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狂神が嗤う  作者: 限破
狂神転生編 第二章 神敵顕在
17/47

017.Another episode シラ=ルッジ 「偽りの憎悪と復讐心」

久々のシラの話。

始まりはジャックがダンジョンに入る直前で、終わりはジャックがダンジョンを攻略する寸前まで。

分かり難い上に、非常に短いのですが……一応、シラの説明みたいなものになっています。

 私の故郷――ルッジ村が滅んでから、凡そ二ヶ月の時が過ぎた。

 あれから、失意と絶望の底で聖騎士メルクリオ様の手を取った私は、ただ故郷を滅ぼした神敵に対する仇討ちのためだけに、今日までヴァリエーレ聖王国の聖王都にあるメルクリオ様の屋敷にて、そのメルクリオ様本人に強くなるための稽古をつけてもらっている。

 幸いにして剣の才能があったのだろう……お陰で今では自分でも二ヶ月前に初めて剣を握ったとは思えないくらい、すっかり剣の扱いにも慣れてしまった。

 なんせ、早朝にはわざわざ目覚まし代わりに屋敷の庭へと素振りをしに行くほどなのだ。

 それもこれも全部、偏に私の復讐を成功させたいがために……だったのだが――――


 ――――果たして本当に、私は……シラという人間は、メルクリオ様のいうところの神敵であるジャック=キリサキを、心の底から憎んでいるのだろうか?


 ――と、そんな思いを最近になって……時間が経ったことで冷静になってきてからは特に感じ始めるようになっていたのである。

 そもそもよく考えてみれば、どうして神敵……いや、ジャックさんはルッジ村の他の人たちを例外なく殺したのに、私だけは殺さなかったんだろう?

 それにあの時は深く考えなかったけど、なぜかジャックさんは私に対して真正面から堂々と、村を滅ぼしたことを正直に告白しているのだ。

 まるで、故意に憎しみを自分へと向けさせようとしているかのように……

 他にも、たった一晩で変質した姿や根本的にどんな理由があって村を滅ぼしたのか……それらに関する疑問も尽きない――が、やはり何よりも私が気になったのは――――この髪飾りのことだった。

 去り際にジャックさんから貰った、紫色のトリカブトで作られた髪飾り。

 少しだけ気になって調べたところ、実はこの髪飾りにはとんでもない特殊能力が付与されていたことが判明したのだ。

 ずばり、詳しくは解明できなかったが……それでも敢えて名付けるとするならば、それは――――


 ――――【再生】と【死毒】。


 ――効果は、文字通り傷ついても即座に回復する能力(ただし日光に当たっているとき限定)と、私の与える攻撃の全てが、ほとんど例外なく相手を死なせるほどの猛毒が自動的に付与されるという凶悪な能力の二つ。

 その何れにしても、私にとっては強力すぎると思われる力であり……――だからこそ、何よりも強烈な疑問を抱かざるを得なかったのである。

 要するに、その二つの能力の効果を知って、私はこう思ったのだ。


 『まるでルッジ村以外を何も知らない、弱い私をただ守る為に残された能力のようだ』――――と。


 ……うん。ありえない。

 自分で想像しておきながら、あまりにも信じられないため、反射的に否定する。

 だって、この髪飾りはジャックさんが私の仇であることを証明し、更にはそのことを決して忘れさせないようにするための物だし……だからこれは、絶対に私を守る為の物ではない、はず……なんだけど……

 ……。ん、ん~?

 だんだん自分でも何を言っているのか、よく分からなくなってくる。

 仇だと……メルクリオ様の言う通り最悪の神敵であると信じていたはずの現実と、もしかしたらその認識自体の全部が偽りであって、私こそ何かとんでもない思い違いをしてしまっていたのではないかという不安が、頭の中で鬩ぎ合う。

 けれども本当のところ、私は既に気づいていたのかもしれない。

 でも……でも、実際にそれを認めることはできなかった。

 今更、現実に気づいてしまうことが何よりも私は恐怖していたのだ。

 なぜなら、もう私は進み始めていたから……

 終わらない復讐の道――ジャックさんへの憎悪だけを糧に、今日まで生きてきてしまった私には、最早その憎悪(生きる糧)を否定して引き返すなんてこと……到底できなかった。



