第17話:カスタム魔導機グランプリに出よう -その④-
作業部屋へ戻ると、ヨモギは壁面の大型画面に設計図を表示した。
大会から支給される基礎フレームを中心に、駆動装置や冷却用の導管が幾重にも配置されている。
ニールは画面へ近づき、並んでいる部品名を上から順に追った。
《電気駆動系:蓄電池/電動モーター》
《魔力駆動系:魔力電池/魔力駆動機構》
《固形燃料駆動系:固形燃料式小型動力機関》
見間違いかと思い、もう一度、最初から読み直す。
「これは、搭載候補の比較表ですか?」
「違う。全部積む」
「全部?」
ニールの声が裏返った。
大会で一般的に使われる動力源は、電気、魔力、固形燃料の三種類だ。
通常のチームは、その中から一つを選ぶ。
二種類を併用した複合機も存在するが、それだけでも重量が増える。
しかも、動力ごとに回転の速さも、力が立ち上がるタイミングも異なる。
二つの力で同じ車輪を回すには、その違いを揃えなければならない。
わずかにずれれば、片方がもう片方の回転を妨げ、軸や歯車へ大きな負荷がかかる。
「三種類も積んだら、重量制限を超えるでしょう」
「普通に積めばな」
ヨモギは設計図の一部を拡大した。
三つの駆動装置から伸びる出力軸は、車体中央の統合機構で一本にまとまり、そこから車輪側へ伸びていた。
「三つの動力それぞれに、車輪まで続く別々の駆動系を持たせれば重くなる。三つの出力を中央で一本化し、そこから先の出力軸と冷却機構、駆動制御を共用する。それぞれに必要となる外装と支持部品も減らせる」
「それでも、一つだけ積む機体よりは重くなりますよね?」
「ああ。だから、ほかの部分を軽くする」
画面の端には、《規定重量まで:残り十六・二キロ》と表示されていた。
「まだ余裕がありますね」
「これは、必要な部品を全部入れる前の数字だ」
ヨモギが未配置の部品をすべて加えると、表示が切り替わった。
《規定重量を二十八・六キロ超過》
「超えているじゃないですか!」
「今から減らす」
「安全装置を外すつもりではありませんよね?」
「外さない。規定の安全装置は、全部残す」
ヨモギは支持部品と冷却経路を共通化していく。
画面に表示された重量超過の数値が、少しずつ減っていった。
続いて、一つにまとめていた蓄電池を複数の小型ユニットへ分け、フレーム内の空いた場所へ配置する。さらに魔力電池を車体中央へ移すと、重心位置を示すマーカーも中央へ寄った。
フローラは、隣から設計図を覗き込んでいた。
「魔力電池は、ここでいいの?」
「重心だけを考えれば、ここが一番いい」
「でも、固形燃料の動力機関のすぐ近くだと、三つの出力を重ねた時に、魔力の波だけ少しずれるよ?」
ヨモギの手が止まった。
「どれくらいずれる?」
「力を出すタイミングが合わなくなるの。ずれ方もずっと同じじゃなくて、速く走るほど少しずつ変わると思う」
フローラは画面へ指を伸ばし、魔力電池から流れる力をなぞった。
「固形燃料の出力が強くなった時は、魔力を出すタイミングを少し遅らせるの。電動モーターが強い時は、魔力を少し先に出した方が合わせやすいかも」
「走行中も、そのタイミングを調整できるのか?」
「できるよ。魔力電池の出力を見ながらなら、細かく変えられると思う」
ヨモギはフローラの顔を見た。
「フローラ」
「なに?」
「この機体の製作を手伝え」
フローラの顔が、一気に明るくなった。
「いいの?」
「魔力電池を動力機関に合わせる調整は、お前に任せる」
「うん!」
フローラは大きく頷いたあと、設計図の操縦席へ目を向けた。
「でも、走っている間はどうするの? 私は一緒に乗れないよ?」
「外から調整しろ」
「外から?」
「ああ。機体へ遠隔調整用の受信回路を積む」
「待ってください」
ニールが二人の話へ割って入った。
「競技中は、公式回線以外の通信が遮断されると書いてありましたよね?」
「ああ。だから、公式回線を使う」
「ですが、あれは走行補助用でしょう?」
「補助できる操作の範囲までは書いてない」
「また、規則に書かれていない部分を使うんですか?」
「禁止されてないからな」
ヨモギは指定部品の一覧を開き、その中から大会指定の小型通信モジュールを選んだ。
設計図へ追加すると、通信モジュールの先へ、受け取った信号を機械制御用と魔力制御用に振り分ける回路を加えた。
「ボクの機械制御信号と、フローラの魔力調整信号を一つにまとめて、同じ公式回線で送る。機体へ届いたあとで二つに分ければ、両方とも外から操作できる」
「私は、魔力を出す量とタイミングを指示すればいいんだね」
「ああ。ボクはAIによる操縦補助と姿勢制御、それから三系統の出力配分を調整する。お前は魔力出力と、ほかの動力との同期を頼む」
