできず、最終的には何もできなくなったがために唯のトカゲ以下の存在へ成り下がった虹色の竜神は――その後、割と呆気なく空から大地へと墜ちていくのだった。




 ――――かつーん、かつーん、かつーん……


「――クハハっ、これはまた……何とも無様な姿になったものだなあ、おい」


 わざとらしく足音を響かせながら、俺はゆっくりと虹色の竜神……の成れの果て、もしくはそれを構成していたモノの一部である――三メートル前後の頭部へと近づく。

 すると驚いたことに、これもドラゴンの生命力が為せるのか……頭部だけになってなお、虹色の竜神は生きていた。

 呆然としてショックを隠し切れない様子だが、けれど俺の足音に反応して視線を動かし始めたのである!

 ……まぁ実を言うと、別に生きていること自体は最初から俺も知っていた事だし……個人的には大して驚くようなことでもなかったが。

 ともあれ、敵は徹底的に叩き潰す主義の俺だ。だから――敵が半ば死体と化している事を知りつつも、俺は決して容赦はしない。

 オーバーキルは基本中の基本なのだ!


「――それに、翼だけでなく頭以外の全てを欠かしているなんて……クッハハっ! それってさぁ、もう――ただのトカゲ……いや、それどころか今のお前は、そんな下等生物以下の存在じゃねーか! クハハハハハハハハハハハハッ!」


 何故か自然と口からポンポン滑り出る侮辱を並べ立てながら、そうして件のドラゴンヘッドの近くまで寄ってみると……――おぉコワイ、コワイ。

 以外にも言葉を理解する知能があったのか、明らかに俺の発する侮辱に苛立つ反応を見せ、更には目の前に立ってやったことで、ギンッ……! と憎悪に満ちた金色の竜眼が向けられる。

 次いでそのまま二メートル長のデカい口を開き、憎悪の瞳と並行して俺に何らかの恨み言でも吐こうとする様子を見せる……が、しかし――残念ながら発声するのに必要な器官(首)がないため、結果として非常に間抜けな感じで口をパクパクと開閉するに止まった。……本当、すげぇ間抜け顔。

 ま、それはそれとして……未だに己の立場を自覚せず、無遠慮に憎しみの目を向けてくるドラゴンヘッドに対して、俺が心の底からイラッとしたのも――事実である。

 なので――――


 ――――グリィッ……!


「――――ッ……!」

「――“なぜ?”……とでも言いたげだな。……それが“なぜこうなった”という現状に対する嘆きなのか、或いは“なぜ自分が負ける”という現実に対する不満なのか、……まぁ――別にどっちでもいいか。そこまでの事情は俺にとって関係のない事だし」


 ドラゴンヘッドの金眼……その片方を足で踏みつけ、問答無用に圧迫を加える。

 そもそもこいつら(虹色の竜神共)、遭遇した当初から俺を見下すような目で見てきていたのだ。

 無茶苦茶不愉快だったし、気に喰わなかった。何より――到底、許せるようなことでもない!

 だからこそ――――


「――――ッ……! ……ッ……! ……ッ……!!」

「だが……強いて言うなれば、お前の……いや、お前ら(・・・)の敗因は、やはり――――」


 例え一瞬にして敵の金眼が恐怖に塗り潰され、全身(頭?)を苦痛に悶えさせ始めたとしても……俺は足をグリグリと押し付けるを決して止めずに、一方的な会話(・・)を続けた。

 ただ、それもいつまでも続くわけではない。

 会話には、必ず終わりが存在しており……今回で言えば、それは正しく俺が話をするのに飽きた時の事で――――


 ――――そして、敵にとっては非常に残念な事に……そのタイミング的に、“今”、この時こそが、“正しく俺が話をするのに飽きてきた時”だったのだ!

 故に――――



「――俺に敵対した事……、それに尽きるな」



 そんな言葉を口にするのと同時に、俺は躊躇なく足元で踏みつけていたモノ(・・)をグシャッ……と、本当に容赦の欠片もなく――踏み潰したのだった。

 ……。

 …………。


 その後、幸いにして竜眼を踏み抜いた黒の革靴が『第十三兵装:最終究極紳士服ファイナルアルティメットスーツ』の一部だったため、軽く掃うことで簡単に汚れを落とせた俺は、そうして少しだけ一息をつけると……いつの間にやら付近で勝手に掃除(死体処理)をしていたフォースを呼び寄せ、そのまま綺麗になった九九九階層を後目に、最終階層(予想)へ――次なる千階層へと、足を進めるのであった。


 ……。因みに、この階層で見つけた宝箱の中身なのだが……一応言っておくと、中心に『デクスオーロ』と刻まれた紅色に輝く円形の金属を数十枚分も手に入れることに成功する。

