第15話:庭でキャンプをしよう -その②-
フローラは荷物の中から大きな袋を取り出した。
中には、白いマシュマロが詰まっている。
「次は、これを焼こう」
「その前に団子を作る」
「団子も持ってきたの?」
「持ってきてない」
ヨモギは調理道具の木箱を開けた。
中から団子粉の袋と大きな鉢を取り出し、折り畳み式の調理台へ並べていく。
続いて、醤油や砂糖、澱粉を入れた小さな容器も、その横へ置いた。
「今から作るの?」
「団子は作るものだろ」
「私も手伝う」
「お前は見てろ」
ヨモギは上着を脱ぎ、シャツの袖を肘までまくった。
調理台の脇には、蛇口のついたウォーターサーバーと、排水槽を備えた簡易流し台が並んでいる。
ヨモギは石鹸で指の間まで丁寧に洗い、清潔なタオルで水気を拭き取った。
フローラもその隣へ並び、同じように手を洗う。
「お前は見てるだけだぞ」
「お皿は並べられるよ」
「生地には触るな」
最後に、ヨモギはウォーターサーバーから必要な量の水を水差しへ移し、団子粉の横へ置いた。
「ボクがうまい団子を作る」
焚き火の明かりが、ヨモギの小さな手と白い団子粉を照らしていた。
夕闇に包まれた庭で、新たな共同作業が始まった。
ヨモギは量っておいた水を水差しから少しずつ鉢へ注ぎ、もう片方の手を中へ入れた。
指先で、粉へ水をなじませていく。
さらさらとしていた粉が小さな塊になり、それらが少しずつ一つにまとまっていった。
フローラは調理台の向かい側に立ち、鉢の中を覗き込んでいた。
「ヨモギちゃんが、手で作ってる」
「料理なんだから普通だろ」
「機械は使わないの?」
「手で作った方がうまい」
「猫クッキーの時も、最後にそう言ってたね」
ヨモギの手が一瞬止まった。
大量の黒焦げ猫クッキーと、厨房を埋め尽くした小麦粉が脳裏によみがえる。
「だから、今日は最初から手で作ってる」
「私もこねたい」
「駄目だ」
「どうして?」
「途中で水を足すから」
「少しだけだよ?」
「お前の少しは信用しない」
生地へ伸びてきたフローラの手を、ヨモギは腕で押し戻した。
それから掌の付け根へ力を込め、生地を何度も鉢の底へ押しつける。
白い粉が指へまとわりつき、手の甲にまで薄く広がっていった。
魔導端末を組み立てる時と変わらない真剣な顔で、ヨモギは生地の硬さを確かめていた。
押して、畳んで、また押す。
やがて表面のひびが消え、滑らかな一つの塊になった。
フローラは、鉢の中にできた大きな生地の塊を見つめた。
「いっぱいあるね」
「お前が食うから多めにした」
「今日はヨモギちゃんの分を勝手に食べないよ」
「当たり前だ」
ヨモギは生地を鉢から取り出し、調理台の上へ置いた。
普通の大きさなら、四十個ほど作れそうな量がある。
その中央へ手刀を入れ、二つに分けた。
フローラが空いていた皿を並べる。
「一つのお皿に、何個ずつ載せる?」
「一個」
「一個だけ?」
「二つ作るから、一人一個だ」
ヨモギは半分にした生地を両手で包んだ。
掌の間で転がし、表面を丸く整えていく。
だが、それ以上小さく分ける様子はない。
出来上がったのは、ヨモギの両手からはみ出すほど大きな団子だった。
もう半分も同じように丸め、二つを並べる。
どちらも、二人の拳をいくつも合わせたほどの大きさだった。
フローラは二つの白い塊を見つめた。
「ヨモギちゃん。これ、一個の団子?」
「そうだ」
「すごく大きいよ?」
ヨモギは粉のついた両手を腰へ当てた。
「ビッグ団子だ!」
焚き火の前で、得意そうに胸を張る。
フローラの顔がぱっと明るくなった。
「ビッグ団子!」
「一人一個だから公平だ」
「もっと大きくしてもいい?」
「もう生地は残ってない」
二人はウォーターサーバーから大鍋へ水を張り、焚き火にかけた。
湯が沸くと、ヨモギは丸めた団子を一つ、網じゃくしの上へ載せた。
そのままそっと湯へ沈めると、水面が大きく盛り上がった。
続いて二つ目を入れたところで、鍋の中にはほとんど隙間がなくなった。
二つの白い塊は鍋の底へ沈み、そのまま動かない。
「いつ浮いてくるの?」
「中まで火が通ったらだ」
「どれくらい?」
「普通の団子よりはかかる」
「ビッグだから?」
「ビッグだからだ」
薪がぱちりと弾ける。
湯気の向こうで、二つの団子はまだ鍋の底に沈んだままだった。
ヨモギは火加減を確かめ、時折鍋の中を覗き込む。
フローラも隣の椅子で待っていたが、しばらくすると両膝に肘をつき、手のひらへ頬を預けた。
「まだ?」
「まだだ」
「少しだけ火を強くしたら――」
「魔法は使うな」
「言ってみただけだよ」
二人が待っている間にも、空は暗くなっていった。
庭園の明かりがともり、テントを囲む星形の灯りも、暗がりの中で淡く浮かび上がっていく。
やがて、鍋の中で白い塊がゆっくりと揺れた。
一つ目が底を離れ、水面へ顔を出す。
少し遅れて、もう一つも浮かび上がった。
「浮いた!」
フローラが椅子から立ち上がる。
しかし、ヨモギはすぐには引き上げなかった。
網じゃくしで時折向きを変えながら、さらに時間をかけて中心まで熱を通す。
細い竹串を刺し、引き抜いた先に生地がついていないことを確かめると、ヨモギは網じゃくしの柄を両手で握った。
団子を一つずつ慎重に引き上げ、湯を切って太い竹串を中央へ通す。
二本の串を焚き火台の上へ渡し、時折向きを変えながら、表面に薄い焼き色をつけていく。
その脇で、ヨモギは醤油と砂糖を煮立てた小鍋へ水溶き澱粉を加え、みたらしのたれにとろみをつけていた。
甘い香りに醤油の香ばしさが重なり、焚き火の煙へ混じっていった。
フローラは小鍋を覗き込むように顔を近づけた。
「いい匂い」
「近づきすぎるな。髪に火がつく」
「味見していい?」
「まだ熱い」
小鍋へ伸びてきた手を木べらの柄で押し返し、ヨモギは小鍋を火から下ろした。
二枚の大きな皿へ、団子を一つずつ載せる。
その上から、出来上がったみたらしをたっぷりとかけた。
茶色いたれが丸い表面をゆっくりと流れ、焚き火とランタンの光を映して輝く。
二人の前に、二つのビッグ団子が完成した。




