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人間を管理するAIに追われた僕は、反逆者の少女と空を飛ぶ  作者: 紺野 翼
知られざる街の息吹

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11/18

本のある場所


 エヴァと出会ってから、数日が経った。


 あの日に見つけた修理工房からは、追加の部品が見つかったという連絡が届いていた。


 技術班による確認の結果、回収した部品のうち二つは問題なく使用できる見込みらしい。残りについても、清掃と調整を行えば使える可能性があるという。


 ただ、必要な数にはまだ届いていなかった。


 通信設備を維持するためには、もう少し予備を確保しておきたい。


 そんな話を朝食の席で聞いていた僕は、イリスに声をかけられた。


「ユノ、今日も一緒に来てもらえる?」


「部品探し?」


「そう。前に見つけた工房から連絡があったから、状態の確認と追加分の受け取りに行くわ」


「分かった。準備しておくね」


「それと、今回は別の店にも寄る予定よ。前に教えてもらったところ以外にも、古い部品を扱っている店があるらしいから」


「じゃあ、また違うところを見られるんだ」


「そういうことね」


 イリスは端末を操作しながら答えた。


「ただし、今回は寄り道の時間があるか分からないわよ」


「分かってるって」


「前もそう言っていた気がするけど」


「ちゃんと覚えてるよ」


「ならいいけど」


 イリスは小さく息をついた。


 僕は朝食を食べ終えると、出発の準備を始めた。


 前に訪れた地区。


 そこには、エヴァが住んでいる家もある。


 今日も会えるとは限らないけれど、もし見かけたら、あの日の約束を覚えていてくれているだろうか。


 そんなことを考えながら、僕は基地を後にした。


     *


 目的の地区に着くと、まずは前回訪れた修理工房へ向かった。


 店主は僕たちの顔を見ると、作業の手を止めて迎えてくれた。


「おう、この前のふたりか。頼まれていた部品が見つかったぞ」


「本当ですか?」


「ああ。全部じゃないが、使えそうなものが三つほどな」


 店主は奥から小さな箱を持ってきた。


 イリスが中身を確認している間、僕は店内の棚を眺める。


 前に来たときと同じように、古い機械や部品が所狭しと並んでいた。


「どうだ?」


「型番は一致していますね。状態も悪くなさそうです」


「そいつはよかった。古いものだから、いつでも手に入るとは限らないからな」


「助かります。こちらで引き取らせてください」


 イリスは必要な手続きを済ませ、部品を受け取った。


「それと、他にも扱っている店をいくつか教えてもらえませんか?」


「そうだな……この辺りなら、もう少し先にある店も古い通信機器を扱っていたはずだ。あとは、住宅区画の近くにある小さな店だな」


「住宅区画の近く?」


「ああ。店というより、個人で修理を請け負っているところだ。表にはあまり商品を出していないが、頼めば倉庫を見せてくれるかもしれん」


 イリスは教えてもらった場所を端末に記録した。


「ありがとうございます。行ってみます」


「また何かあれば来な」


「はい」


 店を出ると、イリスは端末の地図を確認した。


「次は少し離れた場所ね」


「歩いて行ける?」


「ええ。少し時間はかかるけど、問題ないわ」


「じゃあ、歩いて行こうよ」


「そうね。周辺の店も確認しておきたいし」


 僕たちは通りへ出た。


 前回と同じように、古い建物と新しい建物が混在している。


