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狂神が嗤う  作者: 限破
狂神転生編 第二章 神敵顕在
16/47

016.連続凶行突破はフォースと一緒に

「く、くくッ……クハハッ、クハハハハハハハッ! クハァーッハッハッハッハッハッハッ!!」


 ダンジョン攻略及び自身の超強化を始めてから幾星霜。

 詳細な日にちは、五百階層を超えた時より出現する敵の数が桁二つ分も増えたため、思考のほとんどが連続し続けていた戦闘の処理に追われていたせいもあって既に覚えていない。

 が。これまで己の糧とするために走破してきた階層数と、同じく経験値に変えてきた敵の数だけは問題なく記憶しており……そのため、果たして俺が今どの階層にいるのかについても当然、しっかりと把握していた……

 ――と、まぁ……そういうわけで現在。

 謎のダンジョン地下七五三階層にて、今日も元気に俺は邪悪そのものとも言えるほど真っ黒な体毛の巨大オオカミ(凡そ百万体ほど)と戦闘を繰り広げていた。


「――クッハァーハハハハハハハハーッ!!」


 ――否、訂正しよう。

 それは最早戦闘などと呼べるようなものではなく、ただの蹂躙である。

 とはいえ、このダンジョンの階層はどんどん進めば進んだ分だけ出現する敵も強くなっていくものであり、今回の敵である巨大オオカミもその例に違わず、今までの敵よりも身体能力から特殊能力に至るまでの全てが優れていた――――が、同じく敵を倒せば倒した分だけ、加速度的に位階レベルを上げて強化されていく俺には敵わない。

 ……いや、むしろ俺の位階レベルの上昇に伴う超強化に、階層ごとに変わっていくダンジョンのモンスターの強さの方が追いついて来れなくなっているみたいだ。

 なんせ、最初の方で使用していた身体能力強化系の異能たる[鬼神の力]を、今ではその一切を使わなくとも以前と比べて同程度かそれ以上の身体能力を発揮し、なおかつそれで敵を圧倒してしまっているほどなのである。

 現に今も俺は笑うしかない現実を前に大声で嗤いながら、辺りを縦横無尽に駆けまわりつつ……そうして、そんな自身の動きに翻弄されるがままになっている敵を『第十三兵装:ネオ=メシア』(基本形態のため槍型)で片っ端から容赦なく突き、薙ぎ、砕き、斬り殺していく。

 そして跡に残るのは、いつも通り死体の山……

 本当に、我ながらよくこれほどまでに酷い光景を生み出せるものだ。

 ちらりと偶然にも背後の光景が見えたため、俺は思ったのだった。

 ……。


 けれども、時には敵である巨大オオカミも、その百万という膨大な数(ただし秒単位で減っていく)を活かして俺が避けられないようなタイミングで攻撃を仕掛けてくる時がある。

 戦闘中では常に優位を保とうと動き続けている俺だが、それでも時々今のように――狂ったように――笑い出してしまった時なんかは、途端に冷静さが欠けてしまうのだ。

 そうすると、気がついたら敵にその油断に付け込まれて……と、いうか実際問題として今まさにそんな状況に陥っており、丁度俺は百万ほどの巨大オオカミに囲まれているところだった。

 それぞれの頭上にある空間を見てみれば、ゆらゆらと揺れる黒い炎までもが生みだされている。

 恐らく……いや間違いなく、あれで俺を殺す気なのだろう。……無茶苦茶熱そうだ。

 ともあれ普通に言って、これはどう見ても大ピンチにしか見えない状況……なのだが――――それでも敢えて言おう、『問題ない』――と。

 なぜならば――――



「――“フォース”……ッ!!」



 ――――別に俺はもう、独りではないからだ。


 それぞれの頭上で生成していた揺らめく黒炎が放たれる寸前に、防御態勢などを一切取らずに……『ネオ=メシア』を構えたまま、叫ぶ。

 一斉に囲んで攻撃しようと連携を取ってくる程度には知能があるのだろう、巨大オオカミ共も唐突に叫びだした俺を一瞬だけ訝しげに見るが……結局、叫んだだけで他に変わったところなどはないことに気づき、すぐに攻撃を再開させようとした。

