013.異世界のゴキブリ的存在――ゴブリンとの再会
不意に、俺は思い出す。
『異世界って言えば……ズバリ、ダンジョン! だよねっ』
かつて日本で平和に暮らしていた時、幼馴染の水萌が俺にそう言ってきた事があった。
正直、サブカルチャーなどに一切の興味がなかった俺としては何に同意をしたらいいのかさえ分からなかったのだが、それでも幼馴染は全く気にすることなく笑顔で俺に語り続ける。
曰く、ファンタジーにおける“主人公”が強くなるために、まずは異世界の特産とも言えるダンジョンに潜り、そこで日々モンスターと戦闘を繰り広げて経験値を稼ぐのだそうだ。
何よりそうすることで主人公は加速度的にレベルアップをして超強化を果たし、その後もフラグを立てたり強大な敵と戦ったりでうんぬんかんぬん……
……と、まぁ他にもいろいろと大量に聞かされ続けたお陰もあり、俺の中でもダンジョンの情報に関してはしっかりと、自身が保有する数少ない異世界知識の一つとして刻まれたのである。
さて。そんな回想と言うには短すぎる回想をしつつ、未だに終着点が見えぬ地下へと続く階段を黙々と下りる俺は、改めて辺りに意識を向けた。
終着点こそ見えないが、それ以外は足の歩幅や踏み心地の何から何までが良いという無駄に整備された階段。
そして、地上の太陽の光が届かないほど深い代わりに、階段を含む上下左右の全ての壁に謎のヒカリゴケ的なものがあり、そこから目に優しいオレンジ色の光を発光して洞窟内の全体を照らしている。
おまけに言うと、空気の清潔さやおいしさも何だか地上の鬱蒼とした森より良い上に、気分的にも不思議な解放感が得られた。……地下のはずなのに。
ともかく、そんな明らかにただの洞窟ではなさそうな光景を見て、俺はまるで何かの天啓を得たかのようにハッと気がついたのである。
『もしかしなくてもここって、この洞窟って……――所謂“ダンジョン”じゃあ……ないだろうか?』――――と。
……或いは不意に幼馴染の言葉を思い出した原因というのも、その“ダンジョン”を強く連想させる光景を見たせいなのかもしれない(十中八九それが原因。だが一応、確証もないため疑問系に止める)。
――――覚え始めた小さな疑問は、やがて階段を最後まで下り切った時に確信へと変わるのだった。
「……。うん、間違いない――絶対に“ダンジョン”だな。ここは」
きっちりと千段もあった階段を下りて、すぐの所――――想像以上に広い、それこそ物理法則からしてありえないほどの広さを誇った洞窟の中。
俺は、眼前にて堂々と鎮座するソレを――宝箱を見て、思わずそう呟いた。
「……」
宝箱……そう、宝箱なのだ。
……。
……正直に言おう、不自然すぎる。
いくら昔、幼馴染に「ダンジョンと言えば宝箱も基本だよねっ」とか聞かされ、結果としてそれがあたかも常識であるかのように認識してしまっている俺でも、だだっ広い洞窟内にポツンと置かれた綺麗な宝箱……という光景に疑問を感じてしまっても無理はないだろう。
(――というか現実で宝箱というのが全く合ってないんだよなぁ……ミスマッチ感が半端ないし。そのせいで目の前に置かれた宝箱が、何というか……その、すごく…………シュールだし)
とはいえ、その不自然さが逆に宝箱を目立たせていたのも確かである。
お陰で、俺もすぐにこの洞窟が“ダンジョン”であると気づくことができ、た……って――――ん? ダンジョン?
もう何度も思考を過ぎったはずである“ダンジョン”という単語に、俺は今更ながらに反応する。
(そういえば……ダンジョンって、水萌の話によると“物語の主人公が強くなるために挑む場所”なんだっけ? それって――――)
――俺の望む復讐をするために必要な力も、このダンジョンでならば最速で手に入れられる……と、そういうことなのか?
……それはそれは、また何という……――何という、素晴らしき事なのであろうかッ……!
