015.閑話 『眷属生成』
第二階層で満腹になるまで食事をしたためか、それからのダンジョン攻略は極めて順調に進んで行った。
まず、体力も気力も漲った状態になった事と、大した障害もなかった事もあって易々と第三階層を突破した俺は、その日の内に第四、第五階層から最終的に第五十階層までを一気に走破することに成功する。
なので、その後も調子に乗って意気揚々と攻略へ乗り出し……
途中の百層を超えた辺りからは敵の強さも跳ね上がり、更には数も万を超え始めたのだが……まぁ特に問題を感じるようなこともなく、そんな大群に対して俺は巨剣『我喰』を片手にまとめて一掃。
その尽くを綺麗さっぱりと滅してきた。
そして、それだけの数の敵を滅し続けていれば当然、俺の位階レベルと基礎身体能力も相応に上がっていく。
故に結果だけ見ると、ダンジョン攻略に乗り出した当初の狙いであった“強くなる”という目論見が叶ったことで、何もかもが順調に進んでいる……と、考えられるのだが――――しかし、俺は一つだけ問題を抱えていたのである。
……実は、割と最初の頃より密かに心の中で抱えていたその問題だったが、日が経つに連れて隠し通すことのできないレベルへと成ってしまい……――その結果。
ダンジョン攻略を開始してから一週間が過ぎた現在、ついに俺は我慢の限界を迎え――そしてついに俺は抱えきれなくなったその問題を爆発させた。
即ち、その問題こそ――――!
……。
「――会話が、したいなぁ……」
謎のダンジョン地下四百階層にて。
いつも通りに築き上げた万を超えるモンスター共の死体の山を前に、これまた既に慣れた動作で巨剣『我喰』を目の前のそれらへと突き立て、固有能力【吸収】を発動させることですっきりした空間に早変わりさせた俺は――ふと、そんな願望が込められた呟きを漏らした。
……或いはそんな願望を強く抱いてしまった原因も、もしかするとここへ至るまでに出会った敵のほとんどが人型モンスター(意思疎通、及び会話はできない)であったが故に、余計に会話のできる人が恋しくなってしまったのかもしれない。
「……ハァ……」
休憩の意味も兼ねて、綺麗になった地面へ座り込むのと同時に嘆息。
異世界へ来たお陰でかつてのように猫を被る必要もなくなった今でこそ、人間不信を声高らかに公言している俺だが……だからと言って、別に人と話すこと自体が嫌いなわけでもないのである。
むしろ話すことも嫌いだったら、わざわざ面倒でしかないのに猫を被ってまで社交的な性格を演じ、周囲の人気を買って出たりもしない。
要するに上辺だけの関係というのが、俺にとっては非常に楽な状態であったのだ。……数少ない信頼の置ける数人は除いて。
とにかくそんなわけで、決して孤独が好きでもない俺としては、現在の状況は非常に望ましくなかったのだった。
……それから暫くの間。
やることもなくなったため、仕方なくその場でポーッとしながら時間をやり過ごす……
……。
…………。
――――ピクリ……
「――――ん?」
――と、そんな時である。
何かを感じ取った俺は瞬時にその場から立ち上がり、警戒態勢に入った。
目つきを鋭くさせ、サッと周囲一帯を見回す。
しかし――――
「……。何も……ない?」
辺りを見る限り、異常な点なんてどこにも見当たらない。
小さく呟いた俺に返ってくるのは無音だけ……
……。……気のせい、か……?
警戒は未だに解かず、俺は訝しげに首を傾げた。
(……俺の直感って位階レベルの上昇と一緒にかなりの強化がされているから、外れるなんてこともないはずなんだがなぁ……。……――本当に気のせいだったのか?)
そうして何気なく、改めて自身の詳細を確認しようとステータスを頭の中に展開させ――――
「――ッ……!?」
――――直後、俺はソレに気づいた。
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⋮
天能:【狂天】
> 《十六夜兵装》
『第一兵装:バタフライナイフ』
――【異天】
[虚偽の仮面]
[鬼神の力]
[ガム召喚]
[眷属生成](New!)
