ドワーフの親方、素人DIYの精度に泡を吹く〜クズ鉄から純鉄へ〜
「雨風が防げるようになったのはいいが……やっぱり飯と資材が足りねぇな」
神殿の修復から一夜明け、俺は唸っていた。
雨が上がった神殿内は快適そのものだったが、手持ちの水と食料が底をつきかけていたのだ。
それに、本格的な家具づくりや設備工事をするには、どうしても『釘』や『金属工具』、『まともな刃物』が必要になる。
「よし、ゴレム。お前は留守番だ。あまりデカいのが街に行くとパニックになるからな」
『フォーン……』と寂しそうに鳴くゴレムに留守を預け、俺は神殿の周囲から集めた『クズ鉄の束(折れた古代の槍や錆びた鎧の破片)』を背負い、徒歩で30分ほどの場所にある街『アルトドルフ』へと向かった。
街の西区画、カンカンと心地よい金槌の音が響く鍛冶屋通り。
俺が目指したのは、街で一番でかい看板を掲げる『グラニット鍛冶店』だ。
「頼もう! スミマセン、このクズ鉄を引き取って、代わりに打ち子用のノミと槌、それから手頃な刃物を売ってほしいんだが!」
店内に踏み込むと、奥から猛烈な熱気とともに一人の男が現れた。
身長は俺の胸ほどしかないが、丸太のように太い腕と、立派な髭を蓄えたドワーフ――店主のバルドンだ。
「あァ? なんだ小僧、ひょろっこいツラしやがって。クズ鉄だと……? んな錆びついたゴミクズ、引き取れるか! うちの炉にこんな汚ねぇゴミ放り込んだら、火が腐っちまうわ!」
バルドンは俺が持ち込んだクズ鉄の山を一瞥し、鼻で笑った。
「うちの店はな、最高級の『魔鉄』しか扱わねぇんだよ。道具が欲しけりゃ、銀貨10枚持って出直して来な!」
門前払いだ。だが、俺は引き下がるわけにはいかない。
「親方、この鉄、ただのゴミじゃないよ。表面が酸化して変質してるだけだ。……ちょっと場所と『水』を借りてもいいか?」
「あぁ? 何企んでやがる。水ならそこ桶にあるが……」
俺は半信半疑のバルドンの前で、持ち込んだ真っ赤に錆びついた鉄くずに手をかざした。
「——【素材還元】」
シュウゥゥゥ……!
手のひらから淡い光が放たれた瞬間、ガサガサだった錆がまるで煙のように消え去り、桶の水で洗われた鉄くずが、恐ろしいほどの輝きを放ち始めた。
「なっ……何ィ!? 錆が一瞬で蒸発した……!?」
バルドンが目を見開き、膝をつくようにして俺の手にあった金属に飛びついてきた。
ごつごつした太い指で金属の表面をなぞり、傷をつけ、匂いを嗅ぎ、さらには噛みつく。
「バ、バカな……! 錆が落ちただけじゃねぇ! 鉄の中に混ざってた不純物が完全に抜け落ちてやがる! こいつは……不純物ゼロの『純鉄』じゃねぇか!! 鉱山で掘り出した一番鉱石を、熟練の職人が三日三晩叩き続けてようやく作れるかどうかの……!」
「どうだ親方、これなら引き取ってくれるか?」
「引き取るだと!? バカ野郎、こんなもん国中の鍛冶屋が喉から手が出るほど欲しい至至高の素材だ! 小僧……いや、兄ちゃん! お前一体何者だ!? どんな魔法使ったら、こんな真似ができる!?」
「ただの【事象復元】と【素材還元】だよ。物の構造と性質がわかってれば、本来の純度に戻すのは難しくない」
俺がサラッと言うと、バルドンは開いた口が塞がらない様子で頭を抱えた。
「構造がわかってれば……だと!? 冗談じゃねぇ、鉄の精錬ってのはなぁ! ドワーフが何千年もかけて血と汗を流して受け継いできた秘伝なんだぞ! それを……一瞬で……!」
バルドンは興奮で肩を震わせると、いきなり俺の手を両手で強く握りしめた。
「兄ちゃん! いや、師匠とお呼びしていいか!? その純鉄、俺に買わせてくれ! 代金は金貨でも何でも払う! 道具なんて店にある最高のやつを全部持ってけ!」
「いやいや、師匠はカンベンしてくれよ親方。俺はただ、神殿をリフォームするための頑丈な道具と、今日のメシ代が欲しいだけなんだからさ」
「神殿のリフォームだと……? あんな魔素で腐りかけた廃墟をか!?」
ドワーフの親方が泡を吹いて驚くのを横目に、俺は「これでまともな工具と食料が手に入る」と密かにガッツポーズを決めたのだった。