 その間、僅かコンマ三秒以下。

 巨大オオカミやそれらに次ぐ実力を持った他の生物などにとっても、本当に一瞬としか言えない僅かな時間だが――俺にとっては違う。 

 例え世界一般における最強者たちにとっての“一瞬”であっても、それは俺からすれば十分すぎるほど長い時間であり……要するにそれは、“敵の油断によって生まれた隙を突くタイミング”とも言えたのだ。

 故に、そのことを瞬時に悟った俺は思わずニヤリと笑う。

 すると、次の瞬間――――


 ――――ドッ……パァァァアンッ……!


 突如としてそんな激しい音が響き渡ると同時に、一体の巨大オオカミがその首元の肉を盛大に破裂させ、そうして半ば以上に千切れかけた傷痕から大量の血を撒き散らしながら……その巨体を大地へと沈めた。

 言うまでもないが即死である。


「「「「「――――!?」」」」」


 衝撃、驚愕、呆然……言葉にすれば、大体そんな感じであろう。

 放つ寸前まで行っていたはずの黒炎を消し、唐突に起こった摩訶不思議な現象に揃いも揃って戸惑いの様子を見せるオオカミ共。

 そのまま攻撃してくればいいものを……どうしてか仲間が一体死んだ程度で、こいつらは簡単に俺から視線を外してやがる。

 言い換えればそれは、敵に対して致命的な隙を晒している……ということなのだが、理解しているのだろうか? ……きっと分かってないんだろうなぁ。

 中途半端に知能を持ってしまうから、こうなるんだ。

 だからこそ巨大オオカミ共は、(俺から見たら)奴らにとって唯一の強みである連携を止めてしまえば、その時点で自分たちが本当の意味でただの的に成り下がってしまうことを知らないし……その発想にも至れない。

 それ故に――ゾワリ……と、最初に破裂したオオカミがいた所の空間が揺れ続けていることにも気づかず、更にはそれが別の個体へと徐々に近づいていることにも奴らは気づけず……

 そして――――


 ――――パァァァアンッ!

 ――――ドパパパパパパパパァァァアンッ……!!


 ここぞとばかりに、再び鳴り響く破裂音。

 しかも今度は連続して続いている。

 勿論、その間にも連携を止めたことで的に成り下がったオオカミ共は破裂音が響き渡る度に一体ずつ一体ずつと、バンバン死んでいき……――とりあえず、そんな光景を見て俺は一言だけ。


「ハァ……実に愚かな奴らだ」


 仲間が死んでいくという異常な状況に、ただ右往左往して戸惑うだけの反応しか見せないオオカミ共に対し、俺は盛大な溜息を吐きながら侮蔑の言葉を口にした。

 こういう時こそ、僅かながらも存在するらしい知能を使うべきであろうに……本当に、オロオロするだけでみっともない。

 それに引き換え――――


「まさか、ここまで手際よく敵を殺せるなんてなぁ……うん、流石だな。――“フォース”」


 ――――パァァァアンッ!


 盛大に首元を破裂させて崩れ落ちる巨大オオカミ……その真上にあって、ゾワリと揺れる空間を見つめながら、俺は笑みを浮かべてそう言うのだった。


 ――――“フォース”。

 それが、この一連の一方的な殺戮劇を引き起こしている犯人の名前である。

 純粋なる力の塊にして、先ほどからゾワリ……と空間を揺らしている、一見は陽炎のような無色透明で実体を持たない存在。

 しかし実力は見ての通り、軽く相手に触れるだけで内包する超エネルギーにより対象を破裂させるほどの存在で……

 つまり視認し難い上に、不注意で即死する可能性もある極めて危険な存在が、フォースだというわけだ。


(うん。改めて思うと……普通にヤバイな)


 想像以上のとんでもなさに、思わず戦慄する。

 ――――何だよ、純粋な力の塊って!

 ――――何だよ、視認され難いって!

 ――――何だよ、触れただけで敵を殺すって!