⋮
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ステータスとして表示された《十六夜兵装》が一つ、『第一兵装:バタフライナイフ』の固有能力である【異天】により獲得した異能の数々。
ただし、その一番下の部分に――――見慣れないというか見たこともない、[眷属生成]という文字が付いている……
(……ッて! なんか増えてる!?)
知らない異能がいつの間にか追加されていたことに、俺は内心で物凄く驚いた。
これは……もしかしてあれか?
少し前に手に入れた異能で、現在持っている[ガム召喚]の前身だった[食べもの召喚]みたいに俺が強く願ったから、同じように手に入れることができた……ということか?
だとしたら相当なご都合主義である。
一体全体どういう仕組みでこれは成り立っているのだろうか……俺は不思議で仕方がなかった。
……。
……うん。まぁ何れにしろ、会話がしたいと願ったのは事実だし……俺も難しいことは考えず、またしても便利な能力が手に入ったとでも思っておこう。
「――それにしても……[眷属生成]、ねぇ?」
さて、と……俺は気を取り直して、新たに入手した異能の詳細をステータスから読み取る。
そして見たところ――新たな異能の効果はその名前からも判断できるように、“対象を一体だけ眷属にすることができる”というものだった。
けれど特筆すべきはそれに加えて、“眷属化させた対象の強化もできる”ということであろう。
なぜならそれが意味するところは、例え主たる俺がどんな苛酷な道を進もうとも、眷属もそれに耐えられるよう力を与えて、気をつけさせればずっと一緒にいられるという事……
つまり言い換えればそれは、これからの永い時間を共に過ごす仲間――信頼できる対象を、自分自身で創りだすことができるという事なのだ!
「へぇぇぇ! 何だこれ、最高の異能じゃないかっ! それに最初から当たりの異能なんて、案外初めての事だしなぁ……もしかして、ここに来てようやく運が回ってきた……とか? だったら……クハハッ――尚更最高だな!」
想像以上の効果が確認された異能に、俺は素直に歓喜を示す。
最早、ご都合主義がどうのこうのは関係ないし、何よりどうでもいい。
そもそも始めから躊躇する理由もないのだ。
というわけで早速――――
「使ってみるとしようか……――[眷属生成]とやらをな!」
――新たに入手した異能の使用条件として……虚空に顕現させた『第一兵装:バタフライナイフ』を素早く掴み取り、次いで流れるようにしてその刃を自らの心臓へと向けてザクッと突き刺す……という行為を俺は、宣言をするのと同時に躊躇なく実行する。
……相変わらずの痛み、だが……これからの楽しみを思えばこそ、それは決して耐えられないほどではなかった。
むしろ期待が高まりすぎているせいで、口端が大きく吊り上がっているのが自分でも分かるほどだ。
「ふぅぅぅ……、――くは、クハハハハハッ!」
そして――――新たなる異能、[眷属生成]の発動条件をついに満たした。
ゆっくりと胸の中心から『バタフライナイフ』の刃を引き抜き、再び虚空へと消し去った俺は、そうしてその場で大きな笑い声を上げ始める。
ようやく、これでようやく俺にも仲間が……会話ができる相手ができるのだ!
本当に、楽しみで仕方がない。
故に満を持して、俺は[眷属生成]を発動させようとし――――
――――ふと、思った。
(……あれ? 待てよ……そういえば[眷属生成]って確か、眷属にしたいという対象を予め設定しておかなければダメなんじゃあ……なかったっけ? それでいくと俺は――――)
――マズイ。何を眷属にしようとかそんなこと一切考えず、とりあえず異能を発動させようとしていた。
ステータスに表示されていた[眷属生成]の説明には、今のところ眷属は一体だけとあったし……これは少々、いや十分に気をつけなければいけない。
とはいえ……
ハッとした俺は、ふと周囲を見回した。
しかし――――当然のことだがその周囲は、既に先ほどを以って自身の手で綺麗さっぱりと片付けてしまっており……
……俺はそこで初めて、眷属にできそうな“対象”がこの周囲にはもう存在していないことに気づいたのである!
「やっべぇ……どうしよう?」
見当たるものといえば、石ころや砂、それと目には見えないが空気……とかだろうか?