 道沿いには小さな店が並び、買い物をする人や、修理を終えた機械を受け取る人の姿もあった。


 この辺りは、歩いているだけでもいろいろなものが目に入る。


 そのとき、少し先の歩道に見覚えのある姿を見つけた。


「あれ?」


 肩より少し長い髪。


 落ち着いた色合いの服。


 手元には小さな紙袋を持っている。


「どうしたの?」


「あそこにいるの、エヴァじゃないかな」


 僕が指さすと、イリスもそちらを見た。


 女性は通り沿いの店の前で立ち止まり、看板を眺めている。


 やがて僕たちに気づいたのか、顔を上げた。


「あ……ユノさん」


 エヴァは少し驚いたように目を丸くしたあと、こちらへ歩いてきた。


「こんにちは。お久しぶりです」


「こんにちは。偶然だね」


「本当に。おふたりもこの辺りに?」


「うん。前に行った修理工房に用事があって」


「そうだったんですね」


 エヴァはイリスにも視線を向けた。


「イリスさんも、こんにちは」


「こんにちは。前回は案内してくれてありがとう」


「いえ、お役に立てたならよかったです」


 エヴァは穏やかに微笑んだ。


「今日はお買い物ですか?」


「そんなところ。エヴァは?」


「私は少し本を探しに来たんです」


「本?」


「はい。この辺りに古い本を扱っているお店があると聞いたので、探していました」


 その言葉に、僕は少し興味を持った。


「前に言っていた本屋さん?」


「そうです。まだ見つけられていないのですが」


「じゃあ、僕たちも一緒に探そうか?」


「いいんですか?」


「うん。僕たちの用事も、この先だから」


 イリスが僕の方を見た。


「部品探しのついでなら、構わないわ」


「ありがとう、イリス」


「ただし、時間は決めておくこと。あまり遅くなると戻れなくなるから」


「分かってるよ」


 エヴァは少し申し訳なさそうに笑った。


「お仕事の途中でしたら、無理をしなくても大丈夫ですよ」


「大丈夫。目的地までの道も確認したいしね」


「それなら、お言葉に甘えてもいいでしょうか」


「もちろん」


 こうして僕たちは、エヴァが探している本屋を見つけることになった。


     *


 エヴァが聞いていた本屋は、商店が並ぶ大きな通りから少し離れた場所にあった。


 建物自体はそれほど大きくない。


 入口の上には、古い文字で店名が書かれた看板が掲げられていた。


「ここでしょうか」


「たぶんね」


 エヴァは看板を見上げたあと、入口の扉に手をかけた。


 扉が開くと、店内から静かな空気が流れてくる。


 中には本棚がいくつも並び、壁際には小さな閲覧スペースも設けられていた。


 新しい本よりも、少し古い装丁の本が多いように見える。


「いらっしゃい」


 奥のカウンターに座っていた店主が、こちらに声をかけた。


「こんにちは。こちらでは、過去の街の記録なども扱っていますか?」


「ああ。歴史資料や古い記録も置いているよ。探しているものがあるのかい?」


「はい。昔の街の暮らしについて書かれたものを探しています」


「それなら、奥の棚だな。分類が少し分かりにくいから、必要なら声をかけてくれ」


「ありがとうございます」


 エヴァは丁寧に頭を下げると、奥の棚へ向かった。


「本当に本が好きなんだね」


 僕がそう言うと、エヴァは棚の背表紙を眺めながら振り返った。


「ええ。特に、昔の人たちがどんな暮らしをしていたのかを知るのが好きなんです」


「昔の暮らし?」


「はい。今では当たり前になっているものも、最初からあったわけではありませんから。どうやって生まれて、どんなふうに使われていたのかを知ると、今の街も少し違って見えるんです」