ニヤリ、と自分の口端が吊り上っていくのが分かる。
謎の霧と共に突然目の前に現れることで立ち塞がり、俺の進む道の邪魔をするかのように思われた洞窟が、実はその復讐自体を今以上に加速させてくれる最良の道であると判明――つまり、己の身に降りかかったのがいつものような凶運ではなく、むしろ最高の幸運であったと気づいた瞬間なのだ。
これで俺が歓喜しないはずがない。
「……く、くく……クハハッ、クハハハハハハハハハッ!!」
自然と漏れ出る笑い声。
愉悦に満ちたそれは、やがて大きな狂笑となって広い洞窟内に響き渡る。
今の俺は言わば、自己の超強化が既に確定した未来として見えているようなものなのだ。
故に、それでどうしようもない興奮に曝されてしまい、結果として笑いが堪えきれなくなってしまうというのも……無理もないことであろう。
(……まぁ、そんな狂笑を続ける理由……というか狙いも、実は別にあるわけなのだが……)
まず前提条件として、ただダンジョンの中にいるだけでは当然強くなれない。
今以上の力が欲しければダンジョンの中にいるモンスターを狩らなくてはいけないのだ。
でも……、とそこで俺はダンジョンの内部を再度見回す。
無駄に広い洞窟、目の前に鎮座する宝箱、背後には地上へと繋がる長い階段。
狩るべきモンスターの姿など、どこにも見当たらない……
……そう、モンスターがどこにも見当たらなかったのだ!
流石の俺も、それに気づいた当初は非常に困った。……丁度この洞窟がダンジョンだと気づき、大興奮して笑い始めた時でもあったため、余計に困ったものである(急にテンションを変えるのが恥ずかしかったから)。
だがついさっき、これまた運が良いことに俺は現状をどうにかする方法について閃いたのだ。
その方法こそが、『モンスターが見当たらないのであれば、むしろ向こうから来させればいい! ……具体的には大声を出し続けることで、俺の居場所を教える』――――と、そういうことであった。
そして更に言えば、そんな俺の狙いは――見事に的中することとなる……
「――ハーッハッハッハ……――――ッ!?」
それまでこの広い洞窟内に響き渡らせていた狂笑をぷつりと途絶えさせると、一瞬にして周囲の空間へと静寂が広がった。
そうして静寂の中、そのまま意識の全てを聴覚に集中させてみれば――――
――――…………ひた……ひたり、ひたり……
……。……聞こえる。
微かにだが、俺の耳は確かに足音を捉えた。
これは……この足音の持ち主こそが、まさしく俺の狙い通りに誘き寄せられて来た――モンスターだ!
(……くくッ……クハハッ、クハハハハッ!)
つい先ほどのように溢れ出てしまいそうになった笑いを心の中だけで完結させることで堪え、俺は左手に持った槍をグッと握りしめる。
足音から判別するに、敵の数は少なくとも五体以上が確実。
果たしてそれが多いのか少ないのかについては、正直全く分からない。
ただ俺としては、自身の想定していた数より断然少なかったことだけは事実で……まぁ、それも敵が近づきつつある今となっては既にどうでもいいことだ。
どちらにせよ、俺はダンジョンにいる全ての敵の尽くを経験値に変えてやるつもりだったからな。
だから敵がどれほどの数で来ようと関係ない。
むしろ、わざわざ俺の強化のために死にに来てくれて、どうも“ありがとう”と、そう言いたいくらいであった。
ともあれ、そうこうしている内にモンスターの足音もかなりの近さまで迫り――――
「……(来た。ついに来るか、俺の経験値……――モンスターが……!)」
ついに洞窟の奥――どうやら曲がり角になっているようだ――から敵がその姿を見せようと……俺の視界に片足を踏み出す時が来たのである!
果たして異世界ダンジョンの初遭遇となるモンスターの正体は、一体……!?
手に汗握る緊張の瞬間……
やがて、無言のまま洞窟の奥にある曲がり角を見つめ続ける俺の視界に映ったのは――――
「…………」
……。
…………?
………………ッ!?
