神殿の精霊と秘密基地の完成〜ルインの目覚め〜
ドワーフの親方バルドンから、大量の銀貨と最高品質の工具セット(ノミ、カンナ、金槌、鋸)、そして三日分の干し肉とパンを手に入れた俺は、ウキウキで神殿へと戻ってきた。
「ただいま、ゴレム。工具もメシもバッチリ仕入れてきたぞ」
『フォーン!』
ゴレムが出迎えてくれる中、俺はさっそく次の工程――『主祈祷室の居住空間化』に取りかかった。
バルドンから買った良質な木札や角材を【構造解析】し、寸法を揃えてカットしていく。
「よし、まずは床のフローリング化と、備え付けのローテーブル&ベッドフレームだな」
冷たい石畳の上に直接寝るのは体に悪い。木材を【事象復元】で隙間なく組み合わせ、高床式のウッドフロアを一瞬で敷き詰めていく。
現代のサネはぎ(板同士を噛み合わせる構造)を適用したため、軋みひとつない完璧な仕上がりだ。
「ついでに、奥の台座っぽい場所も綺麗にしておくか」
神殿の最奥にある、一段高くなった神秘的な壇上。
そこには、崩れた瓦礫と魔素汚染の黒いモヤに埋もれた『石の球体』が設置されていた。
「【構造解析】……っと。これは……神殿のコアか?」
【対象:古代神殿・中枢制御魔導器】
状態:重度の魔素汚染による休眠状態、回路の目詰まり
構造理解度:高
「要するに、パソコンのファンにホコリが詰まって熱暴走を起こし、安全装置で落ちてる状態だな」
俺は台座に歩み寄り、汚れきった球体に両手を当てた。
「——【部分復元】、【素材還元】!」
黒ずんでいた球体から一気に不純物が抜け落ち、透き通った深い青色の水晶へと巻き戻っていく。詰まっていた魔導回路が繋がり、神殿全体に心地よい振動が走った。
ブワッ……!
水晶から溢れ出た青い光が部屋全体を包み込み、床の隅に残っていた微小な魔素汚染を完全に吹き飛ばしていく。
『……ん。……マスター、ですか?』
光の中から現れたのは、光り輝く羽を持った、手のひらサイズの少女だった。
少し透けた身体に、古代の神官服のような装束。淡い青髪の少女は、パチパチと目を瞬かせながら俺の目の前にフワフワと浮遊した。
「うおっ……精霊……か?」
『肯定。当機……失礼、当身は本神殿の管理用霊体、個体識別名【ルイン】。長きにわたる機能停止からの復旧を確認しました』
無表情なままペコリと頭を下げるルイン。見た目は可憐なミニチュア少女だが、喋り方はどこか機械的だ。
『システムスキャン完了。……驚愕。神殿の構造強度が建設当時比で120%に向上。外壁の目地補強、屋根のトラス構造追加、および床部のリフォームを確認。マスター、あなたは何者ですか?』
「俺はタクミ。ただの建築科出身のフリーターだよ。雨露を凌ぎたくて直したんだ」
『理解不能。ただの人間が、消失した古代工学理論を上回る精度で神殿を再構築するなど……ですが、事実として当身のコアは浄化されました』
ルインは空中をくるりと旋回すると、俺の肩の上にチョコンと腰掛けた。
『本日より、タクミ様を本施設の最高管理権限者として登録します。……それにしても、この木製の床とテーブル、非常に寸法が正確で心地よい波長を発していますね。すばらしい出来栄えです』
「お、わかるか? ドワーフの親方のノミが良いからな」
ルインが加わったことで、脳内の【構造解析】に『神殿全体の詳細な立体マップ』と『周囲の魔素濃度の数値』がリアルタイムで表示されるようになった。神殿のどこにガタが来ているかが一目瞭然だ。
「よし! 天井、壁、床は完璧。暖炉代わりに薪ストーブも設置した。案内役のルインも起きた」
俺は完成したばかりの木製テーブルに干し肉とパンを並べ、出来立ての椅子に深々と腰掛けた。
『フォーン(お疲れ様でした)』
『お疲れ様です、マスター。これより本拠地の定常運用を開始します』
雨風を完全に防ぎ、暖かく、精霊とゴーレムのいる頑丈な秘密基地。
「……よし。これでようやく、まともに生きていける拠点が完成したぞ!」
俺は香ばしく焼いたパンをかじりながら、劇的ビフォーアフターの第一段階完了に、深く満たされた笑みを浮かべるのだった。