一応眷属にしようと思えばできるだろうが、流石にその選択肢は嫌すぎる。
そのため、割と本気で悩みながら俺は他に選択肢がないかを真剣に考え……その結果――――
「――そう、だな……やはり最終的にはこれしかないよな! ……よし、それじゃあ――――“顕現せよ、『第二兵装:我喰』”ッ!」
――俺は、現在の手札の中でも最強の……何より今後もその固有能力【吸収】によってどんどん強く、そして際限なく成長し続けるだろうと思われる兵器を虚空より取り出した。
果たして上位世界の兵器たる《十六夜兵装》が、それも帝王様やそれに連なる方たちが創りだしたモノを本当にただの異能程度で眷属化ができるのかどうか……
……正直、それに関しては全く分からない。
けれど、もしも成功することができたら……と考えると――――それはそれで、会話ができる武器なんてのも随分と浪漫があって素敵だと思わないだろうか?
少なくとも、俺はそんな咄嗟の閃きで思いついた選択肢をこの上なく素晴らしいものだと思う。
だから――――
「――“対象を『第二兵装:我喰』に設定”」
左手で横向きに掲げ上げた『我喰』を見つめながら、俺はそれを……[眷属生成]を発動するためのキーワードを口ずさむ。
時間にして一瞬……だが、俺にとってはそれも何十秒にも感じられ――そうして万感の思いが込められたその異能は、ついに発動する。
それは、たったの一言で――――
「――――“[眷属生成]”――――」
静かな声で、その異能の名を世界に告げる――と同時に……その瞬間、確かに俺はこの異世界へ新たな“存在”が誕生するのを感じた。
そして直感的に悟る。
『これは紛れもなく、俺の眷属で……仲間となる存在の気配だ!』――――と。
……。
……ただ、唯一そこに問題があるとすれば、当初の思惑通りとは違ったことくらいであろう。
俺の手には相変わらず、四メートルをも超える巨剣『我喰』が握られていた。
けれど、だからと言って別に失敗したわけでもない。
まぁ……ある意味、今回の『我喰』を対象とした眷属化は失敗したとも言えるのだが――それ以上に、結果として成功したとも言えるのだ。
なぜなら――――
「――! ……あぁ……」
カラン……と地面に落下したことで、見た目に反して随分と軽やかな音を立てながら、一瞬にして虚空へと消えゆく巨剣『我喰』。
しかしながら、その時既に俺の意識は手元より滑り落ちたという兵器にはなく、目の前で浮遊し続けている“その存在”に只々釘付けにされていた。
――大きさは凡そ、地球においてサッカーという球技にて使用されるサッカーボールほどで……
しかも、何と驚くことに見た目が無色透明なせいで、パッと見ただけでは空間に僅かな陽炎が出来上がっているだけで上手く視認することもできない。
それが、俺にできた最初の眷属で……仲間の姿だった。
そう――――その正体こそ、俺が現在いる四百階層へと至るまでに狩り尽くしてきたモンスターの全て……『第二兵装:我喰』の固有能力である【吸収】によって溜めこまれてきた膨大なエネルギーの、その全てを[眷属生成]という異能で眷属化したことにより誕生した存在。
言わば、そんなただ只管に純粋な力の塊こそが……俺の眷属で、仲間となった存在の正体であったのだ!
ともあれ――――
「――決めた。決めたぞ……お前の名を」
誕生して以降も変わらず目の前を浮遊している力の塊に、俺は内心の興奮を抑えつつ、厳かに声を告げる。
最初は、ただ普通に会話のできる相手が欲しかった。
けれども、その途中からは……具体的に新たな異能を手に入れた辺りから俺は、実は単純に仲間が欲しかったという、己の隠された願望に気がついたのだ。
故にこそ……念願の仲間ができた今、俺は思う。
「――――お前の名前、それは……」
『やはり仲間ができるのは最高だ』――――と。
そして――――
「――――“フォース”……フォースだ! いいか? それがお前の名前だからな! うん、うん。いい名前だろ? ともかく、そういうわけで……これからよろしくな! フォース!」
『きっと今よりも輝いているだろう未来が、俺はすごく楽しみだ』――――と、心の底からそう思うのだった。