「……ぇ、マジか。もしかして……――また、ゴブリン……?」
その、目にも当てられないほどの醜さ。
そして禿げあがった頭部に無駄に膨らんだ腹。
唯一筋肉で覆われた四肢が逆に不自然すぎて気持ち悪く、何より全身がいかにも不潔そうで汚い緑肌の全裸の小人は紛れもなく――俺が異世界に来て初めて遭遇したモンスターである――ゴブリンであったのだ。
……。
……ふと、思う。
『ひょっとして、まさか俺の初ダンジョンにおけるモンスターとの遭遇は……結局、ゴブリンとの運命(?)的な再会で終わってしまったんだろうか』――――と。
これでは異世界における初・モンスターとの遭遇記念(二つ)が、完全にゴブリンで埋められたことになってしまう……
だとしたらそれは、何とも――――
(――何とも、最悪の気分だな……)
洞窟の奥から現れ、キョロキョロと辺りを見回し始めたゴブリンに、俺は心底嫌そうな視線を送り続ける。
残りの数体は、どうやらまだ曲がり角から出てこないらしい。
追いついていないのか、それともたった一体だけ出てきたゴブリンが囮なのか……
一瞬だけ、ゴブリンにそのような罠を考えることのできる知能が存在していたのかどうかについて考える俺だったが――――
「……! ――ま、どうでもいいことか」
とりあえず、まずは《十六夜兵装》が一つの『第一兵装:バタフライナイフ』、その固有能力である【異天】により獲得した身体能力強化系の異能――[鬼神の力]を発動させ、今の俺が持てる全力を用意する。
そして即座に左手に持った槍を構え、この俺から思考する余裕を奪った上に完全なる戦闘態勢へと移行させた原因――互いに視線をがっちりと重なり合わせてしまい、その結果、俺の存在を認識してしまった……哀れなゴブリンを強く睨み付ける。
……お互いに存在を認識し合ったため、奇襲は失敗。
ならば、あとはどれだけ上手く先制攻撃を仕掛けられるかで勝負が決まる……
全ては、更なる力を得るため。
普通の勝利では、何も意味がないのだ。
一切の思考を切り捨てた俺は、しかしそれだけは意識し続ける。
『例え雑魚でも、真剣勝負をしてこそ意味がある』――――と、要するにそういうことであった。
……。
そうしてお互いが睨み合うこと暫く。
俺という存在を近づきつつある仲間に伝えるためか、ついにゴブリンが洞窟の奥にある曲がり角の方へと体ごと背けたのだ!
当然、そんな隙を逃してしまう俺ではない。
その瞬間、ようやく初ダンジョンにおける戦闘の幕は上がったのだった。
「ギ――――……ッ!?」
ゴブリンが口を開き、何かを言おうとする――――が、その前に辛うじて相手の姿が見える程度だった相互の長い距離をコンマ一秒以下、それもたったの一歩で詰めた俺から放たれた先制攻撃であるトーキックが、間抜けにも体ごと横を向いていたせいで晒されていたゴブリンの後頭部へと直撃する。
その結果は……言うまでもない。――即死だ。
靴に付着してしまった汚れを、片足を地面に叩き付けることで何とか落としながら、俺は、頭部の半分以上をグチャグチャに潰されたゴブリンの死体が物理法則に従って曲がり角の奥へと吹っ飛んでいく様を見つめ――――
「「「「「ギャギャギャッ!?」」」」」
曲がり角の奥から丁度、こちら側に飛び出そうとしていた十体前後のゴブリン共を、高速で飛翔する死体がまとめてぶっ倒れさせるという気が抜けるような光景を見るに至った。
……正直、これには流石の俺も考えを改めざるを得ない。
最初に瞬殺した一体もそうだったが、やはりこいつらゴブリンは弱すぎる。
そもそも、異世界に来た当初で今のような力がなかった頃の俺にさえ、五体もいたはずのゴブリン共(武器付き)は一瞬で殺されるほどだ。全く、雑魚すぎて話にもならない。
故に――――
「――前言撤回だ」
のそのそと洞窟の地面から起き上がろうとする十体前後のゴブリン共に向け、俺は一方的に言い放つ。
雑魚すぎるお前らに真剣勝負はもったいない……
どうせだから……その身に最もふさわしき行為である、文字通りの“蹂躙”をくれてやろう!
――――ブォォォオン……ッ!
