第17話:カスタム魔導機グランプリに出よう -その⑫-
数秒後。
フローラの画面を流れていた波形が、一つに重なった。
「合ったよ!」
ヨモギが固定具を締め、外装を閉じた。
《魔力駆動:再接続》
《二源同期:正常》
フェリシティが昇降台を下げ、車体の下から引き抜いた。
ニールはすぐに機体に跨がった。
二本の表示灯が、再びそろって光を放った。
機体は修理できた。
だが、通常路を走っていては、残り四周で先頭へ届かない。
ヨモギはコース図を開いた。
これまで選んでいた風と土だけではなく、火、闇、光、水、無属性を含む、すべてのショートカットを走行経路に加えていく。
画面上のコースが、七色に染まった。
「残りは、全部通る」
ニールが、表示された経路を見た。
「本当に、全部通るんですか?」
「そのための装備も積んである」
ヨモギが端末を操作すると、搭乗者を守る防護障壁とは別の、走行用障壁の制御画面が開いた。
風、火、土、闇、光、水、無属性。
七つの表示が並んでいる。
通常、一基で対応する属性を増やすほど、切り替えの制御は複雑になる。
属性ごとに障壁発生器を分ければ、今度はその分だけ機体が重くなる。
二人が組んだ《全属性可変障壁》は、一基の発生器で展開する障壁の属性を瞬時に切り替え、七属性すべてに対応しながら、機体の総重量も規定内に収めていた。
ニールは画面と機体を見比べた。
「こんなものまで積んでいたんですか?」
「使う必要がなかっただけだ。確実に走れるなら、危険な区画へ入る理由はない」
ヨモギは、七つの属性区画を通る走行経路を確定した。
「急げ。もう時間がない」
「急いで通りたくない区画しか表示されていないんですが……」
「大丈夫だよ。属性の切り替えは、私がやるから!」
フローラが励ますように笑う。
ニールは何も答えず、ヘルメットのバイザーを下ろした。
◇
ピット出口の信号が青へ変わる。
暗い銀色の機体が、八位でコースへ戻った。
青と、桃色と金色。
車体側面に並ぶ三本のうち、二本の表示灯が同時に光を強める。
電気駆動と魔力駆動の出力は、どちらも上限近くまで引き上げられていた。
三本目の橙色だけは、まだ消えている。
固形燃料式動力機関を使うのは、最後だけと決めていた。
「最初は風だ。そのまま入れ」
『分かりました!』
前を走る機体が通常路へ向かう一方で、ニールは淡い緑色に囲まれたショートカットへ飛び込んだ。
区画へ入った直後、正面から強烈な逆風が吹きつける。
フローラが、障壁を風属性へ切り替えた。
機体の前方に展開された障壁が、風を左右へ受け流す形へ変わる。
正面からぶつかった風は二つに分かれ、暗い銀色の車体を避けるように後方へ流れていった。
速度は、ほとんど落ちない。
『《チーム・ハーパー》、ピットを出てすぐに風のショートカットへ入りました!』
『残り周回を考えれば、通常路では追いつけません。ここからは危険を承知で攻めるしかないでしょう!』
風の区画を抜けた先で、ニールは火のショートカットへ機体を向けた。
赤い光に囲まれた区画へ入る。
周囲の温度が一気に上がり、陽炎が視界を歪ませた。
「火に切り替えるね!」
障壁の色が、淡い緑から赤へ変わる。
押し寄せた熱気は機体へ届くより先に障壁の表面を流れ、後方へ逃がされていく。
冷却装置の負荷表示は、ほとんど上がらなかった。
『続けて火属性へ入った!』
『冷却のために速度を落としません! そのまま抜けていきます!』
次に現れたのは、土の区画だった。
暗い銀色の機体が境界線を越えた瞬間、硬かった路面が泥のように軟らかくなる。
フローラが障壁を土属性へ切り替えると、その下端が車輪の直下へ伸び、触れる寸前の路面だけを硬化させた。
ほかの機体が深い轍を残した区画を、暗い銀色の機体は沈むことなく駆け抜ける。
「うまくいってるよ!」
その先でも、区画が変わるたびに障壁の色と形が変わった。