 『圧倒的なまでに理不尽……そんな存在が、俺以外にもいるなんて!』――――と。

 ……だが、まぁ――それと同時に、俺はそんな戦慄をも悠に超える、歓喜にも包まれていた。

 理由は簡単。俺がフォースの正体を……その本質を、誰よりも理解していたからである。

 なぜなら、その正体こそ――――


 ――――現在の階層に至るまでに狩り尽くしてきた全ての敵を……それも何億何万といった膨大な数のモンスター共を『第二兵装:我喰』の固有能力【吸収】によって純粋なエネルギーへと変換し、更にそれをサッカーボール程度の大きさまでに凝縮させ、そしてトドメに最近新たに手に入れた異能である[眷属生成]により眷属化した――――俺の仲間であったからだ!


 故に俺が、フォースについて詳しく知っているのも当然の事で……或いはその活躍や潜在能力について戦慄したり、歓喜したりするのも全て、当たり前の事なのである!

 だって、それも全部俺の仲間の事なんだから!


「――あぁ……素晴らしい、最高だ。フォース……」


 グッと拳を握り、そうして内心は物凄く大興奮しながら、けれど一切表に出さずに無言、無表情のまま、俺は込み上げてくる何かの衝動に突き動かされて……洞窟内の天井を見上げた。

 既に敵である邪悪そのものと形容できるほど真っ黒な巨大オオカミ共のことなど、当の昔から意識しておらず、心の中に残っているのは即ち“フォース、すごい!”という思いだけ。

 激しい破裂音が鳴る度に、俺は確かな満足感を感じていく。

 最早、気分は完全に観戦する者であった。

 ……。


 結局、俺が動き出すのはその後、フォースが百万もいたはずの敵を半数近くにまで減らした頃の事となる。

 果たしてその時になって俺は、ようやく自分がただ観戦していただけで他は一切何もしていなかったことに気づき、大慌てで『ネオ=メシア』を振りかざしてフォースの援護へと走ることとなったのだった。




 ……


 …………


 ………………




「ナイスファイト、だったな! フォースっ」


 ――――ゾワァァァン……♪


「あぁ、しっかり見てたさ。やっぱりお前は最高の仲間だ!」


 ――――ゾワワァァァン……♪


「そうか! 嬉しいか! 俺も嬉しいぜ、フォースっ!」


 ――――ゾワワワワァァァン……♪


 戦いが終われば、俺たちは互いの健闘を讃え合う。

 これは、当初の会話相手が欲しかった俺がフォースを眷属としてから今に至るまで、ずっと続けてきたことである。

 とはいえ、やはり純粋な力の塊でしかないフォースが喋れるはずもなく――――


 ――――ゾワンっ、ゾワワワァァァン……!


「――ぇ? ぁ、おう。じゃあ、全部任せた!」


 ゾワリ……と揺れる空間をただひたすらに見つめながら、集中力全開でのフィーリングによりフォースが何を言いたいのか、それのみを常に察することで俺は何とか会話を成立させていた(或いは成立しているように見せていた)。

 ……傍から見ると、恐らく今の俺は相当に怪しく見えることだろう。

 なぜなら何もない(・・・・)空間へと目掛け、一方的に喋りかけている状態なのだから……

 だが、まぁ……別にそこまで深く気にすることでもない。

 要するに俺は、会話ができているような気分にでもなれれば、それ十分なのだ。

 それに――――


(……ここには俺とフォースしかいないし、だからどんな奇行であろうと別に遠慮する必要もないしな。うん、うん)


 まるで自分自身に言い聞かせるような、そんな強引すぎる自己肯定。

 ……やっていることが既に寂しい人間の行動そのものであったということを、自分でもしっかりと理解している証拠だった。


「……。ハァ……」


 思考の深みに嵌れば嵌るほど、何だかどんどん気が滅入ってくる。

 ともあれ……と、溜息を一つ吐いた俺は、とりあえず思考を変えるためにフォースの様子を見ることにした。

 ……そういえば、ついさっきもフォースとの会話で最後に『全部任せた!』などと適当なことを言ってしまったが、別に何をどうこうしろっていう指示は一切言っていないしなぁ。……本当にどうしているんだろうか?