とても細身の槍とは思えないほどの重低音を出しながら、左手に持った槍を大きく一振り。
それによって巻き起こされた強風は、ようやく起き上がったゴブリン共を再度まとめて転倒させることとなり――――
「――さぁ、蹂躙戦を始めよう……」
次の瞬間にはもう、既に俺は大地に伏したゴブリン共へと容赦なく、そして一切の手加減を加えることもなく本気で槍を次から次へと突き刺し始めていく。
……もちろん、雑魚相手に時間をかけたりするような真似はせず、その後、僅か数秒程度で敵の殲滅を完了させたのだった。
……
…………
………………
「…………」
先ほどまでのゴブリン共がゲームでいうチュートリアルだとすると、さしずめ今度の敵は難易度がハードモードを超えていきなりヘルモード……といったところだろうか?
あれから――――敵が雑魚すぎるせいであっさりと屠りまくった結果、せっかくのあそこまで猛り狂っていたはずの気持ちもすっかり白けてしまい(ついでに殺ることもやりきってしまったがため)、仕方がないから初心に帰ろうと……とりあえず最初の宝箱があった場所まで戻ってから――――暫く。
ふとした気紛れにより何となく背後を振り返った俺は、そこで洞窟の奥――十体前後のゴブリン共を瞬殺してきた場所から、百や二百では到底足りない、とんでもない数のゴブリン共がわらわらわらわらと出てきている光景を見てしまったのだ。
それはまさしく、地球におけるゴキブリ(ただし気色の悪い緑色)が大量に群れている悪夢のような光景。
そのあまりの気持ち悪さに、流石の俺もドン引きする。
とはいえ――――
(――……敵。そう、敵だ。例えどれだけ気色の悪い存在であろうが、あれこそ俺の待ち望んでいたモンスターで間違いない……!)
呆気に取られてしまうのも一瞬の間だけ、とでも言うようにすぐさま気を取り直した俺は、気合を入れ直すように槍を力一杯握りしめる。
今、何よりも重要なのは大量の敵がわざわざ俺の手間を省くよう、自分たちからこちらへと向かってやって来ているという現実のみだろう。
……よくよく考えてみれば、実に結構好都合な出来事である。
それに、どうやらこうしている間にも敵はその数を着々と増やしつつあるようで……
そんな最高すぎる展開に、俺はとうとう最後まで笑いを堪えきることができなかった。
「……く、クハハハハハハハハハハハハッ! いいぜ……いいだろう、いいだろうッ! ……例えどれだけ全体の数を増やそうが、たった一つの質にも決して勝てないということを――この俺自らが、見せてやろうではないかッ!!」
嬉々としてそのような宣言をかました俺は、間を置かずして即座に動き出す。
ドンッ、と足元にクレーターを生み出しながら、一気に跳躍することで敵の中へと突っ込んだのである。
それも当然のように、敵の誰もが反応どころか認識すらできないほどの速度で、だ。
そして……
トンッ、と最前列にいる無数のゴブリン共の下へと軽く着地するのと同時に――――
――――斬ッ……!
まるでその文字自体が脳裏に直接浮かんでくるかのような勢いで、一閃……!
大きく横に振り抜かれた三メートル長の槍は、そのまま敵を穂先の刃で切り裂き、或いは柄の部分で木端微塵に打ち砕き……ついでに攻撃の範囲外にいた奴らも、あまりにも鋭すぎたせいからか生み出された衝撃波によって、文字通り爆弾か何かをくらったかのように全身をバラバラに吹き飛ばされていく。
結果、俺はたったの一撃で数十体のゴブリンを屠ることに成功させた。
まさに瞬殺の極みである。
「ギ、ギィ……? ――ギャギャッ!?」
なお、未だ大量に残っている問題のゴブリン共だが、最初は量産された緑色の噴水を前に頻りに首を傾げさせていたところ……暫くしてからようやく、その噴水の向こう側で槍を構え直した姿のまま佇んでいる俺の存在に気づき、一斉に驚きながらも何やら慌てだしていた。