「なるほど……」


 僕は近くの棚を眺めた。


 そこには、都市の建設記録や、昔の交通機関について書かれた本が並んでいる。


「この辺りの本も面白そうだね」


「そうですね。こちらは都市の拡張についての記録みたいです」


 エヴァは一冊の本を手に取った。


 表紙には、現在の街とは少し違う形をした建物が描かれている。


「これは?」


「古い都市計画の資料ですね。今の街ができる前の道路や建物の配置が載っているようです」


「今と全然違うのかな」


「場所によっては、かなり違うと思います。街は少しずつ変わっていくものですから」


 エヴァは本を開き、ページをめくった。


 そこには、昔の街並みを描いた図や、道路の位置を示した地図が掲載されていた。


「この辺りも、昔はもっと小さな住宅街だったみたいですね」


「へえ。今はお店がたくさんあるのに」


「建物が増えたり、道路が整備されたりして、少しずつ変わっていったのでしょうね」


「そういうのを見ていると、昔の街を歩いてみたくなるね」


「ふふっ。分かります。私も、こういう記録を読むと実際に見てみたくなるんです」


 エヴァは楽しそうに本を閉じた。


 普段の落ち着いた話し方はそのままだったけれど、本の話をしているときは、少しだけ表情が明るくなる。


「ユノさんは、こういう本に興味がありますか?」


「うーん。今まであまり読んだことはなかったけど、見ていると面白いと思うよ」


「それなら、写真や図が多いものから読むといいかもしれませんね。文章ばかりだと、少し大変ですから」


「確かに。最初から難しい本だと、途中で眠くなりそう」


「ふふっ。無理に難しいものを読む必要はありませんよ」


 エヴァは棚から別の本を取り出した。


「こちらは、昔の街の風景を集めたものです。写真や簡単な説明が中心なので、読みやすいと思います」


「本当だ。これなら僕にも分かりそう」


「よかったら、少し見てみますか?」


「うん」


 僕は本を受け取った。


 ページを開くと、今とは違う形の乗り物や、低い建物が並ぶ街の写真が掲載されていた。


 道路には今よりも多くの人が歩いていて、建物の間には小さな店が並んでいる。


「なんだか、今より人が多く見えるね」


「写真の撮影場所が商業区域だからかもしれません。今と違って、移動手段も限られていたようですし」


「この乗り物は何だろう?」


「昔の公共交通機関ですね。現在の小型輸送車両が普及する前に使われていたものだと思います」


「へえ……」


 僕は写真を眺めた。


 見たことのない街の姿。


 今の暮らしとは違う、人々の生活。


 それでも、そこに写っている人たちは、何かを買いに行ったり、誰かと話したり、普通に毎日を過ごしていたのだろう。


「こういうのを見ると、今の街も誰かが作ってきたんだって思うね」


「ええ。今あるものも、最初から完成していたわけではありませんから」


 エヴァは僕の隣で、同じ写真を眺めていた。


「古いものを知ると、今あるものを少し大切に思える気がします」


「大切に?」


「はい。何気なく使っている道具や、いつも通っている道にも、作った人や使ってきた人がいるでしょう?」


「そうだね」


「そういう積み重ねがあって、今の暮らしがあるのだと思うんです」


 僕は本を閉じた。


 この世界に来てから、僕は目の前のことを覚えるので精一杯だった。


 基地の場所や、仕事の手伝い方。人との接し方や、機械の扱い方。


 けれど、この街にも過去がある。


 今の暮らしが当たり前になるまでに、いろいろなことがあったはずだ。


 それを知るのも、悪くないかもしれない。


「これ、買ってみようかな」


「気に入ったんですか?」


「うん。もう少し見てみたいと思って」


「それなら、よかったです」


 エヴァは嬉しそうに微笑んだ。


     *


 しばらく本を見て回ったあと、僕たちは店の閲覧スペースに移動した。


 イリスは店主から古い通信機器の資料がないか尋ねている。


 僕は買うことにした本を手元に置き、エヴァが選んだ本を眺めていた。


「エヴァは、何冊か買うの?」


「そうですね。今日は一冊だけにしようと思っています」


「いつもこんな感じで本を探しているの?」


「時間があるときに、少しずつですね。読みたいものが見つかると、つい長居してしまいます」