 それ故に、今日も彼女――シラは大きな矛盾を胸に、ただただ神敵に対する憎悪だけを燃やして生きる。

 まだまだ心が弱すぎる十五歳の彼女にとってその現実は、正面から向き合うには少しだけ……早すぎるものだったのだ。




 そして――――その半年後。

 迷いを胸の奥へと閉じ込めたことによる反動か、元より才能の片鱗を見せていた剣技はそれから更に昇華されていった。

 或いは、ある時、思い切って悩みをメルクリオに打ち明けたこともある。

 そうして言われたのが、『神敵とは、女神シェルミール様が直々に神託を下して定められた人類共通の敵。それ故に当然、神敵に選ばれるのはそれだけの悪徳をもった存在で……本来ならばシラも迷う必要がない存在なんだ。だって相手はシラの故郷を滅ぼしたのだろう? それもシラの目の前で。ならばその復讐は正当なものだろう……それに、何と言ったってシラは神子だからね。女神シェルミール様の代理として神敵を討つ必要があるんだよ。だから、ほら……別にどこにも迷う理由なんてないし、むしろシラにとってその神敵は、積極的に討滅しなくてはいけない存在なのさ』――という言葉。

 やがて心が弱すぎたがためにそれ以上は耐えきれず、矛盾も抱えきれなくなったシラは割とすぐにそんな都合の良すぎる言葉へと傾倒していくこととなる。

 お陰で抱えていた迷いこそ消え、尚更剣の訓練へと励むようにはなれたのだが……それはもう最悪の――メルクリオの望む、神敵に対する憎悪と復讐だけを生きる糧にするという展開へとなってしまったのだ。

 しかし、そのことをシラは一切気にしない。

 むしろ、今の状態こそが自然であると考えるようになった。

 辛い現実から逃げ、ただ只管にメルクリオを盲信する人間へと……いつしか変化してしまっていたのである。


 ともあれ、そんなわけで半年という短い期間に剣の腕を騎士の中でも中位レベルまで鍛え上げたシラは、その後、正式な騎士としての位を授かるために聖騎士メルクリオを伴ってヴァリエーレ聖王国の聖王城へと登城し、聖王であるヴァリエーレ32世に謁見をした。

 その結果、彼女は聖王直々に聖騎士メルクリオ直下の騎士の一人として拝命を受け、更には新たな姓を貰うこととなる。

 ――――“シラ=ルッジ”。

 それは、今はもう滅ぼされてしまった故郷の名前。

 それこそが、あらゆる憎しみを決して忘れないよう魂に刻み込み、必ず彼の神敵に復讐を為すと聖王へ……そして何より自分自身へと誓った彼女――シラの新たな姓名であった。



 その後、シラは実戦経験のため、メルクリオと共にヴァリエーレ聖王国の南部へと向かい……その国境地帯にて、小国群が起こす内乱の平定に参戦する。

 彼女の行動は全て、その全部が神敵を――正しくは“黒の神敵(ジャック=キリサキ)”を討つためのもの……

 果たして、そんな彼女の行動が今後、何を引き起こすことになるのかは……まだ誰も知らない。

 けれど、彼女が再び“黒の神敵(ジャック=キリサキ)”と出会った時……その時は確実に何かが起こるということだけは、絶対と言えるだろう。

 なぜなら、今のシラは――――


 ――――昏い瞳、憎悪に満ちた復讐者特有の禍々しい気配……


 上げれば切りがないのだが……とにかく彼女にはもう、かつてジャックが見た時のような無邪気で輝かんばかりの瞳も雰囲気も既になく、最早以前のシラの面影などは何も残されていない状態だったのだ。

 故にこそ、何もかもが変わり果ててしまった彼女が次に仇敵である“黒の神敵”と出会ってしまえば……果たしてその時、何が起こるのかは――誰にも、本当に誰にも予測がつかないものであった。

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