闇の拘束は黒く染まった障壁の表面で引き裂かれ、光の区画で放たれた閃光は遮光膜に阻まれた。
続く水の区画では、障壁が接地寸前の氷だけを水へ戻し、車輪の下に細い路面を露出させた。
『止まらない! 属性区画を次々と突破していきます!』
『あの機体には、いくつの属性障壁が搭載されているんだ!?』
実況の声にも、次第に熱がこもっていく。
ニールは機体を傾けたまま、凍結区画のコーナーを抜けた。
その直後。
灰色の光で囲まれた無属性区画へ入った。
路面脇の装置が作動し、横向きの衝撃が車体を押した。
「無属性に切り替えるよ!」
フローラが、横向きの衝撃を打ち消すように、障壁の反発力を集中させる。
だが、障壁の属性が切り替わる直前に衝撃を受けた車体は、すでに防護壁の近くまで寄せられていた。
ニールが操縦桿を切り返す。
前輪が左右へ大きく揺れた。
「ニール、ここからはボクが操縦する」
ヨモギは、操縦系統の優先権を遠隔操作側へ切り替えた。
操縦桿からの入力が遮断され、大会側が各チームへ開放している公式制御回線を通じて、ヨモギの操作信号が機体へ送られる。
暗い銀色の機体は、防護壁に接触する寸前で向きを変えた。
『今、切り替えるんですか!?』
「その方が速い」
『では、私は何のために乗っているんですか!?』
「規則を守るためだ」
『やはり、そうだったんですね!』
ニールの叫び声が、通信機から響いた。
ヨモギは端末の操縦画面に両手を置く。
操舵、加速、制動はヨモギ。
AIが、車体姿勢と予測軌道を補助する。
フローラは魔力出力と障壁属性を切り替え、フェリシティは安全装置とニールの状態を監視する。
「ニールの心拍、また上がってるわ!」
『今は報告しなくていいです!』
ヨモギが加速操作を行った。
二つの動力が、同時に最大出力へ達する。
暗い銀色の機体は、前を走る二台との距離を一気に縮めた。
再び風の区画へ入る直前、障壁が風属性へ切り替わる。
そこからは、一つの区画を抜けるたび、次の区画に対応する属性へ瞬時に変わっていく。
暗い銀色の機体は、壁やほかの機体を、わずかな隙間だけ残してかわしていった。
『右側! 壁があります!』
「見えてる」
『ちょ、近い! 近すぎます!』
「当たってない」
『当たってからでは遅いんです!』
二十七周目。
闇の拘束を受け、速度を落とした機体の横を抜いた。
続いて、通常路を大きく迂回していた一台より先に合流地点へ到達した。
《第六位》
二十八周目。
火の区画で冷却のため減速した機体を追い越し、五位へ浮上した。
《チーム・ハーパー》がショートカットへ入るたび、観客席から大きなどよめきが起きていた。
『またショートカットへ入った!』
『今度は水属性です! 止まりません!』
『風も、火も、土も、闇も、光も突破しています!』
『無属性の押し出しまで効いていない! どういうことだ!?』
外から見れば、すべての妨害ギミックを無視して走っているようにしか見えない。
実際には、各区画へ入る直前に、フローラが障壁の属性をその区画に合わせて切り替えていた。
切り替えが一瞬でも遅れれば、機体は妨害をまともに受ける。
それでも、フローラの操作に迷いはなかった。
二十九周目。
四位を走る機体が、ジャンプ台を避け、手前で分岐する通常路を選んだ。
ヨモギは迷わず、加速用の風が吹くジャンプ台へ機体を向けた。
二本の表示灯を輝かせた車体が、風に押し出されて谷の上へ飛び出す。
同時に、ニールの叫び声が通信機から響いた。
対岸へ着地すると同時に、ヨモギは機体をさらに加速させた。
通常路を走っていた機体より先に、合流地点を通過した。
《第四位》
前方には、三台の機体が見えている。
三台の先頭を走るのは、紺色と金色の《TITANS》だった。
ゴールライン上方の周回表示が切り替わる。
《残り一周》
暗い銀色の機体が、先頭三台を追って最終周へ入った。
車体側面に並ぶ、三本目の橙色の表示灯は、まだ消えたままだった。