「分かる気がする。好きなものを見ていると、時間ってすぐ過ぎちゃうよね」


「ユノさんにも、そういうものがあるんですか?」


「うーん……」


 僕は少し考えた。


 好きなもの。


 今の自分にとって、それは何だろう。


「まだ、はっきりとは分からないかな」


「そうなんですね」


「でも、こうやって知らないものを見たり、誰かと話したりするのは好きだと思う」


「それは素敵なことだと思います」


「そうかな?」


「ええ。好きなことは、最初から決まっているものばかりではありませんから。いろいろなものに触れているうちに、気づくこともあると思います」


 エヴァは手元の本を閉じた。


「私も、最初から本が好きだったわけではありません。ある一冊を読んだことがきっかけで、少しずつ興味を持つようになったんです」


「どんな本だったの?」


「昔の街を旅する人のお話です。知らない土地を訪れて、そこで出会った人たちの暮らしを知っていく物語でした」


「面白そう」


「ええ。今でも、ときどき読み返しています」


「それもここにある?」


「残念ながら、同じものは見つかっていません。でも、似た雰囲気の本ならあるかもしれませんね」


「今度探してみようかな」


「そのときは、一緒に探しましょうか」


「いいの?」


「もちろんです。私も、まだ読んでいない本を探したいので」


 そのとき、イリスがこちらへ戻ってきた。


「ユノ、そろそろ行くわよ」


「あ、もうそんな時間?」


「ええ。次の店にも寄るんでしょう?」


「そうだった」


 僕は手元の本を持ち上げた。


「これ、買っていくよ」


「気に入ったものが見つかってよかったですね」


「うん。エヴァのおかげだよ」


「私は少し紹介しただけですから」


 エヴァは小さく笑った。


 僕たちはそれぞれ会計を済ませ、店の外へ出た。


     *


「それじゃあ、私はこの辺りで」


 店を出たところで、エヴァが言った。


「もう帰るの?」


「はい。今日は本を買えましたし、少し歩いて帰ろうと思います」


「そっか」


 僕は手元の紙袋を見た。


 今日買った本は、帰ったらゆっくり読んでみよう。


「また会ったら、今日の本の感想を聞かせてくださいね」


「うん。読んだら話すよ」


「楽しみにしています」


 エヴァはイリスにも視線を向けた。


「イリスさんも、今日はありがとうございました」


「こちらこそ。案内してくれて助かったわ」


「また機会があれば、よろしくお願いします」


「ええ」


 エヴァは軽く頭を下げると、住宅区画へ続く道を歩いていった。


 その後ろ姿を見送っていると、イリスが僕の手元を見た。


「本を買ったのね」


「うん。面白そうだったから」


「読む時間はあるの?」


「時間を作れば大丈夫だよ」


「そう。最後まで読めるといいわね」


「ちゃんと読むって」


 僕は紙袋を持ち直した。


「イリスは本を読んだりする?」


「必要な資料を読むことはあるけど、趣味としてはあまりないわね」


「そっか」


「ただ、今日の店には技術資料もいくつかあったわ。後で技術班に教えておこうと思う」


「エヴァが好きそうな本とは違うけどね」


「そうね。あの人は歴史や物語の方が好きみたいだったわね」


「うん。昔の街の話とか、面白かったよ」


「興味が持てたなら、いいんじゃない?」


 イリスはそれ以上何も言わず、端末の地図を確認した。


 僕たちは次の目的地へ向かって歩き始めた。


     *


 その後、僕たちは紹介された修理店を訪れた。


 そこは、前の工房よりもさらに小さな店だった。


 店主は個人で修理を請け負っているらしく、店内には古い通信機器や工具が並んでいる。


 イリスが必要な部品の一覧を見せると、店主は倉庫を確認してくれた。


 残念ながら、探していた型番と一致するものは見つからなかった。


 ただ、代わりに使える可能性がある部品がいくつかあり、技術班で確認するために持ち帰ることになった。


「今日も、少しは成果があったわね」


「そうだね。必要なものが全部揃ったわけじゃないけど」


「古い部品を探すのは時間がかかるものよ。焦っても仕方ないわ」


「うん」


 帰り道、僕は紙袋の中に入れた本のことを考えていた。