ニールは応接室から持ってきた覚書を机の端へ置き、自分を指さした。
「では、私は?」
「操舵と加速、制動」
「一番危険な操作だけ、私に残っていませんか?」
「お前が搭乗者だからな」
「三人で走るんだね!」
フローラは嬉しそうに笑った。
「乗っているのは、私だけですが」
「一緒に作ろう、ヨモギちゃん!」
フローラは空いていた椅子を引き寄せ、ヨモギのすぐ隣へ座った。
ニールは二人を見比べた。
「今まで正式には参加していなかったんですか?」
「勝手についてきていただけだ」
「最初からお手伝いするつもりだったよ?」
「それを参加とは言わない」
「でも、今は一緒だよね?」
「ああ」
フローラは満足そうに頷き、自分の端末を設計画面へ接続した。
三つの駆動装置が集まる中央の統合機構へ、魔力出力を調整する回路が追加されていく。
ヨモギが機械側の構造を組み、フローラが魔力側の流れを合わせる。
設計図の中で、別々だった三系統が少しずつ一つの機体へ収まっていった。
「三種類の動力は、どう使い分けるんです?」
ニールが尋ねる。
ヨモギは走行データを表示した。
「発進と低速域では、電動モーターを使う。細かい出力調整がしやすいから、障害物が多い区画にも向いている」
画面上で、低速走行中の機体が岩の間を縫っていく。
「魔力駆動は加速補助と、属性ギミックへの対応に使う。コース上のマナチャージエリアへ入れば、走りながら出力を回復できる」
次に、魔力電池から光が流れ、機体が一気に加速した。
「固形燃料式の動力機関は、高速走行や登坂、長い直線で使う。魔力や蓄電池の残量を減らさずに、速度を維持できる」
「走る場所によって、動力を切り替えるんですね」
「それだけじゃない」
ヨモギは三つの駆動装置をすべて選択した。
「必要なら、同時に使う」
ニールの表情が固まる。
「三つを?」
「ああ」
「三つの出力が少しでもずれれば、互いに衝突するんですよね?」
「だから、衝突しないようにする」
ヨモギは車体中央の統合機構を拡大した。
「三つを最初から同時に動かすわけじゃない。まず電動モーターを動かして、基準となる回転を作る。そこへ、フローラが力を出すタイミングを合わせた魔力駆動を重ねる。二つの出力が安定したところで、小型動力機関を接続する」
「順番に回転を合わせてから、三つの力で同じ駆動軸を回すんですか?」
「そうだ。統合機構の中で三つの力を分散させ、一本の軸へまとめる。急に負荷が偏らないようにする」
「それができるなら、ほかのチームも作っているのでは?」
「作ろうとしたチームはある」
ヨモギは過去の技術資料を表示した。
試験台の上で折れた駆動軸。
統合機構の歯車が砕け、破片が外装を突き破った記録映像。
三系統の出力を重ねた直後、車体フレームが歪んだ試作機。
「成功していないだけだ」
「それを成功させようとしているんですか?」
「ああ」
ヨモギは当然のように答えた。
「規則には、三種類の動力を積むなとは書かれていない。指定部品を使い、重量と寸法の規定を守れば問題ない」
「それは、規則の抜け穴ではありませんか?」
「違う。三つ積むだけなら、誰でもできる」
ヨモギは失敗した試作機の映像を閉じた。
「走れる状態にできないだけだ」
ニールにとっては、同じことだった。
ヨモギとフローラは、そのまま設計を進めていった。
単独、二源複合、三源同時解放――それぞれの走行条件を入力すると、画面上で出力予測が始まった。
《単一駆動時:約四百馬力》
《二源複合駆動時:約六百~七百馬力》
二つの力を一本の駆動軸へまとめる過程で一部が失われるため、単純に二倍にはならない。
そこまでは、ニールにも理解できた。
問題は、その下に表示された数値だった。
《三源同時解放時:瞬間最大約千二百馬力》
単一駆動時のおよそ三倍だった。
ニールは表示された数字を見つめた。
「……これは、何の数値ですか?」
「最大出力だ」
「小数点が抜けているのでは?」
「抜けてない」
「百二十馬力でもありませんよね?」
「千二百だ」
フローラが嬉しそうに画面を覗き込む。
「すごく速くなりそうだね!」
「数秒しか使えない。出力を解放したあとは冷却が必要になる」
「数秒でも、十分おかしいですよ!」
「直線区間で、機体がまっすぐ向いている時しか使わない。路面の状態が悪ければ、タイヤが空転するだけだからな」
「そういう問題ではありません!」
ニールは設計図の中央に表示されている操縦席を見た。
その小さな座席に、自分が収まっている姿を想像する。
試走に参加するだけで、一千万クレジット。
つい先ほどまでは、高すぎる報酬だと思っていた。
だが、三つの動力と千二百馬力という数字を目にした今では、まったく別の疑問が浮かんでいる。
ニールは、机の端に置いた覚書へ手を伸ばした。




