第2話:ヨモギのおやつ -その②-
それからも、フローラは何度も遊びに来た。
三日後には、新作のゲームを持ってきた。
「これ、二人で遊べるんだって」
「ボクは一人で遊ぶ」
「じゃあ、私が隣で見てるね」
「帰れ」
そう言いながらも、ヨモギはパッケージを受け取った。
画面に映し出されたのは、二人で部隊を動かす戦略ゲームだった。
ヨモギが前衛と攻撃部隊を担当し、フローラが後衛の支援部隊を動かす。
「右の部隊は囮だ。敵を引きつけてる間に、左から本隊を回す」
「この人たちは助けないの?」
「囮だからな。お前は左の部隊を回復させろ」
「でも、もう少しで負けちゃうよ」
「だから、それでいいんだ」
フローラは納得していない顔で、画面を見つめていた。
次の瞬間、後方にいた支援部隊が右へ動き出す。
「おい! 何してる!」
「助けに行くの」
「勝手に動かすな! 作戦が崩れるだろ!」
フローラの支援を受け、壊滅寸前だった囮部隊が持ち直す。
それを本隊だと判断した敵軍が、次々と右側へ集まり始めた。
ヨモギの指が止まる。
敵の中央が、手薄になっていた。
「……そのまま引きつけろ」
「助けていいの?」
「いいから、今はそこを守れ!」
ヨモギは左側の攻撃部隊を一気に進めた。
守りの薄くなった中央を突破し、そのまま敵の本拠地へ突入する。
数秒後、画面いっぱいに勝利を告げる文字が浮かんだ。
「勝った!」
フローラが嬉しそうに両手を上げる。
ヨモギは画面を見つめたまま、黙り込んでいた。
最初に考えていた作戦とは違う。
けれど、囮にするはずだった部隊まで、一つも欠けずに残っている。
「みんな助かったね」
「……たまたまだ」
「もう一回やろう」
「次は勝手に動かすなよ」
「うん!」
次の対戦でも、フローラは勝手に部隊を動かした。
「話を聞け!」
それから、二人でゲームをすることが増えた。
作戦を巡って言い争い、負ければ互いのせいにし、勝てばどちらの働きが大きかったかで喧嘩する。
フローラは猫の写真を大量に持ち込み、ヨモギの作った端末の起動音を勝手に猫の鳴き声へ変えた。
ヨモギはそのたびに「帰れ」と言ったが、以前のように扉の外まで追い出すことはなくなった。
やがて屋敷の者たちも、フローラを取り次いでよいか、ヨモギへ確認しなくなった。
玄関で出迎え、そのままヨモギの部屋へ案内する。
フローラも、ノックだけはするものの、返事を待たずに扉を開けるようになった。
「ヨモギちゃん、遊びに来たよ」
「勝手に入るな」
「ノックしたよ?」
「返事を待てよ」
そんなやり取りが、いつもの挨拶になっていった。
ある日、夕方になってもフローラが来なかった。
静かな部屋に、ゲームの音だけが響いている。
邪魔されずに遊べる。
おやつも一人で食べられる。
ヨモギが望んでいたはずの時間だった。
けれど、気づけば何度も時計を見ていた。
日が暮れかけた頃、端末にメッセージが届く。
【フローラ】:今日は魔法のお稽古があるから行けないの。ごめんね
ヨモギはしばらくメッセージを見つめた。
それから、短く返信した。
【ヨモギ】:別に待ってない
すぐに返事が届く。
【フローラ】:明日は行くね!
ヨモギは端末を伏せた。
来るなとは、返さなかった。