……不意にその反応から、もしかしたらダンジョンにいるモンスターは俺という存在の危険度を判断できるほどの知能を持っているのだろうか、という考えが思考を過ぎる……のだが――――
「――……クハハハハハハッ! クッハーッハッハッハッハッハッハッハーッ!!」
どっちにしろ最終的に敵の全て殺し尽くすことに変わりはないし、だから、どうせここで考え込んだって仕方がない。
止めていた足を今も洞窟の奥から湧き出てきているゴブリン共へ向けて動かし、無理矢理笑いだすことで思考を早々に切り上げた俺は、そうして終わらない瞬殺劇――蹂躙戦を再開させたのであった……
……。それから――……大体、三百体ほどのゴブリンを血と肉だけの存在へと変えただろうか。
ふと俺は、自身に少しだけだが疲れが溜まってきていることに気づく。
見れば、まだまだ敵は洞窟の奥から順調にその数を増やし続けており……――流石の俺も、ついにここで我慢の限界を迎えることとなった。
要するに……鬱陶しくなってきたのである。
なので――――
「ふぅっ…………」
――『そろそろ本気で、この蹂躙戦を終わらせるとしよう』
血の海の中心で小さく息を吐き捨てる、と同時に俺は槍を――『第十三兵装:ネオ・メシア』を徐に虚空へと消し去る。
そんな武器を手放して完全な丸腰になった俺の姿に、やっと自分たちの数に屈して抵抗を諦めたのか、と言わんばかりに周囲のゴブリン共は反応する……が、無論その程度でこの俺が諦めるなんてことは、絶対にありえない。
なんせ殺すと決めた以上、絶対に殺すのが今の俺であるからだ。
「……さてと、それじゃあ早速……――“顕現せよ、『第二兵装:我喰』”ッ……!!」
ギィィィッ、とか、ガァァァッ、とか叫びながら飛び掛かってくるゴブリン共を余所に、俺は掲げ上げた左手に光り輝く巨剣を――『第二兵装:我喰』を自身の魂から現出させる。
主に単体制圧用として見られる『ネオ=メシア』と違って、全長四メートルもある対集団用殲滅兵器――『我喰』を取り出したのだ!
試しに軽く、本当に軽~く振るってみる。
途端に、ブォォォオンッ、と膨大な風圧が巻き起こり、飛び掛かってきていたゴブリン共は当然として、その周りにいた奴らもまとめて吹っ飛ばした。
中にはそれで数十体ほど、地面や仲間同士で打ちつけられて死んだ奴らがおり……
……軽く振るだけでこの威力、か……うん――最高だ。
「……。クスっ……」
怯えた眼差しが、驚愕に満ちた眼差しが、異質なモノを見るような眼差しが……何より――自身に突き刺さる敵意と殺意の眼差しが心地良い。
でも……そんな眼差しを向けられてしまうと、ねぇ?
俺も、無視するわけにはいかなくなってしまうのも当然だろう……?
だから俺は、左手に持った巨剣の柄に右手も重ねることで、両手になった力でグッと握りしめ……――――刹那。
――――ズ……ッバァァァアンッッッ!!!
天格者の超人的身体能力に[鬼神の力]を重ねた、言わば人外と化した力の全てで以って――巨剣を振り抜いた。
それにより出来上がった遠慮のない斬撃は、文字通り空間ごと数百ものゴブリンを斬り裂き……更にはその副産物として、洞窟中に轟音とも言うべき音を響き渡らせたのである。
……圧倒的。それ以外の言葉は浮かばない、そんな……光景だった。
だが、しかし……それでも今の俺にとっては、実に――爽快だ!
故に――――
「く、クハッ! クハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
斬る。斬る、斬る、斬る、斬る、斬るッ……!
俺は足を止めることなく、大声で笑いながら敵の中を駆け抜けていった。
擦れ違いざまの際にもしっかりと巨剣を一振りしていき……その度に凡そ百体前後のゴブリンをぽんぽん死なせていく。
途中で魔法を使う奴や、最初の頃に出会ったような武器を持った奴もいたが、関係ない。
まとめてどんどんどんどん俺は殺していった。
楽しい。とにかく楽しい、無茶苦茶楽しい!