 見たところ、恐らくはこの異世界においての貨幣か何かなんだろうが……しかし正直に言って、ダンジョン攻略中の今は普通に置き場所に困る代物だった。

 ただ……とりあえずはスーツの胸ポケットとズボンに付いているポケットへ保管しておこうと思うのだが、……激しい戦闘になればこれ以上の邪魔な物はないだろうし、その時はきっと捨てるしかないだろう。


(相変わらず、微妙すぎる宝箱だぜ……)


 こうして、俺は千階層へと下りる前から密かに脱力感を味わう羽目に遭うのだった。

 せめてもの救いは、フォースがモールス信号で『ガ・ン・バ・レ』と励ましてくれることだけであろう。

 ……本当に、このダンジョン(それとも異世界自体?)の宝箱は微妙すぎる。そう、俺は思った。




 ……


 …………


 ………………


 ……………………




「――――ぬ……?」


 それは……丁度あと一歩で九九九階層より続く長い階段から、千階層へと出られる時のことだった。


 ――――ポーン♪

《デクスオーロの迷宮『千の凶悪』の最終階層前に、到達者の存在を確認しました。

 ――最終階層への転送を開始します》


 突然、そのようなイメージ(・・・・)を脳内で受け取るのと同時に、俺は自身の視界が真っ白にぼやけていく事に気が付く。

 それはまるで、このダンジョンを初めて見つけた時の再現みたいで……正直、色々といきなりすぎる上に連続してきたため、軽く戸惑ってしまった。

 けれど脳内で受け取ったイメージによれば、この靄は最終階層に転送するためのものらしい。

 なので、まぁ……ここは一先ず、大人しく様子見に徹しておくのが機知であろう。

 まだ知識も何もない以上は判断のしようもないし……だからこそ、そうしておくことが最も賢明だ。


(とはいえ、流石はダンジョン……いや、迷宮か? ……どちらにせよ、随分とこの俺を驚かせてくれたものだな。この礼は必ず――倍にして返してくれる……!)


 そうして最後に強く決意をした俺は、今度こそ完全に全身の感覚が白い靄によって包まれたことを察する。

 ようやくだ。ようやく、決戦の時が来た。

 ここに至るまで上げてきた位階レベルは、既に99と打ち止めになっている。

 当然、それ相応に強くなっているし(実際に[鬼神の力]なしで同程度の強化ができている)、そろそろ次のステップに進みたいところでもあった。

 具体的には、今の『天師(フォース)』から『天使(サード)』へと……この最終階層における決戦で、何かが変われることを期待するのみである。

 ともあれ、そんな希望や渇望といった様々な思いを内心に、俺は転送されていく。

 だが――その転送中、真っ只中の時の事であった。


 ――――俺の脳内に再び、新たなイメージ(・・・・・・・)が送られてきたのは……!


 膨大な情報量、加速していく転送……

 無理矢理に知識を植え付けられるという未知の経験を体感する俺は、ただただ混乱しないよう必死になって精神制御を続ける他はない。

 そして――――




    ◆    ◆    ◆    ◆




 原初の神。

 彼の神は、全ての世界を創りし創造の神であり、同時に破壊の神でもある。

 ある時、彼の神は一つの世界を創り、更には十二の眷属を創りだした。

 十二の眷属は、それぞれが原初の神を助け、世界に数多の生命を生み出す。


 やがて幾星霜もの時が流れ、世界が繁栄に満ちた頃。

 十二の眷属は地上の生命に信仰を持たれ、神格を得るに至った。


 ――――『生命』『秩序』『愛』の神。

 ――――『享楽』『美』『栄光』の神。

 ――――『力』の神。

 ――――『自然』『理』の神。

 ――――『支配』『法』の神。

 ――――『矛盾』『戦』の神。

 ――――『時空』の神。

 ――――『商』の神。

 ――――『悪徳』の神。

 ――――『精神』の神。

 ――――『運』の神。

 ――――『魔法』の神。


 “十二眷属神”と呼ばれる存在が、この世界に誕生した瞬間である。

 これにより世界の繁栄は益々盤石なものになったと言えよう。

 それこそ、擬似的とはいえ楽園と化しつつあった世界を見た原初の神が、思わず――――これでようやく一安心できたのか、これまでの創造で消耗してきた力を回復させようとして――――いつ起きるのかという期限も分からない、そんな長い眠りについてしまったほどだ。


