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人間を管理するAIに追われた僕は、反逆者の少女と空を飛ぶ  作者: 紺野 翼
知られざる街の息吹

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13/14

次に会う約束


 朝食を終えた僕は、食堂を出る前に今日の予定を確認していた。


 午前中は倉庫の整理を手伝い、午後は特に決まった作業がなければ自由時間になるらしい。


 最近は技術班の手伝いにも少し慣れてきたし、頼まれた作業も以前より落ち着いて進められるようになってきた。


 とはいえ、まだ分からないことも多い。


 今日も何か覚えられることがあればいいなと思いながら、倉庫へ向かった。


「おはよう、ユノ」


「おはよう、ミナ」


 倉庫の前では、ミナが整理用の端末を持って待っていた。


「今日は回収した部品の仕分けをお願いしたいの。種類ごとに分けて、確認が必要なものは別の箱に入れてね」


「分かった」


「見た目が似ているものもあるから、番号も確認してね。前みたいに、形だけで判断しないように」


「うっ……。分かってるよ」


 以前、似た形の部品を同じものだと思い込んで、余計な手間を増やしてしまったことがある。


 ミナはそれを思い出したのか、少し笑っていた。


「冗談よ。ちゃんと覚えているなら大丈夫」


「今度は間違えないようにするよ」


 僕は箱を一つ手に取り、作業台へ運んだ。


     *


 仕分け作業は、思っていたよりも順調に進んだ。


 部品の番号を確認し、種類ごとに分けていく。


 以前なら、似た形のものを見つけると、つい同じ箱に入れてしまっていたかもしれない。


 でも今は、形だけではなく、用途や規格も確認するようにしている。


「ミナ、これなんだけど」


「どれ?」


「番号は違うんだけど、形がほとんど同じなんだ。別の種類で分けた方がいい?」


 ミナは部品を受け取り、側面の刻印を確認した。


「うん。これは接続規格が違うものね。見た目は似ていても、使える機器が違うから分けておいて」


「やっぱりそうなんだ」


「よく気づいたね」


「前に間違えたことがあったから」


「ふふ。失敗したことを覚えておくのは大切よ」


 僕は言われた通り、別の箱に部品を入れた。


 作業を続けていると、倉庫の奥から技術班の男性がやってきた。


「ミナ、こっちの確認を頼めるか?」


「はい。今行きます」


 男性は手元の端末を見せた。


「先ほど届いた部品の一覧なんだが、現物と記録に少し違いがある。念のため確認しておきたい」


「分かりました」


 ミナは僕の方を向いた。


「ユノ、ここの仕分けをお願いしてもいい?」


「うん。番号と規格を確認しながら進めておくよ」


「ありがとう。判断に迷うものがあったら、そのまま分けておいてね」


 二人が倉庫の奥へ向かうのを見送ってから、僕は作業に戻った。


     *


 昼過ぎ、倉庫での作業を終えた僕は、食堂で遅めの昼食を取っていた。


 午後は特に予定がない。


 部屋に戻って本を読むのもいいし、少し基地の中を歩いてみるのもいい。


 そんなことを考えていると、ミナがこちらへやってきた。


「ユノ、ちょっといい?」


「どうしたの?」


「これ、技術班から預かってきたものなんだけど」


 ミナが差し出したのは、手のひらに収まる大きさの携帯端末だった。


「あ、これ……」


 見覚えのある端末だった。


 以前から僕が持っていたものだ。


 ただ、ここに来てからは外部との接続を避けるために、いくつもの機能を停止したり、不要なプログラムを削除したりしていた。


 その結果、使える機能はかなり限られていた。


「技術班の人が調整してくれたの。最近の通信不良もあるでしょう? いざというときに連絡が取れなくなると困るから、別の通信経路でも使えるように改良したんだって」


「別の通信経路?」


「普段の通信網とは独立した回線を使えるようにしたみたい。通常の通信が不安定になったときでも、最低限の連絡が取れるようにしてあるそうよ」


「へえ……」


「もちろん、何でもできるようになったわけじゃないみたい。外部との接続は引き続き制限されているし、使える機能も必要なものに絞ってあるって」


 僕は端末を受け取った。


