↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/72

第17話:カスタム魔導機グランプリに出よう -その⑭-

停止区画へ、救護員たちが駆け込んだ。


操縦席の外装が開かれ、ニールのヘルメットが外される。


「呼吸、脈拍ともに異常ありません」


首元に測定器を当てた救護員が、画面を確認した。


「急激な加速と緊張による、一時的な意識喪失でしょう。外傷もありません」


その言葉を聞き、フェリシティが胸を撫で下ろす。


フローラは、保持具に支えられたまま動かないニールを覗き込んだ。


「勝ったのに、起きないね」


「医務室へ運びます。少し離れてください」


救護員たちが保持具を解除し、ニールの身体を担架へ移す。


フェリシティは、そのまま担架に付き添って医務室へ向かった。


ヨモギは担架を見送ると、機体の前へしゃがみ込んだ。


車体側面に並んでいた三本の表示灯は、すでにすべて消えている。


「ヨモギちゃん、ニールを見に行かないの?」


「フェリシティがついてる。それより、機体を確認する」


端末を接続し、ゴール直前から停止までの記録を開く。


三源同期の記録に異常はない。


固形燃料式動力機関も、指示どおり切り離されている。


駆動軸、魔力導管、蓄電池、冷却装置にも異常はない。


二十五周目に修理した固定具も、最後まで位置を保っていた。


「どこも壊れてない」


「猫も無事だよ!」


フローラが、車体側面に取りつけられた猫の飾りを確認する。


最後の直線で千二百馬力近くまで出力を引き上げたあとも、猫の飾りには傷一つついていなかった。


「そこは確認しなくていい」


「大事だよ?」


その時、大会の係員たちが停止区画へ入ってきた。


一人が機体へ近づき、封印用の帯を外装へ取りつける。


「《チーム・ハーパー》の皆様にお伝えします。この機体は、これより大会技術部による検査に入ります」


「どうして?」


「本戦中の走行記録について、確認が必要となりました」


係員は、大型画面に表示された《優勝》の文字へ目を向けた。


「表彰式は、検査が終わるまで延期となります」


◇


ニールが目を覚ました時、最初に見えたのは医務室の白い天井だった。


その横から、フェリシティが顔を覗かせる。


「ニール。分かる?」


「……終わりましたか?」


「終わったわ」


「私は、生きていますか?」


「それだけ喋れれば大丈夫よ」


ニールはゆっくりと上半身を起こした。


身体に痛みはない。


ただ、最後の直線で三本目の表示灯が点いたところから、記憶が途切れている。


「結果は、どうなりましたか?」


「勝ったよ!」


フローラが、大型画面を映した端末をニールへ向けた。


そこには、ゴールラインを通過する二台の機体が映っている。


わずかな差で、暗い銀色の前輪が先へ出ていた。


画面の下には、《本戦第一位――チーム・ハーパー》と表示されている。


ニールは何度も瞬きをした。


「本当に、勝ったんですか?」


「ああ」


ヨモギが答える。


「お前は、カスタム魔導機グランプリの優勝ライダーになった」


「最後は気絶していただけですが……」


「ゴールするまでは乗ってた」


「最後は、操縦もしていませんでした」


「公式回線を通じた走行補助は、規則で認められている。お前も最後まで搭乗していた」


「私が乗っていた意味は、やはりそれだけだったんですね……」


ニールは両手で顔を覆った。


それでも、指の隙間から見える口元は、わずかに緩んでいた。


フェリシティが、その背中を強く叩く。


「よかったじゃない。優勝よ!」


「暫定だが、お前はカスタム魔導機グランプリの優勝ライダーだ」


ヨモギの言葉に、ニールが顔を上げた。


「取り消される可能性があるんですか?」


「検査が終わるまでは分からない」


「いったい、何をしたんですか?」


「規則どおりに走った」


「その答えを聞いて、余計に不安になりました」


◇


大会技術部は、まず七つのショートカットの作動記録を照合した。


風、火、土、闇、光、水、無属性。


すべての妨害装置が規定どおりに作動している。


チーム側から不正な干渉を受けた記録もなかった。


《コース設備:異常なし》


続いて、暗い銀色の機体が再車検区画へ運び込まれた。


係員たちは封印を外して外装を開き、予選前の正式車検記録、本戦前の確認記録と現在の機体を照合していく。


三つの動力と全属性可変障壁は、いずれも事前に申告された仕様どおりだった。


ピットで交換した固定具も大会指定の予備部品で、交換前と同じ規格のものだった。


遠隔操縦には大会の公式回線が使われ、送受信記録にも不正な通信や改変の痕跡はない。


安全装置も、すべて正常に作動していた。


車検時に登録された仕様から外れる箇所は、一つも見つからなかった。


《再車検:適合》


《事前登録との差異:なし》


《登録外部品:なし》


《不正制御:なし》


すべての検査結果が出そろった頃には、予定されていた表彰式の時刻を大きく過ぎていた。


待機室の扉が開く。


大会係員が室内へ入り、四人を見回した。


「検査が終了しました。皆様、大会運営室までお越しください」


◇


大会運営室には、三人の委員が待っていた。


長机の上には、走行記録と車体の検査報告書が並んでいる。


その横には、大会規則集と、審議記録用の端末が三台置かれていた。


四人は、委員たちと向かい合うように並べられた椅子へ座った。


中央に座った大会運営委員長が、検査報告書を持ち上げる。


「まず、検査結果からお伝えします」


四人の視線が、委員長へ集まった。


「コース設備と車体の検査では、不正な干渉も、申告内容との差異も確認されませんでした」


ニールの肩から、わずかに力が抜ける。


だが、ヨモギは委員たちの手元にある端末を見ていた。


三人とも、記録画面を閉じていない。


委員長は検査報告書を机へ戻した。


「ただし、競技結果を確定する前に、走行記録について確認しなければならないことが、いくつかあります」


四人の背後で、大会運営室の扉が静かに閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。