 そうして暫く間、繁栄を極めて楽園となった世界は、原初の神という存在を必要とせずに回り続けた。

 何もかもが順調で、その世界はまさに、あらゆる幸福が実現する真の理想郷以外の何でもなかったのである。

 だが――――


 ――――繁栄を極めた世界の絶頂期は、しかし誰もが想像する以上に長くは続かなった。


 原因は明白。――“欲”である。

 それも地上に生きる全ての知性生命体に限らず、愚かなことに十二眷属神までもが楽園と化した世界に溺れてしまっていたのだ。

 要するに、世界が衰退する原因は全て欲に囚われた彼らにあるのだが……ただでさえ楽園から遠ざかった現実を否定するしかできないような奴らに、そのことを知る術はなかった。

 というよりも、単純に想像することすらできないだろう。

 まさか世界を加速的に衰退させているのが、他ならぬ自分たちだなんて…… 

 奴らには到底、思い至ることもできない。

 故に――その悲劇は、起こり得るべくして起きてしまった。


 ――――十二眷属神による、原初の神への反逆。


 かつての世界を繁栄に導き、楽園へと昇華させた原初の神の力を再び使おうと――何と眠りにつく主神の力を容赦なく奪い、ついでに後から目覚めて面倒な事へ発展しないように十二眷属神が全力で封印を施してしまったのである!

 正しくそれは、考えつく中でも最悪の展開。

 当然のことながら、これで世界が再び繁栄するなんてこともなく……――むしろ、ただでさえ己の欲を制御できていなかった十二眷属神がそうやって余計な力を手に入れてしまったせいで、世界は更なる衰退を余儀なくされてしまった。


 そして、月日は流れ……奴らはようやく一つの結論に達する。

 いくら原初の神の力を今更になってから用いようと、事実として世界と現実は何も変わらない……

 ……最早、何をしようが衰退の一手を辿り始めてしまった世界はどうしようもないのだ!

 だから、世界を引っ掻き回すだけ引っ掻き回した十二眷属神及び地上の全生命体は――ついに諦めた。

 『世界はもう、楽園なんかではない』――――そう……完璧に理解してしまったからこそ、世界の繁栄を諦めたのである。

 残されたのはただ欲望の渦巻く汚れた世界。

 夢も希望も、ましてや皆が笑い合える幸福な日々なんてものは……今となっては既に存在しない。

 欲しいものは力で奪い、気に喰わないものは力で壊す。

 力による、暴力的な世界が……そこにあった。

 導くべき存在である十二眷属神も、己の欲を満たすためだけに“神界序列”なるものを生み出し、地上……否、人界の支配を強めるだけで――他は一切、何もしない。

 例外は――自分たちの欲望の邪魔となる場合に限り、奴らは世界の修正を行う。

 言わば、それは強者による完全なる独裁。

 弱者に付け入る隙はなく、救いもまた……どこにも見えない。


 ……が。別に、だからと言って本当に救いがないわけでもなかった。

 一応……だが、人の中にも十二眷属神の中にも世界の変革を望む者は確かに存在しているのだ。

 例えば、十二眷属神が一人――『力』を司る“デクスオーロ”……とか。

 ……。

 ……ともあれ、それぞれが世界へ変革を齎すために自分たちの可能な範囲内でやれる事を――彼らは確かに実行しているのである!

 故に――――


 ――――神界序列第四位、『力』の神であるデクスオーロは地上に試練を与える。


 それは、『億の運命』『万の死者』『千の凶悪』『百の災厄』『十の破滅』『一の神話』と呼ばれる六つの迷宮。

 一つ一つが、例え人の一生を懸けても踏破できないほどの困難さを誇っており……でも、だからこその“試練迷宮”なのである。

 これすらも乗り越えられないようであれば、世界に変革を齎そうなんてことも到底できるわけがないのだ。

 それ故に――『力』の神、デクスオーロは言う。


《全ての試練迷宮を乗り越えし者、汝、新たなる神と成りて――――》



 ――――願わくば世界に変革を齎し、そして再び繁栄を取り戻してほしい……――――


 ……

 …………




    ◆    ◆    ◆    ◆




 ……

 …………


《――――最終階層への転送が完了しました。

 尚、最終試練を開始する場合は中央にある黒色の石碑(モニュメント)に触れてください》


 …………

 ……



「……。――終わった、か……」


 最終階層。

 どこまでも透明で雲一つない青空に、見渡す限りに広がる美しき緑の草原という、そんな明らかに自分が今までずっと居た洞窟の中とは思えない光景を見ながら……――とりあえず俺は、ようやく脳内へと直接送り込まれていたイメージが停止した事に安堵の呟きを漏らす。

 本当に、脳内へと直接イメージを流し込むなんて事は……文字通り、全く慣れていないせいで酷い目に遭ってしまった。

 今後は単純に身体を鍛えるだけでなく、何か特殊な能力に対する耐性も身に着けなくてはいけない、と今回の一件から、俺は密かにそう反省する。


(だけど、まぁ……実際に送り付けられたイメージの内容は酷いものだったなぁ。

 強いて思う事と言えば『やはり、この世界はクズばっかりだ』くらいだし。……まぁ――どちらにせよ、俺には関係のない事だけどな。そもそもこの世界からすると俺は、全くもって無関係な――異世界人だし)