 表面には、以前と同じように小さな傷が残っている。


「ありがとう。そういえば、こっちに来てからほとんど使ってなかったな」


「そうね。最初の頃は安全のために、かなり機能を止めていたものね」


「うん。外部から接触されないようにって、いろいろ停止したり削除したりしたから、正直かなり使い勝手が悪かったんだよね」


「それを今回、必要な範囲で使えるように調整してくれたみたい」


「そっか。技術班の人にもお礼を言わないと」


 僕は端末の電源を入れた。


 画面が点灯し、見慣れた操作画面が表示される。


 以前は使えなかった連絡先の一覧や、内部メモの機能も戻っていた。


 もちろん、外部のネットワークへ自由に接続できるわけではない。


 それでも、以前よりずっと使いやすそうだった。


「おー、なんか前より使いやすくなってるかも!」


「よかったね。操作方法も少し変わっているみたいだから、説明書も一緒に預かってきたよ」


 ミナが小さなデータカードを見せる。


「あとで確認しておくよ」


「うん。何か分からないことがあったら、技術班に聞いてみてね」


「分かった。ありがとう」


 僕は端末を手の中で軽く回してから、ポケットにしまった。


 これからは、基地の中でも外でも、必要なときに連絡を取れる。


 小さなことだけれど、少し便利になった気がした。


     *


 端末を受け取ってからしばらくして、僕は自室に戻った。


 午後は自由時間だ。


 最近は時間があるときに、先日買った写真集を読むことが多い。


 今日も本を開こうと思っていたところで、端末に通知が届いた。


 送り主はエヴァだった。


『こんにちは、ユノさん。


 先日は一緒に本屋を探してくださってありがとうございました。


 あのあと、私も少し本を読み返していたのですが、以前お話しした旅人の物語について、もし興味があれば今度お貸しできます。


 お時間のあるときに、またお話しできたら嬉しいです』


「おお……」


 思わず声が出た。


 以前、エヴァが話していた旅人の物語。


 知らない土地を訪れて、そこに暮らす人々の生活を知っていく話だと言っていた。


 あのときから少し気になっていた。


 僕は端末を操作し、返信を考えた。


『こんにちは。


 この前話していた本、僕も気になっていました。


 よかったら、ぜひ読んでみたいです。


 また会えるなら、今度は僕からもこの前買った本の話をしたいです』


 送信すると、ほどなくして返事が届いた。


『もちろんです。


 では、次にお会いしたときに持っていきますね。


 もしよろしければ、以前の古書店の近くにある小さな喫茶店はいかがでしょうか。


 落ち着いて本の話ができる場所なんです』


 喫茶店か。


 この前は本屋を探すために歩いていたけれど、ゆっくり話をする場所に行くのも楽しそうだ。


『いいですね。


 僕も行ってみたいです』


 そう返信すると、待ち合わせの日時を決めることになった。


 お互いの予定を確認し、数日後の午後に会うことになった。


 画面を閉じると、自然と口元が緩んでいた。


 次に会う約束ができた。


 それだけのことなのに、少し楽しみになっている自分がいた。


     *


 午後、技術班の作業場へ顔を出すと、イリスが端末を確認していた。


「ユノ、今日はもう作業は終わったの?」


「うん。倉庫の整理は終わったよ」


「そう。なら、少し確認を手伝ってもらえる?」


「何をするの?」


「通信端末の動作確認。旧式の予備端末を何台か試しておきたいの」


 僕は頷き、作業台のそばへ移動した。


 端末は小型のものが数台並んでいる。


「前に直した端末もあるね」


「ええ。あれも含めて確認するわ。接続できるか、短いメッセージを送受信できるかを調べたい」


「分かった」


 イリスから一台を受け取り、電源を入れる。


 画面には簡単な操作メニューが表示された。


 指定された端末同士を接続し、テスト用のメッセージを送る。


 しばらくすると、受信側の端末にも同じ内容が表示された。


「正常だね」


「次は別の端末と接続してみて」


「うん」


 何台か試していくうちに、一つだけ反応が遅い端末があった。


「イリス、これだけ少し遅いみたい」


「どのくらい?」


「他の端末より、表示されるまでに時間がかかる」


 イリスは端末を受け取り、通信履歴を確認した。


