第17話:カスタム魔導機グランプリに出よう -その⑮-
委員長は、二十六周目の無属性区画以降の操縦信号を机の中央へ表示した。
操舵、加速、制動。
すべての信号が、ピットでヨモギが操作していた端末から送信されていた。
「ニール・ハーパー選手。あなたは、二十六周目の途中からゴールまで、操縦を行っていませんね?」
「行おうとはしていました」
「ニールよりボクが操縦した方が速かった」
ヨモギが補足する。
「ヨモギ様。今は、少し黙っていていただけますか?」
「事実を説明しただけだ」
「私も、その事実をどう説明すればよいのか考えているところです」
ニールは額に手を当てた。
委員長は、規則集の該当箇所を開いた。
「公式回線を通じた走行補助は認められています。ただし、補助できる操作の範囲は定められておらず、搭乗したライダー本人がすべての操作を行わなければならないとも書かれていません」
室内が静かになる。
三人の委員が、一斉にニールを見た。
「では、あなたは何のために乗っていたのですか?」
「規則を守るためだ」
答えたのは、ヨモギだった。
「本人に聞いています」
「私も同じ認識です……」
フローラが、その肩を励ますように叩く。
「ニールが乗っててくれたから、失格にならなかったんだよ」
「ありがとうございます。今は、それを喜べる気がしません」
委員長はニールの回答を端末に記録し、次の資料を開いた。
画面には、三本の出力波形が重なっている。
「電気、魔力、固形燃料。三種類の動力を同時に使った理由を聞かせてください」
「一つより、三つ同時に使った方が速いからだ」
技術委員が、提出済みの試験記録を確認する。
「三種類の動力を同時に使う構成も、事前に登録され、安全試験を通過しています。出力波形も、提出された仕様の範囲内です。現行規則に、動力の搭載数や総出力の上限はありません」
委員長は、その説明も端末に記録した。
最後に表示されたのは、ニールの生体記録だった。
「ニール選手が意識を失ったことには、いつ気づきましたか?」
「すぐによ」
フェリシティが答える。
「でも、気づいた時にはゴールまで数秒もなかった。呼吸と心拍に異常はなく、保持具も防護障壁も作動していたわ。あの速度で急制動をかける方が危険だったから、ゴールを通過してから出力を落とし、停止区画まで走らせたの」
「判断に問題はありません。医務記録にも、外傷はないと記載されています」
委員長は生体記録を閉じ、四人を見渡した。
「事情聴取は以上です。皆さんの説明は、再車検および走行記録の内容とも一致しました」
ニールがおそるおそる尋ねる。
「では、これで表彰式に出られるんですか?」
「はい。現行規則に反する行為は確認されませんでした。競技結果を確定します。《チーム・ハーパー》の優勝です」
「よかったね、ニール!」
フローラが嬉しそうに笑う。
ニールは安堵したように息を吐き、椅子の背もたれに身体を預けた。
委員長は机の上の書類を揃え、立ち上がる。
「表彰式へご案内します」
◇
延期されていた表彰式が始まると、会場に残っていた観客から大きな歓声が上がった。
大型画面には、改めて正式な順位が表示されている。
《第一位――チーム・ハーパー》
《第二位――TITANS》
長時間に及ぶ検査を経ても、順位は変わらなかった。
三位のチームに続き、《TITANS》のメンバーが表彰台へ上がる。
最後に、《チーム・ハーパー》の名が呼ばれた。
ヨモギとフローラ、フェリシティが並んで階段を上る。
その後ろから、ニールも慎重な足取りで続いた。
ニールが最上段へ着いたところで、《TITANS》のライダーが手を差し出す。
「最後の加速、すごかったよ」
「ありがとうございます」
ニールも、その手を握り返した。
「ただ、ゴール直前のことは、ほとんど覚えていません」
「ああ。運ばれていくところまで、大型画面に映ってた」
「そうですか……」
「次に走る時は、最後まで起きていてくれ」
《TITANS》のライダーは笑い、ニールの肩を叩いた。
「努力します」
優勝チームの四人の首に、金色のメダルが掛けられる。
続いて渡された大きな優勝杯を、フローラが両手で受け取った。
「重い!」
隣にいたヨモギが、すぐに底へ手を添える。
フェリシティも反対側から支えた。
三人がかりで持ち上げた優勝杯の横で、ニールだけが一歩離れて立っている。
「ニールも持って!」
「私は、乗っていただけですが……」
「ニールがいなかったら、出られなかったんだよ?」
フローラに呼ばれ、ニールはヨモギの隣に並ぶと、優勝杯へ手を伸ばした。
四人で持ち上げた金色の杯が、会場の照明を受けて輝いた。
観客席から、再び大きな歓声が上がった。
「それでは、優勝した《チーム・ハーパー》の皆様、正面をご覧ください!」
撮影用の魔導カメラが、表彰台の前へ並ぶ。
その瞬間、ヨモギは帽子のつばをさらに深く下げた。
フローラも、持っていた優勝杯を顔の前まで持ち上げる。
「フローラ。もう少し右だ」
「こっち?」
金色の杯が傾き、二人の顔をまとめて隠した。
「ちょっと、こっちへ傾けないでよ」
反対側を支えていたフェリシティが声を上げる。
カメラから見えているのは、ニールとフェリシティの顔だけだった。
二人の間には、大きな優勝杯と、その上から覗く二つの帽子が並んでいる。
いくつもの閃光が、表彰台の四人を照らした。