 ともあれ、未だ脳内に違和感を残したままのイメージの事は置いておくとして、俺は改めて本来の目的を思い出す。

 即ち――ダンジョンの……否、このデクスオーロの試練迷宮を完全に踏破すること。

 そのことを再度胸に刻み、強く想った。


「――そう。そうだ、俺は……ただ強くなるために――この迷宮を踏破する……」


 というわけで、改めて気を引き締め直した俺は、ふとフォースに視線を向ける。

 ……余程興奮しているのか、なんか空間を無茶苦茶揺らしまくっている仲間の姿がそこにあった。

 どうやら、初めて見る洞窟の外(・・・・)の光景がフォースの琴線に触れたらしい。

 いつも以上に感情のようなものを露わにする様子は、大変微笑ましい上にカワイイ……のだが、残念ながら俺は今から最終試練を開始するつもりだ。

 可哀そうだけど、こればかりは仕方がない。

 大きく手を振りつつ、眷属に対する強制力が伴った声で俺は大興奮中のフォースを呼び戻した。

 すると――――


 ――――ゾワン……(しょんぼり)


 強制的に冷静さを取り戻させられたせいか、目に見えて落ち込んだ様子で帰ってきた。

 うーん……。予想以上にこの空間(洞窟の外)が気に入ったのだろうか?

 初めて見るフォースの反応だけに、疑問に思う。

 だが――――


「――悪いな。いい加減、ここ(迷宮)から出るためにも、そろそろ最終試練とやらを始めようと思ってさ」


 そんな俺の言葉に、即座に雰囲気を切り換えるフォース。

 流石だ。いつの間に仕事とプライベートで態度を切り替えられるようになったのか……疑問は尽きない。

 まぁ、どっちにしろ成長するのは良いことだ。

 フォースと視線を合わせ、互いに頷き合う。



「よしっ! では行くぞ、フォース!」



 準備は元から万端。

 やる気も充分以上。

 相棒(フォース)とこれからの戦いへの最終確認も既に済ませた俺は、最終試練を始めるための条件を思い出す。


(確か……さっきのイメージによれば、『中央にある黒色の石碑(モニュメント)に触れてください』だったな。それで、えーっと……――あぁ! あれか)


 視線を辺りに巡らせ、条件のモノを探し出す……と――すぐに見つかった。

 それは、広々とした緑の草原のど真ん中。

 丁度、ポツン……と寂しげに置かれている黒い物体を、俺とフォースは見やる。

 間違いない。絶対にあれが、例の黒色の石碑(モニュメント)だ!


 フォースを連れて、ゆっくりと草原のど真ん中にある石碑へと俺は近づいていく。

 決して焦らず、走らず、あくまで悠然と歩くことで、相互の距離を詰めていった。

 そうして、ついに最後の戦いを始めるための鍵である黒色の石碑(モニュメント)の前まで来た俺は……そこで万感の想いを胸に、スッ……と音もなくそのまま伸ばした右手で、対象の石碑の表面を軽く触って――――



「――――!」



 しかし――その直後の事である。


 ――――パリィィィインッ……!!


 突如として右手で接触を果たした部分が罅割れると同時に、まるでガラスが割れたような派手な音を最終階層全体に響かせつつ、盛大に砕け散る黒色の石碑(モニュメント)の光景が――俺の視界へと飛び込んできた。

現在のジャックのステータス


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名前:霧崎 邪悪 (ジャック=キリサキ)

天能:【狂天(きょうてん)

    > 《十六夜兵装》

    『第一兵装:バタフライナイフ』

    ――【異天(いてん)

     [虚偽の仮面]

      [鬼神の力]

      [ガム召喚]

      [眷属生成]

    『第二兵装:我喰(ガクウ)

    ――【吸収】

    『第三兵装』 Lost

    『第四兵装』 Lost

    『第五兵装』 Lost

    『第六兵装』 Lost

    『第七兵装』 Lost

    『第八兵装』 Lost

    『第九兵装』 Lost

    『第十兵装』 Lost

    『第十一兵装』 Lost

    『第十二兵装』 Lost

    『第十三兵装:ネオ=メシア』

    ――【暴装】

    『第十四兵装』 Lost

    『第十五兵装:最終究極紳士服ファイナル・アルティメット・スーツ

    ――【再生】【反射】【快適】

    『第十六兵装:???』

    ――【???】

位階:狂天師 99(max!)

称号:神敵,狂天,アンリミット超神帝国民,復讐者


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