 基地に戻ったら、少しだけ読んでみよう。


 どんな街が載っているのか。


 どんな人たちが暮らしていたのか。


 考えるだけで、少し楽しみだった。


     *


 基地に戻ると、技術班へ回収した部品を渡した。


 イリスは今日の収穫と、次に確認する店の情報を報告する。


 僕はその後、食堂で軽く休憩していた。


「それ、何?」


 隣に座ったミナが、僕の紙袋を見た。


「本だよ」


「ユノが本を買ったの?」


「うん。今日行った店で見つけたんだ」


「珍しいね。どんな本?」


 僕は本を取り出し、表紙を見せた。


「昔の街の写真とか、暮らしについて載っている本らしいよ」


「へえ。面白そう」


「エヴァに教えてもらったんだ」


「この前の人?」


「そう。偶然会って、一緒に本屋を探したんだ」


 ミナは少しだけ目を細めた。


「また会えたんだね」


「うん。今度は本の話をしたよ」


「ユノ、楽しそうだね」


「そうかな」


「うん。前よりも、外でいろんな人と話すようになった気がする」


 ミナは笑いながら、手元の飲み物を口に運んだ。


「ここに来たばかりの頃は、周りのことを知るだけで精一杯だったでしょう?」


「今も分からないことは多いけどね」


「それでも、少しずつ自分から興味を持つようになったんじゃないかな」


「そうかもしれない」


 僕は本の表紙を指でなぞった。


「知らないことを知るのって、結構面白いね」


「うん。そうやって見つけたものが、いつか自分の好きなものになるかもしれないよ」


「そうだね」


 僕は本を紙袋へ戻した。


 今日のことを思い返す。


 部品を探しに行ったはずなのに、本屋に寄って、昔の街の写真を眺めていた。


 予定にはなかったことだけれど、悪くない一日だったと思う。


「ミナも、何か好きな本とかある?」


「私はね……」


 ミナは少し考えてから、いくつかの本の名前を挙げた。


 その中には、僕が聞いたことのないものもあった。


 今度、時間があれば探してみよう。


 そんなことを考えながら、僕はミナの話を聞いていた。


     *


 エデンズ。


 アダムズタワーの中枢区画では、都市内の活動記録が更新されていた。


『対象者:ユノ』


『接触対象:エヴァ』


『接触回数:二回目』


『接触場所:第三区画・旧市街商業区域』


『会話内容:書籍、都市の歴史、過去の生活記録』


『対象者の関心:過去の都市生活に関する資料』


『同行者の反応:警戒傾向を維持』


 記録の更新が続く。


『対象者の行動に顕著な変化なし』


『周辺環境への介入:継続』


『直接的な接触制限:不要』


 最後に、ひとつの処理が確認された。


『エヴァの行動判断を許可』


 中枢区画の処理は、滞りなく進んでいた。


     *


 その日の夜。


 僕は自室の机に本を広げていた。


 ページには、昔の街の写真がいくつも並んでいる。


 今よりも低い建物。


 見慣れない形の乗り物。


 店先に並ぶ商品や、道を歩く人々。


 写真の下には、撮影された年代や場所について簡単な説明が書かれていた。


 僕はページをめくりながら、ひとつひとつの写真を眺めていく。


 今の街とは違うところもあれば、変わらないところもある。


 建物の形が変わっても、人が集まる場所には店ができる。


 道が整備されても、誰かが歩いて移動することは変わらない。


 そういう当たり前のことが、少し不思議に思えた。


 ふと、エヴァの言葉を思い出す。


 何気なく使っている道具や、いつも通っている道にも、作った人や使ってきた人がいる。


 今あるものは、誰かが作ってきたもの。


 そして、これから先も誰かが使い、変えていくのだろう。


 僕は本を閉じた。


 まだ読み始めたばかりだけれど、続きが気になる。


 今度エヴァに会ったら、今日見た写真のことを話してみよう。


 それから、彼女が好きだと言っていた物語の本も探してみたい。


 そんなことを考えながら、僕は本を机の上に置いた。


 知らないことは、まだまだたくさんある。


 少しずつ知っていけばいい。


 今は、それが楽しみだった。

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