 湧いてくる疑問と好奇心の赴くままに。

 果たして、そこには――――



 ――――山のように積まれている巨大オオカミ共の死体を、文字通り分解し(・・・)吸収していく(・・・・・・)フォースの姿が……あった。



 ……。

 ……え、えーっと。


「なぁ、フォースよ……美味しいか? ソレ」


 ――――ゾワン! ゾワワァァァン……♪


「そ、そうか。それは……良かったな」


 隠しきれない戸惑いを混ぜた感じで問いかける俺に対し、けれどフォースはいつも通りの調子で……どことなく、何だか普段よりも嬉しそうに空間を揺らすことで応える。

 うん。主たる俺へと意思(?)を一生懸命になってまで伝えようとするその様子が、とても健気ですごくカワイイな……――って、そうではなく!


(――え? いや、本当にどういうことだ?)


 むしろ思考を切り換えようとしてフォースを見たのに、なぜか逆に脳内を疑問で埋め尽くすことになってしまった。

 それも全て、原因は目の前に広がる光景のせいで……

 ……要するに俺の眷属兼仲間が――フォースが『我喰』の固有能力である【吸収】を、どういった理由かは知らないがあっさりと使用していたからこそ、思わず疑問を覚えてしまったのである。

 なんせ、フォースが再現してしまったのは上位世界の……それも頂点に位置する方たちが創り上げた《十六夜兵装》の能力なのだ。

 どうしたって天格者の凄さを知っている俺からしてみれば、それで疑いを抱いてしまっても仕方がないことだろう。

 とはいえ……現実にフォースは【吸収】を使用しているのだ。

 その事実は決して変わらない。

 故に、まぁ……事実は事実として、しっかりと受け止めるべきであろう。


(何にしろ、俺としてもフォースが強くなることに否はないし……むしろこのまま自重せず、どんどん強くなってくれた方が嬉しいなぁ)


 どちらにせよ現状においてプラスになる要因はあれど、マイナス要素は皆無である。

 それに……付け加えて俺は、こうも思うのだ。

 『どうせ【吸収】が使える理由も、フォースの前身が『第二兵装:我喰』の固有能力によって生み出された超エネルギー体だったからなのだろう? それでその時のことが影響して、今になって【吸収】を再現することができるようになった……といったところか。ふむ……別にどこもおかしくないよな? というか……それだけで再現できるなんて、流石は俺のフォースだよな! もう言うところなしだぜ!』――――と。

 ……。


 結局、この話……というか疑問は、身内びいき全開の思考を最後に呆気なく締めくくられることとなり――――そうして七五三階層のモンスターも全て【吸収】によって片づけたフォースに対し、これまで『我喰』にちょくちょくと溜めてきた分のエネルギーを譲渡することで、ようやく俺たちは次なる階層の攻略を目指して歩き出すのだった。




 ……


 …………


 ………………




 それからの俺たちはと言うと、まさに破竹の勢いで次々と階層を突破していった。

 元より、例え数千万の敵であろうと数分以内の間に殲滅しきれる俺だ。

 そこにフォローとしての仲間(フォース)が加われば殲滅速度がグンッと上がるのも必然であり、更に今度の場合は戦闘終了後に行っていた掃除(死体処理)までもフォースが殲滅と同時進行で行ってくれるようになったのである。

 むしろ、これで破竹の勢いがなければ、それこそ色々と不自然だと言えるだろう。

 それ故に――――


「――ハァ、ハァ……くッ……到着、だ……!」


 ――――半日。

 それが、俺が全力全開でダンジョン攻略をした結果、今の八百階層を目前とした七九九階層まで到達するのに必要とした時間である。

 大体七五三階層から現在の階層までだから……凡そ一億体ほどの敵を、たった半日で切り捨ててきたというわけだ。

 更に捕捉して言わせてもらうと、その半日には一億体の敵との戦闘時間の他に、次の階層へと下るための階段を探す時間も含まれなければならない。

 つまり、何が言いたいのかと言うと――――


(――敵を倒すのには苦労しなかったが……なぜか階段は見つからないし……逆に階段探しが、一番面倒くせぇ)