「……通信自体は成立しているわね」


「故障かな?」


「まだ分からない。端末側の処理が遅いのか、通信経路に問題があるのか、切り分ける必要がある」


 彼女は別の端末を用意し、同じ経路で接続を試した。


 今度は正常に表示された。


「端末の問題かもしれないわね。もう少し調べておく」


「僕にできることはある?」


「今は大丈夫。確認した結果を記録しておいてくれる?」


「分かった」


 僕は端末の番号と、反応が遅かったことを書き残した。


 イリスはその記録を確認し、端末を作業台の端へ置いた。


「最近、こういう小さな問題が増えているわね」


「通信の遅れとか?」


「そう。大きな故障ではないけれど、原因がはっきりしないものが続いている」


「偶然じゃないのかな?」


「もちろん、その可能性もある。ただ、同じ時期に複数の場所で起きているから、注意は必要ね」


 イリスは端末の画面を閉じた。


「今のところ、こちらの活動に大きな支障は出ていない。だから、焦って動く必要はないわ」


「うん」


「でも、いつも通りに動けると思い込まないこと。何か変化があれば、必ず共有して」


「分かったよ」


 僕は頷いた。


 小さな問題が続いている。


 それが何を意味するのかは、まだ分からない。


 ただ、今まで通りに過ごしているだけでは気づけないこともあるのだろう。


     *


 夕食の時間になり、僕は食堂でイリスとミナに今日のことを話した。


「そういえば、数日後にエヴァと会うことになったんだ」


「エヴァ?」


 ミナが首を傾げた。


「この前、別の街で会った人だよ。古書店を探していた人」


「ああ、あの人ね。今度は一緒に出かけるの?」


「うん。前に話していた本を貸してくれることになったんだ」


「よかったね。ユノ、あの本のことを気にしていたものね」


「うん。どんな話なのか、ずっと気になってたんだ」


 ミナは楽しそうに笑った。


「読んだら感想を聞かせてね」


「もちろん」


 その隣で、イリスは食事を続けていた。


「出かける場所は決まっているの?」


「前に行った古書店の近くにある喫茶店だって」


「そう。なら、帰りの時間には気をつけて。最近は移動経路の変更もあるから」


「分かった」


「それと、初めて行く場所なら、帰り道も確認しておくこと」


「うん。ちゃんと調べておくよ」


 イリスはそれ以上何も言わなかった。


 ミナは僕の方を向き、少し声を弾ませた。


「本の話ができる友達ができるって、いいね」


「友達……」


 その言葉を聞いて、僕は少しだけ考えた。


 エヴァとは、まだ数回会っただけだ。


 でも、本の話をしたり、一緒に街を歩いたり、次に会う約束をしたり。


 そういうことを繰り返していけば、友達と呼べるようになるのかもしれない。


「そうなれたらいいな」


 僕がそう答えると、ミナは優しく笑った。


     *


 同じ頃、エヴァは自宅の窓辺に座っていた。


 手元には、ユノに貸す予定の本が置かれている。


 少し古い装丁の本で、何度も読み返しているお気に入りの一冊だった。


 表紙を指でなぞり、彼女は小さく微笑む。


 ユノがこの本を読んだら、どんな感想を聞かせてくれるだろう。


 自分が気に入っている場面を、同じように好きになってくれるかもしれない。


 あるいは、思いもよらないところに興味を持つかもしれない。


 それも楽しみだった。


 彼女は本を閉じ、テーブルの上に置いた。


 次に会う日まで、もう少し時間がある。


 その日を楽しみにしながら、窓の外に目を向けた。


     *


 アダムズタワー。


 都市の情報が集約される領域で、複数の記録が更新されていた。


『対象者:ユノ』


『外部接触対象:エヴァ』


『次回接触予定:確認』


『対象者の行動傾向:対人交流の継続』


『周辺環境への介入:継続』


 さらに、レジスタンス拠点に関する情報が照合される。


『通信遅延:複数地点で継続』


『対象組織:代替通信手段の整備を進行』


『対応状況:観測を継続』


 新たな情報が記録に加わる。


『行動予測モデルを更新』


『予測精度:再評価中』


 処理は静かに続いていた。

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