第17話:カスタム魔導機グランプリに出よう -その⑬-
最終周。
先頭の《TITANS》と、その後ろに続く二台。
暗い銀色の《チーム・ハーパー》は、四位から三台を追っていた。
『前との差が縮まっています!』
『全属性のショートカットを使い、驚異的な速さで追い上げてきました!』
最初のコーナーを抜けると、三位の機体は通常路へ進んだ。
ヨモギは風のショートカットを選び、フローラが切り替えた障壁で逆風を左右へ受け流した。
暗い銀色の機体は速度を落とさず区画を駆け抜け、合流地点で三位の機体よりわずかに前へ出た。
《第三位》
「抜いたよ!」
「次は二位だ」
前方を走る二位の機体は、火と土のショートカットを使って距離を保っていた。
だが、《チーム・ハーパー》も速度を落とさない。
火と土の区画を同じように突破し、闇の拘束を引き裂いて、続く光の区画へ飛び込んだ。
二位の機体も光の区画へ入ったが、遮光装置が光量に対応するまでの一瞬だけ速度を落とした。
一方、フローラが切り替えた障壁は、区画へ入ると同時に白い光を遮った。
ヨモギは、その速度差を生かして相手の外側に並んだ。
『近いです!』
ニールの声が響く中、暗い銀色の車体は触れそうな距離のままコーナーを抜け、そのまま相手の前へ出た。
《第二位》
『《チーム・ハーパー》、ついに二位!』
『残るは予選一位の《TITANS》だけです!』
紺色と金色の機体は、すでに水のショートカットへ入っていた。
凍結した路面の上を、ほとんど横滑りすることなく走っている。
予選から変わらない、安定した走りだった。
《チーム・ハーパー》も同じ区画へ入り、フローラが水属性へ切り替えた障壁で車輪直下の氷を水に戻し、速度を保ったまま抜けた。
続く無属性区画では、ヨモギが路面脇に並ぶ押し出し装置の作動順を読み、衝撃を受けるより先に進路を変えた。
二台の距離が、さらに縮まる。
《TITANS》のピットでも、暗い銀色の機体が迫っていることに気づいていた。
紺色と金色の機体に灯る二種類の駆動光が、一段強まった。
残っていた電力と魔力を、二つの駆動系へさらに送り込んだのだ。
速度が一段階上がり、二台の差はそれ以上縮まらなくなった。
「速いね」
フローラが画面を見つめる。
「二つなら、な」
ヨモギは、三本並んだ出力表示へ目を向けた。
青の表示と、桃色と金色の表示は、すでに最大値へ近づいている。
その隣にある橙色だけが、まだ消えていた。
コース終盤。
《TITANS》が、ジャンプ台へ入った。
加速用の風を受けた紺色と金色の機体が、谷の上へ飛び出す。
暗い銀色の機体も、その直後に続いた。
二本の表示灯を輝かせた車体が宙へ浮かび、対岸へ向かっていく。
「角度を合わせる」
ヨモギが姿勢制御を調整した。
前輪をわずかに持ち上げたまま、後輪が対岸の路面に触れた。
衝撃を受けた車体が、深く沈み込む。
それでも、魔力駆動の表示は消えなかった。
修理した固定具も、今度はずれなかった。
暗い銀色の機体は姿勢を立て直し、そのまま最後の直線へ入った。
前方には、《TITANS》。
ゴールラインも、すでに見えていた。
「三つ目を使う」
ヨモギが、固形燃料側の系統を起動した。
車体後部から、低い燃焼音が響く。
『やはり使うんですね!?』
ニールの声が、通信機越しに響いた。
「そのために残してあった」
『使わずに終わってもよかったのでは!?』
「電気と魔力、もう一度合わせるよ!」
フローラが、二つの駆動出力の波を一つに重ねた。
《二源同期:正常》
フェリシティも、安全装置とニールの状態を確認する。
「防護障壁正常! ニールの保持具も問題なし!」
「接続する」
ヨモギが、固形燃料式動力機関を統合機構へ繋いだ。
三本目の表示灯が、橙色に点灯した。
電気。
魔力。
固形燃料。
異なる三つの出力が、一つの駆動軸へ流れ込む。
《三源同期:正常》
《瞬間最大出力:約千二百馬力》
暗い銀色の機体が、弾かれたように前へ飛び出した。
『うわあああああああああああああっ!』
その叫び声は、大会中継用の車載マイクにも拾われ、場内スピーカーから流れた。
加速によってニールの身体が座席へ押しつけられ、左右の景色が帯のように後方へ流れていく。
《TITANS》も、二つの動力を限界まで引き上げた。
紺色の機体が、直線の中央を走りながらゴールへ向かう。
ヨモギは、その外側へ進路を取った。
二台の差が、一気に縮まる。
一車身。
半車身。
暗い銀色の前輪が、紺色の機体の後輪に並ぶ。
『《チーム・ハーパー》が一気に差を詰めてきた!』
『とてつもない加速です! 三種類の動力を同時に使い、首位の《TITANS》へ猛然と迫ります!』
観客席から立ち上がる人影が、大きな波のように広がった。
ゴールまで、残り百メートル。
二台が並ぶ。
《TITANS》のライダーも車体へ身を伏せ、最後まで加速を緩めない。
ヨモギは外側の走行線を保ったまま、三つの出力を最大値に保った。
『うわあああああああ――』
ニールの叫び声が、不意に途切れた。
フェリシティが操縦席の映像へ目を向ける。
ニールの頭が、力なく前へ落ちていた。
「ニールが気絶した!」
フェリシティはすぐに、搭乗者保持機構を意識喪失時の保護状態へ切り替えた。
画面に表示された呼吸と心拍に、異常はない。
保持具も、防護障壁も作動している。
ヨモギは加速を緩めなかった。
操舵、加速、制動の指示は、すでにヨモギの端末から送られている。
ニールの手が操縦桿から離れても、機体はまっすぐゴールへ向かっていた。
二台の前輪が、ほぼ同時に白い線へ達する。
紺色と金色。
暗い銀色。
二つの車体が並んだまま、ゴールラインを通過した。
会場の歓声が、一瞬だけ止まる。
大型画面には、《判定中》の文字と、二台のゴール通過記録が表示されていた。
ヨモギは結果を待たず、固形燃料式動力機関を切り離した。
フローラも魔力出力を下げる。
残った電動モーターが回生制動へ移り、暗い銀色の機体は少しずつ速度を落としていく。
ヨモギが機体を停止区画へ向けた。
左右へぶれることもなく、機体は決められた区画へ入り、完全に停止する。
その直後。
大型画面の順位が切り替わった。
《本戦第一位――チーム・ハーパー》
《優勝》
会場を揺らすような歓声が上がった。
「勝ったー!」
フローラが両手を上げる。
フェリシティも、その隣で飛び上がった。
ヨモギは、画面に映る停止区画の機体と、その横に表示された順位を見比べる。
「勝ったな」
停止区画では、救護員たちが暗い銀色の機体へ駆け寄っていた。
「ニール、優勝したわよ!」
フェリシティが通信へ呼びかける。
返事はなかった。
ニールは保持具に身体を支えられたまま、自分たちが優勝したことも知らず、静かに気を失っていた。