 ――と、要するにそういうことであった。

 お陰で俺も半日の間はずっと駆けずり回る羽目に遭い、そのせいかイライラも溜まりすぎて疲労感が半端ない。……まぁ、それは全部、武器を握り続けていた(或いは怒りのあまり握り締めすぎていた)左手だけのものだったが。

 なので今の激しい息切れも、これまでの苦労を慮って適当に演出してみただけの結果で……別にそれほど疲れているわけでもないのである。

 ……強いて唯一の収穫を言うならば、それは俺の周囲をゆっくりとふよふよしながらも回って、健気にも心配そうな様子で空間を揺らし続けるフォースの姿くらいであろう。

 正直に言って、その日、一番癒された瞬間と言っていい。


 でも、そうだな……

 癒されついでに、ふと俺は考えてみる。

 『せっかくだから、このまま行ける所まで行ってみようとも思ったのだが……しかし丁度切りのいい数字を目前にしているわけだし、八百階層の攻略は翌日からにしてもいいんじゃないか? そこまで焦ることもないだろうしな……』――と。

 どうやら、自分でも気づかなかったが、いつの間にやら俺は密かに心中にて焦りを感じていたようだ。

 恐らくこれまでの道中が強攻すぎたがために、立ち止まる暇もなかったせいであろう……ようやく立ち止まるタイミングが得られた今になって、やっと自分が身体的には問題がなくとも、精神的には少しずつ疲れが溜まってきていることに気づいたのである。

 故に、それらの状況判断から俺は――――


(――ふむ……。一先ずは……休むか)


 そのようにあっさりと決断するのだった。

 超・ハイペースのダンジョン攻略に、一時停止がかかった瞬間である。


「ふぅ……ありがとうな、フォース。色々と気遣ってくれて」


 ともあれ、これでようやく一息が吐けた。

 感謝の言葉を口にする俺に、フォースもゾワリ……と小さく揺れるだけ。

 ……その反応から、瞬時に察する。

 きっとお互いに、どこかで少しずつ疲れが溜まっていたのだろう。


(本当、無理をさせて悪かったな……フォース)


 全身の力を抜き、大地にごろりと四肢を投げ出しながら、俺は思った。

 更にそのまま暫くすると、何だかだんだん眠気に誘われてきていることにも気づく。

 思えば最後に寝たのも、もうかなり以前のことだ。

 これでは理性が眠気に打ち負け、うとうとしてきてしまうのも仕方がない。

 だから――――


(――八百階層は明日から、かぁ……)


 その思考を最後に、俺は本当に久々の睡眠に落ち……存分にそれを堪能するのであった。




 そして――――翌日。


 すっかり眠気が覚め、身体中の疲れも完全に回復したことを確認した俺は、同じくやる気に満ち溢れた様子のフォースを連れて、八百階層の攻略を始める。


「――準備はいいか?」


 八百階層への階段を目の前にして立ち、そう問いかけてみれば小さな空間の揺らぎが返ってきた。

 ……そうか、既に準備万端だということだな?

 ならばもう、遠慮する必要はない。

 最後に互いのやる気を確認し合い、俺は頷く。


(さぁ、再びダンジョン攻略を――――始めよう!)


 そうして、意気揚々と俺たちは階段に足をかけ、その身を奥へと進めて行くのだった。



 だけど……

 俺は知らない。

 この謎のダンジョンが、八百階層からが本番であるという事を……

 待ち受けている敵が今までとは文字通り格の違う、ファンタジー世界における最強の種族、その双璧たる――巨人とドラゴンであるという事を……!

 この時の俺は、まだ知らなかったのだ。


 けれども、問題はない。

 例えどんな敵が相手であろうと、それでも俺は敢えて言おう!

 問題は、一切ないのだ!

 そう……例えそれが、その敵が、俺の感覚を欺くレベルで気配がなかろうと、視覚的にダメージを受けそうなほどに姿が悍ましかろうと、或いは神の如きトンデモ能力を持っていようとも……俺にとっては全く、これっぽっちも――――問題はないのである!!