だけど……――――
――そんな楽しい蹂躙戦も、残念なことに、これまた僅か十数秒ほどで終わってしまう。
仕方がない。なんせ、一度に屠る敵の数が多すぎたのだ。
十数回も巨剣を振ってしまえば、それはもうあっと言う間に狩り尽くしてしまっても……おかしくはない。
だから――俺は視界内に埋め尽くされた凡そ二千体ものゴブリン共の死体と、そこかしこに築き上げられた死体の山を眺め……そうして最後にもう一度だけ、残念そうに溜息を吐いた。
――対集団用殲滅兵器……。この結果から見て分かるように、大変恐ろしくも素晴らしい平気である。
ただ……一つだけ惜しいことと言えば、やはり楽しい時間が長続きしない点であろう。……すごく、個人的なことではあるのだが。
……。
…………。
ともあれ、こうして長いようで意外と短かった最初(?)の戦いは終わったのだった。
……ただし、最後に――――
「……。……“喰らい尽せ、『我喰』”……」
何だか異臭さえも漂ってきた死体の山を見て、このまま放置していくのも気が引ける。
そう思ってしまったため、結局俺はきっちりと『第二兵装:我喰』の固有能力である【吸収】を使って消し去ることにした。
これならば視界も嗅覚も精神的にもスッキリできるし……何より、例えゴブリンでも【吸収】して『我喰』の力として取り込んでしまえば、後々何かの役にも立てるかもしれないのだ。
多少強引な理論だが、とりあえずはこれで一石二鳥とも言えるだろう。
「……」
結果として、確かに洞窟内は綺麗になれたのだが……二つ目の目論見である『我喰』の強化に関しては、少し前に口にした『雑魚はどれだけ群れても、所詮は雑魚でしかない』という言葉通り、二千体ものゴブリンの死体では大した強化にもならなかった。
……少しだけ、無駄なことをしてしまったような気分である。
故に小さく肩を落とした俺は、しかしこれ以上ここにいても仕方がない……と溜息を吐いて、そのまま静かにその場から去っていくのだった。
……。
…………。
「――“ステータス”」
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名前:霧崎 邪悪 (ジャック=キリサキ)
天能:【狂天】
位階:狂天師 38(↑9up!)
称号:神敵,狂天,アンリミット超神帝国民,復讐者
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謎の宝箱の前。
そこで俺は、今回の成果――二千体のゴブリンを殺したことで、得ることのできたモノを確認するため、ステータスを見ていた。
結果は……位階レベルが38となり――――
「……。これは……二千体も殺したにしては、微妙な数値だなぁ……。9“しか”上昇しなかったと言うべきか、それとも9“も”上昇したと言うべきか……どちらにせよ、前回と比べて上昇しづらくなっていることだけは確実だな」
どうやら、ダンジョンに対する期待が少し高すぎたようだ。
一気に強くなれるとしか考えていなかったため、ちょっとだけガッカリした気分を味わう。
「――だけど……ここは、まだ一階層目だ」
ダンジョンであるなら、先ほどまで考えていた“一気に強くなる”ということはできないとしても、少なくともモンスターの出る階層が他にもあるんじゃないか?
いつの間にか――――それこそ、このダンジョンが突如として現れた時と同じように、自分と宝箱の間になぜかできていた地下への階段を見ながら、俺は思った。
……。……っていうか、本当にいつできたんだ?
ここに戻って来た時からずっと、目の前にある宝箱を見つめていたんだが……
……実に、不思議だ。
「……」
まぁ……兎にも角にも、これで行くべき道もそこでやるべき事もハッキリとした。
果たして全部で何層あるのかは分からないが、地道にやっていけば俺も強くなれることだけは分かったのだ。
今はそれだけでいいだろう。
階段を見据え、俺は気合を入れ直す。
やる気は十分。
あとは、また地下への――第二階層へと続くのであろう、この階段に突っ込んで行くだけ……
だから俺は、現時点で自分が最強だと思っている兵器……【吸収】の固有能力を持った四メートル長の巨剣、『我喰』を片手に階段へと足を踏み出し――――
「――おっと、その前に……」
階段の一段目に足をかけた状態で、急遽、俺は立ち止まる。
目線を上げると、そこには今までタイミングが合わなかったがために放置されていた宝箱。
「危ない、危ない。また忘れ去ってしまうところだった……」
急いで戻り、そのまま巨剣で鍵部分を破壊して中身を取り出した俺は、今度こそ第二階層へと続く階段を駆けだしたのであった。
……因みに、宝箱の中身は階段を下りていく途中で詳しく調べた。
見た目はただの草で、齧ってみても普通に苦い。
暫く様子を見ても、大して体に影響がなかったことから、毒はないように思われる……ということが分かった。
……。
その後、無造作に捨て置かれた謎の草束が、階段を下りるその途中で発見されたらしい。




