第14話:魔法は二人で混ぜてはいけない -その③-
レベルが上がるにつれ、ターゲットの速度と数は増え、判定線も二本へ分かれていった。
魔力を一度弱めた直後に最大まで引き上げる複合型。
表示される直前まで大きさの分からない変則型。
一般的な養成学校生なら、出力の切り替えが追いつかなくなる段階へ入っても、ヨモギの前では《Perfect》の表示が途切れない。
必要な場所へ、必要な分だけ力を加える。
多すぎれば壊れ、少なければ繋がらない。
工具で細い配線を扱う時と同じ感覚を、ヨモギは魔力へ置き換えていた。
《LEVEL 5 CLEAR》
《ALL PERFECT》
結果が表示されると同時に、ヨモギが次へ進もうとする。
「ちょっと待って」
ようやく休ませるつもりかと思い、リシアナがフローラを見る。
「ここから曲が変わるよ!」
「そこですか?」
明るい音楽が流れ始め、レベル六が開始された。
ヨモギの耳がぴくりと動く。
「さっきより、こっちの方がいいな」
「私も好き!」
二人が音楽の感想を交わす間にも、レベル七、レベル八と判定は正確に積み重なっていった。
リシアナが制御卓へ視線を落とし、波形を確認する。
ヨモギの魔力と、装置が要求する基準値。
二本の線はほとんど重なり、出力を切り替える際の揺れまで最小限に抑え込まれていた。
《LEVEL 8 CLEAR》
《ALL PERFECT》
「……本当に集中しているのでしょうか」
リシアナの口から、疑問がそのまま漏れた。
レベル九では、必要な魔力量を反転させる妨害表示まで加わった。
それでもヨモギは、表示が切り替わる直前に変化する球体の光を初見で見抜き、一度も判定を落とさず突破した。
そのまま一息つくこともなく、最終レベルを選ぶ。
警告音が鳴る。
《LEVEL 10》
《MAXIMUM DIFFICULTY》
四本の判定線が画面へ展開され、大小のターゲットが異なる速度で流れ始める。
長く魔力を維持したまま、別の指示へ瞬間的に出力を重ねる。
直後に全てを止め、次は最小量だけを流す。
一つでも前の魔力が残っていれば、続く判定がずれていく。
ヨモギの表情から笑みが消えた。
金の瞳が、画面を流れる指示を追う。
球体へ載せた手は動かない。
その内側で、流れ込む魔力だけが目まぐるしく形を変えていた。
《Perfect》
《Perfect》
《Perfect》
切り替えは、さらに速くなる。
要求量の変化。
流れる速度。
球体内部の光。
ヨモギは全てを同時に捉え、次々と処理していく。
残り五つ。
四つ。
三つ。
二つ。
最後に、大きさの異なるターゲットが、四本の線へわずかな間隔で流れ込んだ。
ヨモギの指先から流れる魔力が、一瞬のうちに四段階へ切り替わる。
四つの判定音が、ほとんど重なるように鳴った。
《Perfect》
画面を埋めていたターゲットが消える。
短い集計表示のあと、金色の文字が大きく浮かび上がった。
《LEVEL 10 CLEAR》
《ALL PERFECT》
ヨモギは球体から手を離した。
呼吸も乱れていない。
当然のことを終えたように、リシアナを振り返る。
「終わったぞ」
リシアナは制御卓に残る波形を見つめたまま、答えられなかった。
一般の養成学校生なら、レベル二でも苦戦する。
高等部の生徒でさえ、レベル五を安定して突破できれば優秀と評価される。
初めて触れた十歳の子どもが、最終レベルまで一度の誤差もなく到達することなど、想定されていない。
制御卓には、装置の故障を疑う警告すら表示されていた。
そんな中、フローラだけが納得したように頷いた。
「まあ、そうだよね。ヨモギちゃん、ゲーム得意だもんね!」
リシアナはフローラを見る。
「ゲームが得意という問題ではありません」
「でも、音も出てたよ?」
「そういう問題でもありません」
「やっぱり音ゲーだろ」
ヨモギの中では、最後まで音楽ゲームだった。
「次は私の番!」
フローラが球体の前へ移動した。
「お前もやるのか?」
「レベル十だけね」
「一からやれ」
「九までは、前に終わってるよ?」
ヨモギは目を細めた。
リシアナが制御卓を操作すると、使用者の表示がフローラへ切り替わった。
《LEVEL 1――9 CLEAR》
《LEVEL 10 AVAILABLE》
確かに、九までは全て突破している。
「何回やった?」
「分からない」
「覚えてないくらいやってるなら、ボクの方が上だな。初めてで十まで行った」
「でも、まだ私が十をできないって決まってないよ?」
「じゃあ、やってみろ」
「うん!」
いつの間にか、完全な勝負になっていた。
フローラは球体へ両手を載せた。
《LEVEL 10》
《MAXIMUM DIFFICULTY》
開始音とともに、大小のターゲットが四本の判定線へ一斉に流れ込んだ。
フローラの表情から、先ほどまでの笑みが消える。
ローズ色の瞳が、画面だけを追った。
《Perfect》
ヨモギの魔力制御が、細い部品を正確に組み合わせるような動きなら、フローラの魔力は水の流れに近かった。
大きく。
細く。
枝分かれし、再び一つへ戻る。
急激な変化にも途切れることなく形を変え、最後に急加速したターゲットへも遅れず追従した。
《LEVEL 10 CLEAR》
《ALL PERFECT》
フローラは球体から手を離し、満面の笑顔でヨモギを振り返った。
「できた!」
「……同じだと?」
二人分の結果が、制御卓に並んでいた。
どちらも最高得点だった。
「引き分けだね!」
「違う。ボクは初見だ」
「でも、同じ点だよ?」
「条件が違うだろ!」
リシアナが二人の間へ入った。
「二人とも合格でよいのではありませんか?」
「今は合格の話じゃない。どちらが上かという話だ」
「一緒に合格だよ、ヨモギちゃん!」
「勝手にまとめるな!」
フローラは嬉しそうだが、ヨモギは納得していない。
その横では、制御卓が二人分の結果を再確認し、新たな警告を表示していた。
《異常値を検出》
《装置の点検を推奨します》
リシアナは制御卓へ目を落とし、無言のまま警告を閉じた。
装置は壊れていない。
フローラの才能は、これまでの授業で十分に分かっている。
だが、ヨモギまで同じ水準にいるとは思っていなかった。
「ヨモギさん。これまで魔法はどなたに教わっていたのですか?」
「母さんだ」
「ヘルガさんが?」
「母さんは、魔法を教えるための教育ライセンスを持ってる」
ヨモギは指を折りながら、すでに使える魔法を挙げていった。
「《滑走》と《風刃》。土なら《土壁》と《鉱物探知》も使える」
「《鉱物探知》は中級魔法です。それを、十歳ですでに?」
「必要だったから覚えた」
何に必要だったのかまでは、リシアナも尋ねなかった。
「今も、ヘルガさんから教わっているのですか?」
「いや。少し前から、新しい魔法を教わるのは父さんに禁止されてる」
「なぜ禁止されたのでしょう?」
ヨモギは少し考えた。
「まだ子供だからだと思う。今日はリシアナさんが一緒ならいいって言われた」
「なるほど」
レオルが慎重になるのも無理はない。
リシアナは、その程度に受け取った。
まだ、ヨモギが新しい知識を得ると何を始めるのかまでは知らなかった。