 それ故に――――


「行くぞ、フォースッ……!

 目指すは終点――――最下層のみッ!!」


 視界に映り始めてきた八百階層へと、俺は躊躇なく駆け出す。

 ゾワリ、と一際強く空間を揺らしたフォースと一緒に、俺たちは真なる強敵が蔓延る世界へと飛び出して……――――




    ◆    ◆    ◆    ◆




~???~



 同じ異世界だが人間の生きる世界とは違う異空間に、大男の存在が一つだけあった。

 現在、その大男はやることもなく、これ以上ないほどまでに暇を持て余していたため、久々に自身の欲を満たすためだけに自らが創りだした迷宮の様子を見ようとする。

 いつも通りならば、何の変化も異常もなく終わるそんな観察だった……のだが、しかし今回だけは違った。


「ほぉう? ……。……ほう、ほぉほぉほぉほぉほぉおっ!」


 フクロウかよ。

 ともあれ、突如として叫びだした大男の見つめる先は虚空であり……けれどそこには一人の、白髪と充血した白眼の不健康そうな肌色に不気味な血色の紋様を持った男の姿が映し出されていたのだ。

 そして都合のいいことに映し出されていた場面は、丁度男が一千万体をも超える数の巨人(百メートル越え)を一方的に蹂躙し尽くしているいるところで――――大男はその光景に、(これまでの長い間ずっと挑戦者が現れなかった迷宮に初めて人がやって来たこともあって)ついに興奮を抑えきれず、大喜びで叫びまくった。

 だが――――


「――って、んん? マジか……?」


 ものの数分もせずに巨人共を掃滅し、さっさと次の階層へと駆けだし始めた男の顔を見て、その時、大男は唐突に思い出したのである。

 即ち、『この男……もしかしなくてもこの前、俺たちが救出することとなったシェルミールに止めを刺そうとしていた異世界人じゃねぇか?』――――と。


「……。やべぇな、マジでやべぇ。こいつって、こんなに強くなかったよな? ……これは呑気に笑ってる場合じゃねぇや」


 目の前で……というか自分の迷宮の中で、どんどんどんどん強くなっていく(シェルミールの)神敵に、大男は思わず背筋に冷や汗を垂らす。

 放っておいたら確実にシェルミールがキレる! と、内心でその未来を思い浮かべて緊張しながら……

 次の階層でも変わらずに蹂躙と言う名の瞬殺劇を繰り広げる男の姿を、大男は見る。

 そうして――――


「……」


 ――結局、そのまま暫く観察を続けるだけに止まり、神敵に対しては何もしないことにしたのだった。

 だって、そもそも大男が迷宮を創った理由というのも、実を言えば己の欲を満たすためだけであり……具体的に言うと数多く存在する人の中で、強くなりすぎたがために敵もいないくなった自分に匹敵するレベルの存在を生み出し、或いは既に力ある者を選別するためなのだ。

 それなのに、今、目の前で自分が待ち望み続けてきた存在が生まれつつあるというのに、まさかシェルミールのためだけにそれを邪魔するなんて……!


(――とんでもない! そんな選択は絶対にありえない!)


 故に、そう判断した大男(戦闘狂)はシェルミールのことなど最早どうでもいい! 文句を言われるのも覚悟の上だ! とばかりに開き直り、割とあっさり静観することにしたのである。

 ただ――――


「まぁ、でも……こうもあまりにあっさりと攻略されても、それはそれで面白くねぇからな。――最下層だけは手を加えさせてもらうぜ」


 あれから僅か数十分だけで既に何階層も突破し、その都度敵をまとめて屠りながら大声で嗤い続ける(シェルミールの)神敵に、大男もつられて不敵な笑みを口元に浮かべてそう言い放つ。



「――愉しみにしてるぜ。いつか……今よりももっと強くなって俺の前に立ち塞がる、その時をよォ……!」



 そして、その後も大男は超・長時間に亘って最後までニヤニヤとした笑みを浮かべながら、一見して何も存在していないような虚空を、ジィッ……と見つめ続けるのだった――――。

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